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第一章 冒険の始まり編

第22話 旅立ちへの準備

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 ヨシタカ達はディーク宅での食事を終え、今後について話し合っていた。
 勿論そこには家主であるディークも同席している。


「――んじゃぁ、ヨシタカ達は特に目的も無く旅をしているのか?」

「そうですね。一先ずは旅支度をして……ん~、王都とか、世界を見て回りたい……ですかね」

「そうだな。後はそれに向けて、取り急ぎヨシタカの服と靴、ヒナタ様用のカバンなどが有るといいな……ディークには世話になってばかりで申し訳ないが、どこかに当ては無いか? もちろん金銭なら払う」


 ディークからの問いに対してヨシタカが答え、サティナが補足し聞き返す。

 ヒナタは定位置であるヨシタカの膝の上だ。


「いや世話だなんて思わねぇでくれ――わかった。ヨシタカの服と靴は俺んとこで用意しよう。……妻が俺用に作った物だ。良かったら使ってくれ。体格も似てるし、合うだろ」

「え……。奥さんの作ったものですよ。いいんですか? ディークさんのためのものじゃ……」

「いいんだよ。助けてくれた礼もあるが……昨日も言ったがあいつは身体が弱くてな……そんなあいつは俺と世界中を旅をする事が夢だと言っていた。結局、身体が良くならなくて叶えてやる事は出来なかったが。だから、あいつが作った服と靴を、俺の代わりにどうか旅の共にしてやってくれ」

「そうだったんですね。なんと言えばいいか……。それじゃぁ、そのご好意、有り難く。――お借りします」

「いいや、やるよ。使ってやってくれ」

「それはダメです。旅が一段落したら、必ず返しに来ます」

「ヨシタカ、お前は真面目だなぁ! わかったよ。待ってる。俺はもう旅に出るような歳じゃねえからな。どうか、世界中の色んな景色を見せてやってくれ」


 ヨシタカは真剣にディークを見据え、ディークはそれに応えるように頷きながらそう言った。


「わかりました。ありがとうございます」


 ディークの妻の気持ちを考えると、それでいいのかと数瞬悩んだが、ヨシタカは彼の好意に甘える事にした。



―――――――――


 その後、借りている部屋に戻り、ヨシタカとサティナは話し合っていた。

 ヨシタカとヒナタが元の世界に戻る方法を探すというのは何かのついでで、基本的には目的が決まるまで各地を巡る旅を続けるという事。
 
 勿論、元の世界に戻れる方法が有るに越したことはないが、闇雲に探すよりは異世界を満喫しようとするヨシタカ。
 見つかるかもわからないものを探すことに人生を使うよりは、旅や、この世界でヒナタと幸せに暮らしたい。

 その道程で、異世界への移動について何かしらの情報が有れば、進んで調べる。そんなところだ。


 次に、ヨシタカのカバンだ。
 ヒナタも入れるようにする為、少し大きめにする必要が有る。ディークの妻がカバンも作っていた事が有るらしいが、未完成との事。

 村には様々な職人が居るが、村から出る必要が無い為かカバンについては作れる人が少ない。その少ない職人も布で出来た簡素な物しか出来ないらしい。


 そこでディークが提案し、サティナが賛成した案が有る。
 もう三日もすると王都から商人が来る。その時に商人から大きめのカバンが買えるのではないか、そして商人が他の村や街を周りつつ王都に帰る旅へ同行する。

 そのまま王都まで同行してもいいし、途中下車して旅を続けてもいい。といった内容だ。
 ヨシタカもそれに賛成した。
 もちろん、商人からの許可が出ればの話だが。


 ―――――――――


 それから少しして、ディークはヨシタカ用の荷物として色々準備をしてくれるとの事で、どこかへ行ってしまった。


 ディークが家を出た後。
 ヨシタカは魔力の扱い――放出や体内を巡らせる練習をし、それを横で見ているサティナ。
 ヒナタはヨシタカの膝の上でお昼寝、とそれぞれが思い思いに過ごしていた。


 因みに、サティナの魔法については、やはり一人では初級回復魔法が精一杯らしく、以前と変わらなかった。
 ただ、ヨシタカが少しでも魔力を彼女に流し込むとまた使えるようになる。
 恐らく、サティナは魔力量の最大値が低いのだろう。
 ヨシタカは相手の魔力量の最大値を一時的に無視して回復させる事が出来るのがわかった。

 
 サティナにとっては、適性では無く魔力量の問題だという事がわかっただけでも大きな前進だ。
 これからは魔力量の最大値を上げる方法を探すという目的も出来た。サティナの世界が大きく広がったのだ。


 そこで、ヨシタカは疑問を投げる。


「そういえば、今まで他の人から魔力を貰って魔法を試したことは無かったの?」

「……魔力を他人に渡すなどという行為自体が有り得ないのだ。……本当に驚いたんだからなっ!」

「ごめんって。あの時は俺も必死だったんだよ」

「別に抱き締められた事とか、背中に触れられた事を責めている訳では無いっ!」


 顔を赤くしながら、別の事に語尾を荒らげるサティナ。

(……あれ? なにこのかわいい子)


「何も言ってないのに……実は結構気にしてるね!? …………みんな魔力って渡せないものなの?」

「ふんっ。……そうだな。私の知る限りでは……無いな。これでも魔法の勉強は山ほどして来た。結局使えなかったが、魔法の知識なら自信が有る。その私が知らないのだ」

「なるほど……魔力を渡すという概念が無いのか」

「概念が無いというと語弊があるな。考えた奴は居たが、出来なかったと言う方が正しい。それは各国の研究資料にも載っていることだ。――魔力は自身の体内にのみ巡る。人に流し込もうとしても、他人には入らず手から溢れて霧散していくだけだ」

「まじかぁ。じゃあこれは俺特有のものなのかな?」

「だと思うぞ。あまり口外しない方がいいかもな。大勢に利用されても嫌だろう」


「わかった。……『鑑定』と『魔力譲渡』かぁ。便利だけど、(チートにしては)地味だな……」

「なっ……! 贅沢な……っ! そもそもヨシタカの魔力量は底が見えないというのに……っ!」
 
「そうかな……そうかもな! ……あっ! じゃあさ、魔力を回復するような薬とか……そういうのは?」


 ヨシタカのオタク知識の中にあるそれは、大抵のアニメやラノベ、ゲームに存在する代物だ。
 

「有るには有るが、かなり高額だ。魔法の適性が無いと思っていた私自身も私の家族も、高額なそれを私に試したことは無い。……初級でもいいから火魔法や風魔法が使えていれば、適性は疑わなかったんだがな。まさかそれほどまでに魔力量が少ないとは思いもせず……」

「なるほどなぁ。高額な薬を使って回復させたところで、もう一度回復魔法が使えるだけ……か。だから、今まで気付けなかったんだね。――だって、サティさ」

「……なんだ?」

「サティを鑑定した時『王級魔法(全属性)』って出てたから」

 ヨシタカは、サティナを鑑定した時の内容を、改めて伝える。



「……は? 火炎魔法だけじゃ……」


 まだヨシタカが碌に説明をしていなかったのもあるが、恐らくサティナは回復魔法と火炎魔法がヨシタカのお陰で上級まで使えるようになった。くらいにしか思っていなかったのだろう。
 ヨシタカはヨシタカで、目の前の事でバタついていた為か、明確に説明することをすっかり忘れていたのだ。


「俺はあの時。火炎魔法を使ってとは言ってないよ。あれはサティが自分で選んで使ってたでしょ? 自分がどの魔法を選んでいても使えていたはずだよ?」


 サティナは、自分が何を言われているのか理解が出来ないといった表情でヨシタカを見つめている。


「あの時、訊いたよね。王級までの全ての属性の勉強をしたか? ってさ。『王級魔法(全属性)』って書いてあったからさ。それを見て、適性じゃなくてそれを使うための魔力が無いんじゃないのかなって思ったんだよね」


「……つまり、私の努力は無駄じゃなかった? 魔力が足りなかっただけと?」


 ヨシタカの言葉を受け、その金色の瞳を震わせながらサティナがソワソワとし出す。


「そうだね。サティがしっかり勉強していたから、ちゃんと習得してたんだよ。魔力を渡すということの出来ない世界で、自分の最大値までしか回復の出来ない世界だから、誰も、サティ自身ですら気付けなかったんだね。しらんけど」

 
 ヨシタカのこれも、あくまでオタク知識だ。だが、現に実践出来た以上は推測通りなのだろう。
 サティナ曰く、同じ初級魔法の中でも消費魔力が一番低いのが回復であるヒールだ。
 そんな彼女の魔力量は、ギリギリそのヒールが使える程度だった。
 そこまで少ないと思ってなかった当時のサティナは、ヒールが使えるのだから他の初級も使えるはず。なのに使えないという事は適性が無い、と思い込んでいたのだ。

 魔法そのものは、彼女の努力によりしっかりと身に付いていたのだ。
 それはヨシタカの『鑑定』があってこその気付きだった。


 俯き、声を震わすサティナ。


「……しらんけどって……なんだ。……なんで……あの日々は……ッ! 無駄じゃなかった……。その言葉だけで、救われた気分だ……ありがとうヨシタカ」


 だが次に顔を上げた時には、微笑んでいた。


「どういたしまして。あんな凄い魔法を使えるサティがいて俺も心強いよ! あとは、どうやって魔力を増やすかだね」

「そうだな。期待は薄いが、旅をしながら探すとしよう。別に急がないしな」

「なんなら。それをメインの目的にしてもいいよ」

「いや、ついでで大丈夫だ」

「そう? いつでも協力するからね」


「ヨシタカと常に一緒に居ればいいだけだからな」

「……トゥンク」



 ――――――――



 そんなこんなで時間は経ち――。



 ――そして夜。

 今日はディークの家ではなく、村長の家に泊まることになった。ディークはヨシタカ達を村長の家まで案内した後、明日また家に来てくれと言って帰って行った。

 村長の孫であるモモから、どうしてもという事で急遽決まった次第だ。
 相変わらず村長は申し訳なさそうにしていたが、ヨシタカとしては泊めて貰えるだけ感謝しか無い。
 サティナもヨシタカに着いて村長の家にお世話になるらしい。


「わぁ~! ねこさま~!」


 そのサラサラな桃色の髪を揺らしながら、モモがヨシタカの足元でピョンピョンと跳ねている。
 付け加えると、ヨシタカの腕の中にいるヒナタを見つめながらだ。


「こらモモ! 大人しくしなさい。猫様が驚いてしまうだろう!」

「だいしょうぶだもん! オトナシシするもん!」

「お・と・な・し・く! 出来てないだろう! 猫様がお帰りになってしまってもいいのかい?」

「いやっ!」


(見た目、小学校高学年くらいかと思ってたけど、意外ともっと幼いのかもな。八歳かそれくらいか? ロリコンでは無いけど、モモちゃん可愛いな……断じてロリコンでは無いけど)



 ――その日はそのまま、賑やかな夜となった。



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