Lara

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神の願い

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一旦龍から離れて痛ましげに見てくる彼らを見やった。

「椿……」
「「つっつん……」」
「つ、ばき……」
「あ、ははっ、ごめんな?せっかくここまで来てもらったというのにさ」

今もガシガシと腕が勝手に動いて水晶玉を奪い取ろうとしている。音の鳴らない鎖が顕現してそれを戒めていた。どうにか腕のみで抑えてはいるが何時全部を乗っ取られるかわからない。俺は口早に言う。

「副会ちょ……いや、もう名前でいいか。大樹、無理して笑うなとは言わねぇ。だけどな、偶には休んでしまえ。お前は根を詰めすぎるきらいがある」
「……はい」
「次に薙刀、ここまでよく頑張ったな。すげぇ声に出すのが上手くなってる。だから内に溜めこまずに吐き出せよ」
「ん…っ!」
「皐月、あまり睦月を振り回して困らせるんじゃねぇぞ?よく、相方を見ていてやれ」
「ううっ、わかった……」
「泣くな泣くな、ったく、困ったお兄ちゃんだな。睦月、お前も薙刀と同じように内に溜めこむ癖があるから嫌だったりしたら嫌ってしっかりと言えよ?」
「っ、うんっ!」

これぐらいでいいだろう。そろそろ立つのも辛くなってきた。俺はまた龍に向き合おうとするがうまく力が入らずにふらついてバランスを崩してしまう。

「椿!」
「あ、龍…ありがと」

それを水晶玉を持っていた手とは反対の腕で支えてくれる。

「龍」
「……ああ」
「俺の愛しの人、帰ったら俺のことは忘れて、幸せを掴め」
「それはっ」

途端に顔を歪めた龍に俺は心が満たされる。矛盾しているが、拒否の感情を持ってくれたことが嬉しいのだ。

「ははっ、少しの時間だったけど、恋人になれて嬉しかった。まさかなれるとは思っていなかったからな」
「俺もだ」
「龍、もういいよ」
「…………っ」

―――ああ

水晶玉の割れる甲高い音が鳴り響いた。その瞬間、中で暴れていた神が霧散して消える。一瞬の安寧、しかしその代償はすぐに訪れた。

「消えて……」
「ああ、そうだな」

指先から淡い光が広がって天へ昇るように消えていく。
主の異変は世界へと伝わる。
空に浮かんでいた白き星々が一つ、また一つと流れ星となって地平線へと墜ちていく。
近くの大きな色の付いた星はひび割れて下へと崩れていく。
遠くに、本当に遠くにあった影の巨木は白い星が一つ当たり、そこから燃え上がっていく。

俺もどんどん光へと成り代わっていく。既に胸にまで光は迫っていた。

俺は最期に龍へもう一回キスをした。消失は体だけではなく、他のものにも及んでいた。

笑う

ちゃんと、笑えているだろうか。

『愛してる』
「っ、ああ…ああ!」

目は残ってはいるが視界がぼやけていく。思考もほぼままならない。
ついにはなんでここにいるのか、自分が誰だったのかすらわからなくなった。

ただ目の前の人が愛おしい。その人の腕に包まれ、温かさだけは感じた。


ゆっくりと瞼を下ろす。もう、幸せしか感じていない。


『今はゆっくり休んでおけ』

何処かの誰かがそう言った。









「…………っ、あ、あああっ……」

俺はなんの重みも感じなくなった腕を胸の前で掻き抱く。消えてしまった。立っていられなくて地面に膝をつく。溢れ出した涙が地面に咲いていた花に落ちる。

『ねぇ、泣かないで?』
「「「「っ…………!?」」」」
『ほう……』

幼い声が響いて顔を上げると目の前に幼い子供と学園の生徒たちが見たら頬を染めるだろう美しい男性が立っていた。いつの間にかすぐそばに立っていた神龍が意味ありげに片眉を上げた。

『大丈夫だよ、だから待っててあげて……ね!』
『今度こそあの子を幸せにしてやれ』
「は……?」

一体何を、と言おうとした、が……

突然遠くで影の巨木を燃やしていた白い炎が空に一つに纏まって形を作っていく。俺たちは驚いてその炎を見つめる。あの二人が何かをやったのかと目を戻したらそこには誰もいなくなっていた。

すると強風が吹いて赤い花々が巻き上がって白い炎へと飛んでいく。
遠くに炎があると言うのに、花が視認できる距離で炎に飲み込まれた。

その瞬間炎は造形を変え、鳥の姿へと変わった。

美しい、皆その鳥に目を奪われた。

その鳥は緩やかに羽ばたくと上へ飛んでいく。

『ふむ、では我も行くとするか』
「は?」
『ではな』

風が吹き、腕で目を庇う。再び目を開けると黒い龍が白い鳥へと飛んでいくところであった。白と黒は合流し、しばらくくるくると回って戯れると空へ勢いよく突撃し―――

―――世界が 割 れ た


「「「「……」」」」

気が付くと元の白かった部屋に戻っていた。塞がっていた天井は吹き飛び、真っ赤な夕焼けの空が見えていたが。遥か上空で黒と白の影が飛び回り、夕日へと向かって消えていった。


「…………戻るぞ」
「そう、ですか……」

そうして、その一幕は終わった。

























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