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第三幕 学生期

201.白銀のトニー様3 ❤︎

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 人がいない所まで来ると、ようやく、ひと息ついて、リアナは落ち着きを取り戻した。

マーク
「大丈夫ですか?」

リアナ
「大丈夫よ! いつまで触っているつもり!? 離れなさいよ!」

マーク
「具合が悪かったのでは?」

リアナ
「具合なんて悪くなってないわよ! 元気に決まってるでしょ!」

マーク
「え!? じゃあ、どうして!?」

リアナ
「うるさい! 女の子には色々あるのよ!」

 急に豹変したリアナをみてマークはびっくりしたが、そういえば、そういうキャラだったと思い直した。

リアナ
「あぁ! もう、これじゃ、ダンスのパートナーは絶望的だわ!」

マーク
「そんなことを言ったら、私だって絶望的ですよ。リアナ様が具合が悪いふりなんてするから!」

リアナ
「何ですって!? 私の所為だって言いたいの!?」

マーク
「だって、そうでしょう?」

 リアナは急に押し黙り、考えはじめた。

 あんなに注目された後で、あの場に戻ってパートナー探しなど出来ないわ! だとしたら、このままダンスの授業に行けば、余り物の不細工男子か、性格の悪い女子としかペアが組めなくなる。

 リアナはジロジロと値踏みするようにマークを眺めた。

 マークはチビだが、不細工ではない。イケメンではないが、気持ち悪くはない。普通である。平民だが、母方は男爵家だし、大富豪ホワイトリー家の嫡子である。

 そこまで、外聞は悪くないわね...

マーク
「な、なんなんですか!?」

リアナ
「...いいわよ。」

マーク
「はい!?」

リアナ
「だから! 責任をとってペアを組んでやってもいいって言ってるの!」

マーク
「え!? 本当に!?」

 マークとしても、リアナは悪くない。性格に問題はあるが可愛いし、男爵令嬢だ。男と組まされるよりはずっといい。

リアナ
「ダンスは踊れるんでしょうね?」

マーク
「まぁ、それなりには」

リアナ
「下手くそだったら承知しないわよ!」


_______


 タイラとカレンを載せた馬車が王宮から王立学校に向かっていた。

カレン
「はぁ。とうとう、ダンスの日が来てしまったわ。なんて憂鬱なのかしら!」

タイラ
「......」

カレン
「最後のダンスパートナーだというのに...」

タイラ
「トニー様の何が不服なんですか!? あんまり、トニー様を悪く言うなら、姉上でも許しませんよ!」

カレン
「トニー様のことを悪くなんて言っていないでしょう! 好きな人と、レオ様と踊れないことをなげいているのです!

タイラ
「はぁ、そうですか...」

カレン
「タイラ、やっぱり、ダンスのパートナーを交換して頂戴!」

タイラ
「いいですけど、ご自分でトニー様に仰って下さいね」

カレン
「分かったわ」

タイラ
「はぁ!? 本気で言うつもりですか!?」

カレン
「トニー様には、タイラがトニー様とどうしてもペアになりたいと申しておりますと言いますわ。だから、仕方なく、弟に譲りますと!」

タイラ
「そんなことを言ってトニー様が傷付かないとでも!?」

カレン
「傷付いたりはしないわよ。ワタクシは踊りたくないとは言わないもの。むしろ、タイラが自分と踊りたいと思っていることが分かればトニー様は喜ぶのではないかしら?」

タイラ
「た、確かに...トニー様はそうかもしれません。だけど、トニー様はともかく、レオが納得すると? 下手をすると、あの女子達のように嫌われますよ?」

カレン
「タイラがレオ様よりもトニー様とペアを組みたいのは本当でしょう? 貴方からも言ってくれれば大丈夫よ。ね、いいでしょう?」

タイラ
「いいですけど、トニー様が男同士は嫌だと言ったら、すぐに諦めて下さいね」

カレン
「分かってるわ! タイラ、有難う!」

 やったわ! ついに、望みが叶うわ! あの大人しいトニー様が、王子にダンスのペアを所望されて、断れるはずがない! これで、私はレオ様とパートナーを組めますわ!

 馬車が本校舎の前に到着し、タイラとカレンは待ち合わせ場所のロビーへと進んだ。


 すると、すぐに異様な雰囲気が漂っている事に気が付いた。

 困惑する男子学生達と項垂(うなだ)れる女子学生達でごった返しているのだ。

タイラ
「何事だ?」

 学生達は、王族の登校に気が付き道を開けた。

 道が開くと、ソファーに座る1人の美しい男子学生が目に飛び込んで来る。

 カレンは、その夢のような美少年に釘付けになった。

 白銀の髪が輝く美少年は、カレンを見つけると立ち上がり、まるで運命の恋人を見つけたかのように、微笑んで歩み寄って来た。

 カレンは、その少年に引き寄せられるように、フラフラと前に歩み出た。

 何て美しい方なの! レオ様も、とろけるような美少年だけど、この方の美しさは、そういったものとは違う美しさだわ! 神々しいというか、何か大きな力で引き寄せられるというか。そう! レオ様は誰も寄せつけない感じがするけれど、この方は、誰もかれも受け入れて慈(いつく)しんで下さるような、不思議な吸引力がある。

 白銀の美少年は、御伽噺のヒーローのように、エレガントな所作でお辞儀をした。

 そして、その形のよい唇から、柔らかく良く響く美しい声が流れる。

アントニオ
「晴れ渡る空に鳥の声がこだまする、このような美しい日に、カレン様の手を取り、ダンスを共に踊れます事を、心より嬉しく思います」

 美少年は、これまた美しい所作でカレンの手を取り、その手の甲に桃色の唇で口付けをした。

 カレンは心臓が爆発しそうだった。

 夢かしら? まるで、千年もの間ずっと待っていた恋人であるかのように、運命を感じる。あぁ、いけないわ! 私はまだ、トニー様のダンスパートナーなのに! しかも、レオ様と変わってもらうとタイラと約束したばかりだというのに! まぁ、何て運命なの!? でも、きっと、この方こそが私の運命なのだわ!

アントニオ
「カレン様、教室までエスコートする名誉を私に与えて下さいますか?」

 白銀の美少年がカレンに腕を差し出す。

タイラ
「あ、トニー様! その...非常に言い難(にく)いのですが...」

カレン
「へ? トニー様?」

アントニオ
「あ、はい。申し訳ありません。今日は、少しお洒落をして来ましたので、分かりませんでしたか?」

カレン
「え!? 本当にトニー様!?」

タイラ
「あぁ、だいぶ印象が違うから、はじめは誰かと思ったんだが、リッカルドやヴィクトーもいるし、よく見たらトニー様の顔だなと」

ヴィクトー
「さすが王子! 私やロッシ(リッカルド)は、気が付かず、トニー様のことを別の方だと思ってしまいました」

タイラ
「そうだろう! 自分でいうのもなんだが、俺は結構、人を見る目が確かなんだ」

アントニオ
「ところで、タイラ様。先程、何かを言い掛けていませんでした? 言い難(にく)い事がどうとか」

タイラ
「そ、そうなんだ...実は...」

カレン
「沈黙!! 沈黙! 沈黙! 沈黙!!!」

 カレンはもの凄い勢いで沈黙魔法を発動させた。

タイラ
「うぐっ...!?」

アントニオ
「ど、どうされたのですか!? カレン様?」

カレン
「タイラったら、今朝からずっとトニー様とダンスのペアになりたいと駄々をこねるものですから...オホホホ。ワタクシがペアですのに、代わってくれと煩くて! さ、今のうちに授業に行きましょう!」

 カレンはアントニオの腕につかまり、笑顔でアントニオの出発を促した。

タイラ
「ムググ...!」

 タイラは怒っている様子だが声が出ないようだ。

アントニオ
「でも、タイラ様が...」

カレン
「大丈夫です。タイラなら魔力が高いから、すぐに沈黙魔法は解けますから!」

アントニオ
「タイラ様、御免なさい! ダンスはカレン様と先にお約束しましたので。でも、私と踊りたいと仰って下さって嬉しいです。レオは私より先に学校に到着しているはずですので、もう、教室にいると思います。では、私達は別のクラスですので、失礼いたします」
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