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五章 血脈の奪還

ラ・ミシィオネ・シ・パルテ

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———その後娼館から立ち去るレオンの背中をリリーと娼婦達は眺めていた
すると一人の娼婦がリリーに近寄る

「リリーすまない‥‥視野が狭くなっていた‥‥」

「仕方ないさ‥‥あとは彼に託そう‥‥」

「しかし、彼が救い出しエリーが帰ってきたとき‥‥もし、もしもエリーが彼について行こうとしたらリリーは止めるのか?」

娼婦の一人はエリーがレオンと共に何処かへといってしまうと思いリリーに心の不安を告げた

リリーはその不安を笑いながら答える

「———その時はエリーの好きにさせようじゃないか‥‥エリーはもう十分働いたよ。7年間はとても長い。心が壊れるのに十分な時間をエリーは生き抜いた。 そろそろエリーを自由にしてやろうじゃないか?エリーに私達全員が救われた。エリーにもいつか救いが来ても可笑しくないだろう?」

そんなリリーの本心を聞き、娼婦は一人の女性として幸せになってほしいと心にの底から思う。そしてそのリリーの話を聞いていた大勢の娼婦達も同じ感情だった

「お姉さま‥‥」

「姉さん‥‥」

「姉貴‥‥」

「姉御‥‥」

数百人以上の娼婦が夜にも関わらず自分の店を閉じ、この最高級館でエリーの帰りを待つのだった

いつ戻るのかわからないエリーと謎の少年を‥‥


◊◊◊


———ある一つの影が月の下で疾風の如く駆ける

青白い月光に照らされた仮面。風に靡き暴れるローブ

日の出の様に明るいはずの娼婦街は闇に覆われ、人々が寝静まる住宅街をもの凄い勢いで駆ける

外の道を走る者、巡回をしている軍人。道を走る魔車

彼らの瞳には到底映ることのない影。影が通った道は風が吹荒れる



———俺はファシーノ達の魔力を辿りエリーのとこへと向かっていた

「魔力の感じからしてもう少しか」

駆けること数分、住宅街を抜け商業地区までやってきた

そして魔力を辿って着いた場所はマイアーレの屋敷

屋敷とは反対の建物の屋上にファシーノ達が待機していた

「‥‥来たわね。彼女はあの屋敷の中よ」

「そうか‥‥ではこれから彼女を奪還しにいくぞっ」

「ネロ様、作戦はどの様に?」

とデリカートが神妙な面持ちで聞いてくる。 

作戦?そんなの一つに決まっているじゃないか。俺はデリカートの問いに口角を浮かべて答えた

「作戦?そんなの‥‥正面突破に決まっているっ!」

「はっはっは!主は大胆だなっ!面白い、着いていこうではないか!正面切ってやろう!」

ヴァルネラはカラカラと高く笑いあげ今にでも突入しそうな勢いだ

「だろ?俺に着いてくれば退屈などさせん。準備はいいか三人とも?」

俺は三人に最後の確認をする

「ええ、いつでもいいわよ」

「絶対、助けます!」

「さあ、いこう主!」


———どうしてこうも退屈しないのだろう。彼女が拐われ、謎の老人が現れたというのに‥‥この胸が高鳴る高揚感‥‥三人も俺と同様に感じているだろうか

俺は三人の横顔を覗き込む様に伺った

ははは、笑ってやがる‥‥こいつら三人ともこの状況で楽しんでやがる
類は友を呼ぶとはこういう事だろう

「———行くぞっ!!」

そして月下香《トゥべローザ》として初めての奪還任務の宣言を下す


———任務開始 ラ・ミシィオネ・シ・パルテ


その言葉を合図に三人とも待っていたのか口を揃えて同じ言葉を呟く


——了解《ヴァベーネ》——


その瞬間、俺一行はマイアーレの屋敷の門に正面突破した


◊◊◊


「———離してっ!いやっ‥‥!」

「お嬢さん。痛いことはしない。すぐに終わる」

白髪の老人と若い女性が広大な庭を歩いている。女性は両手に手錠をかせられ、老人は手錠の紐を持っている

真暗な庭の道を覚束ない足取りでエリーは歩いていた

「あなた達は私の何を求めているの?!」

私は老人に向かって睨みつけるように言うと、ご老人は面白おかしく笑うだけで、

「何を求める?ほっほっほ、面白いことを言うお嬢さんだ。答えはすぐに分かる」

ご老人は私を連れ庭の隅にある小さな小屋へと入る

小屋の中には人一人分程が横になれる土台が設けられていて、ご老人は私をその土台へと誘導する

「お嬢さん。そこの土台に横になってくれませんかな」

「断りますっ!何をするつもりっ!」

私は逃げ出したいがために暴れ出す。しかしご老人にとっては子供同然の扱いだった‥‥‥

「少し大人しくしなさいっ」

「えっ‥‥‥?」

ご老人の目が細められた瞬間、魔力の圧が全身に襲いかかる
身体を動かせずに床に這いつくばる事しかできない‥‥

「な‥‥なんて魔力なの‥‥」

私はこの魔力について思い当たる節があった

この魔力は彼と同じ‥‥でも何か違う圧を感じる‥‥この魔力は圧倒的な恐怖

このご老人の魔力は恐怖での圧倒的な支配

なんて禍々しい‥‥体が恐怖で震える‥‥

そんな床に這いつくばる私をご老人は抱えて、台の上に寝かせた

「これで良いでしょう。少しばかし怖い思いをさせて申し訳ないですお嬢さん。これも『あのお方』のためです」

(あのお方とは‥‥一体誰の事‥‥)

ご老人の口から発せられた言葉を私は聞き逃さずに聞いていた
先ほどの恐怖で口が思い通りに動かないけど、心の中にしっかりと刻み込む

「思い通りに口も動かせないか。では準備を始めよう。”ピピスト”」

すると小屋の奥からピエロの様な格好をした仮面の男が姿を現した

「嫌だなぁ~、組織の”幹部バッコス”さんに名前を呼んで貰えるなんて光栄ですよ」

男はケラケラと笑いながら近づいてくる
そんな男にバッコスと言われたご老人がピピストを睨んだ

「ピピスト。早くやってしまおう。一刻も早くお届けするのだ」

「了解しました~」

ピピストと呼ばれた男は注射針の様なものを持ち、綺麗に手入れを仕出す

「な、何をするの?!」

「なーに血を少し貰うだけだ。小娘、大人しくしていろ」

(私の血をっ!どうして何のために‥‥)

体はピクリとも動けず、叫ぶこともできない。注射針が腕の肌をなぞったその時、


—————ドゴォォォォォンッッッ


「「「——っ!」」」

何この爆音は?何かが破られた様な鈍い音‥‥

「何だ!?よもや、あの少年か」

「バッコス様?!」

(そう‥‥助けに来てくれたのね)

「ピピスト。血を抜くのに集中しておれ」

そう言い残しバッコスは小屋を急ぎ出て行った
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