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第三幕 学生期

108.聖女の母はエレガントに戦う貴婦人

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 玄関を開き、ヒロヤ国王とジュン王太子をお迎えする。

ヒロヤ国王
「ロベルト・ジーンシャン、久しぶりだな。朝から失礼する。」

ロベルト
「国王自ら来るとは、一体どういう用件かな? ヒロヤ。」

ヒロヤ国王
「ジュン、説明を。」

ジュン王太子
「昨日のトニー様暗殺未遂事件を受け、王家はトニー様の安全を第一に考え、王宮で保護する事を決定致しました。トニー様、寮の部屋では危険です。一緒に来て頂けますね?」

ロベルト
「それは駄目だ! トニーはジーンシャン家の次期領主だぞ! トニーの保護は、ジーンシャン家が行う!」

ジュン王太子
「魔導騎士達の報告によれば、囮作戦にエドアルドとレオナルドを使ったそうですね? その場にもし、トニー様がいらしたら、トニー様を囮に作戦を決行したのではないですか? 寮以上に危険な、こんな場所に、王家の血を汲むトニー様を置いてはおけない!」

ロベルト
「エドアルドとレオナルドには、十二分にも事件を解決する能力があると判断して任せたのだ。事実2人は、味方にかすり傷1つ作る事なく、任務を遂行した。

むしろ、王宮は色々な人物が出入りしやすく危険ではないかね? 王家は忠誠の低い裏切り者の家臣に困らされることが多いだろう?」

ジュン王太子
「くっ.....。」

ヒロヤ国王
「それは心配無用だ。王家はこれまで、暗殺者によって一族の命を奪われた事はない。トニーは血族だ。我等と同じ厳重な護衛を付けて守ろう。待遇もトニーの望むままの環境で迎えよう。音楽室もダンスホールも、図書室も、好きな時に好きなだけ使っていい。」

ロベルト
「ヒロヤ、お前の魂胆は分かっているぞ。ジーンシャン家からトニーを引き抜いて、カンナギ家の一員にする気だな?」

ヒロヤ国王
「ほう、分かっているなら話がはやい。トニーは、非常に繊細でジーンシャン家には向かない。カンナギに入るべきだ!」

ロベルト
「トニーは次期辺境伯領主だ! カンナギにはやらん!」

ヒロヤ国王
「後継ぎなら、レオナルドとエドアルドがいるだろう?」

ロベルト
「トニーは純粋な子だ。陰謀が渦巻く王宮には向かない!トニーだって、ジーンシャン領が好きだろう? 豊かな自然と、温かい人柄の領民。」

ヒロヤ国王
「トニー。無理強いするつもりはない。だが、一緒に暮らせばカンナギ家の良さが分かるはずだ。政務は国王となるジュンやタイラが行う。トニーが望むなら宮廷楽師や舞踏家達を管理する職に就くことが出来るぞ?」

ロベルト
「残念だったな! トニーはすでに辺境伯領主になると、魔導騎士達の前で誓いを立てている! 宮廷職には就かないぞ!」

ヒロヤ国王
「何だと!? 無理矢理誓約させたのか!? 何て卑劣なんだ貴様は! 昔からお前はそうだ! 次から次へと人に約束させて、決闘だなんだと、最後は力でいうことを聞かせて、全部持って行く! 魔導騎士だって、女性だって!」

ロベルト
「何だと! そういうお前は、昔から何でも俺のものを欲しがって横取りするだろう! ちょっと私が忙しくしているうちに、慰めるフリをして近付いて、私の女を横取りしていただろう! 宝石やドレスでつって、飽きると捨てて、また私の女を奪いに来る!」

ヒロヤ国王
「私はただ紳士として当然の事をしただけだ。傷付いている女性には優しくするものだからな。女性が自発的にお前を見限ったに過ぎん! むしろ、お前のフォローをしてやっていたんだ、感謝してもいいくらいだぞ!」

ロベルト
「何がフォローだ! 女達は皆、捨てられた後、お前に騙されたと復縁を申し込んで来ていたぞ! お前の手のついた女とはヨリを戻したりはしなかったがな!」

エミ(アントニオの祖母、メアリーの母)
「お二方、いい加減になさいな。みっともない。」

ヒロヤ国王
「姉上!」

ロベルト
「エミ様!」

ヒロヤ国王
「い、いつの間に!?」

 エミは、夫のヘンリー(アントニオの祖父、メアリーの父)と一緒にやって来ていた。

エミ
「先程から、ずっとおりましたわ。トニーに一言謝罪しようと思って参ったのです。

そうしたら、どうでしょう? いい歳をした身分のある男性が、言い争いをしているじゃありませんか?

あなた方お二人は、昔からそうやって相手や周囲の人間の気持ちをお考えにはならないのですね。尊大に振舞われて、ご自分の意見ばかりを主張なさって、いつだってワタクシが善処するのですわ...いつになったら品格をお持ちになって下さるのでしょう?」

ヒロヤ国王
「いえ、姉上、私はただ、トニーを保護しに参っただけで......」

エミ
「初耳ですわ! トニーが寮で生活することは、皆で話し合って決めた事ですわ。トニーの意思を優先させると。王宮に引っ越しをさせたいのでしたら、また、皆で話し合わないといけませんわね? ワタクシは伺っておりませんが、メアリーは、勿論、存じ上げているのですよね? グリエルモ辺境伯様も。」

ヒロヤ国王
「こ、今回は、まだ...急を要する事件であるからして...」

エミ
「まぁ! 何て事!? つまりは、グリエルモ辺境伯様も、メアリーも知らないうちに、引っ越しをさせようと? 飛竜を使ってジーンシャン領に使者は出されたのですよね?」

ヒロヤ国王
「まだ...」

エミ
「では、トニーの意思は確認されましたのよね?」

ヒロヤ国王
「それも、まだ...」

エミ
「あら? そのような事も出来ないで、よく国王の政務が務まりますのね? それとも、お忙しくてお疲れなのでしょうか? トニーは次期辺境伯で王家の血をひくというだけではなく、神官長の甥でもありますのよ。国王如きが勝手には出来ませんわ。ゆめゆめお忘れなきようお願い申し上げます。」

 ヒロヤは国王の威厳は何処へやら、「はい。」と俯きながら答えるので精一杯だった。

 エミの言葉を聞いてホッとしたロベルトだったが、エミはロベルトにも鋭い視線を送ってきた。

エミ
「ロベルト様には、まず、感謝を申し上げますわ。事件を素早く解決して頂いた事に対して、また、トニーを保護して下さったことに対しても、神殿とサント家を代表して、心より御礼を申し上げます。」

ロベルト
「いや、何、ジーンシャン家のものとして当然の事をしたまでだ。」

エミ
「ですが、事件が解決した今、今後のトニーの所在については、ロベルト様には決定権はございませんわよね?」

ロベルト
「あ、あぁ。だが、息子夫婦から、トニーの生活のサポートをするようには頼まれている。」

エミ
「まぁ! ワタクシも娘夫婦からサポートを頼まれておりますのよ! 同じですわね? ですから、トニーの意思を確認いたしましょう? そして、早急にグリエルモ辺境伯様に事件のご報告をお願い致しますわ。神殿の神兵が馬を飛ばしても、片道3、4日はかかってしまいます。飛竜でしたら、すぐでしょう?」

ロベルト
「あ、あぁ、すぐに竜騎士に手紙を届けさせよう。」

アントニオ
「あ、お待ち下さい! あまり父母に心配をかけたくないのです。事件は解決しておりますし、父母は来週入学式で王都に参りますので、その時に、直接伝えます。」

エミ
「トニー、御免なさいね。ワタクシが晩餐会に招待したばっかりに、大変な目に合わせてしまいましたわ。」

アントニオ
「いえ、私は何も...実は、急遽レオとエドに代理を頼んだので、2人が襲われて...でも、それで実行犯を捕まえて下さったので、事件が解決できたのです。」

エミ
「そうでしたの!? レオナルド様、エドアルド様、申し訳ありませんでした。心からお詫びを申し上げますわ。また、感謝を。有難うございます。アルベルト様、オデット様、後日改めて、お詫びとお礼をさせて頂きたいですわ。」

ヘンリー
「ジーンシャン家の皆様、今日は神官としてではなくトニーの祖父として、私からも御礼を申し上げます。誠に有難うございます。この度の神殿の者が起こした事件。神殿が皆様に、どうやって償いをすべきか、神官長や他の祭司達と協議し、最善の方法で必ず償いをさせて頂きます。」

アルベルト
「お心遣いに感謝致します。」

アントニオ
「私からも、レオとエドにお詫びとお礼を...」

アルベルト
「トニーは気にする事ないよ。トニーはジーンシャン家の次期領主なんだから、私達がトニーのために働くのは、当たり前の事なんだよ。」

アントニオ
「有難うございます。」

ヘンリー
「国王陛下、王太子殿下、お二方にもお礼を申し上げます。お陰様で、神殿の腐敗を防ぐ事が出来ました。」

ヒロヤ国王
「うむ。」

 ジュン王太子は言葉は発さず、頷いた。

エミ
「お話を戻させて頂きますが、トニーは今後、どちらでお過ごしになりたいとお考えなのでしょうか? あのようなことがありましたけど、トニーが望んで下さるなら、神殿にお部屋を用意致しますわ。」

 一気に皆の注目がアントニオに集まる。

 つい最近、似たような光景を見たような気がする。

 そう、そう、ヤンとハンス先輩とカール先輩が、薬草ハーブティーを淹れる件で、俺に決定を求めていた光景に似ている。

 こういう時は、極力、誰も選ばない方が争いが起きなくていいのだ。

アントニオ
「あの、私は...出来れば寮で暮らしたいのですが...やはり、難しいのでしょうか? 学校内の寮でしたら、登校の際の危険を減らせると思います。父上や母上も、学生時代に寮に下宿しておりましたし、母上を狙って寮に侵入しようとする者がいても、寮での生活を続けたと聞きました。」

 神殿から学校までは余裕で通える距離であったが、メアリーは神殿内では聖女として崇められてしまうため、人民の心を知るために学生時代は1人で生活することを選んだのだ。

ヘンリー
「その時は、国王陛下の計らいで、魔導騎士が寮の警護をして下さったのだ。」

エミ
「今回も、そうして下さればよろしいのでは?」

 エミは笑っているが、闇のオーラがそこはかとなく漂い、周囲にプレッシャーを与える。

ヒロヤ国王
「う、うむ。手配しよう。」

ロベルト
「でしたら、ジーンシャン魔導騎士団の配備を許可頂きたい。」

ジュン王太子
「他領の軍隊を王立学校内に入れることは前例がない。」

ロベルト
「やはり王家は、トニーのことを他人事のように考えているのかね?」

 ムッとするジュン王太子をヒロヤ国王が制する。

ヒロヤ国王
「特例を認めよう。我々にとっても、トニーは大事な子供だ。学校には今回の事件を議題にあげて納得させよう。」

アントニオ
「有難うございます。」

 こうして、学校寮のセキュリティーは強化され、アントニオは寮の自室に戻ることとなった。
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