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第三幕 学生期
234.作曲家からの手紙
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謎のラブソングの楽譜が届いてから、自分が作者かもしれないと名乗る手紙が複数届くようになった。どれも違う人物からである。
はっきり、自分が作者であると名乗っている者はおらず、曲の内容に触れるでもなく、どれも曖昧な書き方がされている。
『私も劇場で楽譜を落としまして、もしかしたら私の楽譜かもしれません』
中には、例のラブソングと関係なく『私の曲を使って頂けませんか?』と、プロフィール付きで売り込むものまであった。
アントニオ
「どうしようかな? 皆と会って面接する?」
ジュゼッペ
「いけません。良くないことを考えている者達が大半でしょうから、直接会うなんて、とんでもありません」
アントニオ
「ですが、この中に本物の作者がいるかもしれないですよね?」
アウロラ
「楽譜の持ち主である証明を要求してはいかがですか? 楽譜や歌詞の一部を書いて送ってもらうのです」
アントニオ
「そうですね! では、そう、お返事を出しますね」
ジュゼッペ
「トニー様からお返事を出してはいけません。直接、トニー様に手紙が届くと評判がたてば、もっと変な手紙がいっぱい届くようになってしまいます。毒物を仕込まれる可能性もあります。文官に命じて事務的な返事を出しておきましょう」
アントニオ
「分かりました。お願いします」
_________
数日して届いた返事には、やはり自分を売り込むような内容の手紙と楽譜が同封されていた。
そうした手紙には応じないことにしたが、そうしている間にも、楽譜の落とし主を語る者から次々と手紙が届いている。
同じ音楽家として気持ちは分からなくもない。ジーンシャン家のパーティーで曲が発表されることはビッグチャンスなのだ。貧しい音楽家が、食べるために必死にチャンスを掴もうしているのだろう。
同情はするけど、汚いやり方は好きになれない。
そんなある日、意外な人物から手紙が届く。
アントニオ
「テオドラ・マジョルガ? マジョルガ辺境伯の御息女の?」
ジュゼッペ
「左様でございます。マジョルガ家の紋章で封印がされております」
アントニオはテオドラからの手紙を開いた。
テオドラの手紙
『暖かい陽気に包まれ、空の青が濃くなる季節。アントニオ様におかれましては、健やかにお過ごしあそばされていると思われます。
ダンスの授業では、大変な失礼をしてしまいました。あの時は妹にパートナーの座を譲ろうとしてしまいましたが、本当はワタクシがアントニオ様とダンスパートナーを組みたかったのです。
妹は何でもワタクシの物を欲しがります。両親は、要領の良い妹を溺愛しており、ワタクシは何でも妹に譲らなくてはならないのです。
ですから、どうか、誤解なさらないで下さい。ワタクシはアントニオ様と仲良くしたいと思っているのです。
先日、お送りした楽譜はワタクシが書いたものです。ワタクシはその楽譜を貴方様に差し上げます。見返りは必要ありません。どうぞ、ご自由にお使いください。
演奏される時は。是非、聴かせて頂けると光栄です』
手紙を持つアントニオの手が震える。確かに手紙には「ワタクシが書いた」と明記してある。
アントニオ
「テオドラ様が作曲された!?」
ジュゼッペ
「そうとは限りません。確認する必要があるかと思われます。実は...驚くべきことに、カーン伯爵の御息女であるカヴィタ・カーンからも似たような手紙が来ております」
アントニオ
「カーン伯爵の御息女からも!? 一体、どうなっているのでしょう?」
カヴィタの手紙を広げると、テオドラの手紙と内容が非常に似通っていることが分かった。
カヴィタの手紙
『歌を作ったのは私です。ですが、歌はすでに貴方のもの。自由に歌われることを望みます』
異なるのはテオドラ・マジョルガの手紙は非常に丁寧で、カヴィタ・カーンからの手紙は非常にシンプルだったことだ。
アントニオ
「どちらかが偽物?」
アウロラ
「どちらも偽物かもしれません。どちらも筆跡が異なっております」
カヴィタは、アントニオが子供の頃からお世話になっている賢者ネハの孫で、効果魔法の師匠であるダーシャ・カーン伯爵の娘だ。しかも、伯爵は病弱な娘をとても大事にしていた。
嘘吐きな子だったら嫌だな。
アウロラ
「厄介ですね。ただの音楽家と違って、どちらも権力者の御息女。本物である証拠を見せろと言ったら角が立ってしまいます。しかも、この文面だと向こうは何も要求していないので、対価の代わりに確認を提案することも難しい」
アントニオ
「やはり礼儀として、お礼を言って、演奏会に招待しないといけないのでは?」
ジュゼッペ
「左様にございます。下手をすると家同士の対立が始まり、内戦へと発展します。しかし、嘘だった場合、嘘がまかり通っては相手に舐められてしまいます。慎重に対処しなくてはいけません。特に、カーン伯爵家は国王の側近を代々勤め、光龍アイリスの守護を受ける名家です」
アントニオ
「そうですね。普段からお世話になっていますし...ですが、証拠も無しに、カヴィタ様が本物で、テオドラ様が偽物と決めつける事は出来ませんし...どうすればいいのでしょう?」
アントニオとジュゼッペはアウロラを見つめる。
アウロラ
「面倒臭っ! リン様やルド様に聞いて下さいよ!」
アントニオ
「そうですね! リンとルドに聞いてみます!」
はっきり、自分が作者であると名乗っている者はおらず、曲の内容に触れるでもなく、どれも曖昧な書き方がされている。
『私も劇場で楽譜を落としまして、もしかしたら私の楽譜かもしれません』
中には、例のラブソングと関係なく『私の曲を使って頂けませんか?』と、プロフィール付きで売り込むものまであった。
アントニオ
「どうしようかな? 皆と会って面接する?」
ジュゼッペ
「いけません。良くないことを考えている者達が大半でしょうから、直接会うなんて、とんでもありません」
アントニオ
「ですが、この中に本物の作者がいるかもしれないですよね?」
アウロラ
「楽譜の持ち主である証明を要求してはいかがですか? 楽譜や歌詞の一部を書いて送ってもらうのです」
アントニオ
「そうですね! では、そう、お返事を出しますね」
ジュゼッペ
「トニー様からお返事を出してはいけません。直接、トニー様に手紙が届くと評判がたてば、もっと変な手紙がいっぱい届くようになってしまいます。毒物を仕込まれる可能性もあります。文官に命じて事務的な返事を出しておきましょう」
アントニオ
「分かりました。お願いします」
_________
数日して届いた返事には、やはり自分を売り込むような内容の手紙と楽譜が同封されていた。
そうした手紙には応じないことにしたが、そうしている間にも、楽譜の落とし主を語る者から次々と手紙が届いている。
同じ音楽家として気持ちは分からなくもない。ジーンシャン家のパーティーで曲が発表されることはビッグチャンスなのだ。貧しい音楽家が、食べるために必死にチャンスを掴もうしているのだろう。
同情はするけど、汚いやり方は好きになれない。
そんなある日、意外な人物から手紙が届く。
アントニオ
「テオドラ・マジョルガ? マジョルガ辺境伯の御息女の?」
ジュゼッペ
「左様でございます。マジョルガ家の紋章で封印がされております」
アントニオはテオドラからの手紙を開いた。
テオドラの手紙
『暖かい陽気に包まれ、空の青が濃くなる季節。アントニオ様におかれましては、健やかにお過ごしあそばされていると思われます。
ダンスの授業では、大変な失礼をしてしまいました。あの時は妹にパートナーの座を譲ろうとしてしまいましたが、本当はワタクシがアントニオ様とダンスパートナーを組みたかったのです。
妹は何でもワタクシの物を欲しがります。両親は、要領の良い妹を溺愛しており、ワタクシは何でも妹に譲らなくてはならないのです。
ですから、どうか、誤解なさらないで下さい。ワタクシはアントニオ様と仲良くしたいと思っているのです。
先日、お送りした楽譜はワタクシが書いたものです。ワタクシはその楽譜を貴方様に差し上げます。見返りは必要ありません。どうぞ、ご自由にお使いください。
演奏される時は。是非、聴かせて頂けると光栄です』
手紙を持つアントニオの手が震える。確かに手紙には「ワタクシが書いた」と明記してある。
アントニオ
「テオドラ様が作曲された!?」
ジュゼッペ
「そうとは限りません。確認する必要があるかと思われます。実は...驚くべきことに、カーン伯爵の御息女であるカヴィタ・カーンからも似たような手紙が来ております」
アントニオ
「カーン伯爵の御息女からも!? 一体、どうなっているのでしょう?」
カヴィタの手紙を広げると、テオドラの手紙と内容が非常に似通っていることが分かった。
カヴィタの手紙
『歌を作ったのは私です。ですが、歌はすでに貴方のもの。自由に歌われることを望みます』
異なるのはテオドラ・マジョルガの手紙は非常に丁寧で、カヴィタ・カーンからの手紙は非常にシンプルだったことだ。
アントニオ
「どちらかが偽物?」
アウロラ
「どちらも偽物かもしれません。どちらも筆跡が異なっております」
カヴィタは、アントニオが子供の頃からお世話になっている賢者ネハの孫で、効果魔法の師匠であるダーシャ・カーン伯爵の娘だ。しかも、伯爵は病弱な娘をとても大事にしていた。
嘘吐きな子だったら嫌だな。
アウロラ
「厄介ですね。ただの音楽家と違って、どちらも権力者の御息女。本物である証拠を見せろと言ったら角が立ってしまいます。しかも、この文面だと向こうは何も要求していないので、対価の代わりに確認を提案することも難しい」
アントニオ
「やはり礼儀として、お礼を言って、演奏会に招待しないといけないのでは?」
ジュゼッペ
「左様にございます。下手をすると家同士の対立が始まり、内戦へと発展します。しかし、嘘だった場合、嘘がまかり通っては相手に舐められてしまいます。慎重に対処しなくてはいけません。特に、カーン伯爵家は国王の側近を代々勤め、光龍アイリスの守護を受ける名家です」
アントニオ
「そうですね。普段からお世話になっていますし...ですが、証拠も無しに、カヴィタ様が本物で、テオドラ様が偽物と決めつける事は出来ませんし...どうすればいいのでしょう?」
アントニオとジュゼッペはアウロラを見つめる。
アウロラ
「面倒臭っ! リン様やルド様に聞いて下さいよ!」
アントニオ
「そうですね! リンとルドに聞いてみます!」
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