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45.生きるべき世界は
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「転移魔法って、すごいね・・・」
「レーバルさんってこの魔法使えましたっけ?」
「最近習得したんです。何事も努力ですね」
レーバルはそう言うと、では、と手を挙げてその場から姿を消した。
「便利な魔法だなぁ・・・」
「なんで僕、チートのはずなのに転移魔法は使えないんだろう」
「元の世界に戻っちゃうからじゃない?」
「うーん・・・そうなのかな」
朝からバタバタと移動して森を探索して、かなり疲れ切った様子の三人。
しばらく無言の状態が続いたが、シュビルの
昼食はデリバリーにしよう、の一言で昼食決めジャンケンが行われた。
「よし、じゃあお肉にしよう。このお店好きなんだ」
「またこの店かよ。いつもじゃん」
「ルリールはこのお店好きだね」
「安くておいしい!最高でしょ」
ほどなくして昼食が届くと、三人はもくもくと肉を平らげる。
奏人はすっかり異世界の食事にも慣れ、慣れた手つきで肉を頬張った。
「明日のダンジョンは、どこまで行くの?」
奏人が聞くと、シュビルはスマホを取り出した。
「明日は・・・快晴か。奏人も自分の剣があるし、少し遠くまで潜ってみるか」
「えー、大丈夫かな・・・」
ルリールは心配そうに言う。
たしかにその気持ちは分からなくもない。
奏人が狙われているかもしれないこの状況で、ダンジョンに深くまで潜る。
仮にモンスターと奏人を狙う冒険者の挟み撃ちにでもあったら三人では対処できないかもしれない。
「あんまり深くまでは行かないでおくか。あと、絶対三人で行動すること。奏人、お前も絶対俺らから離れんなよ」
シュビルはそう言って奏人の額にぐりぐりと人差し指を押し付ける。
「はぁい」
「またシュビルがお母さんみたいなこと言ってるー」
「やめろってば」
からかうルリールにシュビルは怒る。
子どものようにきゃっきゃと笑うルリールと怒るシュビルをみながら
奏人も笑って肉を頬張った。
「ねぇ、シュビル」
昼食を食べ終え各々の時間を過ごしていると、奏人が不意にシュビルに話しかける。
「ん?」
「前に植えたググの実って、どのくらいで実がなるの?」
「あー、あれか・・・ま、半年とかそのくらいじゃね?」
「そっかぁ、意外とすぐ出来るんだぁ。楽しみだな」
うきうきとした表情で奏人は笑う。
シュビルはそんな奏人の表情を見ながら自分の頬も緩んでいるのに気が付く。
「シュビル、笑った顔の方がかっこいいよ」
「ばっ・・・はぁ?お前に言われても嬉しくねぇし」
「別に喜んでもらおうと思って言ったんじゃないよー。本音だよ、本音」
そう言うと奏人は自分のベッドにぼふんと寝ころび目を閉じる。
昼食に食べた肉で満腹になっている。
心地よい満腹感で、気が付くと眠りについてしまった。
「んー・・・・あれ、寝てた・・・?」
目を覚ますと、部屋はすでに真っ暗。
シュビルがベッドで寝ころんでいるのが月の光で分かったが、
ルリールはベッドにいない。
何時か確認するためにちらりとシュビルのスマホを覗くと、すでに23時を回っていた。
「げ、がっつり半日くらい寝ちゃってたの?僕」
キィ、と扉の開く音がする。
ふとそちらの方を見ると、シャワーを浴びたばかりのルリールが帰ってきた。
「あ、起きた?」
「うん。僕すごい寝てたっぽいね」
「夜ご飯の時起こしたのに起きなかったから、先食べちゃった」
「大丈夫、お昼いっぱい食べたからお腹も空いてないや」
ルリールは、そのまま自分のベッドに座ると水を一気に飲み干す。
「今日の空は綺麗だね。明日は快晴になる」
「そうだね」
窓の外を見ると、星が瞬いている。
奏人はふと、夜空は元の世界と同じだなと思った。
元の世界のことを思い出さない訳ではなかった。
こっちの世界は楽しいし、起きる出来事も元の世界とは全く違う。
毎日が刺激的で、本当に楽しかった。
だが、元の世界にいる家族や友人のことを考えると、
ずっとここにいて良いのか、考えない訳ではなかった。
「明日は強いモンスターを倒せるかなぁ」
「今日は弱いやつしか倒せなかったもんね」
「そうそう。はぁ、やっぱりこの剣かっこいいやぁ・・・」
奏人はうっとりとベッドに立てかけた自分の剣を撫でる。
魔法石が月の光に反射し、キラリと光った。
少しの間ルリールと話すと、眠くなってきた、と先に寝てしまう。
一人になった奏人は昼寝のせいで眠ることもできず、
二人が夕飯として買って食べ残したのであろうサラダを食べながら
夜空を見てはため息をついた。
「今もしも元の世界に戻ったら・・・。もうこっちには来れないのかな」
シャクシャク、と野菜を噛んでは飲み込む。
自分は果たしてどの世界で生きたいのか、自分でもよく分からなかった。
「レーバルさんってこの魔法使えましたっけ?」
「最近習得したんです。何事も努力ですね」
レーバルはそう言うと、では、と手を挙げてその場から姿を消した。
「便利な魔法だなぁ・・・」
「なんで僕、チートのはずなのに転移魔法は使えないんだろう」
「元の世界に戻っちゃうからじゃない?」
「うーん・・・そうなのかな」
朝からバタバタと移動して森を探索して、かなり疲れ切った様子の三人。
しばらく無言の状態が続いたが、シュビルの
昼食はデリバリーにしよう、の一言で昼食決めジャンケンが行われた。
「よし、じゃあお肉にしよう。このお店好きなんだ」
「またこの店かよ。いつもじゃん」
「ルリールはこのお店好きだね」
「安くておいしい!最高でしょ」
ほどなくして昼食が届くと、三人はもくもくと肉を平らげる。
奏人はすっかり異世界の食事にも慣れ、慣れた手つきで肉を頬張った。
「明日のダンジョンは、どこまで行くの?」
奏人が聞くと、シュビルはスマホを取り出した。
「明日は・・・快晴か。奏人も自分の剣があるし、少し遠くまで潜ってみるか」
「えー、大丈夫かな・・・」
ルリールは心配そうに言う。
たしかにその気持ちは分からなくもない。
奏人が狙われているかもしれないこの状況で、ダンジョンに深くまで潜る。
仮にモンスターと奏人を狙う冒険者の挟み撃ちにでもあったら三人では対処できないかもしれない。
「あんまり深くまでは行かないでおくか。あと、絶対三人で行動すること。奏人、お前も絶対俺らから離れんなよ」
シュビルはそう言って奏人の額にぐりぐりと人差し指を押し付ける。
「はぁい」
「またシュビルがお母さんみたいなこと言ってるー」
「やめろってば」
からかうルリールにシュビルは怒る。
子どものようにきゃっきゃと笑うルリールと怒るシュビルをみながら
奏人も笑って肉を頬張った。
「ねぇ、シュビル」
昼食を食べ終え各々の時間を過ごしていると、奏人が不意にシュビルに話しかける。
「ん?」
「前に植えたググの実って、どのくらいで実がなるの?」
「あー、あれか・・・ま、半年とかそのくらいじゃね?」
「そっかぁ、意外とすぐ出来るんだぁ。楽しみだな」
うきうきとした表情で奏人は笑う。
シュビルはそんな奏人の表情を見ながら自分の頬も緩んでいるのに気が付く。
「シュビル、笑った顔の方がかっこいいよ」
「ばっ・・・はぁ?お前に言われても嬉しくねぇし」
「別に喜んでもらおうと思って言ったんじゃないよー。本音だよ、本音」
そう言うと奏人は自分のベッドにぼふんと寝ころび目を閉じる。
昼食に食べた肉で満腹になっている。
心地よい満腹感で、気が付くと眠りについてしまった。
「んー・・・・あれ、寝てた・・・?」
目を覚ますと、部屋はすでに真っ暗。
シュビルがベッドで寝ころんでいるのが月の光で分かったが、
ルリールはベッドにいない。
何時か確認するためにちらりとシュビルのスマホを覗くと、すでに23時を回っていた。
「げ、がっつり半日くらい寝ちゃってたの?僕」
キィ、と扉の開く音がする。
ふとそちらの方を見ると、シャワーを浴びたばかりのルリールが帰ってきた。
「あ、起きた?」
「うん。僕すごい寝てたっぽいね」
「夜ご飯の時起こしたのに起きなかったから、先食べちゃった」
「大丈夫、お昼いっぱい食べたからお腹も空いてないや」
ルリールは、そのまま自分のベッドに座ると水を一気に飲み干す。
「今日の空は綺麗だね。明日は快晴になる」
「そうだね」
窓の外を見ると、星が瞬いている。
奏人はふと、夜空は元の世界と同じだなと思った。
元の世界のことを思い出さない訳ではなかった。
こっちの世界は楽しいし、起きる出来事も元の世界とは全く違う。
毎日が刺激的で、本当に楽しかった。
だが、元の世界にいる家族や友人のことを考えると、
ずっとここにいて良いのか、考えない訳ではなかった。
「明日は強いモンスターを倒せるかなぁ」
「今日は弱いやつしか倒せなかったもんね」
「そうそう。はぁ、やっぱりこの剣かっこいいやぁ・・・」
奏人はうっとりとベッドに立てかけた自分の剣を撫でる。
魔法石が月の光に反射し、キラリと光った。
少しの間ルリールと話すと、眠くなってきた、と先に寝てしまう。
一人になった奏人は昼寝のせいで眠ることもできず、
二人が夕飯として買って食べ残したのであろうサラダを食べながら
夜空を見てはため息をついた。
「今もしも元の世界に戻ったら・・・。もうこっちには来れないのかな」
シャクシャク、と野菜を噛んでは飲み込む。
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