上 下
38 / 134
連載

商会にて神官様とばったり 2

しおりを挟む
「対価はお花で如何でしょうか? 僕の代わりに神殿にお花を捧げて貰いたいんです。出来れば、明るい色の花を」
 全く予想もしていなかった神官様の申し出に対して、私だけじゃなくて周りの人々も首を傾げてしまう。


 神殿に花を飾るなんて神官様でもできそうな気がするのに。
 そういえば、さっき神殿には近づけないっておっしゃっていたから、もしかして神官様のランクによって神殿でお参り出来るか出来ないかとかかな?



「本当によろしいのですか」
「僕にはしたくても『出来ない難しいこと』なんです」
「わかりました。では、お花を購入して飾らせて貰いますね。ただ、神殿は国が管理しているため、レイに聞いて可能ならという条件付きですが構いませんか?」
「えぇ、勿論です。今の時代の法律やルールを大切にして下さい」
「はい。あっ! そういえば、神官様のお名前をまだ伺っていませんでしたね」
 いつも私は神官様と呼んでいたため、彼に名前を伺っていないことに気づき尋ねてみる。
 すると、彼は微笑みながら教えてくれた。



「セスと申します」
「セス様。アルツナ薬学辞典をご存知とおっしゃっていましたよね?」
「知っていますよ。以前にもお伝えしたと思いますが、僕は薬草学を主に扱う神官職だったので」
 やっぱり私の聞き間違いではなかったようだ。
 きっと代々の神官様から口述などで教えて貰っていたのかもしれない。


 ――メディが喜ぶわ。


「セス様。実はお願いがあるんです。薬草学がとても大好きな子がいるのですが、アルツナ薬学辞典について教えてあげてくれませんか? メディという子なのですが、最年少で薬草師の最高位であるブレアの称号を持っているだけではなく、治癒魔術師の資格も持っているんです。ちゃんとお礼も致します」
「お礼なんて結構ですよ。僕の持っている知識が現代に役立つならば、本望ですので。僕も薬草学をかじっているので同志ですしね。薬草学の発展に繋がるなら嬉しいです」
「ありがとうございます。人が多い場所ではなく、静かな所で教えて頂きたいのですが……」
「わかりました。では、神殿裏の湖はいかがですか? 静かですし誰も来ませんから」
「ですが、あそこは禁足地では?」
 前回は知らずに立ち入ってしまったけど、今回はさすがに知っていて禁足地に入ってしまいましたとはいかない。
 ちゃんと敬意を払わねばならないのだ。



「大丈夫ですよ。前にお伝えしたと思いますが、バチなんて当たりません。サズナ神なんていないのですから。むしろ、足を踏み入れないと勿体ないですよ。『温泉』もありますし」
「温泉があるんですか」
「えぇ、昔は神官たち専用の温泉でした。今は誰も使っていません。僕はあまり好みの湯ではなかったんですね。少し口に入るとしょっぱくて」
 綺麗な湖もある上に温泉なんてかなりの高ポイントだと頭に過ぎった。
 これは後々使えるかもしれない。神殿の裏は禁足地となっているが、是非調べてみたい。


 ――神官様がバチ当たらないって言っているから大丈夫かな。でも、流石に躊躇っちゃうよね。


「神殿裏は自由に行来しても構いませんが、神殿内部の立ち入りはしないでくださいね。今の時代に伝わっているかもしれませんが、迷って出られなくなってしまいますので」
「聞いたことがあります。道が変わってしまうっていう伝承があるらしいですね。そのため、立ち入り禁止用のロープがはられていますよ」
「道が変わる? 現代にはそういう言い伝えがあるんですね。本当は迷路のように複雑なんです。ですから、慣れている信者以外が立ち入ると、方向感覚を失ってしまうんですよ」
「へー」
「もし、間違えて神殿に入ってしまったら出られなくなります。確実に。ですから、入らないで下さいね。ティアナ様、入りそうだから。ウサギ追いかけて神殿裏まで来てしまいましたし」
 セス様は声のトーンを落とすと、真顔で言った。


「もし万が一神殿内に入ってしまったら、『グローリィ、出口を教えて』と大声で助けを求めて下さい。もしかしたら、『彼女』が助けてくれるかもしれません」
 彼女という説明から、グローリィというのは女性の名前だと推測できる。


 もしかして、妖精や女神の名前なのだろうか。
 祖父母が暮らしている東大陸では妖精が信じられているため、似たようなおまじないがあったのを思い出す。
 悪い夢を見なくさせてくれる光の妖精・ルミエールとか。


「ありがとうございます。もし神殿に入っちゃったら、そのおまじない試してみますね」
「おまじないですか?」
「えっ? おまじないじゃないんですか」
 私が尋ねれば、神官様が曖昧に微笑んだ。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。