上 下
67 / 141
五章 血脈の奪還

魔力の燈

しおりを挟む
———時は少し遡りレオンとバッコスが相対した頃、外では月下香《トゥべローザ》とバラトロの構成員が抗戦していた

「———霧がないわっ!何人いるのよっ」

「倒しても倒しても襲ってきます!」

「ははは!退屈せんっ!もっと来い!」

三人は次々と倒していくがまるで軍隊蟻の様に襲ってくる構成員

数百対三人と言うフリの中の抗戦。それでも三人はレオンの元へいかせずと必死に戦い続ける

———数百の魔法がファシーノ達に迫るが、ヴァルネラが指を一回鳴らせば魔法が消失する悪夢のような光景

あり得ない出来事に乱れる構成員達。魔法が通用しないと悟ったバラトロの構成員は魔法から武器へと直ちに切り替えて剣を握る者、斧を握る者、籠手を扱う者とそれぞれ分かれていった

全員がファシーノ、デリカート、ヴァルネラ三人を視線で捉える

両の足を踏み込み、そして猛獣の様に突進する

数百人規模が一斉に同じ方向に動くと風が押し寄せ、地鳴りが起きる
たった三人を相手に数百の構成員は襲い掛かる———

「———まるで狂乱の様ね」

「そ、総攻撃ですぅ」

「ふむ。随分と無口な連中だ。まるで死を恐れていないかのよう‥‥‥」

ヴァルネラが言う様に彼らは死を恐れていなかった。彼ら構成員の心に刻まれているのは恐怖と忠誠心

ある人物からの命令を遂行するのみ。その人物の為ならば命は惜しく、自ら差し出す覚悟‥‥‥それは死の軍隊と称しても何ら不思議ではない

そんな死の軍隊が三人に迫ろうとしていた

ファシーノとデリカートは落ちている剣を拾い上げ、迫りくる集団に相対する
ヴァルネラは素手で剣や斧やらを受け流す

屋敷の庭で繰り広げられる一方的な戦闘

三人の髪が勢いよく靡き、仮面に返り血を浴び続けていく

相手の攻撃を反らし、受け流し、避ける

そして一太刀を浴びせ斬り伏せる一刀両断

拳に魔力を溜め撃ち込めば、胸に風穴が開き絶命する死の一撃

一人、また一人と地面に倒れて行き無数の死体が地面に増え続ける

死体の血溜まりが庭を埋め尽くし地獄の様な光景が広がる

———無口を貫いていた構成員はこの光景を強制に目視しついには恐怖しだした
すると硬く閉ざされた口を無意識に開いていく‥‥‥

「「「ば、化け物‥‥‥」」」

怯え後ずさるバラトロの構成員。彼らは仲間の死体を踏み付けるも気にしない程に恐怖で戦場から逃げ出そうとしていた

「———はっはっは!ようやく口を開いたか。貴様らは何故あの小娘を狙う? 貴様らは何者だ?答えよ」

ヴァルネラの問いに背筋を凍らせる構成員。今にでも殺してしまいそうなヴァルネラの冷酷な視線、


———彼らは悟。ここで答えなくば一瞬で地面に転がる仲間の様になると

彼らの心は一瞬で忠誠心から恐怖に染まり、その恐怖はある方の命より一段上に上がった‥‥‥

「わ、我々はバラトロ神の従者ディオ・バレット!貴様らには到底判らぬ‥‥‥あのお方の計画はっ————」

瞬間、バラトロと名乗った男の首が地面を転がった
瞬きすら許さない一瞬の出来事で怯える神の従者ディオ・バレット

そして流麗の様な透き通る声が地獄の惨劇に響き渡る


「———バラトロ?そう‥‥ようやく見つけたわっ」

仮面の奥の瞳は豹変し、復讐による激情に駆られる

(私の‥‥彼の人生を犯した憎い敵っようやく復讐の時が訪れたっ‥‥!)

ファシーノは我を忘れ神の従者ディオ・バレット達に飛び掛かろうと首を断ち斬った骸を踏みつける

「———全員、死になさいっ」

しかしファシーノは足を留めた。ファシーノの体内に存在する魔力ともう一つの魔力。その片方の魔力の燈が小さく消えかかっていたから、

「嘘っ‥‥‥彼の魔力が小さくっ!?」

この時レオンはバッコスに斬られた直後であり、ファシーノとデリカートに流れるレオンの魔力が供給されず徐々に小さくなっていた

そして精霊契約しているヴァルネラもレオンの魔力の燈を感じていた

「——っ!主に何か起こっている‥‥」

「ファシーノ様っ!ネロ様が、ネロ様がっ!」

今にも泣き出しそうな顔をするデリカート。それはファシーノでさえ同じ感情だった

「大丈夫‥‥きっとまだ生きてるわっ!」

心臓が押し潰される痛みに心が悲鳴を上げる。すぐにレオンの元へと向かおうと身体を向けるが‥‥

———そこで三人の頭の中に念話の声が届いた。その声はとても弱々しく覇気が感じられない、しかしレオンの声には違いなかった

『———ハァハァ、俺なら大丈夫だ。少し腕を持っていかれた程度で心配はいらない‥‥』

「なにを言ってるのっ!私の体に流れる貴方の魔力の燈が消えそうなのよっ?!」

念話は頭の中で思い浮かべれば会話ができる。しかし今のファシーノは混乱し我を忘れ必死に声を荒げている

「ファシーノ様っ落ち着いてください!」

混乱するファシーノを抱き付き止めるデリカート

「ネロ様なら大丈夫です!信じて待つのが私達の務めです!そう教えてくれたのはファシーノ様です!どうか落ち着いて下さい!」

『すまないな‥‥‥少し回復するまで動けそうにないんだ。そこで頼みがある。俺の代わりに彼女を助け出して欲しい‥‥場所は裏庭の小さな小屋だ。いいか?これは命令だ。俺を助けるよりも彼女を優先しろ』

そこで糸が切れたかのように念話が途切れ、それがレオンの最後の言葉だった

「———聞いたか?ファシーノ。主は自身よりも彼女を優先しろとの命だ。ならばその命を心に刻め。それが主への忠誠というものだ」

ヴァルネラの厳しくも正しい言葉がファシーノの耳に届き、徐々に落ち着きを取り戻していく‥‥‥

「‥‥ええ。そうね、そうだったわね。ごめんなさい、取り乱してしまったわ。ありがとう二人とも」

「仲間なんですから当然ですっ!」

「やれやれ、まったく‥‥」

顔を見合わせた三人は互いに表情を崩し、泣き笑う

三人の心が一つに纏まったそのタイミングで数台の魔装車が勢いよく庭に入り込んでくる。おそらく軍だと勘付いたファシーノはデリカートに命令を下す

「デリカート!貴方が彼女を助けに行きなさい。ここは私と『このヴァルネラが』死守するわっ」

「は、はい!お二人ともどうかご無事でっ!」

ファシーノ達の背中を走り抜けるデリカート

屋敷内部へと入り込んだのを確認して前に振り返る二人の女性
軍の魔装車が続々と入り込んでくる光景を静観する二人

二人の仮面の奥の表情は哀感していた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

作業厨から始まる異世界転生 レベル上げ? それなら三百年程やりました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
第十五回ファンタジー小説大賞で奨励賞に選ばれました! 4月19日、一巻が刊行されました!  俺の名前は中山佑輔(なかやまゆうすけ)。作業ゲーが大好きなアラフォーのおっさんだ。みんなからは世界一の作業厨なんて呼ばれてたりもする。  そんな俺はある日、ゲーム中に心不全を起こして、そのまま死んでしまったんだ。  だけど、女神さまのお陰で、剣と魔法のファンタジーな世界に転生することが出来た。しかも!若くててかっこいい身体と寿命で死なないおまけつき!  俺はそこで、ひたすらレベル上げを頑張った。やっぱり、異世界に来たのなら、俺TUEEEEEとかやってみたいからな。  まあ、三百年程で、世界最強と言えるだけの強さを手に入れたんだ。だが、俺はその強さには満足出来なかった。  そう、俺はレベル上げやスキル取得だけをやっていた結果、戦闘技術を上げることをしなくなっていたんだ。  レベル差の暴力で勝っても、嬉しくない。そう思った俺は、戦闘技術も磨いたんだ。他にも、モノづくりなどの戦闘以外のものにも手を出し始めた。  そしたらもう……とんでもない年月が経過していた。だが、ここまでくると、俺の知識だけでは、出来ないことも増えてきた。   「久しぶりに、人間に会ってみようかな?」  そう思い始めた頃、我が家に客がやってきた。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

見た目幼女は精神年齢20歳

またたび
ファンタジー
艶のある美しい黒髪 吸い込まれそうな潤む黒い瞳 そしてお人形のように小さく可愛らしいこの少女は異世界から呼び出された聖女 ………と間違えられた可哀想な少女! ………ではなく中身は成人な女性! 聖女召喚の義に巻き込まれた女子大生の山下加奈はどういうわけか若返って幼女になってしまった。 しかも本当の聖女がいるからお前はいらないと言われて奴隷にされかける! よし、こんな国から逃げましょう! 小さな身体と大人の頭脳でこの世界を生きてやる!

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...