上 下
8 / 34
第一章 冒険の始まり編

第8話 魔力とスキル

しおりを挟む


「……すまなかった」

「……………」




 ヨシタカの目の前に、煌めく銀髪を頭の高い位置で一つに結った少女がいる。
 その顔は、トマトの様に真っ赤になっていたかと思えば、今は青くなっている。
 

 そんな彼女をヨシタカは見下ろす形で見ている。
 なぜか? 彼女が正座しているからだ。


「あぁ、いや、大丈夫ですよ。それよりそんな正座なんかしてないで立ってください。俺も驚いただけで、別にちょっとしか引いてないんで!」

「ぐっ……!」


 ヨシタカの言葉にまたしてもダメージを受けたようだ。


「とりあえず、前向きな話をしませんか? むしろ過去の事とか教えて貰って感謝しているんですから! おかげで何となくこの世界の事がわかりましたし!」


「そ、そうだな。うむ、これからどうするか考えるとしよう」


 そう言いながら少女が立ち上がる。膝下に着いた土や枯葉を払いながらヨシタカに向き直る。


「まず、近くに人間や獣人がいる村や街は無い。私の住む……エルフとハイエルフの里がこの森を進んだ先にあるが……人族のお前を入れてくれるかはわからない」


 少女は申し訳無さそうな顔でヨシタカに伝えた。


「そう……ですか」

(オタク知識で想像はしてたけど、実際に言われると結構寂しいな……)


「いや、人族のと言うと語弊があるな。身元の分からない人族の、と言った方がいいか。閉鎖的と言われるエルフの民も生活の為に人族と交流自体はあるからな」

「わかりました。でも、いつかは是非エルフの里へお邪魔してみたいですね」

「そうか。……その時は私が案内する。これも何かの縁だ。それに、ヨシタカとひなた様に私はすごく興味が有る」

(興味が有るって言われた。くっ……、治まれ……俺の動悸! 意味が違うことはわかってる!)

「はい。その時は是非。あ、そろそろお名前を伺っても?」


 そこでヨシタカは、結局ひなたの登場で有耶無耶になっていた少女の名前を聞く。


 ちなみに。そんなひなたはと言うと、散々彼女に撫でられたせいか、最初こそ微妙に引いていたが、最終的には気持ちよさそうにヨシタカの膝の上で眠り始めたのだ。


「そうだな。私はハイエルフのサティナ・スーだ。サティと呼んでくれ」

(まさかの……ハイ! エルフ!)


 ヨシタカは驚愕する。
 エルフなのは見た目で予想していたが、殆どのアニメやラノベではそのエルフの上位と言われている種族だ。


(まぁ、エルフとハイエルフの違いって正直よく分かってないけど、魔力が高いとかそんなだった気がする)

 
「サティさん! 綺麗な名前ですね。宜しくお願いします。ハイエルフというと、エルフよりも魔力が強いとかそういう感じですか? 失礼に当たったらすみません、詳しくなくて……」

「きれ……! ん、まぁそうだな。この世界の事がわからないと言う割にはよく知っているじゃないか。あとさん付けはいらん。呼び捨てでいい」


 少女……サティナが少し照れている。
 名前を褒めたのは少なからずヨシタカの作戦である。もちろん本音でもあるのだが、ここは紳士に行くべきだ。


「いや、まぁ、あはは。物語で知っていた、というか何というか。ではサティ……魔法は使えますか?」

「ふむ、そうなのか。魔法か、当たり前だろう。丁度いい、その肩の傷を見せてみろ」

 サティナが指を向けたのは、ヨシタカがひなたを探している時に樹に引っ掛けて切った場所だ。


「え? あ、はい」


 サティナに促され、ヨシタカは右肩を彼女に向ける。


「痛っ……」


 意識した途端、ヨシタカの肩はジクジクと痛み出す。呑気に話をしていたが、結構ザックリいってたせいで、少しずつ血は流れ続けていたのだ。
 ヨシタカの足元には血が滴ったせいで草が赤黒く染まっていた。

 ヨシタカの膝の上からひなたが彼の顔を見上げている。日本にいた頃からこの仕草はよくしていたが、今はどことなく心配そうにしている様にも見える。


 ――その時。


「――母なる神樹よ。その葉に宿る生命の…………」
 
「!!」

(うお! 詠唱! 生の詠唱! 本当にするんだなぁ。それにしてもやっぱり声かわいいなぁ。さっきまでとまた違った神秘さもあるし。めっちゃ動画に撮りたい! 感動する!)


 と、ヨシタカがそんな事を考えている間に十秒無い程度の詠唱が終わったようだ。


「――ヒール」


 サティナが手をヨシタカに向けそう唱えると同時、彼の右肩がエメラルド色に光り始める。


「うお! まぶし!」


 瞬間、肩の傷は見る見るうちに消えていく。
 後に残るのは血の跡と、熱を帯びたような感覚だけだ。


「ニャ!」


 どうやら寝ていたひなたが光に驚いた様子で、ヨシタカの膝の上から飛び降りた。だが、特に逃げもせず彼の足元に寄り添っている。


「すっっっっご! ありがとうございます! 初めて見ました! めっちゃ綺麗! 感動!」


 ヨシタカは目をキラキラさせながら、本心からそう告げる。
 肩を触ったり、回したりして確認してみるが、本当に何ともない。


「む、そ……そうか? それなら良かった。口振りから察するに、ヨシタカのいたニホン? という所には魔法を使える者は居なかったのか」

「そうですね。居ませんでした。全て物語、資料の中の知識ですよ」


 肩の確認を終わらせ、サティナに向き直る。


「ヨシタカは勉強熱心なのだな。そういう男は嫌いじゃないぞ」

「ありがとうございます」

(と、言うことにしておこう)


 そしてここで、ヨシタカは遂に、憧れていたあの言葉を、期待に満ちた目でサティナに向かって放つ。


「――俺にも使えますかね?」


 そう、魔法だ。魔法なのだ。
 オタクなら誰もが憧れるだろう。しかも目の前にはハイエルフの美少女だ。こんなファンタジー要素、ワクワクせずに居られるだろうか。

 ――否。答えは否である。

 そんな期待を顔いっぱいに見せたヨシタカの問いに、サティナは、当たり前のように淡々と答えた。


「魔力が有れば使えるし、無ければ使えない。この世界にはその二種の生物しかいない。魔力が有るか、無いかだ。だからまず……」

「な、なるほど! それで! 俺は有りますかね!?」


 つい、食い気味で話してしまう。
 紳士はどこ行ったのか。


「声がデカいわ! 順に説明するから落ち着いて聞け!」


 怒られた。
 

「申し訳ありません……」

(怒った顔と声、超可愛い……)

「だから、まずは魔力があるかどうかを調べる。今の私の魔法、その効果が現れたときの熱はわかるな?」

「はい!」


 そう、彼女がヒールと唱えた瞬間に光った肩、その付近が、熱くなったのだ。


「その熱を思い出せ。それから、その熱が体中を巡り、手の先へと移動していくのを想像する。そのまま手から放出されるイメージを作れ。手の先が少しでも光れば魔力持ちだ」


 サティナが分かりやすく説明してくれた。
 ヨシタカは早速実践する。


「魔力……熱……」


 目を瞑り、集中する。


 「まぁ、魔力持ちだろうと初めは光らない。何度かやってようやく光るし、魔力が無ければ一生光らん。想像力が大切だからな」

「はい……」


 肩の熱がお腹を通って足先へ、そのまま胸へとまた上がり、手の先へ……

 それを何度も頭の中で繰り返す。


 集中……集中……
 


 ――その時。


 パアアアアアアッと


 ヨシタカの手の先が、眩しい程に輝いた。


「なっ……」
 
「やったあああぁ! サティ! 光った! めっちゃ光った! これ結構光ってる方? チート!?」


 サティナが唖然としている。
 足元のひなたも、口から舌が少し出たまま固まっている。


(あ、ひな毛繕いの途中だったかな、ごめん)

「う、うむ。チート……というのは分からんが、すごいな。一発か……それにこの光量。魔導師クラスだな。いやそれ以上か……?」

(魔導師がこの世界でどれくらいすごいかは分からないけど、強そう! テンプレなチート展開くる!?)

 
 遂に魔力や魔法に触れたヨシタカ。
 その喜びは尋常じゃない。オタクとして憧れていたからこそ、尚更その感情は昂る。


(あとは……「俺に」どんな魔法が使えるのか「知りたい」な……)



 ヨシタカがそう考えた瞬間。


 パッ、と視界の中に、光で出来た文字が羅列し始めた。

――――――――――――
 名前:ヨシタカ
 種族:人
 称号:世界を渡る者
 スキル:無し
――――――――――――


(うおおおおお! きたああああ! お約束のヤツ! アニメだと見やすいけど、実際こうして出ると感動! でもちょっと邪魔!)


 視界を動かしてもその文字の羅列は定位置にあるため、邪魔である。
 

 魔力を意識しながら、自分を知りたいと思うと表示されるのかと、オタク知識を活用し、そう考えた。

 ヨシタカは目を見開きその内容を確認する。


(ふむふむ……力とか知力とかのステータスは出る訳じゃないのね。結構少な……あ、あれ? スキル無し?)
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

処理中です...