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更科灰音

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第62話:山田の日常その1

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マスター!明日は黒音の参観日。
「え?明日だっけ?」
やっぱり忘れてた。
カレンダーにちゃんと記入してる。

ずびしっと、カレンダーを指さす。
「その日が参観日ってのはちゃんと覚えてるのよ?ただ、今日が何日かを忘れてただけ・・・」
マスターはちゃんとした社会人。会社には行ってないけど、お仕事はしてる。
残念なのは、曜日の概念がほとんどない。
一日の始業と就業の時間は守っているらしいけど・・・
やはりテレワークというのがダメなのかもしれない。
一日中パソコンの前で何か作業をしている。
それが仕事なのか遊びなのか黒音には区別がつかない。
もしかするとマスター本人も区別してないのかもしれない。

「大丈夫よ、ちゃんと時間に間に合うようにいくから!」
ちょっと不安。
しかし、マスターを信じている!

そう、昨日の黒音は思っていました。
しかし、その結果いつもは朝早く目覚めるマスターが寝こけています。なぜ?
昨日はみんなで早めに寝たはず。
とりあえずマスターを起こす。メイドはすでに起きて朝食を準備している。
安藤はまだ寝てる。こっちは放置で問題ない。
マスターをペチンペチンする。
「ふみゃぁぁぁ!」
不思議な声を出してマスターが目覚める。
「花子、痛いじゃない!」
マスターが寝坊してるから。黒音はマスターを起こすために全力を出した。
勇者でも聖女でも目を覚ますという伝説の技を使うことにためらいはなかった。
「まあ、確かに・・・リーゼロッテはこれでみんなを起こしてたけど・・・」
それよりも、顔を洗ってご飯を食べる。

「おはようございます、お嬢様。本日は山田の学校に行くのでは?」
メイドはすでに制服に着替えている。もちろん黒音も。
しかし、マスターはパジャマのまま。安藤はまだ寝ている・・・
「スーツの方がいいのかしら?」
マスターはあるがままの姿で問題ないと思う。
「お嬢様は七五三スタイルもかわいいと思いますよ?」
メイドが余計なことを言う。

「授業参観は6時限目なのね?」
終わったらそのまま保護者と帰宅。
そうだ!赤い方の車で来て。黒音はあれにあまり乗ったことがない!
「まあ、いいわ。近所なら大丈夫でしょ・・・」
マスターは何回か警察に止められている。
むしろ、普通に歩いていても補導されることも多い。
どうせ補導されたりするなら開き直ることも必要。
「お嬢様、430で出かけるのでしたら早めに家を出ることを進めます」
メイドもマスターが補導される方にベットしたらしい。賭けは不成立。

「念のためにお昼食べたら出かけるわよ・・・」
それでは遅いと判断。お昼はメイドが作ったお弁当。
これを持参して黒音の学校で食べるべき。
「花子の学校には学食はないのよね?」
購買部はあるけど、学食はない。給食。
「珍しいですね。私立の学校ですよね?」
そう、実は高等部には学食がある。
中等部に学食がないのは、成長期の盛りに好き放題食べるとデブるという風に考えられてるから。
「なんとなくわからないでもない理屈だったのね・・・」
給食なら分量が固定。カロリーコントロールしやすい。

「2年A組だったわよね?」
そう、3階の一番端っこ。4階が1年で2階が3年。
「なるほど、上からなのね。すると1階が特別教室?」
職員室も1階。先生が階段を上りたくないから。
「エレベーター無いの?」
無い。
マスターは手続きで前にも学校に行ったはず。
「その時は職員室にしか行かなかったから・・・」
そういえばそうだった。

「では、私たちはそろそろ出ます」
メイドと一緒に学校に・・・向かわない。
黒音はエレベーターを利用する。メイドは毎回階段を使う。
階段の方が時間を読みやすいと言ってるが、その分早めに家を出ればいいだけのこと。
いつもよりもエレベータが来るのに時間はかかったけど、
バスが来るまでにはまだ少し時間はある。

しばらく待ってるとスクールバスがやってくる。
いつも通りにバスに乗る。
午前中は普通の授業。授業参観なのは午後の最後の授業。科目は英語。
黒音には不得意な科目が無いからどんな科目でも問題ない。
それに見られて困ることも全くない。だから全力で授業参観を迎えることが出来る。
むしろ家でも勉強をしているところは見せているし、勉強を教えてもらってもいる。
だから、授業参観も普段の延長、何の問題も無いはず・・・
そのはずなのに・・・

黒音は学校では比較的ボッチな状態。
英語の授業なら班分けとかは無いはず。
マスターにも黒音がボッチで友達が居ないことはバレていると思う。
なのに、そんな姿をマスターに見られたくないと思う黒音も居る。
本当の親はもう居ない。
親の代わりを名乗った兄さまも遠いところに居る。もう会うことは無いはず・・・
今の暮らしが本当。今一緒に生活している人たちが家族。
そう、何度も何度も言い聞かせてきたのに・・・
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