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第三幕 学生期

150.ダンスパートナー2 ❤︎

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 周囲は張り詰めた空気になり、女子生徒達の多くが息を飲んだ。

レオナルド
「いえ、まだです。」

 辺りからドッと女生徒達の安堵の溜め息が漏れる。

 ジュン王太子やカレン王女も胸をなでおろす。

ジュン王太子
「そうか。去年のパートナーと再び組むのかと思っていたが、今年は変えるつもりがあるのだな?」

レオナルド
「はい。実は昨年のパートナーは背が低い方だったので、踊りにくかったのです。私は今後も背が伸びそうですし、今年は背の高いパートナーを探すつもりです。」

 すると、背の高い女子生徒から歓喜の声が上がる。同時に、背の低い女子生徒が嘆きの声を漏らした。

 流石にレオナルドも、周囲の女子生徒の反応が気になり、ちらっと視線を送る。目があった子達にレオナルドが笑顔を向けると、3名ほどの女子生徒は、興奮し過ぎて立っていられなくなり、その場にフラフラとしゃがみ込んだ。

 カレン王女は5年生で17歳ということもあり、163cmと背があるほうだ。期待の眼差しをレオナルドに向けた。

レオナルド
「実は、去年のダンスのテストで『良』という評価をとってしまいまして、今年は絶対に『優』以上をとれと、祖父から言われているのです。今年は10通ほど、申し込みの手紙を頂いていまして、この中から背が高くて、去年のダンスの成績が優秀だった方を選びたいと思っています。」

ジュン王太子
「すでに申し込みが10人も!?」

 周囲の女子生徒達は地団駄を踏んで悔しがった。

 事前に、手紙で申し込むだなんて! 思いつかなかった! 何てズル賢い女がいるの!


カレン
「ですが、まだ、お決めにはなられていないのでしょう?」

 カレンは毎年、ダンスの成績は『優』である。王女として、子供の頃よりダンスを習っていたからだ。カレンは、自分がレオナルドの希望の条件にあっていると思い、自信のある笑みを浮かべた。

 笑顔になったカレンに、レオナルドも笑顔を返した。

 その甘いマスクに、カレンはゆでダコのように赤くなる。

レオナルド
「はい。実は悩んでおりまして...この中で、身長が1番高いのは4年生の方で174cm、その方は去年のダンスの成績も優をとっているそうです。とても良いのですが、先に卒業されてしまうので、1番試験が難しくなると思われる、4年生と5年生の時に、私は、また、パートナーを探さなくてはいけなくなるのです。

もう1人は、3年生の漆黒の一族の方です。身長が168cmある上、成績が秀で、大変素晴らしいのですが、やはり先に卒業されてしまいます。5年生の時に、いきなり新しいパートナーに変わるのは、4年生の時にパートナーが変わるよりも厳しいのではないかと思うのです。自分が5年生のときには、同学年の女子生徒には既に決まったパートナーがいると思われます。そうすると、経験が低く、背も低い低学年のパートナーと、お互いに踊り慣れていない状態で、最難関の試験に望む事になると思うのです。

もう1人は、1年生で165cm身長がある方です。ダンスは子供の頃から習っていたと記載がありますが、王立学校での成績は不明なので、もしかしたら、あまり上手ではない可能性もあります。

165cm以上ある方はこの3人だけで、あとの方は背が低いのです。私の父も186cmありますし、伯父上(グリエルモ)は190cmあります。私は、今は174cmですが、今後、父や伯父上のように背が伸びると思うのです。だから、このくらいの身長差までが、踊りやすい限度じゃないかと考えています。

殿下は、この3人なら誰がいいと思いますか?」

ジュン王太子
「そ、それは大変、難しい問題だね...」

 レオナルドの望む条件を聞いて、王太子とカレン王女は完全に気落ちした。

 だが、最後の希望を持って王太子は口を開く。

ジュン王太子
「では、今、5年生の相手はどうだろうか? 来年卒業してしまうから、レオナルド君が3年生の際には、再びパートナーを探さなくてはいけないが、その時に、同学年以下の高身長で優秀な女子生徒を探すのは、そんなに難しくないのではないかね?」

レオナルド
「確かに...そうですね。どなたか、良い方をご存知ですか?」

ジュン王太子
「実は、娘のカレンもパートナーを探していて...」

 その時、護衛の2人を伴って、アントニオが通りかかった。

アントニオ
「お早うございます!」

レオナルド
「お早うございます!」

ジュン王太子
「お早うございます。トニー様、本日も大変ご機嫌麗しく、何よりでございます。」

アントニオ
「ジュン様におかれましても、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。」

ジュン王太子
「この娘は、私の長女でカレンと申します。」

 カレン王女は、王太子がアントニオに自分を勝手に紹介してしまったので、少し嫌な顔をした。

カレン
「カレンでございます。」

アントニオ
「グリエルモ ・ジーンシャンの息子にして、辺境伯次期領主のアントニオでございます。お会い出来ましたこと、誠に光栄でございます。」

 護衛の2人もお辞儀する。

 カレンはリッカルドに気が付き話し掛ける。

カレン
「去年の総合バトル以来ですね。」

リッカルド
「ご無沙汰しております。」

カレン
「トニー様の護衛に選ばれるなんて、大変に名誉なことですわね。」

 カレンは皮肉交じりに『大変に名誉なこと』を強調して言った。

リッカルド
「恐縮でございます。」

 カレン王女の冷たい声と、大変不機嫌なご様子に、リッカルドだけでなく、アントニオも恐縮した。

 焦茶の人間に嫌悪感を持っていらっしゃるのかな?  それとも、話の腰を折ったことで不愉快に思われた?

アントニオ
「お話しの邪魔をしてしまって申し訳ありません。何のお話しをされていたのでしょうか?」

ジュン王太子
「話の邪魔など、とんでもありません! ダンスパートナーの話をしていたのです。」

アントニオ
「そうなのですか! ダンスの授業は1人で踊るのではなく、パートナーが必要なのですね!」

レオナルド
「はい。それで、殿下に相談していたところなのです。この中の3人だと、どの方が良いかと。」

 アントニオは、レオナルドに手紙を見せてもらう。

アントニオ
「凄く良い条件の方ばかりですね! わぁ~羨ましい限りです。特に、この3年生の漆黒の一族の方なんて素晴らしいじゃないですか!」

レオナルド
「ですが、私が5年生の時には卒業していないので、5年生でパートナー探しをしないといけないのが難点です。」

アントニオ
「最高評価の秀の成績をとっていらっしゃるということは、この先輩は、とても優れたダンスの技術を持っていらっしゃる事と思います。一緒に組んで、ダンスを教えて頂けるのなら、1番実力がつくのではないですか? そうすれば、5年生の時に、どんなパートナーに変わっても、素晴らしい技術で踊れますよ。」

レオナルド
「流石トニー! そうですね! そうします!」

 すると、一斉に周囲から落胆の声が上がり、中には泣き崩れる学生まで現れた。

 アントニオはビックリして、周囲を見渡した。

 王太子とカレン王女までが項垂れている。

アントニオ
「一体何が!?」

 アントニオは、誰かが恐ろしい魔法でも使ったのではないかと思い、恐怖で縮こまりながら、キョロキョロした。

 ヴィクトーも訳が分からず、周囲を警戒する。

リッカルド
「トニー様、大丈夫です。レオナルド様のダンスパートナーになれなかった学生が落ち込んでいるだけです。」

アントニオ
「あ、そうなのですね。」

 アントニオは、ヤンやタイラから、レオナルドがモテるとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。

 凄い! アイドルみたいだ! 確かに、髪や瞳の色もジーンシャン家特有の宝石みたいな色だし、背も高くてイケメンだ。

 アントニオが、マジマジとレオナルドの顔を見つめていると、レオナルドは左手の甲を右頬に当てて自分の顔を隠した。

レオナルド
「トニー! 見過ぎだから!」

アントニオ
「あ、申し訳ありません。あまりにも羨ましかったので...」

 アントニオは、ジュン王太子に目を向ける。

アントニオ
「あの...もしも、誰にもパートナーを受けて貰えなかったら、どうなりますか? 留年ですか?」

ジュン王太子
「いえ、強制的に余った男子生徒同士でパートナーを組む事になります。」

アントニオ
「え!? 男同士でですか!? ...はぁ、そうですか...ですが、授業が受けられるならそれでも...でも、その相手にも嫌だとか、言われたら、どうしよう...。」

レオナルド
「トニーは伯父上にも似てるし、ダンスもめちゃくちゃ上手いし、きっと希望者は沢山いるよ。断る方が大変だって!」

アントニオ
「そんなことないですよ。焦茶だから絶対に嫌がられると思います。」

レオナルド
「あ! そういえば、先程、カレン王女もパートナーを探していると仰っていませんでしたっけ?」

 アントニオは期待してカレン王女に視線を送った。

カレン
「いえ! 殿下の思い違いですわ! ワタクシには、毎年パートナーを組んでいる相手がおりますの。」

アントニオ
「そうですか...そうですよね。カレン王女のように美しい姫君なら、相手がいないなど有り得ないですものね。」

レオナルド
「では、今、周囲にいる方達は? 皆様、相手が決まっていない方達なのでは?」

 ギクッとする女子生徒達。

 先程まで、嘆いて、その場にしゃがみ込んでいた学生まで、急いで立ち上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 嫌われていると思い、ガッカリするアントニオをみて、カレン王女は何だか少し申し訳なく思った。

レオナルド
「殿下、今いた学生達の名前は全員わかりますか?」

 ジュン王太子は従者を呼んで、すぐに調べるように命令した。

レオナルド
「有難うございます。」

ジュン王太子
「名前を知ってどうする? 復讐でもするのか?」

アントニオ
「え!?」

レオナルド
「いえ、何もしません。ダンスも、会話も、今後一切。」

 カレン王女は、怒っているレオナルドの姿を見て、自分が逃げた女子と同じ考えであったことがバレずに済んで良かったと、心底思った。

 それは、ジュン王太子も同じであった。

 自分の娘が、焦茶を差別する人間だとは知られてはならない! やはり、今後はカレンをトニー様に近付けないようにしよう。
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