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2. ドラゴンの贈り物なんて厨二病でしょ

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 飛び出したニコラスは3ヶ月家に帰らなかった。捜索隊は出されたが、ニコラスと合流した捜索隊のメンバーは何故か旅を続けた。

ニコラス
「ニコラス・ホワイトはここに、永遠の愛と誠を誓う! その証として、ドラゴンを献上致します!」

 戻ったニコラスは全長2メートルのオオトカゲを抱えて来た。

ドリス
「何ソレ!?」

ニコラス
「コモドドラゴンっていう種なんだ!」

ドリス
「どうして捕まえて来たの?」

ニコラス
「お姫様に愛を示すために悪いドラゴンを退治するって本に書いてあったから、家畜を襲っているヤツを捕まえて来たんだ!」

ドリス
「そんな本、何処で読んだの!?」

ニコラス
「シルバー公爵が貸して下さったんだ!」

 お祖父様!? ニコをからかったわね! ニコはアホの子なんだから真に受けるに決まってるじゃない! どうしてくれるのよ!?

ドリス
「ど、どうするのソレ?」

 なんか嫌な予感がする。

ニコラス
「あげる! 遅れたけど誕生日プレゼントだよ!」

 ニコラスはドリスにオオトカゲを差し出した。

 やっぱり!

ドリス
「トカゲの死体なんかいりません!」

ニコラス
「生きてるよ? 女の子なんだ! な? ドラ子?」

 オオトカゲの口が開き、ちゅるちゅると舌が飛び出してきた。

ドリス
「ひぃ!」

ニコラス
「大丈夫だよ。元々人に飼われてた個体で、人には懐いてるんだ。餌が足りなくて家畜を襲っちゃったみたいけど、いっぱいご飯をあげたら懐いて一緒に散歩も出来るようになったんだ! 可愛いヤツだよ?」

ドリス
「そ、そうなの?」

 ドリスは恐る恐るドラ子の頭を撫でた。

ドリス
「暖かいわ」

 撫でられたドラ子はドリスにすり寄ってくる。

 確かに可愛いかもしれない。

ニコラス
「牛や鹿、ヤギなんかも食べるし、鳥類や爬虫類、虫なんかも食べるから色んな餌をあげてね」

ドリス
「ふ~ん」

 ドラ子はドリス膝にのしかかってきて、ご機嫌そうだ。

ニコラス
「散歩だけじゃなくて、泳ぐのも得意だから、一緒にプール遊びもできるよ!」

ドリス
「そうなんだ」

 ドラ子はドリスの膝の上でくつろいでいる。

ニコラス
「あ、でも、猫や犬、馬なんかも食べるから襲われないように気を付けてね! 毒も持ってるから噛み付かれたら危険だから」

ドリス
「は? え?」

 ドリスは一気に血の気が引いた。

ニコラス
「気に入った? オレと結婚してくれる?」

ドリス
「こんなプレゼントでワタクシと結婚出来るわけないでしょ!」

ニコラス
「ドラ子のことが気に入らないの?」

 ドラ子もドリスをじっと見つめる。

 ぎえぇ~! ここで、ドラ子を否定したら生命危険では!?

ドリス
「ド、ドラ子ちゃんは気に入ったけど、結婚は無理!」

ニコラス
「何で? 気に入ったんだろ?」

ドリス
「気に入る贈物を貰ったらニコは誰とでも結婚するの!?」

ニコラス
「なるほど! ドリちゃん頭いい! そっか...プレゼントじゃ駄目なのか...今後こそ、本物の愛を見つけてくる!」

 ニコラスが立ち去ろうとするので、ドリスは慌てて呼び止めた。

ドリス
「ま、待って! ドラ子ちゃんを返すわ! 結婚しないもの!」

ニコラス
「いいよ。あげる! 気に入ったんだろ? じゃあ、また!」

 ニコラスは部屋から飛び出すように去っていった。

ドリス
「ちょ、ちょっと!? ドラ子ちゃんをどうすればいいのよ~!!」

 ドラ子は満足そうにドリスの膝の上で眠りについた。



 翌日。

 お目付役のブラウン卿が悲鳴をあげた。

ブラウン卿
「コ、コモドオオトカゲ(コモドドラゴン)!? ど、どうしてここに!?」

ドリス
「あら? ご存知なの?」

 ドリスはドラ子の背中を枕にして寝転がっている。

ブラウン卿
「体重1トンのバッファローでも、その猛毒で倒し捕食する、ヤギ以下のサイズの動物なら丸呑みにするという、恐ろしい生き物です! 1キロ先まで見える視覚を持ち、4キロ以上先の匂いも嗅ぎ分ける! 時速20キロ近いスピードで走り、3時間以上獲物を追い続ける持久力まである! 生息地では敵なしで生態系の頂点に君臨するため、恐怖心が少なく穏やかに見えますが、人間すら捕食する事がある危険生物ですよ!」

ドリス
「でも、ワタクシには懐いてるいるみたい。寂しいのかワタクシにくっついてきて可愛いのよ? 言葉が分かるみたいで名前を呼ぶとリード(紐)無しでも散歩が出来るの」

ブラウン卿
「し、しかし! コモドオオトカゲは本当に危険で...」

「キャーーー!!!」

 屋敷の下の階から悲鳴が聞こえた。

 バタバタと人々が走り回る音。

ドリス
「何事!?」

 安全を確認するためにブラウン卿が部屋の外を覗くと、目の前に、もう1匹のコモドドラゴンが顔を出した。

 ブラウン卿は中年とは思えない、華麗なバク転をキメ、距離をとった。人間、危険が迫ると信じられない能力を発揮するものである。

ニコラス
「あ、ブラウン卿、ドリちゃんいますか?」

 よく見るとコモドドラゴンはニコラスが抱えている。2mある巨体を、13歳の少年がよく持てるものだ。

ドリス
「何の用!?」

ニコラス
「愛を見つけたんだ!」

ドリス
「そ、そう...それでどうしてコモドドラゴンをもう1匹連れてきたの?」

ニコラス
「ドラ助だよ! コモドドラゴンの男の子なんだ! ドラ子1匹で飼うのはストレスがかかって良くないからツガイにしてあげよう! 愛でしょ?」

ドリス
「そ、そうね」

ニコラス
「結婚してくれる?」

ドリス
「えぇ」

 ドリスは微笑んだ。

 ニコラスは胸いっぱいに空気を吸い込み、頬を限界まで持ち上げて笑顔を作った。

ニコラス
「ドリちゃん!」

 ニコラスはそっとドラ助を床に下ろすと、ドリスを抱きしめた。

 ニコラスの匂いがドリスの鼻をくすぐる。

 スキッと爽やかな森緑のような、でもほのかに甘く、落ち着く匂いだ。

 シャンプーや石鹸に最高級のアロマオイルでも使っているのかしら? ニコはホワイト領の次期領主なだけはあるのよね。ホワイト領にはギルドアカデミー(職業組合の研究機関)や巨大マーケットがあるし、ホワイト家の資産は今や国1番と言われる。

 要するに、ニコは非常に御坊ちゃま(クソボンボン)だ。

ブラウン卿
「え!? 宜しいのですか? そんな事を仰られて!? お父上やお母上にご相談せずに!?」

ドリス
「えぇ、もちろん! 結婚するのはドラ子とドラ助ですもの!」

ニコラス
「えっと...ドリちゃんとオレは?」

ドリス
「結婚するわけないでしょ! 馬鹿じゃないの!? コモドドラゴンの生態には随分詳しいみたいだけど、人間の女性の事は何にも分かっていないじゃない!」

ニコラス
「そっか!」

 そっか! じゃない! 改善点に気が付いて喜んじゃって! やっぱり落ち込まないのね...

ニコラス
「分かった! 勉強してくる! 人間の求愛と生殖について! じゃ、また!」

 やはり飛び出し行くニコラスの背中を見送って、ドリスは溜息をついた。
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