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第一章

閑話1.「七夕ですね。」

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 社畜だった時、毎日仕事漬けで今日が何の日だとか考えている暇は無かった。強いて言えば街の様子を見て「そういえば今日は何の日だった。」と思う程度だった。

「この世界にも七夕って存在するんだ。」

 蒸し暑くなってきた初夏の様な天気に飽き飽きしながらマリは街を見てそんな事を独り言の様に呟く。そんなマリの呟きに一緒に旅をしているメンバーの一人であるツクリア=スイアーという女性より疑問符を浮かべ質問を投げ掛けられる。

「マーリ様、”七夕”、とは何でしょうか?」

「? 今のこの街の雰囲気の事を言ったんだが。」

「もしかして、”ダブルセブン”の事でしょうか?」

「あー、多分。」

 マリは吹き出しそうになるのを堪える。「”ダブルセブン”って。7月7日だからか、と。」

「私はあまり存じえないのですがどういった日なのでしょうか?」

「そっか、ツクリアは孤児だったし、今まで奴隷、だったし仕方ないか。」

「.....はい。」

 ツクリアは両親に捨てられ孤児になってしまったのをその街の孤児院のシスターに拾われ育ててもらったが、その孤児院は莫大な借金を抱ええており、最終的に経営が立ち行かなくなり潰れてしまった。そして、そこにいた孤児の中で見目麗しい子供たちは奴隷として様々な主に良くない事をされてきたのだった。マリも勿論奴隷なんて持ちたかった訳じゃ無かったが家事が得意でなかったので、自分の秘密を漏らすことなく自分の傍に居られる者を探していた時に酷い格好で街を走っていたツクリアを保護した。そのツクリアの様相を見て放置できなかったマリは手を出して色々と騒動が起こったがそれはまた別で語る事にする。

「私の世界では今日は、”七夕”って言って願い事が叶う日と言われていた。実際叶った人なんているか分からないけどな。」

「”七夕”....。お願い事、ですか。」

「私達も何かお願いしてみるか。」

「え?」

 マリはツクリアの手を引っ張り街の中心部である広場に向かうと其処にいた街の住人の一人で、笹の管理をしているであろう人に話し掛けて短冊を2枚受け取る。

「この短冊という紙に自分のお願い事を書いて笹に括り付ける。それだけだ。」

「マーリ様は決まっているんですか?」

「勿論、私がこの世界に生まれ出でた時から決めている事だ。」

 そう言ってマリはさらさらと短冊に文字を綴っていく。

『この世界では自由に生き続けられますように。 マリ』

「それじゃあ、此れを付けてくる。」

 そう言ってマリはツクリアをその場に残し笹に近づき何処に付けるか吟味しながらきょろきょろとし始めたので、ツクリアは短冊を持ったまま何を書くか迷ったまま俯いていた。自分は何を願うのか、俯いていた顔を上げて遠くで楽しそうにしているマリを見て何かを思いついた様に文字を綴ったツクリアもまた笹に短冊を括り付ける。マリよりも遠い場所で何処に付けたか分からない様にして。

「ツクリア、短冊どうした? 願い事は決まったのか、なんて書いたんだ?」

「....秘密です。」

「ツクリアらしいな。夜になったらまた戻ってこよう、ちょっとした催しがあると言っていたからな。」

 そう言ってマリとツクリアは街の中を歩く。七夕の日限定といって様々な商品が売られ、限定品に弱いマリは次々に購入し、夜になる前に購入し過ぎた事に後悔していたが、楽しそうにしているツクリアを見てその後悔した気持ちが幾分か和らいだ。

「何とか戻って来れたな。」

 マリがそう言ってしまうのも仕方がない。多くの人が催しを見るがために集まっていたからだ。昼間の様相と違う笹の周りには多くの幻想的な淡い光が漂っていた。

「綺麗、ですね。」

 ツクリアがそう言った後、マリはこの後どうなるか何となく分かっていたので少し笑みを浮かべてツクリアに声を掛ける。

「本当に綺麗なのはこれからだよ。」

「え?」

 そう言った途端全ての街の明かりが消え、辺りが暗闇に包まれる、筈だったが仄明るい周囲に戸惑いを隠せないツクリアはキョロキョロと見渡す。その瞬間感嘆の声を上げ始めた人たちに疑問符を浮かべたのでマリは上を指し示す。それに釣られ、ツクリアは見上げると興奮気味にマリに問う。

「とっても綺麗です! 何ですか、あれ!」

「”天の川”、こっちの世界では”スカイリバー”だったっけ。........なんでこっちの世界はこんなにも安直な名前なんだろうか。」

「”天の川”、綺麗です。」

「七夕はそもそも彦星が織姫に年に一度会うのを許可される日とか何とかって言われてる。可哀そうだよな、一年の内、数時間しか会えないなんて、そう思う人が多いと思うが、私は違うと思う。」

 二人で顔を見合わせツクリアはマリが続きを話し出すのを待っていた。

「彦星も織姫も会いたいという願いが叶った日なんだと思う。そんな日だからこそそんな星の元に生まれた私たちの願いも叶うとされたんだと思う。私の勝手な推測だけどな。」

 そう言うとマリは再び見上げ、ツクリアはその横顔を見てから瞬く星に目を向ける。そして両の手を握り祈る様にして短冊に書いた願いを心の中で言い、今までお願い事なんてしてこなかった自分の願いを天に伝わる様に瞳を閉じ祈り続けた。

『マーリ様とこれからも共にいられますように。 ツクリア』




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