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第三幕 学生期

218.お姫様とお見合い1 ❤︎

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アントニオ・ジーンシャン(エスト)12歳
バルド(ルド)年齢不明(魔人族)
リン 300歳(龍人族)

グリエルモ・ジーンシャン37歳(辺境伯・勇者)
メアリー・ジーンシャン 40歳(辺境伯夫人・聖女)

ジュゼッペ・サクラーティ 30歳(次期男爵・執事)
アウロラ・サクラーティ 21歳(次期男爵夫人)
ヴィクトー・ルナール 28歳(王立騎士・護衛)
リッカルド・ロッシ 18歳(ジーンシャン騎士・護衛)

ヒロヤ・カンナギ 54歳(国王)
ジュン・カンナギ 35歳(王太子)
タイラ・カンナギ 14歳(王子)
カレン・カンナギ 17歳(第一王女)
エリカ・カンナギ 10歳(第二王女)

アルベルト・ジーンシャン 34歳(叔父)
オデット・ジーンシャン 34歳(叔母)
レオナルド・ジーンシャン 13歳(従兄)
エドアルド・ジーンシャン 10歳(従弟)
カリーナ・ジーンシャン 7歳(従妹)


______


 王宮にて。

 カサンドラ・マジョルガがアントニオに近付いたという報告は、ヴィクトーからジュン王太子にも伝えられた。

ジュン
「何だと!? マジョルガ辺境伯の娘が!? このままではまずい。もしも、カサンドラ・マジョルガがトニー様と付き合って、婚約、結婚ということになれば、益々、軍事力がジーンシャンにかたよる。(それよりも、娘に激怒される...) 急ぎ、グリエルモ様に顔合わせする茶会の申し入れを!」

______

 アルベルト邸にて。

メアリー
「どういうことなの!?」

 メアリーは王宮から届いたお茶会の招待状を手に大きな声を上げていた。

グリエルモ
「さぁ? どうしようね?」

アントニオ
「父上も母上も、どうされたのですか?」

 アントニオはメアリーから手紙を受け取り目を通す。

アントニオ
「『花々の咲き誇る季節、ジーンシャン辺境伯様におかれましては、益々ご繁華(はんか)のことと思われます。王宮でも、庭園の花々が蕾をつけ、もうじき見頃を迎えます。是非とも当家の茶会にお招きしたく候。その折、トニー様に、いまだに未紹介であった末娘のエリカを紹介させて頂きます』ですって! わぁ~楽しそうですね」

ジュゼッペ
「表向きはお茶会ですが、本当は政略結婚の相手を決める為のお見合いのようですね」

アントニオ
「お、お見合い!? 誰と誰の? 」

ジュゼッペ
「エリカ様とトニー様のお見合いのようです」

アントニオ
「え!? 私の!?」

ジュゼッペ
「はい。左様でございます。このお手紙の文面ですと、そういう意味になりますね」

アントニオ
「い、いいのでしょうか? タイラ様の妹君....という事は、お姫様ですよね? 私なんかの所にお嫁さんに来て下さるのでしょうか?」

ジュゼッペ
「それを見極めるためのお見合いなのでは?」

アントニオ
「あ、そうですよね!? では、とりあえず、お会いしてみようかな?」

ジュゼッペ
「宜しいのですか? 王家とお見合いをするということは、当然、政略的な意味を持ちますし、よほどの事がない限り、気に入らなくても断れないのでは?」

 メアリーはアウロラとアイコンタクトをした。

 トニーの意識をマジョルガ辺境伯の娘から逸らす好機だわ! それに、タイラ様もカレン様も、トニーと仲良しだし、エリカ様との縁談は悪い話ではないはず。

メアリー
「それは心配しなくていいわ。トニーが気に入らなかったら断ります」

アウロラ
「お茶会に出席していいと思いますよ。タイラ様やカレン様にも同席して頂き、レオ様やエド様、カリーナ様にも同行して頂ければ、お見合いというよりも親戚同士の集まりになりますから、気軽に顔合わせが出来ます」

アントニオ
「では、ご招待をお受けします!」

______


 お茶会当日。

 アントニオは、早朝から鏡の前で「あーでもないこーでもない」と呟きながら、衣装を取っ替え引っ替えしていた。

バルド
「エスト、昨日選んだ服はどうした?」

アントニオ
「昨日はあれがいいと思ったんだけど、今日着てみたら、青いのは顔色が悪く見えるというか、なんだか違う気がして、やっぱり変えようと思うんだけど...」

バルド
「早く服を着ろ! 朝から風呂に入って、下着のままウロついたら風邪引くぞ」

アントニオ
「そうなんだけどさぁ~。この白いのは舞台衣装っぽくて派手過ぎるし、こっちの深緑は逆に地味というか、カジュアル過ぎて、王家の方相手にはに失礼な気がするんだよね。それに、この黒いのは冠婚葬祭じゃないんだからお見合いには向かないし...」

バルド
「どれでも同じだろ?」

アントニオ
「同じじゃないよ! 男と会うんじゃないんだから!」

バルド
「相手は子供だろ?」

アントニオ
「でも、レディーだよ! 初めて会うんだから、第一印象はすっごく大事なんだ!」

リン
「そうそう、女性は男と違って、どんなに子供でも侮(あなど)ってはいけない。」

バルド
「なら...このグレーのはどうだ? 体型が良く見えるから気に入ってただろ?」

アントニオ
「軽薄に見えない? なんか、遊び人っぽくて、馬鹿っぽくない?」

バルド
「じゃあ、赤いのは?」

アントニオ
「自意識過剰なナルシストに見えないか?」

バルド
「紺ならどうだ?」

アントニオ
「重くない? 真面目そうに見えるのはいいけど、堅苦しいオッサンの印象じゃない?」

バルド
「面倒臭い奴だな。もう、裸で行けばいいだろ」

アントニオ
「やだ! 真面目に考えてよ! 俺が、エリカ様と結婚したら、ルドやリンだって一緒に住むことになるんだから、他人事(ひとごと)じゃないだろ!」

バルド
「まぁ、そうだな」

リン
「茶色のにしなさい」

アントニオ
「えぇ!? 何で? 確かに、あれは気に入ってるけど、すっごく地味じゃない?」

リン
「あの茶色が一番エストらしいだろ? 人族は一生一緒にいる相手を結婚相手に選ぶんだから、エストっぽさを愛してくれる相手じゃないとだめだ」

アントニオ
「そうかなぁ!? でも、自分の個性ばっかりを主張しているファッションほど痛いものはないよ。やはり、ファッションには愛がないと...は! そうか!! どうすればいいか分かったぞ!!」

 ブラウンのモーニングコートとロングパンツに同色のベストとタイ、グレージュのブラウスを合わせた。ベストのポケットに懐中時計を入れ、金の鎖をベストのボタンホールにかける。ジャケットのポケットを飾るシルクチーフも金だ。靴はブラウンのストレートチップの革靴で、3cmヒールのドレッシーな靴を選んだが、爪先とかかとを鏡面磨きし、靴紐を金のリボンに変えて、より華やかな装いに。仕上げに、ブルートパーズのブローチをジャケットの襟につけた。

アントニオ
「エリカ様は金髪で水色の瞳なんだって。茶と金っていうのは、とっても相性の良い色なんだ! このファッションで、俺と王女様が相性バッチリだとアピールするぞ!」

バルド
「なるほどな」

リン
「いいんじゃないか?」

 アントニオは満足そうに微笑んだ。

______

 王宮では、王太子の第一王女であるカレン王女が、侍女に向かって大きな声で叫んでいた。

カレン
「もっと花飾りを増やして頂戴!」

 部屋の鏡台の前には数多くのコサージュが並べられていたが、カレン王女はそのどれもが気に入らなかった。侍女達はカレン王女のヒステリーが本格化する前に、王女が満足する品を見つけようと、大慌てでアンナ王太子妃のクローゼットまで
探しに行くのであった。

 コサージュだけではなく、ジュエリーや手袋、ショールと言った小物もアンナ王太子妃に借りようと、侍女達は忙(せわ)しなく廊下を行き来した。

 そんな風に大騒ぎするものだから、アンナ王太子妃と部屋が隣接するジュン王太子も、その慌ただしい様子に気が付いた。そして、娘のご機嫌を伺いにやって来る。

ジュン
「今日はエリカのお見合いなんだから、そんなにカレンが頑張らなくていいんじゃないか?」

 カレン王女は、目を吊り上げて振り返ると、闇の攻撃魔法を王太子であるジュンに向かって投げつけた。ジュン王太子は攻撃をくらうギリギリのタイミングでなんとか魔法防御を展開し、攻撃を回避した。

カレン
「何を勝手なことを言っているのです!? トニー様とエリカのお見合いなんて、ワタクシは少しも承諾なんてしていませんわ!」

ジュン
「な、何故、カレンの承諾が必要なんだ!?」

カレン
「殿下のバカぁ~!!!」

アンナ
「まぁ、まぁ、カレンちゃん、落ち着いて! せっかくセットした御髪(おぐし)が乱れてしまいますわよ? 殿下も馬鹿なことを言っていないで準備して下さいませ。トニー様はカレンの想い人なんですから、チャンスはカレンにも与えてあげて下さらないと!」

ジュン
「カレンが好きなのはレオナルド様じゃなかったのか!?」

カレン
「レオ様も、もちろん大好きですが、一番はトニー様ですわ♡」

ジュン
「何だって!? では、カレンとお見合いの話を進めてもいいのか!?」

カレン
「もちろんですわ。」

エリカ
「今日は私のお見合いです! トニー様は私と結婚するの! お姉様は年増なんだから引っ込んでてよ!」

 騒ぎを聞きつけた第二王女のエリカ王女は、聞き捨てならない姉の言動を耳にし抗議した。

 エリカ王女はクリーム色のロココなローブ・モンタント(襟のあるドレス)に身を包んでいた。金の葉やピンクの薔薇、水色のルリトウワタが刺繍されている大変豪華なドレスである。結い上げた髪にはピンクの薔薇のコサージュと水色のリボンが飾られている。

 踏ん反りかえるエリカ王女をみたカレン王女は鼻で笑った。カレン王女のドレスは白い生地に青い葉と黄色の花のミモザが刺繍されたローブ・デコルテ(胸元の開いたドレス)だ。カレン王女はドレスからはみ出る胸の谷間を強調して見せた。

カレン
「トニー様はお若いけれど、とっても大人なのよ! エリカみたいな赤ちゃんを結婚相手に選ぶかしら?」

 エリカ王女はギリッと歯を噛み締めてカレン王女を睨みつけた。カレン王女も鋭利な視線でエリカ王女を睨み返し、闇のオーラが部屋中に立ち込める。侍女達は王女達の恐ろしい威圧の応酬に縮こまり、とばっちりを喰らわないように息を潜めた。

アンナ
「早く用意しないと準備が終わらないまま、ジーンシャン家の方とお会いすることになるわよ?」

 アンナ王太子妃の気の抜けた声で、王女達は我にかえった。

カレン
「大変!」

エリカ
「お母様! 私にもジュエリーを貸して!」

ジュン
「...」

 ジュン王太子は困惑したが、娘達がトニー様との結婚に乗り気であるならば、トニー様に公爵の身分を差し上げて婿養子に入って頂くことも出来るのではないかと、すぐに気持ちを新たにした。
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