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第三幕 学生期

134.剣術の授業1 ♠︎

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 2限は、剣術の授業だ。

 授業が行われるのは闘技場で、担当教師はムワナ・サイフッディン(26歳)という漆黒の一族の先生だ。黒髪に黒い瞳、浅黒い肌。身長は180cmと背が高く、総合格闘技の選手のような引き締まった肉体を持つ。

 そして、この授業は戦士科の6人の学生達も一緒に受講する。戦士科の生徒は毎日、剣術の授業があり、魔法戦士科3クラスの授業にも参加する。

ムワナ
「ルナール先輩(ヴィクトー)! お久し振りです。」

ヴィクトー
「サイフッディン(ムワナ)じゃないか! 久しぶりだな! 教師になったのか!?」

ムワナ
「お陰様で、教員試験に合格いたしました。」

ヴィクトー
「元気そうで何よりだ!」

 182cmあるマッチョのヴィクトーと180cmの色黒マッチョのムワナ先生という、いかつい2人が握手すると、歴史戦国映画のワンシーンのようだ。

ムワナ
「リッカルドも護衛なんですね。」

リッカルド
「はい。ムワナ先生、今年も宜しくお願い致します。」

ムワナ
「今日は市松クラスの初めての授業なので、皆の実力が知りたい。そこで、魔法を一切使わず、剣術で、戦士科の学生と魔法戦士科の学生とで戦ってもらう。

今日は、まだ不慣れな生徒もいると思うので、真剣ではなく、真剣と同じ重さの練習用の剣を用意している。鉄の表面を柔らかいゴムで覆っているが、当たると痛いし、怪我をする可能性も十分にあるから、気を付けるように!

皆には胸と背中、頭に的(まと)を装備してもらう。この三箇所の的に一撃でも食らったら負けだ。もしくは、バトル用の舞台から落ちても負けだ。

試合は勝ち抜き戦方式。負けた者は、死んだものとしてチームを離れる。ただし、勝った方は連闘がきつい場合もあるので、生き残っているチームのメンバーと順番を交代出来る。

魔法戦士科10人に対して、戦士科は6人しかいないが、身体能力の差を考えると妥当であるだろう。対戦順は自分達で話し合って決めるといい。」

リッカルド
「トニー様、全然、妥当じゃないんですよ。大抵、戦士科の学生を1人も倒せずに終わります。」

ヴィクトー
「自分は強いと勘違いしている魔法戦士科の学生の精神を叩き直す、王立学校の洗礼のようなものです。」

アントニオ
「わぁ、そうなんですね!」

 戦士科の学生は皆、身長が160cm前後あり、綺麗な筋肉が付いている。とても強そうだ。

ムワナ
「そんなことはありません。過去に魔法戦士科の学生が勝った試合もあります。去年はレオナルド・ジーンシャンが1人で4人倒していましたし、今年も可能性はあるでしょう。」

アントニオ
「レオってそんなに強いのですね...。」

ムワナ
「グリエルモ様は1人で6人全員倒されたそうですよ。この市松クラスはアントニオ様がいらっしゃるので、試合がどうなるか、楽しみですね。」

アントニオ
「...頑張りますが...きっと、皆様、ガッカリされると思います。」

リアナ
「戦士科の学生は男子しかいないのに、私達も一緒に戦うの?」

ムワナ
「戦場では、相手の性別は選べないから当然だ。」

ラドミール 
「どうやって、順番を決めますか?」

ルーカス
「いつもの順番ですか?」

リアナ
「えぇ~!? か弱い女性を先に戦わせるの?」

フィオナ
「結局、皆が倒されるのだから関係ないでしょう?」

ユーリ
「リアルな戦場を想定するなら、身分の低い順でいいじゃないですか? それで、同じ身分なら女性が後、それなら文句がないのでは?」

マーク
「恐れながら! 交代が許されているのなら、勝てる見込みのある者の連闘を防ぎ、休ませながら戦いませんか?」

アントニオ
「あ、確かにそうですね! 誰なら勝てそうですか? 剣術に自信がある方はいらっしゃいます?」

ラドミール 
「私はそこそこ出来ると思いますが、ルーカスの方が剣術では上ですね。」

マーク
「持久走でタイムが速かった人は体力に自信があり、剣術も強いのでは?」

クリスタ
「でも、風魔法で走行補助していたから、持久走は100%体力というわけではなかったです。」

アントニオ
「私も足は速いけど、剣術はあまり自信がないです。」

ラドミール 
「なるほど、では、とりあえずルーカスで様子をみましょう。ルーカスの剣術をみて、自分がそれより上か下か判断して下さい。」

アントニオ
「承知致しました。」

ムワナ
「では、第1試合は戦士科のボマニ・アナン対、魔法戦士科のルーカス・ミラー。」

 的を胸、背中、頭の三箇所に装着して、模擬戦用の剣を握り、両者、向かい合って構えた。

 ボマニは背が高く166cmある。ルーカスは身長が157cmなので、一回りも二回りも小さい。

ムワナ
「始め!」

 開始の掛け声が聞こえるやいなや、戦士科のボマニは間合いを詰めた。

 そのまま、ルーカスに剣を打ち込む。

 ルーカスは迫ってくるボマニの剣を、自分の剣で払い落とそうとした。

 ゴンッ!

 合わさる剣。

 だが、叩き落とされたのは、ルーカスの剣の方だった。

 ボマニの圧倒的なパワーに押し切られ、ルーカスの剣は宙を舞った。

 そのままルーカスは胸の的を突かれ、試合はあっという間に終了した。


ムワナ
「勝者、ボマニ!」

ラドミール 
「ルーカスのポンコツめ! 全然、勝負にならないじゃないか!」

ルーカス
「それじゃあ、ラドミール様が戦士科の連中を倒して下さいよ!」

ラドミール
「俺は後でいい。」

ルーカス
「そんなこと言って、自分が恥をかかないように、クラスメイトに戦士科の生徒を倒してもらうつもりなんでしょ!」

 ラドミールはルーカスの言葉を無視して、他の学生に質問した。

ラドミール 
「それで、どうだった? ルーカスより上か? 下か?」

ユーリ
「正直、今のじゃ、ルーカスが強いのか弱いのか分かりませんね。」

クリスタ
「でも、戦士科の学生が強いことはわかりました。私では、難しいかもしれません。」

マーク
「やはり、持久走の順番で上位の方にお願い出来ませんか?」

アントニオ
「でも...私は本当に剣術は苦手で...」

エーリク
「では、私が!」

ムワナ
「では、次は戦士科のオニカ・ニャシンベ対、魔法戦士科のエーリク・ハッキネン。」

 エーリクも161cmで背が高く、俊足で中々いい筋肉が付いている。持久走ではアントニオとディーデリックに続いて3番目に速いタイムだ。

 戦士科のオニカは160cmで、ほとんど変わらない体格を持っている。

ムワナ
「始め!」

 エーリクとオニカは同時に前に出た。

 一撃目を打ち合う。

 パワーもスピードも互角か?

 一度、体が離れ、二撃目を打ち合う。

 二撃目の攻撃も互いに受けとめたが、体が離れる僅かな隙をついて、オニカは三撃目を繰り出し、エーリクの胸の的をついた。

ムワナ
「勝者オニカ!」

ルーカス
「あぁ~! エーリク様でもダメかぁ~!」

ラドミール 
「誰か戦士科に勝てる奴は1人くらいいないのか!?」

マーク
「他に持久走で成績がよかったのは?」

ディーデリック
「私です。」

 ディーデリックは持久走のタイムは2番目に良かった。

ラドミール 
「よし、お前が行け!」

ディーデリック
「はい。」

ムワナ
「では次の試合は、戦士科のルストム・ウスマン対、魔法戦士科ディーデリック・バース!」

 戦士科のルストムは163cm。ディーデリックは162cmあるが、ルストムの方が肉付きがいい。

ムワナ
「始め!」

 ディーデリックは、冷静に相手の隙を狙っていた。

 年上の男爵家の兵を相手に訓練してきたのだ。格上の相手と戦うことには慣れている。始めは攻撃を流して、相手の隙をつこう!

 ルストムも、先程の間抜けな坊ちゃん達とディーデリックが違うことに気が付いた。

 こいつ、隙が無い!

 両者、少しずつ間合いを詰めた。

 先に動いたのはディーデリックだ。

 なんだ、全然甘い攻撃じゃないか。

 ルストムは、ディーデリックが突いた剣を軽くいなし、胸の的を突こうと一歩前に出た。

 しかし、ディーデリックの一撃目はフェイントで、薙ぎ払われることを前提に繰り出されたものだった。

 ルストムの予想に反し、ディーデリックは体勢を崩すことなく、クルッと手首を返し、無防備になったルストムの胸の的を目掛けて、剣を突き出した。

 ルストムは、慌てて身体を後ろにそって、攻撃をかわした。そのまま、バク転し、距離をとって体勢を整える。

ルストム
「あっぶな!」

「何やってんだ!」

「ボサッとしてんじゃねぇ!」

 戦士科の仲間から、怒声がとぶ。

ルーカス
「うわぁ~、戦士科って、あんなに運動神経いいの!? 勝つの無理じゃね?」

アントニオ
「わぁ~、そうですね...ディック頑張って!」

ラドミール 
「おい! ディーデリック! 1人くらい倒せ!」

 再び両者は睨み合い、間合いを少しずつ詰めた。

 今度は、ルストムから仕掛ける。

 ディーデリックはルストムの剣を受けようとした。

 だが、次の瞬間、ルストムの剣の軌道が変わる。

 しまった!

 ルストム剣がディーデリックの胸の的を突く。
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