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第三幕 学生期
158.リンの家
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アントニオは封印の間で、フワフワと漂いながら、リンの家を探していた。
エスト
「全然見つからないなぁ~。ルドの家の隣だって聞いてたのに、てっきり金ピカな宮殿でも建てているんだと思ってたんだけどな...」
あるのは、森と湖とお花畑、あと、野菜が植えてある畑。
それにしても、綺麗な湖だな。
湖は結構な大きさがあり、深さもありそうだ。水は底まで透けて見えるほど澄んでいる。
あれ?
水の底にお部屋がある!?
ガラス張りの部屋のようなものが、湖の底にあり、ソファーやテーブルが置かれているのが見える。
湖の一角にはビーバーの作るダムのような、枝が組まれた山があり、その枝は水底から水上10m位の高さまで積み上げられている。その枝の山と、ガラス張りの部屋は連結しているようだ。
これがリンの家だ!
アントニオは確信したが、どうやって入るのか、分からなかった。何せ、枝の山は陸には隣接していないのだ。
ウロウロしていると、馬の嘶(いなな)く声が聞こえた。
青毛(黒)にオーロラ色の鬣(たてがみ)を持つ、ケルピーが掛けて来る。
エスト
「ルミノ君! エストだよ! 分かる? 実体がないから分からないかな?」
ルミノ君は、再び嘶いた。
エストの周りをグルグルと嬉しそうに回る。
エスト
「分かってくれたのかな? 嬉しいな! ルミノ君は良い子だね! よしよし! ところで...リンの所に行きたいんだけど、どうやって行けばいいのかな?入り口はどこ?」
ルミノ君は後ろ足をヒレに変化させ、水中に飛び込んだ。
エスト
「やっぱり、水中か...」
意を決して水に飛び込む。
肉体がないし、水中で息をしたり出来るのではないかと思ったが、飛び込んだ時にリアルな水の感触がして、思わず息を止めた。
水上に顔? を出してから呼吸する。
口はないが、口? を水につけて水を吸い込むと普通に水が飲めた。
美味しい水ですね。
自分の身体は見えないけど、地面をすり抜けたりはしないし、ピアノも弾ける。あったかいとか、涼しいとか、風が気持ちいいとか感じるし、5感があるのだ。
エストは水中呼吸は諦めて、思いっきり息を吸ってから、息を止めて潜ってみた。
水中では、ケルピーさんが待っていて、誘導してくれる。
結構深く潜ったが、息は苦しくならなかった。
感覚は一緒だけど、体がないから生命維持とかはする必要がないのかな?
体が酸素を必要としないから、呼吸をしなくても苦しくないんだ、きっと!
枝の山の麓(ふもと)に穴が開いていて、洞窟みたいになっている。中は明るい。枝の間から光が差し込んでいるのだ。おそらく、枝の中に光の魔導具が入っているのだろう。洞窟にルミノ君と入り、奥に進むと上に上がる斜路(スロープ)になっていて、水から出て空気のある場所になった。
そこには突然、バリの高級リゾートホテルのような玄関が現れた。
呼鈴が付いているので、押してみる。
チリリリン!
思いのほかに可愛い音が鳴る。
リン
『今、手が離せないから勝手に入れ。』
インターフォンだ!
こっちの世界では見たことなかったけど、龍人の家はハイテクなんだな。
自動で扉が開く。
エスト
「有難う。お邪魔します。」
リン
『は!? エスト!? ちょっと待ってろ!』
エスト
「はーい!」
開いた扉から玄関口に入ると、中もやはり高級リゾートホテルのようなロビーになっている。ケルピーのルミノ君が歩いても狭くないほど広く天井が高い。
大理石で出来たツルツルピカピカの床に、籐(とう)で編んだソファーが置かれている。枝で出来た天井や壁からは、やはり木漏れ日のような明かりが差し込んでいる。
南国の葉っぱ風の観葉植物や、色鮮やかなお花が詰め込まれた大きな花瓶が飾られている。
何だ! このお洒落な癒し空間は! めっちゃいいじゃん!
リン
「エスト!!」
エスト
「ここ、ここ! ここにいるよ!」
リン
「どうしたんだ!? どうしてここに? 体は何処だ?」
エスト
「えっと、今は精神だけでここに来てるんだ。
ちょっとショックな事があって、体の方は具合が悪くなっちゃって。今、体はルドが安全な場所に移動してくれているはず。
どうして、ここに来たのかは分からないんだけど、もしかしたら、肉体と精神が分離気味だったりするのかなぁ~と。」
リン
「それって、大丈夫なのか? 死にかけてないか?」
エスト
「大丈夫だよ。怪我したわけでも、病気したわけでもないんだ。それに、赤ちゃんの時は、頻繁にここに来ていたし。」
リン
「ならいいが...ショックな事って、何があったんだ?」
エスト
「うん...今日は、音楽の授業だったんだけど、クラスメイトの殆どが、俺の歌を怖がって授業をとらなかったんだ。それで...皆が俺の事をどう思ってるかが分かっちゃって...」
リン
「そうか...それで、具合が悪くなるほどショックだったと...」
エスト
「うん。」
リン
「お前...本当に今までよく生きてたよな。」
チリリリン!
呼鈴が鳴る。
リン
「今度こそルドか?」
自動扉が開いて、バルドが入って来る。
バルド
「リン! 急いで来てくれ!」
リン
「あぁ。」
エスト
「大丈夫そう?」
バルド
「エストも、ここにいたのか。とりあえず、ベッドに寝かせたが、身体が冷たいし、呼吸が止まった。」
リン
「やっぱり、死にそうなんじゃないか!」
エスト
「え? 本当? 全然、今は苦しくないけど? あれ? さっき、水に潜るのに息を止めたからかな?」
バルド
「何やってんだ馬鹿! 息はしていろ! リン、早く来てくれ!」
リン
「エスト、お前はここでゆっくりしてていいからな。」
エスト
「うん。有難う。」
2人が消えた後、エストはケルピーのルミノ君と一緒にリンの家を探索し始めた。
エスト
「水中ガラス張りのお部屋を覗きに行こう!」
楽しい事をして精神を回復したら、きっと自然と魂は身体に戻るだろう。
エストは、そう思った。
________
リンとバルドは寮の部屋で、アントニオの体の様子をみていた。
リン
「呼吸はどうやら落ち着いたみたいだが...少し血の巡りが悪そうだな。それに、少し蕁麻疹(じんましん)のような発心(ほっしん)が出ている。」
リンはアントニオの手や足の先をさすりながら言った。
バルド
「聖女を連れてくるか?」
リン
「いや、聖女は体の回復魔法は使えるが、今回は精神的な問題だろ? 精神属性の回復魔法が使えるやつじゃないと駄目だろ。」
バルド
「そんな奴、知り合いにいるのか?」
リン
「...エストだな。」
バルド
「エストか...」
リン
「ほっといても治ったりするんじゃないか?」
バルド
「だが...このまま死んだら...」
リン
「まぁ、そうだな。とりあえず、龍人で1番、人間に詳しい奴の所にエストを連れて行くか。」
バルド
「俺も行く。そいつは何処にいるんだ?」
リン
「カーン伯爵領の湿原だ。」
バルド
「賢者の領地か?」
リン
「あぁ、龍人はアイリスという。」
エスト
「全然見つからないなぁ~。ルドの家の隣だって聞いてたのに、てっきり金ピカな宮殿でも建てているんだと思ってたんだけどな...」
あるのは、森と湖とお花畑、あと、野菜が植えてある畑。
それにしても、綺麗な湖だな。
湖は結構な大きさがあり、深さもありそうだ。水は底まで透けて見えるほど澄んでいる。
あれ?
水の底にお部屋がある!?
ガラス張りの部屋のようなものが、湖の底にあり、ソファーやテーブルが置かれているのが見える。
湖の一角にはビーバーの作るダムのような、枝が組まれた山があり、その枝は水底から水上10m位の高さまで積み上げられている。その枝の山と、ガラス張りの部屋は連結しているようだ。
これがリンの家だ!
アントニオは確信したが、どうやって入るのか、分からなかった。何せ、枝の山は陸には隣接していないのだ。
ウロウロしていると、馬の嘶(いなな)く声が聞こえた。
青毛(黒)にオーロラ色の鬣(たてがみ)を持つ、ケルピーが掛けて来る。
エスト
「ルミノ君! エストだよ! 分かる? 実体がないから分からないかな?」
ルミノ君は、再び嘶いた。
エストの周りをグルグルと嬉しそうに回る。
エスト
「分かってくれたのかな? 嬉しいな! ルミノ君は良い子だね! よしよし! ところで...リンの所に行きたいんだけど、どうやって行けばいいのかな?入り口はどこ?」
ルミノ君は後ろ足をヒレに変化させ、水中に飛び込んだ。
エスト
「やっぱり、水中か...」
意を決して水に飛び込む。
肉体がないし、水中で息をしたり出来るのではないかと思ったが、飛び込んだ時にリアルな水の感触がして、思わず息を止めた。
水上に顔? を出してから呼吸する。
口はないが、口? を水につけて水を吸い込むと普通に水が飲めた。
美味しい水ですね。
自分の身体は見えないけど、地面をすり抜けたりはしないし、ピアノも弾ける。あったかいとか、涼しいとか、風が気持ちいいとか感じるし、5感があるのだ。
エストは水中呼吸は諦めて、思いっきり息を吸ってから、息を止めて潜ってみた。
水中では、ケルピーさんが待っていて、誘導してくれる。
結構深く潜ったが、息は苦しくならなかった。
感覚は一緒だけど、体がないから生命維持とかはする必要がないのかな?
体が酸素を必要としないから、呼吸をしなくても苦しくないんだ、きっと!
枝の山の麓(ふもと)に穴が開いていて、洞窟みたいになっている。中は明るい。枝の間から光が差し込んでいるのだ。おそらく、枝の中に光の魔導具が入っているのだろう。洞窟にルミノ君と入り、奥に進むと上に上がる斜路(スロープ)になっていて、水から出て空気のある場所になった。
そこには突然、バリの高級リゾートホテルのような玄関が現れた。
呼鈴が付いているので、押してみる。
チリリリン!
思いのほかに可愛い音が鳴る。
リン
『今、手が離せないから勝手に入れ。』
インターフォンだ!
こっちの世界では見たことなかったけど、龍人の家はハイテクなんだな。
自動で扉が開く。
エスト
「有難う。お邪魔します。」
リン
『は!? エスト!? ちょっと待ってろ!』
エスト
「はーい!」
開いた扉から玄関口に入ると、中もやはり高級リゾートホテルのようなロビーになっている。ケルピーのルミノ君が歩いても狭くないほど広く天井が高い。
大理石で出来たツルツルピカピカの床に、籐(とう)で編んだソファーが置かれている。枝で出来た天井や壁からは、やはり木漏れ日のような明かりが差し込んでいる。
南国の葉っぱ風の観葉植物や、色鮮やかなお花が詰め込まれた大きな花瓶が飾られている。
何だ! このお洒落な癒し空間は! めっちゃいいじゃん!
リン
「エスト!!」
エスト
「ここ、ここ! ここにいるよ!」
リン
「どうしたんだ!? どうしてここに? 体は何処だ?」
エスト
「えっと、今は精神だけでここに来てるんだ。
ちょっとショックな事があって、体の方は具合が悪くなっちゃって。今、体はルドが安全な場所に移動してくれているはず。
どうして、ここに来たのかは分からないんだけど、もしかしたら、肉体と精神が分離気味だったりするのかなぁ~と。」
リン
「それって、大丈夫なのか? 死にかけてないか?」
エスト
「大丈夫だよ。怪我したわけでも、病気したわけでもないんだ。それに、赤ちゃんの時は、頻繁にここに来ていたし。」
リン
「ならいいが...ショックな事って、何があったんだ?」
エスト
「うん...今日は、音楽の授業だったんだけど、クラスメイトの殆どが、俺の歌を怖がって授業をとらなかったんだ。それで...皆が俺の事をどう思ってるかが分かっちゃって...」
リン
「そうか...それで、具合が悪くなるほどショックだったと...」
エスト
「うん。」
リン
「お前...本当に今までよく生きてたよな。」
チリリリン!
呼鈴が鳴る。
リン
「今度こそルドか?」
自動扉が開いて、バルドが入って来る。
バルド
「リン! 急いで来てくれ!」
リン
「あぁ。」
エスト
「大丈夫そう?」
バルド
「エストも、ここにいたのか。とりあえず、ベッドに寝かせたが、身体が冷たいし、呼吸が止まった。」
リン
「やっぱり、死にそうなんじゃないか!」
エスト
「え? 本当? 全然、今は苦しくないけど? あれ? さっき、水に潜るのに息を止めたからかな?」
バルド
「何やってんだ馬鹿! 息はしていろ! リン、早く来てくれ!」
リン
「エスト、お前はここでゆっくりしてていいからな。」
エスト
「うん。有難う。」
2人が消えた後、エストはケルピーのルミノ君と一緒にリンの家を探索し始めた。
エスト
「水中ガラス張りのお部屋を覗きに行こう!」
楽しい事をして精神を回復したら、きっと自然と魂は身体に戻るだろう。
エストは、そう思った。
________
リンとバルドは寮の部屋で、アントニオの体の様子をみていた。
リン
「呼吸はどうやら落ち着いたみたいだが...少し血の巡りが悪そうだな。それに、少し蕁麻疹(じんましん)のような発心(ほっしん)が出ている。」
リンはアントニオの手や足の先をさすりながら言った。
バルド
「聖女を連れてくるか?」
リン
「いや、聖女は体の回復魔法は使えるが、今回は精神的な問題だろ? 精神属性の回復魔法が使えるやつじゃないと駄目だろ。」
バルド
「そんな奴、知り合いにいるのか?」
リン
「...エストだな。」
バルド
「エストか...」
リン
「ほっといても治ったりするんじゃないか?」
バルド
「だが...このまま死んだら...」
リン
「まぁ、そうだな。とりあえず、龍人で1番、人間に詳しい奴の所にエストを連れて行くか。」
バルド
「俺も行く。そいつは何処にいるんだ?」
リン
「カーン伯爵領の湿原だ。」
バルド
「賢者の領地か?」
リン
「あぁ、龍人はアイリスという。」
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