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56.また、いつか
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「そろそろ帰らなきゃいけないですね」
最近の出来事や異世界の今の事情、そんなたわいもないことを話すと
ふいにレーバルはそう告げた。
「もう、か」
「もっと居たいですが、残念ながら私の魔力がもたない」
「え!なら、僕がまたセックスするよ。僕で魔力をためて、それでっ・・・!」
「奏人さん、申し出は嬉しいのですが、この世界では魔力は残念ながら溜まりません」
「・・・そう、なんですか・・・」
重い空気が漂った。
その空気で、奏人はすぐさま察してしまった。
「もう、僕たちは会えないっぽいね」
「・・・そうだな」
「そっか」
「わたしが、もっと転移魔法を上手く調節できれば来れるかもしれませんが、9割、不可能かと・・・」
9割、という言葉が奏人にほんのわずかな希望を抱かせてしまう。
「残りの1割、僕は信じてます」
奏人はまっすぐにレーバルを見る。
レーバルは頷いて、それから分かった、と小さく呟いた。
「僕、本当にあの世界にいけてよかったよ。そこで出会えたのがみんなでよかった」
「うん」
「もう会えないかもだけど、僕は絶対忘れない」
「俺たちも」
「大好きだよ」
「うん、大好きだ」
この世界に絶対なんてない。
いつかは忘れて、なかったことになって、思い出せなくなって、そうやって死んでいく。
そんな悲しいこと・・・
「たとえ忘れても、その事実がなくなる訳じゃないでしょ」
エルが、奏人に抱き着いて言った。
「えっ・・・」
「無いとは思うけど、もしね、もし僕たちのこと忘れちゃっても、出会った事実までなくなっちゃうことはないんだから」
「エル・・・」
「だから、そんな顔しないで」
「そうだね、見送る時にこんな顔じゃだめだよね」
奏人は深呼吸をすると、でそうになった涙をごしごしと擦る。
「みんな、僕のこと覚えててくれてありがとう」
「奏人も。奏人があの木を覚えててくれたから、俺たちはここに来れた」
「奏人、ありがとう。僕、シュビルと奏人と一緒に過ごした毎日、楽しかったよ」
「僕は奏人お兄ちゃんのおかげで今も生きてる。奏人お兄ちゃん、ありがとう」
「奏人さん、あなたのおかげで毎日退屈しませんでしたよ。本当、楽しかった」
「みんな・・・ありがとう。本当にありがとう・・・」
レーバルがポケットから小さな瓶を取り出す。
「それじゃあ、行きましょう」
「・・・おう」
レーバルを中心に、4人は互いに手を握って転移魔法に備える。
「じゃあな、奏人」
「うん、ばいばい」
「またね」
一瞬、部屋の中が光で満ちる。
奏人はそのまぶしさに思わず目を瞑り、また目を開けると
そこはもう奏人以外に誰もいない空っぽのワンルームの部屋になっていた。
あれから何年の月日が経っただろうか。
奏人はすっかり、大人に、
いや、いい父親になっていた。
「パパ!一緒に冒険者ごっこしよぉ」
「お、いいぞ~!そういえば、パパ、一度だけ冒険者になったことがあるんだぞ」
「なにそれ!パパ知らないの?冒険者なんてほんとはこの世界にはいないんだよ」
「う・・・ませてんなぁ・・・でもな、ほんとなんだよ。その話してやろっか?」
「しょうがないなぁ、聞いてあげる!」
僕はあの日々を一生忘れない。
またいつかみんなに出会える日を信じて、
その日が来るまで、僕はこの大切な家族と一緒に生きていく。
隣にちょこん、と座るわが子の頭を撫で、奏人は小さく息を吸う。
いつかまた会えたら、この子を紹介しよう。
「パパが行った世界はね・・・」
また、いつか会う日まで。
最近の出来事や異世界の今の事情、そんなたわいもないことを話すと
ふいにレーバルはそう告げた。
「もう、か」
「もっと居たいですが、残念ながら私の魔力がもたない」
「え!なら、僕がまたセックスするよ。僕で魔力をためて、それでっ・・・!」
「奏人さん、申し出は嬉しいのですが、この世界では魔力は残念ながら溜まりません」
「・・・そう、なんですか・・・」
重い空気が漂った。
その空気で、奏人はすぐさま察してしまった。
「もう、僕たちは会えないっぽいね」
「・・・そうだな」
「そっか」
「わたしが、もっと転移魔法を上手く調節できれば来れるかもしれませんが、9割、不可能かと・・・」
9割、という言葉が奏人にほんのわずかな希望を抱かせてしまう。
「残りの1割、僕は信じてます」
奏人はまっすぐにレーバルを見る。
レーバルは頷いて、それから分かった、と小さく呟いた。
「僕、本当にあの世界にいけてよかったよ。そこで出会えたのがみんなでよかった」
「うん」
「もう会えないかもだけど、僕は絶対忘れない」
「俺たちも」
「大好きだよ」
「うん、大好きだ」
この世界に絶対なんてない。
いつかは忘れて、なかったことになって、思い出せなくなって、そうやって死んでいく。
そんな悲しいこと・・・
「たとえ忘れても、その事実がなくなる訳じゃないでしょ」
エルが、奏人に抱き着いて言った。
「えっ・・・」
「無いとは思うけど、もしね、もし僕たちのこと忘れちゃっても、出会った事実までなくなっちゃうことはないんだから」
「エル・・・」
「だから、そんな顔しないで」
「そうだね、見送る時にこんな顔じゃだめだよね」
奏人は深呼吸をすると、でそうになった涙をごしごしと擦る。
「みんな、僕のこと覚えててくれてありがとう」
「奏人も。奏人があの木を覚えててくれたから、俺たちはここに来れた」
「奏人、ありがとう。僕、シュビルと奏人と一緒に過ごした毎日、楽しかったよ」
「僕は奏人お兄ちゃんのおかげで今も生きてる。奏人お兄ちゃん、ありがとう」
「奏人さん、あなたのおかげで毎日退屈しませんでしたよ。本当、楽しかった」
「みんな・・・ありがとう。本当にありがとう・・・」
レーバルがポケットから小さな瓶を取り出す。
「それじゃあ、行きましょう」
「・・・おう」
レーバルを中心に、4人は互いに手を握って転移魔法に備える。
「じゃあな、奏人」
「うん、ばいばい」
「またね」
一瞬、部屋の中が光で満ちる。
奏人はそのまぶしさに思わず目を瞑り、また目を開けると
そこはもう奏人以外に誰もいない空っぽのワンルームの部屋になっていた。
あれから何年の月日が経っただろうか。
奏人はすっかり、大人に、
いや、いい父親になっていた。
「パパ!一緒に冒険者ごっこしよぉ」
「お、いいぞ~!そういえば、パパ、一度だけ冒険者になったことがあるんだぞ」
「なにそれ!パパ知らないの?冒険者なんてほんとはこの世界にはいないんだよ」
「う・・・ませてんなぁ・・・でもな、ほんとなんだよ。その話してやろっか?」
「しょうがないなぁ、聞いてあげる!」
僕はあの日々を一生忘れない。
またいつかみんなに出会える日を信じて、
その日が来るまで、僕はこの大切な家族と一緒に生きていく。
隣にちょこん、と座るわが子の頭を撫で、奏人は小さく息を吸う。
いつかまた会えたら、この子を紹介しよう。
「パパが行った世界はね・・・」
また、いつか会う日まで。
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