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第三幕 学生期

193.誤解の誘拐事件再び4

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 ディーデリックを連れてバルドとリンはアントニオの眠る部屋へとやってきた。

 家庭教師の授業を受けているはずのアントニオが、ベットに寝ていたのでバルドとリンは慌てた。

バルド
「エスト! 」

リン
「大丈夫か!?」

 眠っているアントニオの肌には蕁麻疹がいくつも浮かんでいた。

 あぁ、何てことだ! そういえば、エストは置いていかれたら、心配で精神と肉体が分離すると言っていた! まさか、本当だったとは!

ディーデリック
「トニー!?」

 ディーデリックが呼び掛けると、ピクッとアントニオが動いた。

アントニオ
「ん? ...ディック...?」

ディーデリック
「そうだよ!」

 ディーデリックがベッドに寄ると、アントニオはガバッと起き上がった。

アントニオ
「ディック! 無事だったんだ! 良かった!」

ディーデリック
「はい」

 アントニオは顔を真っ赤にして、目から涙を流し、ディーデリックを抱きしめた。

アントニオ
「ぐすっ...良かった...良かった!」

 ディーデリックを抱きしめるアントニオの腕はとても熱く、とても優しかった。アイリスと違って、少し汗臭い匂いがしたが、かえって安心出来ると、ディーデリックは思った。

 震えながら自分にしがみつき、喜ぶアントニオを見て、ディーデリックは、数日前まで、どうしてアントニオの事を怖いと思っていたのか、自分で自分が不思議でならなかった。

アントニオ
「どうだったの? どうなったの?」

 ディーデリックを離して、アントニオは3人を見回しながら尋ねた。

リン
「結果から言うと、ディックは俺の叔父さんになった」

「「「は!?」」」

 アントニオだけでなく、ディーデリックもバルドも驚いた。

バルド
「ディックはアイリスの養子になったんだろ?」

リン
「あぁ、アイリスは俺の祖母さんだから、ディックは俺の叔父さんで、俺はディックの甥っ子になったんだ。」

アントニオ
「えぇ~~!? アイリスって、リンのお祖母ちゃんだったの!? というか、どうしてそうなった??」

リン
「オッケルからディックを救出する際に、奴隷の無償譲渡書類にアイリスの名前を使ったんだが、そしたら、アイリスがディックの所有権を主張してきて大変だったんだ」

アントニオ
「アイリス様の奴隷になっちゃったってこと?」

ディーデリック
「いえ、無事に奴隷解放を手続きをして頂きました」

リン
「だが、解放するかわりに養子になれと言われたんだ」

アントニオ
「いいよって言ったの?」

ディーデリック
「ママになってくれるとおっしゃったので...」

アントニオ
「そっか、良かったね! 」

ディーデリック
「お金ももらったんです! 銀行口座を作ってくださって、生活費を毎月振り込んでくれるそうです」

アントニオ
「凄い! いくらくれたの!? あ、聞いても大丈夫?」

ディーデリック
「大丈夫です。470万イェ二ほど、口座に入れてもらいました」

 あれ? さっき月々って言わなかったっけ? 1年分かな?

アントニオ
「470万イェ二? すごいね!いっぱいもらったんだね! ジーンシャンの魔導騎士の新兵の給与よりも多いね!」

 ジーンシャン魔導騎士団の初任給は25万イェ二もあり、大変な高給取りとされている。年収にすると300万イェ二である。

ディーデリック
「いえ、普段は手を付けない約束の緊急時用の300万イェ二も含まれていますので、使ってもいいのは170万イェ二だけなんです。」

 1年で170万イェ二なら、月々14万イェ二か。庶民の平均月収は12万イェ二だから、学生寮で暮らすディックには十分な金額だよね?

アントニオ
「あ、では庶民の平均的な収入より、ちょっといい位ですね。学生寮で家賃も食費もタダだから、凄い金額のお小遣いになりますね!」

バルド
「ちょうどいいだろ?」

リン
「社交界用の衣装やジュエリーを買う事を考えたら足りなくないか?」

アントニオ
「衣装はお金を貯めて買わないといけないと思うけど、社交界デビューは14歳からだし、ジュエリーはリンやアイリス様が貸してあげればいいんじゃない? 下手に買うより、ずっといい物を持ってるだろ?」

リン
「それもそうか。」

バルド
「それよりエスト。お前、具合は大丈夫なのか?」

アントニオ
「大丈夫。ディックが誘拐されたって聞いて、ちょっと気分が悪くなっただけだから。家庭教師の授業はお休みしちゃったけど...って、そうだ! 皆にディックが無事だって教えてあげないと! 皆、心配してるんだよ!」

リン
「また、誘拐されたと誤解したのか?」

バルド
「そそっかしい奴等だ。」

アントニオ
「いや! 大変だったんだから!」

リン
「お前は、俺達が行ったって知ってただろ?」

アントニオ
「でも、なかなか帰って来ないから、もしかしたらと思って!」

バルド
「それで、具合が悪くなって蕁麻疹か? 勘弁してくれ、こっちの寿命が縮む!」

アントニオ
「そんなこと言われてもね? 体でも鍛える?」

リン
「体は鍛えてるだろ?」

バルド
「精神を鍛えろ!」

アントニオ
「どうやって? 肝試しでもする?」

バルド
「それで、心配症や怖がりな性格が治るのか?」

リン
「肝試しじゃ治らないだろ。 」

アントニオ
「でも、大丈夫だよ。きっと今は体が子供だから、精神と肉体とで差があって、分離しやすいんだと思う。赤ちゃんの時は、もっと分離してたし!」

ディーデリック
「肉体が子供? どういう事ですか?」
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