278 / 280
神の願い
2
しおりを挟む
一旦龍から離れて痛ましげに見てくる彼らを見やった。
「椿……」
「「つっつん……」」
「つ、ばき……」
「あ、ははっ、ごめんな?せっかくここまで来てもらったというのにさ」
今もガシガシと腕が勝手に動いて水晶玉を奪い取ろうとしている。音の鳴らない鎖が顕現してそれを戒めていた。どうにか腕のみで抑えてはいるが何時全部を乗っ取られるかわからない。俺は口早に言う。
「副会ちょ……いや、もう名前でいいか。大樹、無理して笑うなとは言わねぇ。だけどな、偶には休んでしまえ。お前は根を詰めすぎるきらいがある」
「……はい」
「次に薙刀、ここまでよく頑張ったな。すげぇ声に出すのが上手くなってる。だから内に溜めこまずに吐き出せよ」
「ん…っ!」
「皐月、あまり睦月を振り回して困らせるんじゃねぇぞ?よく、相方を見ていてやれ」
「ううっ、わかった……」
「泣くな泣くな、ったく、困ったお兄ちゃんだな。睦月、お前も薙刀と同じように内に溜めこむ癖があるから嫌だったりしたら嫌ってしっかりと言えよ?」
「っ、うんっ!」
これぐらいでいいだろう。そろそろ立つのも辛くなってきた。俺はまた龍に向き合おうとするがうまく力が入らずにふらついてバランスを崩してしまう。
「椿!」
「あ、龍…ありがと」
それを水晶玉を持っていた手とは反対の腕で支えてくれる。
「龍」
「……ああ」
「俺の愛しの人、帰ったら俺のことは忘れて、幸せを掴め」
「それはっ」
途端に顔を歪めた龍に俺は心が満たされる。矛盾しているが、拒否の感情を持ってくれたことが嬉しいのだ。
「ははっ、少しの時間だったけど、恋人になれて嬉しかった。まさかなれるとは思っていなかったからな」
「俺もだ」
「龍、もういいよ」
「…………っ」
―――ああ
水晶玉の割れる甲高い音が鳴り響いた。その瞬間、中で暴れていた神が霧散して消える。一瞬の安寧、しかしその代償はすぐに訪れた。
「消えて……」
「ああ、そうだな」
指先から淡い光が広がって天へ昇るように消えていく。
主の異変は世界へと伝わる。
空に浮かんでいた白き星々が一つ、また一つと流れ星となって地平線へと墜ちていく。
近くの大きな色の付いた星はひび割れて下へと崩れていく。
遠くに、本当に遠くにあった影の巨木は白い星が一つ当たり、そこから燃え上がっていく。
俺もどんどん光へと成り代わっていく。既に胸にまで光は迫っていた。
俺は最期に龍へもう一回キスをした。消失は体だけではなく、他のものにも及んでいた。
笑う
ちゃんと、笑えているだろうか。
『愛してる』
「っ、ああ…ああ!」
目は残ってはいるが視界がぼやけていく。思考もほぼままならない。
ついにはなんでここにいるのか、自分が誰だったのかすらわからなくなった。
ただ目の前の人が愛おしい。その人の腕に包まれ、温かさだけは感じた。
ゆっくりと瞼を下ろす。もう、幸せしか感じていない。
『今はゆっくり休んでおけ』
何処かの誰かがそう言った。
「…………っ、あ、あああっ……」
俺はなんの重みも感じなくなった腕を胸の前で掻き抱く。消えてしまった。立っていられなくて地面に膝をつく。溢れ出した涙が地面に咲いていた花に落ちる。
『ねぇ、泣かないで?』
「「「「っ…………!?」」」」
『ほう……』
幼い声が響いて顔を上げると目の前に幼い子供と学園の生徒たちが見たら頬を染めるだろう美しい男性が立っていた。いつの間にかすぐそばに立っていた神龍が意味ありげに片眉を上げた。
『大丈夫だよ、だから待っててあげて……ね!』
『今度こそあの子を幸せにしてやれ』
「は……?」
一体何を、と言おうとした、が……
突然遠くで影の巨木を燃やしていた白い炎が空に一つに纏まって形を作っていく。俺たちは驚いてその炎を見つめる。あの二人が何かをやったのかと目を戻したらそこには誰もいなくなっていた。
すると強風が吹いて赤い花々が巻き上がって白い炎へと飛んでいく。
遠くに炎があると言うのに、花が視認できる距離で炎に飲み込まれた。
その瞬間炎は造形を変え、鳥の姿へと変わった。
美しい、皆その鳥に目を奪われた。
その鳥は緩やかに羽ばたくと上へ飛んでいく。
『ふむ、では我も行くとするか』
「は?」
『ではな』
風が吹き、腕で目を庇う。再び目を開けると黒い龍が白い鳥へと飛んでいくところであった。白と黒は合流し、しばらくくるくると回って戯れると空へ勢いよく突撃し―――
―――世界が 割 れ た
「「「「……」」」」
気が付くと元の白かった部屋に戻っていた。塞がっていた天井は吹き飛び、真っ赤な夕焼けの空が見えていたが。遥か上空で黒と白の影が飛び回り、夕日へと向かって消えていった。
「…………戻るぞ」
「そう、ですか……」
そうして、その一幕は終わった。
「椿……」
「「つっつん……」」
「つ、ばき……」
「あ、ははっ、ごめんな?せっかくここまで来てもらったというのにさ」
今もガシガシと腕が勝手に動いて水晶玉を奪い取ろうとしている。音の鳴らない鎖が顕現してそれを戒めていた。どうにか腕のみで抑えてはいるが何時全部を乗っ取られるかわからない。俺は口早に言う。
「副会ちょ……いや、もう名前でいいか。大樹、無理して笑うなとは言わねぇ。だけどな、偶には休んでしまえ。お前は根を詰めすぎるきらいがある」
「……はい」
「次に薙刀、ここまでよく頑張ったな。すげぇ声に出すのが上手くなってる。だから内に溜めこまずに吐き出せよ」
「ん…っ!」
「皐月、あまり睦月を振り回して困らせるんじゃねぇぞ?よく、相方を見ていてやれ」
「ううっ、わかった……」
「泣くな泣くな、ったく、困ったお兄ちゃんだな。睦月、お前も薙刀と同じように内に溜めこむ癖があるから嫌だったりしたら嫌ってしっかりと言えよ?」
「っ、うんっ!」
これぐらいでいいだろう。そろそろ立つのも辛くなってきた。俺はまた龍に向き合おうとするがうまく力が入らずにふらついてバランスを崩してしまう。
「椿!」
「あ、龍…ありがと」
それを水晶玉を持っていた手とは反対の腕で支えてくれる。
「龍」
「……ああ」
「俺の愛しの人、帰ったら俺のことは忘れて、幸せを掴め」
「それはっ」
途端に顔を歪めた龍に俺は心が満たされる。矛盾しているが、拒否の感情を持ってくれたことが嬉しいのだ。
「ははっ、少しの時間だったけど、恋人になれて嬉しかった。まさかなれるとは思っていなかったからな」
「俺もだ」
「龍、もういいよ」
「…………っ」
―――ああ
水晶玉の割れる甲高い音が鳴り響いた。その瞬間、中で暴れていた神が霧散して消える。一瞬の安寧、しかしその代償はすぐに訪れた。
「消えて……」
「ああ、そうだな」
指先から淡い光が広がって天へ昇るように消えていく。
主の異変は世界へと伝わる。
空に浮かんでいた白き星々が一つ、また一つと流れ星となって地平線へと墜ちていく。
近くの大きな色の付いた星はひび割れて下へと崩れていく。
遠くに、本当に遠くにあった影の巨木は白い星が一つ当たり、そこから燃え上がっていく。
俺もどんどん光へと成り代わっていく。既に胸にまで光は迫っていた。
俺は最期に龍へもう一回キスをした。消失は体だけではなく、他のものにも及んでいた。
笑う
ちゃんと、笑えているだろうか。
『愛してる』
「っ、ああ…ああ!」
目は残ってはいるが視界がぼやけていく。思考もほぼままならない。
ついにはなんでここにいるのか、自分が誰だったのかすらわからなくなった。
ただ目の前の人が愛おしい。その人の腕に包まれ、温かさだけは感じた。
ゆっくりと瞼を下ろす。もう、幸せしか感じていない。
『今はゆっくり休んでおけ』
何処かの誰かがそう言った。
「…………っ、あ、あああっ……」
俺はなんの重みも感じなくなった腕を胸の前で掻き抱く。消えてしまった。立っていられなくて地面に膝をつく。溢れ出した涙が地面に咲いていた花に落ちる。
『ねぇ、泣かないで?』
「「「「っ…………!?」」」」
『ほう……』
幼い声が響いて顔を上げると目の前に幼い子供と学園の生徒たちが見たら頬を染めるだろう美しい男性が立っていた。いつの間にかすぐそばに立っていた神龍が意味ありげに片眉を上げた。
『大丈夫だよ、だから待っててあげて……ね!』
『今度こそあの子を幸せにしてやれ』
「は……?」
一体何を、と言おうとした、が……
突然遠くで影の巨木を燃やしていた白い炎が空に一つに纏まって形を作っていく。俺たちは驚いてその炎を見つめる。あの二人が何かをやったのかと目を戻したらそこには誰もいなくなっていた。
すると強風が吹いて赤い花々が巻き上がって白い炎へと飛んでいく。
遠くに炎があると言うのに、花が視認できる距離で炎に飲み込まれた。
その瞬間炎は造形を変え、鳥の姿へと変わった。
美しい、皆その鳥に目を奪われた。
その鳥は緩やかに羽ばたくと上へ飛んでいく。
『ふむ、では我も行くとするか』
「は?」
『ではな』
風が吹き、腕で目を庇う。再び目を開けると黒い龍が白い鳥へと飛んでいくところであった。白と黒は合流し、しばらくくるくると回って戯れると空へ勢いよく突撃し―――
―――世界が 割 れ た
「「「「……」」」」
気が付くと元の白かった部屋に戻っていた。塞がっていた天井は吹き飛び、真っ赤な夕焼けの空が見えていたが。遥か上空で黒と白の影が飛び回り、夕日へと向かって消えていった。
「…………戻るぞ」
「そう、ですか……」
そうして、その一幕は終わった。
10
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
ボクは隊長さん?
葉津緒
BL
「平凡な僕が、親衛隊の隊長さん……?」
副会長さまと転入生(モジャぐる)くんの恋を応援します! by.平凡親衛隊長
王道 VS 副隊長+隊員たち
全寮制王道学園/平凡/親衛隊/総愛され/コメディ
start→2010(修正2020)
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
王道くんと、俺。
葉津緒
BL
偽チャラ男な腐男子の、王道観察物語。
天然タラシな美形腐男子くん(偽チャラ男)が、攻めのふりをしながら『王道転入生総受け生BL』を楽しく観察。
※あくまでも本人の願望です。
現実では無自覚に周囲を翻弄中♪
BLコメディ
王道/脇役/美形/腐男子/偽チャラ男
start→2010
修正→2018
更新再開→2023
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
転生したら乙女ゲームの男主人公??的な立ち位置だったんですけど無理なんで女装したら男どもがヒロインそっちのけで自分を口説くんですけど!!
リンゴリラ
BL
病弱だった主人公高校生は乙女ゲームをしている途中で死んでしまった…!
生まれたときに見た景色は······全くの日本じゃなく、死ぬ直前までやっていた乙女ゲーム?!
そして…男主人公側=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた俺が口説くテクニックなんか知っているか!!ということで…もう女の子になっちゃいましょう!誰になんと言われても。
と、そんな感じで、女装して学校に入学した、主人公ジュン(女の子らしくしてソジュン。)はヒロインは他の男にお任せして、脇役になってやろう!と心に決めた!までは良かったんだけど…
何故か、ヒロインじゃなく俺が口説かれてるんですけど‼どういうことですかぁ〜?
超絶美形な俺がBLゲームに転生した件
抹茶ごはん
BL
同性婚が当たり前に認められている世界観のBLゲーム、『白い薔薇は愛の象徴となり得るか』略して白薔薇の攻略対象キャラである第二王子、その婚約者でありゲームでは名前も出てこないモブキャラだったミレクシア・サンダルフォンに生まれ変わった美麗は憤怒した。
何故なら第二王子は婚約者がいながらゲームの主人公にひとめぼれし、第二王子ルートだろうが他のルートだろうが勝手に婚約破棄、ゲームの主人公にアピールしまくる恋愛モンスターになるのだ。…俺はこんなに美形なのに!!
別に第二王子のことなんて好きでもなんでもないけれど、美形ゆえにプライドが高く婚約破棄を受け入れられない本作主人公が奮闘する話。
この作品はフィクションです。実際のあらゆるものと関係ありません。
百色学園高等部
shine
BL
やっほー
俺、唯利。
フランス語と英語と日本語が話せる、
チャラ男だよっ。
ま、演技に近いんだけどね~
だってさ、皆と仲良くしたいじゃん。元気に振る舞った方が、印象良いじゃん?いじめられるのとか怖くてやだしー
そんでもって、ユイリーンって何故か女の子っぽい名前でよばれちゃってるけどぉ~
俺はいじられてるの?ま、いっか。あだ名つけてもらったってことにしよ。
うんうん。あだ名つけるのは仲良くなった証拠だっていうしねー
俺は実は病気なの??
変なこというと皆に避けられそうだから、隠しとこー
ってな感じで~
物語スタート~!!
更新は不定期まじごめ。ストーリーのストックがなくなっちゃって…………涙。暫く書きだめたら、公開するね。これは質のいいストーリーを皆に提供するためなんよ!!ゆるしてぇ~R15は保険だ。
病弱、無自覚、トリリンガル、美少年が、総受けって話にしたかったんだけど、キャラが暴走しだしたから……どうやら、……うん。切ない系とかがはいりそうだなぁ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる