9 / 48
第一章
閑話1.「七夕ですね。」
しおりを挟む社畜だった時、毎日仕事漬けで今日が何の日だとか考えている暇は無かった。強いて言えば街の様子を見て「そういえば今日は何の日だった。」と思う程度だった。
「この世界にも七夕って存在するんだ。」
蒸し暑くなってきた初夏の様な天気に飽き飽きしながらマリは街を見てそんな事を独り言の様に呟く。そんなマリの呟きに一緒に旅をしているメンバーの一人であるツクリア=スイアーという女性より疑問符を浮かべ質問を投げ掛けられる。
「マーリ様、”七夕”、とは何でしょうか?」
「? 今のこの街の雰囲気の事を言ったんだが。」
「もしかして、”ダブルセブン”の事でしょうか?」
「あー、多分。」
マリは吹き出しそうになるのを堪える。「”ダブルセブン”って。7月7日だからか、と。」
「私はあまり存じえないのですがどういった日なのでしょうか?」
「そっか、ツクリアは孤児だったし、今まで奴隷、だったし仕方ないか。」
「.....はい。」
ツクリアは両親に捨てられ孤児になってしまったのをその街の孤児院のシスターに拾われ育ててもらったが、その孤児院は莫大な借金を抱ええており、最終的に経営が立ち行かなくなり潰れてしまった。そして、そこにいた孤児の中で見目麗しい子供たちは奴隷として様々な主に良くない事をされてきたのだった。マリも勿論奴隷なんて持ちたかった訳じゃ無かったが家事が得意でなかったので、自分の秘密を漏らすことなく自分の傍に居られる者を探していた時に酷い格好で街を走っていたツクリアを保護した。そのツクリアの様相を見て放置できなかったマリは手を出して色々と騒動が起こったがそれはまた別で語る事にする。
「私の世界では今日は、”七夕”って言って願い事が叶う日と言われていた。実際叶った人なんているか分からないけどな。」
「”七夕”....。お願い事、ですか。」
「私達も何かお願いしてみるか。」
「え?」
マリはツクリアの手を引っ張り街の中心部である広場に向かうと其処にいた街の住人の一人で、笹の管理をしているであろう人に話し掛けて短冊を2枚受け取る。
「この短冊という紙に自分のお願い事を書いて笹に括り付ける。それだけだ。」
「マーリ様は決まっているんですか?」
「勿論、私がこの世界に生まれ出でた時から決めている事だ。」
そう言ってマリはさらさらと短冊に文字を綴っていく。
『この世界では自由に生き続けられますように。 マリ』
「それじゃあ、此れを付けてくる。」
そう言ってマリはツクリアをその場に残し笹に近づき何処に付けるか吟味しながらきょろきょろとし始めたので、ツクリアは短冊を持ったまま何を書くか迷ったまま俯いていた。自分は何を願うのか、俯いていた顔を上げて遠くで楽しそうにしているマリを見て何かを思いついた様に文字を綴ったツクリアもまた笹に短冊を括り付ける。マリよりも遠い場所で何処に付けたか分からない様にして。
「ツクリア、短冊どうした? 願い事は決まったのか、なんて書いたんだ?」
「....秘密です。」
「ツクリアらしいな。夜になったらまた戻ってこよう、ちょっとした催しがあると言っていたからな。」
そう言ってマリとツクリアは街の中を歩く。七夕の日限定といって様々な商品が売られ、限定品に弱いマリは次々に購入し、夜になる前に購入し過ぎた事に後悔していたが、楽しそうにしているツクリアを見てその後悔した気持ちが幾分か和らいだ。
「何とか戻って来れたな。」
マリがそう言ってしまうのも仕方がない。多くの人が催しを見るがために集まっていたからだ。昼間の様相と違う笹の周りには多くの幻想的な淡い光が漂っていた。
「綺麗、ですね。」
ツクリアがそう言った後、マリはこの後どうなるか何となく分かっていたので少し笑みを浮かべてツクリアに声を掛ける。
「本当に綺麗なのはこれからだよ。」
「え?」
そう言った途端全ての街の明かりが消え、辺りが暗闇に包まれる、筈だったが仄明るい周囲に戸惑いを隠せないツクリアはキョロキョロと見渡す。その瞬間感嘆の声を上げ始めた人たちに疑問符を浮かべたのでマリは上を指し示す。それに釣られ、ツクリアは見上げると興奮気味にマリに問う。
「とっても綺麗です! 何ですか、あれ!」
「”天の川”、こっちの世界では”スカイリバー”だったっけ。........なんでこっちの世界はこんなにも安直な名前なんだろうか。」
「”天の川”、綺麗です。」
「七夕はそもそも彦星が織姫に年に一度会うのを許可される日とか何とかって言われてる。可哀そうだよな、一年の内、数時間しか会えないなんて、そう思う人が多いと思うが、私は違うと思う。」
二人で顔を見合わせツクリアはマリが続きを話し出すのを待っていた。
「彦星も織姫も会いたいという願いが叶った日なんだと思う。そんな日だからこそそんな星の元に生まれた私たちの願いも叶うとされたんだと思う。私の勝手な推測だけどな。」
そう言うとマリは再び見上げ、ツクリアはその横顔を見てから瞬く星に目を向ける。そして両の手を握り祈る様にして短冊に書いた願いを心の中で言い、今までお願い事なんてしてこなかった自分の願いを天に伝わる様に瞳を閉じ祈り続けた。
『マーリ様とこれからも共にいられますように。 ツクリア』
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
ほんわりゲームしてます I
仲村 嘉高
ファンタジー
※本作は、長編の為に分割された1話〜505話側になります。(許可済)
506話以降を読みたい方は、アプリなら作者名から登録作品へ、Webの場合は画面下へスクロールするとある……はず?
───────────────
友人達に誘われて最先端のVRMMOの世界へ!
「好きな事して良いよ」
友人からの説明はそれだけ。
じゃあ、お言葉に甘えて好きな事して過ごしますか!
そんなお話。
倒さなきゃいけない魔王もいないし、勿論デスゲームでもない。
恋愛シミュレーションでもないからフラグも立たない。
のんびりまったりと、ゲームしているだけのお話です。
R15は保険です。
下ネタがたまに入ります。
BLではありません。
※作者が「こんなのやりたいな〜」位の軽い気持ちで書いてます。
着地点(最終回)とか、全然決めてません。
【完結】今更告白されても困ります!
夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。
いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。
しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。
婚約を白紙に戻したいと申し出る。
少女は「わかりました」と受け入れた。
しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。
そんな中で彼女は願う。
ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・
その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。
しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。
「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
あーあーあー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる