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第三幕 学生期

191.誤解の誘拐事件再び2

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 アルベルト、ジュゼッペ、アウロラは屋敷に帰り、グリエルモとメアリーに報告した。

アルベルト
「ディーデリックを誘拐した犯人は背が高く、1人は私(アルベルトは186cm)と同じくらい、もう1人はそれ以上の大男で兄上(グリエルモ は190cm)よりも大きな男だったそうです。いずれも非常に明るいプラチナブロンドで、水色の瞳、人間離れした美男子で、年齢は30代前後。非常に質の良い衣服を着ており、白毛のユニコーンが引く馬車に乗っていたとのことです。

オッケル男爵が言うには、犯人から、ディーデリックには魔導騎士としての価値がないから無償で手放すようにと言われ、さもなくばジーンシャン家を敵に回すことになると脅されたそうです。お金持ちのご婦人が大事にしてくれるとも言われ、承諾してしまったと仰っていました」

グリエルモ
「白毛のユニコーンを扱えるということは、その男のどちらか、もしくは2人とも、魔力が600以上あるという事だな。」

メアリー
「魔力が600以上ある人間なんて、この国には数える位しかいないわ。まして、そんな高身長なんて...」

アルベルト
「ジーンシャン以外の領でユニコーンを所有する領があるのでしょうか? 特に白毛となると、ここには父上のユニコーンが1頭いるだけです。ジーンシャン領内だけでも3頭しか所有していないですよね?」

アウロラ
「ですから、ジーンシャンの魔導騎士が裏切ったのではないと思いますよ。魔力が600超えているのは、グリエルモ様とメアリー様、ロベルト様、リュシアン義兄様しかいませんからね」

アルベルト
「帰宅後すぐに確認しましたが父上の白毛のユニコーンは厩舎にちゃんとおりました」

ジュゼッペ
「他領で600の魔力を超える人間がいる可能性あるのは、カーン伯爵家とヴンサン侯爵家、マジョルガ辺境伯家、それから、公爵家と王家位です。ですが、グリエルモ様よりも背が高い男なんていなかったはず...」

グリエルモ
「白いユニコーンを所持し、操る、背の高い男...まさか、魔族が犯人...!?」

 大人5人が深刻な顔で話し合っていると、子供達がオデットさんに連れられて部屋に入ってきた。アントニオ、レオナルド、エドアルド、カリーナだ。

 深刻な表情の大人達を見て、子供達は心配した。

レオナルド
「どうしたのですか? 何か、問題が?」

メアリー
「な、何でもないのよ。」

エドアルド
「本当に?」

アルベルト
「あぁ、心配はいらないよ。」

 アントニオは腹を立てていた。

 ディックの養子縁組を内緒で進めようとして、大人同士で話し合っているんだな! 今頃、きっとルドとリンが上手くやってくれていると思うけど、父上や母上はどうするつもりなんだろう。少し、探りを入れるか。

アントニオ
「母上、今日は15:00から家庭教師の先生がいらっしゃるのですけど、ディックは一緒に勉強出来ないのですか?」

メアリー
「そ、そうね...わからないけど、今日は戻ってこれないかもしれないわ」

アントニオ
「ディックにエドが服をあげたのですが、それがまだクローゼットに掛かっているんです。届けに行ってもいいですか?」

メアリー
「駄目よ! ...ほら、これから家庭教師の先生とお勉強でしょう?」

アントニオ
「お勉強の後で行ってもいいですか?」

メアリー
「ダメダメ!」

アントニオ
「何でですか?」

メアリー
「お勉強が終わったら夕食でしょう?」

アントニオ
「でも、オッケル男爵の屋敷は馬車ならすぐですよ」

メアリー
「とにかく駄目! 外は危ないわ!」

アントニオ
「父上と母上と一緒でも?」

メアリー
「私とグリエルモは忙しいのです!」

アントニオ
「こちらの仕事は叔父上がしているのに、父上と母上は何をする予定なのですか? 私も一緒にいてもいいですか?」

アントニオは、メアリーが返事に困るのを分かっていて質問していた。

メアリー
「大人は色々とやる事があって忙しいのです。今日は、勉強が終わったらすぐにディナーをして、それからすぐに寝なさい。無理をするから疲れて学校で倒れたんでしょう? 休みなさい」

アントニオ
「今日は父上も母上も一緒にいられないのですか? 執務室で仕事するのではなくて、何処かに出掛ける予定なのですか?」

 いつものお返しだ! 少しくらいは、いつも監視されて困っている俺の気持ちを知るといい! ウザイと思って母上は俺に付き纏わなくなるかも?

メアリー
「私達は行かなくてはいけない場所があるのです」

アントニオ
「どうしても、一緒に行っては駄目なのですか? 子供じゃ入れない場所なのですか? でなければ、一緒に行きたいです」

 メアリーは困惑していた。しかし、メアリーの困惑は、アントニオの思惑とは大分外れたところにあった。

 いつもは全然甘えてこないのに、何で今日に限って限って甘えてくるの? ディックを探しに行かないといけないのに! お友達がいなくて寂しいの? やっぱり、1人でいるのが怖いのかしら? とっても可愛いわ。ずっと一緒にいてあげたい!

グリエルモ
「メアリーは、トニーと一緒にいてあげたら?」

メアリー
「相手は2人以上いるのよ!? グリエルモ1人では危険だわ!」

アントニオ
「ん? やっぱり、何かあるのですね?」

メアリー
「あ、えっと...」

アントニオ
「母上、私に言わなくてはいけない事があるのでは?」

メアリー
「な、何のことかしら?」

アントニオ
「知っているんですよ。ディックの養子縁組をして、ディックをジーンシャン領に移り住まわせて、私のことも連れ帰ろうとしていましたね?」

メアリー
「な、何で知って!?」

アントニオ
「しかも、オッケル男爵に騙されて1億イェ二を支払うって言ったんですか?」

グリエルモ
「どうしてそれを...?」

アルベルト
「オッケル男爵は私達を騙してなんかいませんよ。お金を受け取らずに、ディーデリックを無償譲渡されたのです」

アントニオ
「本当に? では、ディックは何処に? 新しい親御さんのところですか?」

グリエルモ
「トニー、落ち着いて聞いて、ディックは竜騎士の名を語る男達に攫われてしまったんだ」

アントニオ
「え!? 攫われた!?」

 そんな!? どうしてだ!? ルドとリンが迎えに行ったはずなのに...ディックを連れていったのはルドとリンじゃないのか? ...でも、だったら何故帰って来ないんだ!?

 アントニオはショックだった。

 やっと仲良くなれた友達が、攫われてしまった。そして、ディックが怖い思いをしているかもしれないと思ったら、手足から血の気が引いて、アントニオは立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。

 そういえば、つい先日、精神分離したばかりだった。危ない...し、深呼吸しなきゃ!

 スーハー...

メアリー
「トニー!?」

 メアリーが慌てて支える。

 グリエルモが抱き抱えてアントニオの部屋まで移動し、ベッドに寝かせた。

グリエルモ
「心配しないで、必ずディックは取り戻して来るからね」

メアリー
「こんな状態のトニーを置いていかないといけないなんて!」

グリエルモ
「なら、私とアルベルトで行ってくる。」

メアリー
「馬鹿言わないで! 私が行くわ! 相手は魔族かもしれないじゃない! アルベルト様は子供達を守っていて下さい!」

アルベルト
「わかりました。」

 アントニオの世話をジュゼッペとアウロラに頼み、グリエルモとメアリーは出動していった。
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