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不思議な神官1
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私の前に現れた青年は、神々しい雰囲気を醸し出していた。
白く透き通るような肌に映える湖面のような青と緑の中間色をした大きな瞳。
それからすっとした高い鼻と薄い薔薇色の唇が印象的だ。
耳下まで伸ばされたプラチナの髪が風を孕んで靡いている。
彼は後方から日の光を浴びながら目を細めて微笑んだ。
「ど、どちらさまでしょうか……?」
突然現れた第三者に対して、私は心臓を早鐘にさせながら訊ねた。
「驚かせて申し訳ありません。見ての通り神官です」
「ですよね」
汚れ一つない純白の神官服を見て、私だって騎士だとはさすがに思わない。
「珍しいですね。ここに人が訪れるなんて」
「え、もしかして立ち入り禁止のエリアですか……?」
たしかに獣道だったから、人の手が入っていない所だとは感じていた。
でも、神殿の入口みたいにロープなどが張られ規制されていなかったため、私は禁止エリアだとは全く思わず。
「神殿の後方は神域のため神官など神に仕える者以外は立ち入り禁止です。足を踏み入れた者には、神の裁きが訪れると言われていますので」
「えっ!?」
知らなかったとはいえ、禁足地に無断で立ち入ってしまったなんて愚か過ぎる。
ちゃんとゴアさん達に立ち入り禁止エリアを事前に聞いておけばよかった。
頭を抱えながら後悔していると、「大丈夫ですよ」という声と共に、私の左肩をトンと叩かれた。
弾かれたように顔を上げれば、目を大きく見開いている神官様の姿が。
彼は私から手を離すと、さっきまで私に触れていた自分の手を見詰めている。
神官様の白魚のように綺麗な薬指には、シルバーの指輪が嵌められていた。
「あの?」
あまりにも手を凝視しているので、私はつい声をかけてしまう。
「……なんでもありません」
神官様は首を左右に振ると、視線を右手奥にある神殿へと向けた。
「どうか、心配せずに。罰なんて下ることはありません。サズナ神なんていませんから」
私は彼の言葉に絶句してしまう。
だって、神官様の口から『サズナ神なんていない』って聞いてしまったから。
もしかして、私の聞き間違いだったのだろうか? きっと聞き間違いなのだろう。だって、神官様だし。
「サズナ教って、昔この辺りで信仰されていた教えですよね。たしか、今はその流れをくんだミィファ教に変わって根付いていると伺いました」
「サズナ教の信者はもう誰もいないんですか?」
「はい」
「そうですか……」
神官様は、寂しそうに微笑む。
まるで異国に一人取り残されてしまったかのように、彼の表情に不安と孤独感が含まれていたので気になってしまう。
「では、サズナ教の関係者は僕一人だけになってしまったのですね」
「すみません、私ではお答えできないです。もしかしたらいるのかも。ゴアさん達なら知っているかもしれません」
「いいえ、きっと僕一人です。勝手に滅んでしまうものですね。『あの時』は滅んでくれなかったのに」
神官様は自嘲気味に笑うと、ゆっくり瞳を閉じる。
長い睫毛が伏せられ、彼の容姿もあって神秘的に感じてしまう。
「送りましょう。ここら辺は人の手が入っていませんので、野生の熊が出ます」
「熊っ!?」
「そうですよ。昔は結界を張っていたのですが、今は誰も結界修復なんてやっていませんからね。結界なんてとうの昔に消滅してしまいました」
「神官様は結界を張らないのですか?」
「僕は薬草学の分野がメインですから、魔術は全く無知なんです。懐かしいなぁ。仕事柄、『アルツナ薬学辞典』を暗記していたっけ」
「アルツナ薬学辞典って名前からして難しそうですね。薬草関係の本なんですか?」
「えぇ、そうですよ。アルツナという薬学者が記したものです。枚数がかなり多く覚えるのに苦労しました。遥か昔のことなのについこの間のように感じますよ」
遥か昔と言っているが、神官様は私と年齢が変わらないように見える。
そのため、彼の言い方が妙に古臭く感じてしまった。
白く透き通るような肌に映える湖面のような青と緑の中間色をした大きな瞳。
それからすっとした高い鼻と薄い薔薇色の唇が印象的だ。
耳下まで伸ばされたプラチナの髪が風を孕んで靡いている。
彼は後方から日の光を浴びながら目を細めて微笑んだ。
「ど、どちらさまでしょうか……?」
突然現れた第三者に対して、私は心臓を早鐘にさせながら訊ねた。
「驚かせて申し訳ありません。見ての通り神官です」
「ですよね」
汚れ一つない純白の神官服を見て、私だって騎士だとはさすがに思わない。
「珍しいですね。ここに人が訪れるなんて」
「え、もしかして立ち入り禁止のエリアですか……?」
たしかに獣道だったから、人の手が入っていない所だとは感じていた。
でも、神殿の入口みたいにロープなどが張られ規制されていなかったため、私は禁止エリアだとは全く思わず。
「神殿の後方は神域のため神官など神に仕える者以外は立ち入り禁止です。足を踏み入れた者には、神の裁きが訪れると言われていますので」
「えっ!?」
知らなかったとはいえ、禁足地に無断で立ち入ってしまったなんて愚か過ぎる。
ちゃんとゴアさん達に立ち入り禁止エリアを事前に聞いておけばよかった。
頭を抱えながら後悔していると、「大丈夫ですよ」という声と共に、私の左肩をトンと叩かれた。
弾かれたように顔を上げれば、目を大きく見開いている神官様の姿が。
彼は私から手を離すと、さっきまで私に触れていた自分の手を見詰めている。
神官様の白魚のように綺麗な薬指には、シルバーの指輪が嵌められていた。
「あの?」
あまりにも手を凝視しているので、私はつい声をかけてしまう。
「……なんでもありません」
神官様は首を左右に振ると、視線を右手奥にある神殿へと向けた。
「どうか、心配せずに。罰なんて下ることはありません。サズナ神なんていませんから」
私は彼の言葉に絶句してしまう。
だって、神官様の口から『サズナ神なんていない』って聞いてしまったから。
もしかして、私の聞き間違いだったのだろうか? きっと聞き間違いなのだろう。だって、神官様だし。
「サズナ教って、昔この辺りで信仰されていた教えですよね。たしか、今はその流れをくんだミィファ教に変わって根付いていると伺いました」
「サズナ教の信者はもう誰もいないんですか?」
「はい」
「そうですか……」
神官様は、寂しそうに微笑む。
まるで異国に一人取り残されてしまったかのように、彼の表情に不安と孤独感が含まれていたので気になってしまう。
「では、サズナ教の関係者は僕一人だけになってしまったのですね」
「すみません、私ではお答えできないです。もしかしたらいるのかも。ゴアさん達なら知っているかもしれません」
「いいえ、きっと僕一人です。勝手に滅んでしまうものですね。『あの時』は滅んでくれなかったのに」
神官様は自嘲気味に笑うと、ゆっくり瞳を閉じる。
長い睫毛が伏せられ、彼の容姿もあって神秘的に感じてしまう。
「送りましょう。ここら辺は人の手が入っていませんので、野生の熊が出ます」
「熊っ!?」
「そうですよ。昔は結界を張っていたのですが、今は誰も結界修復なんてやっていませんからね。結界なんてとうの昔に消滅してしまいました」
「神官様は結界を張らないのですか?」
「僕は薬草学の分野がメインですから、魔術は全く無知なんです。懐かしいなぁ。仕事柄、『アルツナ薬学辞典』を暗記していたっけ」
「アルツナ薬学辞典って名前からして難しそうですね。薬草関係の本なんですか?」
「えぇ、そうですよ。アルツナという薬学者が記したものです。枚数がかなり多く覚えるのに苦労しました。遥か昔のことなのについこの間のように感じますよ」
遥か昔と言っているが、神官様は私と年齢が変わらないように見える。
そのため、彼の言い方が妙に古臭く感じてしまった。
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