上 下
126 / 249
第三幕 学生期

124.持久走4

しおりを挟む
 三つ目の青い札の通過順は以下の通りになった。

①アントニオ・ジーンシャン
②エーリク・ハッキネン
③ディーデリック・バース
④クリスタ・ヒューゲル
⑤ルーカス・ミラー
⑥マーク・ホワイトリー
⑦ユーリ・ブラウエル
⑧ラドミール・ベナーク
⑨フィオナ・グリーンウェル
⑩リアナ・ジャニエス


 三つ目のポイントを過ぎた頃、護衛騎士の2人は、少しずつアントニオに引き離されつつあった。

リッカルド
『全然ペースが落ちないどころか、加速していないか? やっぱり、トニー様は化け物だ!』

 リッカルドは、氷魔法で体温を下げながらなんとかついていく。

ヴィクトー
『このままだと置いていかれる! 使いたくなかったが、致し方あるまい。』

 火の魔法で空気抵抗を減らして走りやすくする。

 しかし、この魔法は同時に、周りの空気を少しだけ温めてしまう。

ヴィクトー
『どっちの方が、体力を奪わずに走れるのか、まるでわからない。』

 ヴィクトーが額に汗して走っていると、突然、周りの空気が涼しくなった。

 ヴィクトーが横を向くとリッカルドがニヤっと笑顔を向ける。

 氷魔法でリッカルドがヴィクトーを助けたのだ。

ヴィクトー
「何故、手助けを?」

リッカルド
「ジーンシャンの魔導騎士は、より困難な任務を確実に遂行するために助け合うのが基本なんだ。それに...このままじゃ、1人で護衛することになりそうだからな!」

ヴィクトー
「フッ...お前、思ったよりも使えるじゃないか!」

リッカルド
「ロッシ(リッカルドの姓)様、有難う! って言ってくれて構わないけど?」

 ヴィクトーは答えずにそっぽを向いた。

 だが、次の瞬間、空気抵抗が減りリッカルドは走りやすくなった。

 ヴィクトーが火魔法の気流変化でリッカルドの走行をサポートしたのだ。

リッカルド
「何だこれ!? めっちゃ走りやすい!」

ヴィクトー
「ルナール(ヴィクトーの姓)様、有難う! と言ってもいいぞ。」

リッカルド
「無事に任務が完了したらな!」

 2人は同時にニヤっとして、それからは無言で走り続けた。

__________


 ルーカスが走っていると、背の高い女子生徒の後ろ姿を発見した。

 お? あれは、確かグレーザー伯爵領のクリスタ・ヒューゲル。私と同じように騎士の家出身だったはず。

 ショートヘアで活発そうな女子って可愛いよな...。グレーザー領の子ってお洒落だし。クリスタも、スカーフの巻き方をループノットにしてて他の子と違う。

 リアナ嬢のように小柄で脚が短いのに、スカートの丈を短くして懸命に脚を長く見せようとしているのも可愛いんだけど、やっぱ、スカートが長いままでもスラッと伸びた長い脚が見えるって良いんだよな。クリスタはカッコ可愛いっていうか...。

 まぁ、可愛いからって、順位を譲ったりしないけどね。もうちょっとで、抜けそうだ。

 ルーカスがクリスタに並ぶ。

 クリスタは、ルーカスに並ばれて、嫌な汗をかいていた。

 これ以上抜かれたらまずいのに! 王立学校ってこんなに皆優秀なの!? 1番を取るどころか、魔力も攻撃魔法も下位になってしまった。おまけに持久走でも低い評価だったら、ハンス様に顔向け出来ないわ!

 残った僅かな魔力を使って風魔法を発動させる。

 前方の気流を押しのけて自分の背中を押すように気流を作る。

 これで、振り切ってやる!

 クリスタが前に出て走り出すと、ルーカスはぴったり後ろをついてくる。

クリスタ
「ちょっと! 何でくっついて来るのよ!」

ルーカス
「だって、走りやすいから。」

クリスタ
「離れなさいよ!」

ルーカス
「いいじゃん。仲良くしようよ! 同じ伯爵家に使える騎士爵家じゃないか!」

クリスタ
「ふざけんな!」

 クリスタは回し蹴りを繰り出したが、ルーカスは素早く避けた。

ルーカス
「やめろよ! 無駄な体力を使っていたら、他の奴にも追いつかれるぞ!」

クリスタ
「くそぅ!」

 クリスタには、他に策がなく、そのまま走り続けるしか出来なかった。

 その間、ルーカスはクリスタのすぐ後ろを走り、風魔法の恩恵を享受した。

 しばらくするとクリスタの魔力は尽きて、風魔法を維持出来なくなった。

クリスタ
「もう、だめ!」

ルーカス
「あぁ~あ、もう、終わっちゃったか。じゃ、今まで有難うな!」

 ルーカスは、クリスタを追い越していった。

クリスタ
「何てやつだ! 覚えてろ!」

ルーカス
「心配しなくても、可愛い女の子は忘れないよ~!」

 遠ざかるルーカスから、調子のいい言葉が返ってきて、クリスタは赤面した。

クリスタ
「はぁ~!? 待ちやがれ! クソ男!」

__________


 学校の正門で待っていたスラッカリー先生は驚いていた。

 1番最後に出発したはずのアントニオが、1番最初に帰って来たからである。

アントニオ
「ただ今、戻りました!」

 アントニオは、汗をかいてはいるが、さほど息が上がる事もなく涼しい顔をしている。

 だが、護衛騎士の2人は今にも死にそうな顔をしている。

スラッカリー
「45秒遅れでスタートされたから...285.2秒!?帯刀しているのに!?」

 こんな驚異的なスピードは、勇者グリエルモ以来である。

スラッカリー
「札は?」

 スラッカリーは一瞬、アントニオがコースを間違えたのではないかと疑った。

アントニオ
「はい。ここに3枚!」

 そんな馬鹿な!? アントニオ様はグリエルモ 様のように風魔法を使ったり出来ないはず...

スラッカリー
「あの、護衛の方達...風魔法などでサポートしたりしましたか? 手を貸されては、困るのですけど...」

ヴィクトー
「そんなことするか! 魔法でトニー様をサポートしたら、俺達が置いて行かれてしまう!」

 ヴィクトーは息を切らしながら怒鳴った。

スラッカリー
「そうですか...」

アントニオ
「あの、喉が渇いたのですが、教室に飲み物を取りにいってもよろしいでしょうか? まだ、皆様が戻って来られるまでに、時間がありますよね?」

スラッカリー
「も、もちろんです。」

アントニオ
「すぐに、取って来ます!」

 そう言って、アントニオが駆け出すので、護衛騎士の2人は乱れた息のまま、慌てて後を追った。

 トニー様の護衛は大変だ!! 並大抵の騎士では務まらない!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...