証

彼を取り戻すために

７

ぼんやりと神龍を見ていると彼がくすりと笑うのを見た。

『だから言ったであろう。何を犠牲にしてもその我が儘を突き通してみよと』

私はそう言われたことは知らない。きっと捨てたうちの記憶の中にあるのだろう。捨てる記憶の対象は選べない。範囲を決めてそれをとある物の中に封じ込めるだけ。その範囲は私がここから出ていった後からだった。

だから、私は彼が紡いできた縁を知らない。捨てたのもこの場所で、だ……だから私の記憶はここで過ごした日々しかわからない。外の世界に憧れた私だけが残り、もう外に出ることはできないということだけ。

「ッ、しんりゅ、ッ…………！」
『そんなに焦るでない、これでも急いだんだ。これが沢山そこらの庭に散らばっていたからな、持ってきた』
「それは…………？」

なぜ…………それを

「な、ぜ、それ、をっ！」
『何か奇妙な力を感じたのでな、向かってみたらこれがあったという訳よ』

神龍の手のひらに乗っているのは大小さまざまな白い球。淡く光るそれは見覚えのあるものだった。

『これで白神の力の暴走は納まり、記憶が戻る』
「本当ですか!?」
『ここで嘘を言って何になると』
「きっ、さマァ！……ガッ、ゴポ…………ッ」
『ククク、どうしてそんなに怒るのか、さあこれを飲め』

やめろ

笑いながらその球を近づける神龍に恐怖を覚える。それはもう自分にとっては不要なものであり、それをやってしまったら耐えられるものではないからだ。

これ以上、私を、苦しめるな

顔に手を添えられ、今も溢れ出す白を気にせずに球を持って口の中に差し込まれる。

そして手を外して、口を閉ざされた。

それの解放条件は体内に含むこと。ただ、それだけ。

「ッ!!!」
『っ……』

押し寄せてくるそれに抗えずに受け入れるしかなかった。
俺・は白を一瞬外に放出して神龍を引き剥がす。

「「神龍!?」」
『大丈夫だ』

俺はよろよろと立ち上がって長い髪を搔き乱す。
顔を上げて神龍を睨んだ。

「ああ、ひっでーな、神龍は」
『ふん、道を違えた罰だ』
「…………椿、か？」

憎々しい笑みを浮かべる神龍には素直には感謝ができない。

「全部記憶を取り戻しちまったじゃねーか」
『だが、暴走は納まっただろう？』
「は、はっ」

恨めしい恨めしい恨めしい
記憶を取り戻した今、全てのことを思い出すことができる。だから

恨むよ

「Be white白に在れ」
「つ、ばき！」
「「何をっ！……ッ!?」」

手を前に出して唱える。さあ、俺の呪い祝福をたんと召し上がれ？

「あっ、ははははははははははははっはははぁぁぁぁああああああっ!!!」

狂ってる？ああ、もちろんわかってる。記憶を得たことによって引き出される精神興奮と今までの呪念から俺は世界を、全てを呪う。

それが、後になって後悔することになるのだとしても

溢れてくる白に俺は嗤おう。今目に映る全てが憎い、憎い憎い憎い。

世界は俺の敵だ



さあ



世界を祝福しようではないか！