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30 (舞踏会当日)
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舞踏会当日。多くの有力貴族達が王宮へと集まっていた。
社会界に初めてデビューする女性はデビュタントと呼ぶが、今日は、そのデビュタントを紹介するための舞踏会なのである。例年であれば、当然、デビュタントである少女達に注目が集まる。しかし、今回の来場客の注目は違う女性に向いていた。
そう、クリスチナ・ガルボ公爵令嬢に。
クリスチナはすでに3年前に社交界デビューを果たしており、デビュタントではない。むしろ、それよりもずっと前から、第一王子の婚約者として知られているため、本来であれば、そこまで注目を集めなかっただろう。
だが、今回は、クリスチナ公女が美活に力を入れたという噂が広がっていた。王子に婚約破棄された公女が、新たに婚約者を募るために、多大な予算を注ぎ込み、美容に力を入れたと。
どんな美女が現れるのか、はたまた、慣れないお洒落で滑稽な装いをしてくるのか。人々は好奇の目で、クリスチナの入場を待っていた。
開会直前に、第二王子フリードリヒのエスコートでクリスチナは会場入りした。
紫色のレースとキラキラ光るビーズが散りばめられたアール・ヌーヴォースタイルのドレスは、地味でもなく、派手でもなく、非常に上品だ。
グレージュの髪は強めにカールさせて盛り髪に結い上げられており、タンザナイトが縫い付けられたヘッドドレスはシンプルでありながら高貴な輝きを放っている。胸元にはヴィルヘルムから贈られた小さなアイスブルーダイヤのネックレスが光っていた。
今までよりも格段にスッキリしたボディライン。目元からはクマが消え、より健康的な肌になっている。
クリスチナ公女は確かに美しくなった。
だが、思っていたよりも普通だ。
それが、多くの人々の感想だった。
年頃の貴族の令嬢の多くは、もっと腰が細く、もっと肌が白く、もっと自分に似合うファッションを理解している。
何故ならば、他の令嬢は、もっとずっと前から、美容にお金と手間暇をかけてきたからである。
褒めていいのか、馬鹿にした方がいいのか、お喋り好きの貴婦人達が迷っていると、今度は、第一王子がエミリアをエスコートして入場した。
エミリアも、紫色のドレスを着ていたが、安物でほとんど装飾のないドレスだった。だが、それがかえって、エミリアの美しさを強調していた。
ほっそりした腰に、豊満な胸。悩みを感じさせない曇りのない白い肌。飾りのない無造作なまとめ髪でも、金の髪自体が光を放つ。
あれが、平民の癖に、クリスチナ公女から婚約者の座を奪った悪女、エミリア!?
「美人ね」
「でも馬鹿っぽそう」
「クリスチナ様がお可哀想ですわ」
「あんな悪女に引っ掛かるなんて...」
ヒソヒソと囁き合う来場者達。
女王が開会の宣言をして、デビュタント達が入場しても、来場者達の話題は、その事で持ちきりであった。
クリスチナは美しいエミリアを見て、自分がゴミクズのように思えた。
ゴミの癖に美しく豪華な衣装を着るものだから、余計にゴミの醜さが際立っている。殿下に会わなければならないのに、殿下に見られたくない。
そんな思いに駆られ、クリスチナは無意識にフリードリヒの影に隠れた。
「大丈夫です。クリスチナ様はとても美しいですよ。私にとってクリスチナ様こそが世界一の女性です」
クリスチナはフリードリヒを見上げる。
仮面に描かれたような笑顔だけど、無理にでも笑ってくれるフリードリヒの心遣いが嬉しい。
「お褒めの言葉を有難うございます。そう仰って頂き、どれ程救われる事でしょうか」
クリスチナも笑顔を作った。
社会界に初めてデビューする女性はデビュタントと呼ぶが、今日は、そのデビュタントを紹介するための舞踏会なのである。例年であれば、当然、デビュタントである少女達に注目が集まる。しかし、今回の来場客の注目は違う女性に向いていた。
そう、クリスチナ・ガルボ公爵令嬢に。
クリスチナはすでに3年前に社交界デビューを果たしており、デビュタントではない。むしろ、それよりもずっと前から、第一王子の婚約者として知られているため、本来であれば、そこまで注目を集めなかっただろう。
だが、今回は、クリスチナ公女が美活に力を入れたという噂が広がっていた。王子に婚約破棄された公女が、新たに婚約者を募るために、多大な予算を注ぎ込み、美容に力を入れたと。
どんな美女が現れるのか、はたまた、慣れないお洒落で滑稽な装いをしてくるのか。人々は好奇の目で、クリスチナの入場を待っていた。
開会直前に、第二王子フリードリヒのエスコートでクリスチナは会場入りした。
紫色のレースとキラキラ光るビーズが散りばめられたアール・ヌーヴォースタイルのドレスは、地味でもなく、派手でもなく、非常に上品だ。
グレージュの髪は強めにカールさせて盛り髪に結い上げられており、タンザナイトが縫い付けられたヘッドドレスはシンプルでありながら高貴な輝きを放っている。胸元にはヴィルヘルムから贈られた小さなアイスブルーダイヤのネックレスが光っていた。
今までよりも格段にスッキリしたボディライン。目元からはクマが消え、より健康的な肌になっている。
クリスチナ公女は確かに美しくなった。
だが、思っていたよりも普通だ。
それが、多くの人々の感想だった。
年頃の貴族の令嬢の多くは、もっと腰が細く、もっと肌が白く、もっと自分に似合うファッションを理解している。
何故ならば、他の令嬢は、もっとずっと前から、美容にお金と手間暇をかけてきたからである。
褒めていいのか、馬鹿にした方がいいのか、お喋り好きの貴婦人達が迷っていると、今度は、第一王子がエミリアをエスコートして入場した。
エミリアも、紫色のドレスを着ていたが、安物でほとんど装飾のないドレスだった。だが、それがかえって、エミリアの美しさを強調していた。
ほっそりした腰に、豊満な胸。悩みを感じさせない曇りのない白い肌。飾りのない無造作なまとめ髪でも、金の髪自体が光を放つ。
あれが、平民の癖に、クリスチナ公女から婚約者の座を奪った悪女、エミリア!?
「美人ね」
「でも馬鹿っぽそう」
「クリスチナ様がお可哀想ですわ」
「あんな悪女に引っ掛かるなんて...」
ヒソヒソと囁き合う来場者達。
女王が開会の宣言をして、デビュタント達が入場しても、来場者達の話題は、その事で持ちきりであった。
クリスチナは美しいエミリアを見て、自分がゴミクズのように思えた。
ゴミの癖に美しく豪華な衣装を着るものだから、余計にゴミの醜さが際立っている。殿下に会わなければならないのに、殿下に見られたくない。
そんな思いに駆られ、クリスチナは無意識にフリードリヒの影に隠れた。
「大丈夫です。クリスチナ様はとても美しいですよ。私にとってクリスチナ様こそが世界一の女性です」
クリスチナはフリードリヒを見上げる。
仮面に描かれたような笑顔だけど、無理にでも笑ってくれるフリードリヒの心遣いが嬉しい。
「お褒めの言葉を有難うございます。そう仰って頂き、どれ程救われる事でしょうか」
クリスチナも笑顔を作った。
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