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彼はもう、帰れない
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「今まで、ありがとうございました。」
憐憫と同情の目で見てくる神官から背を向けて薄暗い道を歩いていく。
ジャラジャラとなる鎖は手を戒めていて暴れたりしないように、ということらしい。
ぎいいっと音が鳴り響き、光が遮られる。後ろを振り返ってみると今入った扉を閉めたらしい。これで本当に逃げられなくなった。もう後戻りはできない。
奥に続く道は狭く、人ひとり分しか通れない。床や壁はなぜか光る不思議な苔が張り付いており、視界は確保できる。
「王国に召喚されて三年か…」
最後の最後まで、帰れなかったな…
■■■
目を開けるとそこは人がたくさんいた。身長を越える長い杖に体重をかけて息を荒げている少女と大勢の大人。全員がこちらを見ていて、ざわめいていた。
「ようこそイルナティオスへ、召喚に応じてくださり、ありがとうございます。私たち世界は神子様を歓迎します。」
息を整えた少女は二歩三歩と前に出て俺を見つめていた。ふんわりとした金髪を腰まで伸ばし、青いドレスを身に纏ったその可憐な姿は物語に出てくる姫様みたいだった。突然の光景と言葉に訳も分からず部屋を見回していた。
どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。説明されたところによるとこのイルナティオスというのは世界の名前で俺は神子として呼ばれたらしい。
この世界は今滅亡の危機にあるそうだ。どうにも、この世界の神様が外からやって来た邪神と戦い、勝利したものの力を使い果たして眠っているんだって。
神と言っても宗教上だけではなくってちゃんとした役割があるらしい。それで寝ている間はその役割を果たすことが出来ないからそのままにしていると世界が滅びちゃうんだと。それで、そうならないように異世界から神子を召喚して代わりにそれをやるんだって。
異世界人に頼らずに自分たちの世界でやれよって思うけどそういう訳にはいかないらしい。
この世界の生物だと力が小さすぎて役割をやりきることは出来ないってことらしい。だけど異世界から来た人は世界と世界の狭間を通る時に膨大なエネルギーを吸収するから神の代わりにできる…ってことらしい。
俺がここに来る前は電車に乗っていた。高校とアルバイトからの帰りで疲れていたから電車の揺れで落ちるように眠ってしまった。そうして目が覚めて起きたら、異世界だった。ありえないだろ、そんなこと。
初日は召喚されたこと自体が信じきれなくて、夢だろうきっとすぐに電車の中で目が覚めると思って寝た。だけどそれは現実で何度寝ても元のいた世界には戻らなかった。
それからは荒れに荒れ、元の世界に返せと騒ぎ、帰る手段がないことに夜な夜な枕を濡らした。そして
「神が目覚めれば、元の世界に戻ることが出来るかも、しれません。」
―――そのためにも役目を果たし、神に祈ってください。
俺はそれを聞いた日から、何もせず泣きわめくだけの日々をやめた。
神子のやることは二つ、
一つは世界に出来てしまった黒形を浄化すること。
黒形とはこの世界の生物の負の感情が集まってできたものらしい。負の感情はその醜さから天に昇華されず、世界に残ってしまったもの。それの集合体は原理はわからないけど人の形をとって襲ってくる恐ろしいものと俺を召喚した国の神官が言っていた。だけどその存在は世界に反逆するものだが同時に悲しき存在らしい。だからそれを身に宿るエネルギー…力を使って浄化して性質を反転させて天に昇華するんだって。
そして二つ目だけど、神に祈ること。
祈りはすべて神の力になる。この世界の民も祈るが、エネルギーを身に宿すことで少なからずとも上位の存在に格が上がった神子が祈る力は大きい。だから早く神が目覚めるためにも祈るんだって。
少しでも早く、早く元の世界に帰りたいと想う気持ちでやった。家には親はいなくて妹と二人だけだった。保護者は親戚だけど、俺たちには関わろうとしないひとだから俺がいなくなったら妹に頼れる人はいなくなる。実質、生活費は親戚から送られてくる少ない額の金と俺がアルバイトして稼いだ給金だけだった。
急がないと、妹が一人寂しく家で待ってる…
まあ、他の人に保護されているかもしれないけど俺の心の支えはそれだけだったから。いや、それ以外なかったから。
それからは頑張った。国境で襲い掛かってくる黒形をを倒して浄化してボロボロになりながら、教会に戻って祈って寝ての毎日だった。ご飯は質素で満足に食べられなくて、黒形は昼夜問わずにやってくるから眠れる時間もなくて、なんで一人で倒さなきゃいけないんだろうって思った。騎士は後ろで立ったままだし、いる意味ないし。せめて一つ倒している間に他のやつらを受け持ってくれないかなとは思うけれども。
力が弱まり始めたのは異世界に召喚されて二年と半分経った頃。
黒形にも集まった負の感情の量で小型、中型、大型と決まっているんだが
中型一つぐらいなら込めたエネルギーの関係で二回切っただけで倒せていたのが三回切らなければ倒せなくなった。中型と言っても大雑把な括りで、偶々かなと思ったんだけど、何度やっても二回で倒せなくなった。
逆にどんどん切らなければいけない回数が多くなっていった。
その頃には異変が神官にも気づかれていて、調べて見たら内包しているエネルギーが少なくなっていってることが分かった。今までは自分から溢れ出てくるエネルギーだけで出来たけど、それも消費して体内に収まるようになり、余分な分がなくなったことで漏れてくるエネルギーが少なくなったんだって。
その時はへーって思っただけだけど、終わりの時間が近づいていることには気が付かなかった。
自動でエネルギーがでなくなって、戦うときも意識して出さなきゃいけなくなったしその分余裕もなくなった。
だけどそこから三か月後、ある日突然エネルギーが出せなくなったんだ。どんなに頑張って出そうとしてもまるで空っぽみたいで、俺はパニックになって黒形から攻撃を受けて気を失った。
次目覚めたのは教会本部だった。
そこで神官長に告げられたのはどうやら本当にため込んでたエネルギーを消費していて、もう戦えなくなってしまったらしい。
神官長が出て行ったあと、一人ぼっちになった部屋で俺は布団の中でうずくまった。
戦えなくなってどうすればいいのかわからなくなったから。
その頃には俺は大分壊れていて自分の考えで行動するなんてできなくなっていた。ただ布団を頭から被って、体を丸めて、目をつぶった。
気がついたら夜になっていて、ノックの音が聞こえたので扉を開けた。扉の前に立っていた神官はどうやらご飯を持ってきたようで何も言わずに渡された。
黒いパン一つに薄味のスープ。俺のご飯はそれだけだった。
もそもそとパンを食べてスープを飲んで食べ終わったころ、意識が暗転した。
■■■
どうやら眠っていたらしい。目を開けると横になっていた俺を見下ろす神官たちが目に入った。
「……え?」
「起きたか。」
訳が分からなかった。俺が最後に起きていた記憶では部屋でご飯を食べていて、
呆然と見上げる俺に呆れたかのように息を吐きだして冷たい目で見る神官長がいた。
「どういう、ことですか。」
「どうやらお前は戦えなくなったそうじゃないか、だからだよ。まあいい、ここまで馬鹿のように働いてくれたお前には教えてやろう。どうせ野蛮人には理解できないだろうがな。」
とても見下した口調で神官長は言った。
神子の末路について
言われてから気づいた。神子は何度も召喚されていることを。馬鹿みたいだった。少し考えればわかることなのに。神子は今までに何度も繰り返し召喚されていて使いつぶされている。思い当たる節はある。
召喚されてからの道があまりにも整いすぎているから。俺は初めての神子ではない。じゃないと、なぜ神子に膨大なエネルギーが含まれているのを知っているのか。なぜ神子の格が高いと分かるのか。なぜ、神子の対応に慣れているのか。
「まさか今まで気づいてないとは思わなかったよ。こんなにも可笑しいところはあるのにな?」
馬鹿にされた。
その通りだった。ただ泣いて、目の前にぶら下げられているものだけを見てただ突っ走って、このざまだ。
「召喚された神子は皆、最後には力を失って戦えなくなりました。さて、その無能に成り果てた神子は何処に行ったでしょうか。」
コツコツと歩いてきて、横たわっている俺の目を覗き込んだ。
「 神のもとにいかれるのです 」
■■■
手首に繋がった鎖はそのままに地下へと連れていかれた。神官の一人が持つカンテラの明かりが影を作り、ひどく不気味だった。
神官長はいない。もう俺に用はないという風に去っていった。どうやら俺を見下して笑いたかっただけらしい。
「ここから先はお前だけだ。」
先導した神官が振り返って言った。目の前には大きな古びた扉が一つ。とてもそこから先に神がいるとは思えないほどだった。
後ろからついてきた神官が扉を開ける。その先は暗く、奥は光が届かないほど長くて吸い込まれそうだった。
「ありがと…」
「……」
神官を見てそう言うも、返しは無かった。ただ、俺を見て何かを言おうとして首を振って閉じただけだった。
俺は後はもう何も言わずに扉の先に踏み込んだ。空気の質が変わる。圧力がかかり、少し体が重くなる。
「今まで、ありがとうございました。」
扉が閉まる瞬間に聞こえてきた神官の言葉。それを聞いて俺は振り返った。扉は既に締まっている。
俺は漸く、終わりなのだと気づいた。いや、認めた。俺はもう用済みで、かえはいくらでもあって
どうしようもなくてその道の先を歩いた。既に光は無く、壁も床も自分の手すらも見えなかったけど不思議と前を歩けた。
永遠に感じる時間が過ぎて、突然顔をぶつけた。
「痛っ!」
強くぶつけたからか、その壁は開き、光が入ってきた。どうやらぶつかったそれは扉だったらしい。突如差し込んできた光が視界を焼きつけて思わず目を閉じる。
目が慣れたころに開くとそこは部屋だった。壁には謎の物体が光を発し、部屋の中を照らしている。あれ、なんだろうか。
部屋の中央には豪奢な大きいベットがポツンと置いてあった。他には何もないので大人しくベットに近づいて覗き込んでみるとそこには端正な男が一人、横になっていた。
黒く長い髪に対し、何処までも白い肌。引き締まった唇は血を塗ったかのように朱になって、スッと通った高い鼻。長いまつ毛に整った眉。掛け布団の外に出ているその腕は長く、その指先は滑らかだった。
その美しさに見とれていたら、彼はフッと目を開けて俺を見つめた。その目は黒曜石のように麗しく、いつまでも見つめていられるようだった。
『そなたが今代の渡り人か、良き、私好みだ』
口をゆっくりと開き、出したその声は不思議な力が込められているように感じて、今にもひれ伏してしまいそうだった。
俺が何も言わずに目を見開いて見つめていると彼はその手を伸ばし、俺の腕を掴んでベットの中に引きずり込んだ。そのまま俺を組み伏せてのしかかってくる。
「お、前は、誰だ」
『ふむ、私にはモノを区別する名前というものがない。ただそれでは不便か。数年前では神、と呼ばれていたものだ。』
「神、神は今眠りについているはずじゃ…』
『寝ていたではないか、現にさっきまではここで横になっていた』
「……っ」
もうよくわからなかった。この世界に来てからわからない事づくしだ。律儀に答えを返してくれる神。
『もう、疑問はないな。なら私の用を果たそうか』
「……ッ!?…むぁ…っ」
顔を近づけて俺の口をふさいできた。急なことで何も考えることのできなくなっていたら、口の中ににゅるっと入って来て俺の中を蹂躙する。
俺は息もできずに抵抗しようとするも抑え込まれた上に力が入らなくて動けなかった。飲み込めずに溜まってあふれ出したどちらともわからない唾液が俺の顎を伝った。
「んっ…くちゅ……っぁ……あふ……」
そうして神は口を離して見下ろすと指パッチンした。すると俺の来ていた服はなくなり、俺の体は外気にさらされた。
今気づいたけど、彼も裸だ。上から下に見ていって、俺は固まった。でかい、そこには大きな逸物がビキビキになって天を仰いでいた。
『ん?…どこを見ていると思ったら、これか』
神は納得したかのように頷いてそれを俺の太腿にこすりつけた。
『今からお前のここに入れるんだ、楽しみだろう?』
「ヒッ」
サッと俺の太腿の間に手を潜り込ませてその蕾を撫ぜてそう言った。
全然楽しみではない。むしろ俺は男で、そこは受け入れるところではなくて
「なん、でそんなこと」
『なんで、か…前にも聞かれたな。それは―――』
―――ただ取り込むだけではつまらないから、だな
そう神は言って俺を見下ろした。あの神官長のように、ただ玩具を見るような目で。
そこから俺は気がついたら神の剛直を咥えこんでいて啼かされていた。
「ふあっ、あっ、あっ、やっ、あああああっ!!!」
キモチイイ、とんとんと奥をそれでつつかれてすごく気持ちいい。意識はフワフワして、閉じない口から唾液を垂れ流してキスを強請る。やがて快楽の限界を迎えて俺は大きく背をのけぞらした。俺のちんこからは既に薄くなった精液がぴゅ、ぴゅと出てくる。
『フッ……これだけは何度やってもやめられないな…クッ』
神が何か言っていたが快楽でトンでいた俺はその言葉を理解できなかった。
そして腹に剛直の形が浮き上がった後、更なる快楽を注ぎ込まれた。
強すぎる快楽に抗いきれずに意識が薄くなっていく中、彼の背から触手の束が出てきて俺を取り込もうとするのが見えた。
勢いよく俺はその中に包まれて意識が切れる瞬間に
もう、元の世界に帰れないんだな。
と、頭に浮かんだ。
――――――――――――――――――――――――
神子
異世界から召喚されてやってくる生物。
黒形を浄化し、神に祈るのが仕事。
使いつぶしだが交換できる。長くて五年、短くて二年で交換しなければならない。
神の為の贄でもある。
最初から最後まで異世界に振り回されて幸せになることはない。
神
遥か昔、他の神と戦って眠りにつく。
再び力をつけるために数年に一回捧げられる神子を糧にする。
最近では取り込む前に神子と交尾するのがマイブーム。
絶望の表情と交尾でもたらされる快楽によって壊れて堕ちていく神子を見るのが好き。
取り込んだ神子の魂は永遠に中を彷徨い、苦痛な夢を見ている。
気に入った者の魂は神が寝ている間に神自身の精神が現れ、夢の中で交尾し続ける。ある意味手に入れられる幸せ?
普段は美しい男性の形をとるが、本来の形は触手。
今はただ神と呼ばれているが、昔は邪神と呼ばれていた。
神に勝ち、神に成り代わっている。
黒形
生物の負の感情が集まってできたといわれている人型の黒いナニか。
人に襲い掛かってくる。
集まった負の感情の量によって大きさが変わり、小型、中型、大型とある。
小型と中型はよく見かけるが大型は滅多にいない。
小型は子供サイズ、中型は大人サイズ、大型はただの巨人(三メートルから五メートル)
実際には神に取り込まれた歴代の神子の負の感情。
彼らは世界を呪い、恨み、嘆いた。
全てに呪いあれ。
憐憫と同情の目で見てくる神官から背を向けて薄暗い道を歩いていく。
ジャラジャラとなる鎖は手を戒めていて暴れたりしないように、ということらしい。
ぎいいっと音が鳴り響き、光が遮られる。後ろを振り返ってみると今入った扉を閉めたらしい。これで本当に逃げられなくなった。もう後戻りはできない。
奥に続く道は狭く、人ひとり分しか通れない。床や壁はなぜか光る不思議な苔が張り付いており、視界は確保できる。
「王国に召喚されて三年か…」
最後の最後まで、帰れなかったな…
■■■
目を開けるとそこは人がたくさんいた。身長を越える長い杖に体重をかけて息を荒げている少女と大勢の大人。全員がこちらを見ていて、ざわめいていた。
「ようこそイルナティオスへ、召喚に応じてくださり、ありがとうございます。私たち世界は神子様を歓迎します。」
息を整えた少女は二歩三歩と前に出て俺を見つめていた。ふんわりとした金髪を腰まで伸ばし、青いドレスを身に纏ったその可憐な姿は物語に出てくる姫様みたいだった。突然の光景と言葉に訳も分からず部屋を見回していた。
どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。説明されたところによるとこのイルナティオスというのは世界の名前で俺は神子として呼ばれたらしい。
この世界は今滅亡の危機にあるそうだ。どうにも、この世界の神様が外からやって来た邪神と戦い、勝利したものの力を使い果たして眠っているんだって。
神と言っても宗教上だけではなくってちゃんとした役割があるらしい。それで寝ている間はその役割を果たすことが出来ないからそのままにしていると世界が滅びちゃうんだと。それで、そうならないように異世界から神子を召喚して代わりにそれをやるんだって。
異世界人に頼らずに自分たちの世界でやれよって思うけどそういう訳にはいかないらしい。
この世界の生物だと力が小さすぎて役割をやりきることは出来ないってことらしい。だけど異世界から来た人は世界と世界の狭間を通る時に膨大なエネルギーを吸収するから神の代わりにできる…ってことらしい。
俺がここに来る前は電車に乗っていた。高校とアルバイトからの帰りで疲れていたから電車の揺れで落ちるように眠ってしまった。そうして目が覚めて起きたら、異世界だった。ありえないだろ、そんなこと。
初日は召喚されたこと自体が信じきれなくて、夢だろうきっとすぐに電車の中で目が覚めると思って寝た。だけどそれは現実で何度寝ても元のいた世界には戻らなかった。
それからは荒れに荒れ、元の世界に返せと騒ぎ、帰る手段がないことに夜な夜な枕を濡らした。そして
「神が目覚めれば、元の世界に戻ることが出来るかも、しれません。」
―――そのためにも役目を果たし、神に祈ってください。
俺はそれを聞いた日から、何もせず泣きわめくだけの日々をやめた。
神子のやることは二つ、
一つは世界に出来てしまった黒形を浄化すること。
黒形とはこの世界の生物の負の感情が集まってできたものらしい。負の感情はその醜さから天に昇華されず、世界に残ってしまったもの。それの集合体は原理はわからないけど人の形をとって襲ってくる恐ろしいものと俺を召喚した国の神官が言っていた。だけどその存在は世界に反逆するものだが同時に悲しき存在らしい。だからそれを身に宿るエネルギー…力を使って浄化して性質を反転させて天に昇華するんだって。
そして二つ目だけど、神に祈ること。
祈りはすべて神の力になる。この世界の民も祈るが、エネルギーを身に宿すことで少なからずとも上位の存在に格が上がった神子が祈る力は大きい。だから早く神が目覚めるためにも祈るんだって。
少しでも早く、早く元の世界に帰りたいと想う気持ちでやった。家には親はいなくて妹と二人だけだった。保護者は親戚だけど、俺たちには関わろうとしないひとだから俺がいなくなったら妹に頼れる人はいなくなる。実質、生活費は親戚から送られてくる少ない額の金と俺がアルバイトして稼いだ給金だけだった。
急がないと、妹が一人寂しく家で待ってる…
まあ、他の人に保護されているかもしれないけど俺の心の支えはそれだけだったから。いや、それ以外なかったから。
それからは頑張った。国境で襲い掛かってくる黒形をを倒して浄化してボロボロになりながら、教会に戻って祈って寝ての毎日だった。ご飯は質素で満足に食べられなくて、黒形は昼夜問わずにやってくるから眠れる時間もなくて、なんで一人で倒さなきゃいけないんだろうって思った。騎士は後ろで立ったままだし、いる意味ないし。せめて一つ倒している間に他のやつらを受け持ってくれないかなとは思うけれども。
力が弱まり始めたのは異世界に召喚されて二年と半分経った頃。
黒形にも集まった負の感情の量で小型、中型、大型と決まっているんだが
中型一つぐらいなら込めたエネルギーの関係で二回切っただけで倒せていたのが三回切らなければ倒せなくなった。中型と言っても大雑把な括りで、偶々かなと思ったんだけど、何度やっても二回で倒せなくなった。
逆にどんどん切らなければいけない回数が多くなっていった。
その頃には異変が神官にも気づかれていて、調べて見たら内包しているエネルギーが少なくなっていってることが分かった。今までは自分から溢れ出てくるエネルギーだけで出来たけど、それも消費して体内に収まるようになり、余分な分がなくなったことで漏れてくるエネルギーが少なくなったんだって。
その時はへーって思っただけだけど、終わりの時間が近づいていることには気が付かなかった。
自動でエネルギーがでなくなって、戦うときも意識して出さなきゃいけなくなったしその分余裕もなくなった。
だけどそこから三か月後、ある日突然エネルギーが出せなくなったんだ。どんなに頑張って出そうとしてもまるで空っぽみたいで、俺はパニックになって黒形から攻撃を受けて気を失った。
次目覚めたのは教会本部だった。
そこで神官長に告げられたのはどうやら本当にため込んでたエネルギーを消費していて、もう戦えなくなってしまったらしい。
神官長が出て行ったあと、一人ぼっちになった部屋で俺は布団の中でうずくまった。
戦えなくなってどうすればいいのかわからなくなったから。
その頃には俺は大分壊れていて自分の考えで行動するなんてできなくなっていた。ただ布団を頭から被って、体を丸めて、目をつぶった。
気がついたら夜になっていて、ノックの音が聞こえたので扉を開けた。扉の前に立っていた神官はどうやらご飯を持ってきたようで何も言わずに渡された。
黒いパン一つに薄味のスープ。俺のご飯はそれだけだった。
もそもそとパンを食べてスープを飲んで食べ終わったころ、意識が暗転した。
■■■
どうやら眠っていたらしい。目を開けると横になっていた俺を見下ろす神官たちが目に入った。
「……え?」
「起きたか。」
訳が分からなかった。俺が最後に起きていた記憶では部屋でご飯を食べていて、
呆然と見上げる俺に呆れたかのように息を吐きだして冷たい目で見る神官長がいた。
「どういう、ことですか。」
「どうやらお前は戦えなくなったそうじゃないか、だからだよ。まあいい、ここまで馬鹿のように働いてくれたお前には教えてやろう。どうせ野蛮人には理解できないだろうがな。」
とても見下した口調で神官長は言った。
神子の末路について
言われてから気づいた。神子は何度も召喚されていることを。馬鹿みたいだった。少し考えればわかることなのに。神子は今までに何度も繰り返し召喚されていて使いつぶされている。思い当たる節はある。
召喚されてからの道があまりにも整いすぎているから。俺は初めての神子ではない。じゃないと、なぜ神子に膨大なエネルギーが含まれているのを知っているのか。なぜ神子の格が高いと分かるのか。なぜ、神子の対応に慣れているのか。
「まさか今まで気づいてないとは思わなかったよ。こんなにも可笑しいところはあるのにな?」
馬鹿にされた。
その通りだった。ただ泣いて、目の前にぶら下げられているものだけを見てただ突っ走って、このざまだ。
「召喚された神子は皆、最後には力を失って戦えなくなりました。さて、その無能に成り果てた神子は何処に行ったでしょうか。」
コツコツと歩いてきて、横たわっている俺の目を覗き込んだ。
「 神のもとにいかれるのです 」
■■■
手首に繋がった鎖はそのままに地下へと連れていかれた。神官の一人が持つカンテラの明かりが影を作り、ひどく不気味だった。
神官長はいない。もう俺に用はないという風に去っていった。どうやら俺を見下して笑いたかっただけらしい。
「ここから先はお前だけだ。」
先導した神官が振り返って言った。目の前には大きな古びた扉が一つ。とてもそこから先に神がいるとは思えないほどだった。
後ろからついてきた神官が扉を開ける。その先は暗く、奥は光が届かないほど長くて吸い込まれそうだった。
「ありがと…」
「……」
神官を見てそう言うも、返しは無かった。ただ、俺を見て何かを言おうとして首を振って閉じただけだった。
俺は後はもう何も言わずに扉の先に踏み込んだ。空気の質が変わる。圧力がかかり、少し体が重くなる。
「今まで、ありがとうございました。」
扉が閉まる瞬間に聞こえてきた神官の言葉。それを聞いて俺は振り返った。扉は既に締まっている。
俺は漸く、終わりなのだと気づいた。いや、認めた。俺はもう用済みで、かえはいくらでもあって
どうしようもなくてその道の先を歩いた。既に光は無く、壁も床も自分の手すらも見えなかったけど不思議と前を歩けた。
永遠に感じる時間が過ぎて、突然顔をぶつけた。
「痛っ!」
強くぶつけたからか、その壁は開き、光が入ってきた。どうやらぶつかったそれは扉だったらしい。突如差し込んできた光が視界を焼きつけて思わず目を閉じる。
目が慣れたころに開くとそこは部屋だった。壁には謎の物体が光を発し、部屋の中を照らしている。あれ、なんだろうか。
部屋の中央には豪奢な大きいベットがポツンと置いてあった。他には何もないので大人しくベットに近づいて覗き込んでみるとそこには端正な男が一人、横になっていた。
黒く長い髪に対し、何処までも白い肌。引き締まった唇は血を塗ったかのように朱になって、スッと通った高い鼻。長いまつ毛に整った眉。掛け布団の外に出ているその腕は長く、その指先は滑らかだった。
その美しさに見とれていたら、彼はフッと目を開けて俺を見つめた。その目は黒曜石のように麗しく、いつまでも見つめていられるようだった。
『そなたが今代の渡り人か、良き、私好みだ』
口をゆっくりと開き、出したその声は不思議な力が込められているように感じて、今にもひれ伏してしまいそうだった。
俺が何も言わずに目を見開いて見つめていると彼はその手を伸ばし、俺の腕を掴んでベットの中に引きずり込んだ。そのまま俺を組み伏せてのしかかってくる。
「お、前は、誰だ」
『ふむ、私にはモノを区別する名前というものがない。ただそれでは不便か。数年前では神、と呼ばれていたものだ。』
「神、神は今眠りについているはずじゃ…』
『寝ていたではないか、現にさっきまではここで横になっていた』
「……っ」
もうよくわからなかった。この世界に来てからわからない事づくしだ。律儀に答えを返してくれる神。
『もう、疑問はないな。なら私の用を果たそうか』
「……ッ!?…むぁ…っ」
顔を近づけて俺の口をふさいできた。急なことで何も考えることのできなくなっていたら、口の中ににゅるっと入って来て俺の中を蹂躙する。
俺は息もできずに抵抗しようとするも抑え込まれた上に力が入らなくて動けなかった。飲み込めずに溜まってあふれ出したどちらともわからない唾液が俺の顎を伝った。
「んっ…くちゅ……っぁ……あふ……」
そうして神は口を離して見下ろすと指パッチンした。すると俺の来ていた服はなくなり、俺の体は外気にさらされた。
今気づいたけど、彼も裸だ。上から下に見ていって、俺は固まった。でかい、そこには大きな逸物がビキビキになって天を仰いでいた。
『ん?…どこを見ていると思ったら、これか』
神は納得したかのように頷いてそれを俺の太腿にこすりつけた。
『今からお前のここに入れるんだ、楽しみだろう?』
「ヒッ」
サッと俺の太腿の間に手を潜り込ませてその蕾を撫ぜてそう言った。
全然楽しみではない。むしろ俺は男で、そこは受け入れるところではなくて
「なん、でそんなこと」
『なんで、か…前にも聞かれたな。それは―――』
―――ただ取り込むだけではつまらないから、だな
そう神は言って俺を見下ろした。あの神官長のように、ただ玩具を見るような目で。
そこから俺は気がついたら神の剛直を咥えこんでいて啼かされていた。
「ふあっ、あっ、あっ、やっ、あああああっ!!!」
キモチイイ、とんとんと奥をそれでつつかれてすごく気持ちいい。意識はフワフワして、閉じない口から唾液を垂れ流してキスを強請る。やがて快楽の限界を迎えて俺は大きく背をのけぞらした。俺のちんこからは既に薄くなった精液がぴゅ、ぴゅと出てくる。
『フッ……これだけは何度やってもやめられないな…クッ』
神が何か言っていたが快楽でトンでいた俺はその言葉を理解できなかった。
そして腹に剛直の形が浮き上がった後、更なる快楽を注ぎ込まれた。
強すぎる快楽に抗いきれずに意識が薄くなっていく中、彼の背から触手の束が出てきて俺を取り込もうとするのが見えた。
勢いよく俺はその中に包まれて意識が切れる瞬間に
もう、元の世界に帰れないんだな。
と、頭に浮かんだ。
――――――――――――――――――――――――
神子
異世界から召喚されてやってくる生物。
黒形を浄化し、神に祈るのが仕事。
使いつぶしだが交換できる。長くて五年、短くて二年で交換しなければならない。
神の為の贄でもある。
最初から最後まで異世界に振り回されて幸せになることはない。
神
遥か昔、他の神と戦って眠りにつく。
再び力をつけるために数年に一回捧げられる神子を糧にする。
最近では取り込む前に神子と交尾するのがマイブーム。
絶望の表情と交尾でもたらされる快楽によって壊れて堕ちていく神子を見るのが好き。
取り込んだ神子の魂は永遠に中を彷徨い、苦痛な夢を見ている。
気に入った者の魂は神が寝ている間に神自身の精神が現れ、夢の中で交尾し続ける。ある意味手に入れられる幸せ?
普段は美しい男性の形をとるが、本来の形は触手。
今はただ神と呼ばれているが、昔は邪神と呼ばれていた。
神に勝ち、神に成り代わっている。
黒形
生物の負の感情が集まってできたといわれている人型の黒いナニか。
人に襲い掛かってくる。
集まった負の感情の量によって大きさが変わり、小型、中型、大型とある。
小型と中型はよく見かけるが大型は滅多にいない。
小型は子供サイズ、中型は大人サイズ、大型はただの巨人(三メートルから五メートル)
実際には神に取り込まれた歴代の神子の負の感情。
彼らは世界を呪い、恨み、嘆いた。
全てに呪いあれ。
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【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
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新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
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