Lara

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Regained Memories

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どうすればいいのかと手を震わせて僕を抱きかかえている彼を見る。

「ねぇ…」
「由貴……」
「あのね……?」

貴方だけ逃げて、そう伝えようとした時、僕はいつの間にか刀を自分の中から引き抜いていた。あれ……

僕は体を自分の意思で動かそうとするけど、そんなもの関係ないとばかりに勝手に動く。僕は彼の腕の中から抜け出して立ち上がり彼から離れた。

「由貴?」
「あはっ、今は由貴可哀想な子ではないよ」
「は?」
「私は『白神』。彼の中でできた新たな人格であり、『白の祝福』の人形です。あの子は今、この状況を見て聞いているだけ。何もできないよ」

やられた。僕の精神が弱った隙を狙って体の主導権を取られた。僕も主導権を取り戻そうとするが、六年間にかけてボロボロになった僕の精神では歯が立たなかった。この様子だと、白神はいつでも僕の体を乗っ取れたと思う。けれど、やらなかった、だけどなんで今になって……まさか

「でも残念です、貴方を逃がそうとするとは…愚かなことです。そればかりはやってはいけないことです」
「…由貴が?俺を……?」
「そうですよ、それだけは無理なんだと、今更逃げようとしたのです」

そう言って私は刀を握りしめる。なあ、やめてくれ……お願いだから……

「そうしてしまえば、私は何時まで経ってもこの世から切り離されない。そればかりは駄目なのですよ。だから、こうです」
「―――ぐっ、っ」




「貴方を刺します」
「あぐっ……」
「ふふっ、最期の時間は会わせてあげましょう」




「あ、あああ……」
「ゆ、きっ……」


彼が僕に手を伸ばして頬を撫ぜる。さっきの僕みたいに刀が腹を貫通しているというのに。


「ご、め……な?」
「……や、やだ、やだやだやだっ!駄目だッ!僕を、僕を」
「あ、あ……そういえ、ば……教えてなかったな」


彼は僕の目を覗く。


「お……れ、の……名前は―――」



何か、罅が入っていた何かが甲高い悲鳴を出して割れた。


手から力が抜けて落ちる。気づいたら彼の目は閉じていた。赤い…赤い花がいつのまにやら創り上げていた世界の地面一面に広がっていた。これは彼の命だ。……彼の、全てだ。


一分か、十分か、それとも一時間?一日?
時はわからない。けれど確かに時間は通り過ぎて



彼の体は全て花に変わっていた。消えて、無くなって、虚空に刺してある刀だけが残っていた。


「ル、ル、ル……――」

掠れた声が響いた。そして舞い落ちる静寂

「あ、ああアアア―――AAAAA――――――ッ!!!!」

響き渡る絶叫。もう帰ってこない。悲しみを憎しみを痛みを声に乗せる。

壊れろ

壊れろ

全てすべてすべて壊れてしまえッ!!



僕は壊れた



地面に何度も剣を突き刺し、飛び散る花弁。それは誰かの痛みだった。それが誰かなんて、知らない、知らないったら知らないんだ。知らない知らない知らなひ―――――またいつもの部屋に戻ったら彼が待っててお帰りって言ってくれるんだ。きっと今日もそうに違いない。

「は、はは……はははははははははっ!!!」

一面に花が広がっている。それは僕が作る、切って伐って斬って、そう


そうだ、それが自分の役目だ。よーく分かった。そうなんだよ、この世の全てを切って潰して捻って千切って刺して消して流して嗤って遊んで愉しんでぜーんぶ赤く赤くすればいいんだ。なにもかも、僕みたいに

下げていた顔を上げるとぼさぼさに前に垂れ下がった髪の隙間から爛々と光る目が覗く。

今までは嫌々やってた。でも、そんな風におもわなくてよかったんだ。だってさ、ぼく……あれ?わたし?

――一人称なんてなんでもいいや。まざっちゃった。わたしはこーんないやがらせばっかりしてくるせかいのすべてがきらいなんだ!だーいきらいだ!

『―――』

ふと動きを止めた。耳を澄ますかのように。何かを聞き逃さないかのように。

?今の声はだあれ?はやくでてきてよ、これできってあげるから、ね?ほらはやく

『――――、――?』

ねぇなんていってるの?よくきこえないよ?だからはやくでてきて?すぐにおわらせてあげるから

辺りを見回した。だけど周囲は赤の花しかない。

『…………』

あれぇ?あれれぇ?にげちゃった?かくれちゃった?いいよ、われはおにごっこもかくれんぼもすきだよ?やるの?やるの?あはははははっ?

剣を地面から引き上げて花畑の中を歩き回る。なにかを探すかのように、ときおり足で花を蹴って散らす。

いないねいないねいないねなんでなんでなんで????ちゃんときこえたのになんでいないの?ここにはでぐちなんてないのにつくってないのに
でたりはいったりできないのにいないよ?おかしいなおかしいな

足を上げて勢いよく下ろすと地面が陥没し、花が舞った。明らかに人のなせる業ではない。

あれぇ…?まあいっか…………どうせ何処に逃げたってぜーんぶやるから。関係ない、ね?

『―――、――――――…………』

あれ?逃げてなかったの?でもやっぱりいないね。歌を謡ってるようだけど、それは誰に向けてやってるのかな?ここには誰も人なんていないのに。

白の化身は立ち止まって耳を澄ます。なんの音も発されていないのに。

だけどそれは謡われた。確かに、謡われたのだ。

視界の影に誰か彼が立っている気がした。けれど誰もいない。


白の化身は歩き出す。そしてその扉無き箱庭の世界から消え去った。

後にはハナニラのみが残っていた。


ハナニラは悲し気に幻想の空を見上げていた。



* * *

彼が遺した名前とは、壊れてしまったものとは何だろうか


世界はそれを作り上げた者を表す

白の神には見合わない黄昏の世界


神の願いは今も一つだけ

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