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第二幕 幼少期
7.劣等色の赤ちゃん
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グリエルモとメアリーの心配を他所に、アントニオはご機嫌な赤ちゃんだった。
いつも、ニコニコしていて、話しかけられると、きゃっきゃと歌うように笑って、何もない時でも寝転がりながら踊るような仕草をした。オシメの替えや、ご飯が必要な時は、大きな声で叫んでいたが、機嫌が悪い感じではなく、眠っている時も気持ち良さそうに穏やかな表情をしている。
グリエルモとメアリーは、オシメを変える度に、封印の確認をしたが、アントニオの腹部には、相変わらずくっきりと魔方陣が浮かんでいる。
グリエルモは、領内の教会には頼らず、かつての仲間だった賢者ネハ・カーン(68歳)に手紙を出し、呼び寄せた。ネハは、高齢のため、魔王討伐の旅には加わらなかったが、鑑定能力の高さと膨大な知識を生かし、幾度となく、旅の手助けをしてくれた人である。
賢者ネハなら、魔王の封印という、言わば国のトップシークレットの情報を守り、知恵を貸してくれるに違いない。
「まったく、こんな遠い所に老人を呼びつけるなんて、人使いが荒いったらないね! これだから、大貴族の坊ちゃんは...」
ブツブツ言いながら侍従に案内され、ネハ・カーンは屋敷の応接室へと入ってきた。
黄身がかった白髪をロールアップにした膨(ふく)よかでお洒落な女性で、瞳は紺色。紫色を好んで身に付けるネハは、服も靴もアクセサリーも全部が紫だ。
この陽気な人相の御婦人は、言葉とは裏腹に満面の笑みでグリエルモとメアリーをハグしてきた。
「ネハ様、お久しぶりです」
「本当だよ! いつも用事のある時しか、会おうとしないんだからね。それで、この子が例の子かい?」
「そうです。アントニオと名付けました」
メアリーが抱いているアントニオを、ネハに近付けて見せると、ネハから笑顔が消え、メアリーとアントニオをマジマジと交互に見た。
「手紙にも書いてあったけど、まさか本当にこんな事が起きているなんて、我が目を疑うね...しかも、この子、本当にあんた達の子なのかい? 髪の色も目の色も黒に近い焦げ茶だし...まぁ、目鼻立はどこどなく坊ちゃんに似ている気はするけど...」
メアリーは、その言葉にムッとしたが、ネハが驚いたのは無理もないことだ。
この王国では、髪の色で何となく身分が分かるほど、魔力量と髪色には関係があると言われている。魔力が多ければ明るい髪色で、魔力が低ければ暗い髪色で生まれると信じられているのだ。
王族や、かつて王家から派生した神官は銀髪で生まれる事が多く、有力な貴族ほど明るい色の金髪、下位の貴族になるにつれて金髪から茶髪へと暗い色に移行していき、平民は殆どが茶髪である。まして、焦げ茶など、最底辺の身分の者がもつ髪の色である。
グリエルモの黄金の髪は普通の金髪よりもメタリックに輝いており、代々勇者を輩出するジーンシャン家特有の色だ。メアリーの白銀の髪は神官家と王家の混血によるものである。
ネハは茶髪の両親から生まれた平民であったが、突然変異で両親とは髪の色が違った。今でこそ白髪だが、若い頃は黄味の強い金髪であり、多くの魔力を保有していた。そのため、子のいない子爵家の養女となる事が出来て、結婚でカーン伯爵夫人にまで上り詰めた。
平民出身でも、髪の色が明るい子であれば、ネハのように貴族の養子や重臣として出世する者もいる。
しかし、だからこそ、世の中の髪色に対する身分意識は高く、焦げ茶の髪を持つ者は差別の対象となっている。
メアリー
「アントニオは間違いなく、私とグリエルモの子です! そうでなければ、アントニオの腹部にこの魔方陣は浮かばないはずよ」
メアリーはアントニオの肌着をめくって、魔王が封印されている魔方陣を見せた。
ネハ
「分かっているよ...可哀想に...。だけど、能力では悲観する必要はなさそうだね。今、鑑定しているけど、凄い魔力量だよ」
メアリー
「やっぱり!?」
ネハ
「普通...焦げ茶の子なんて成人しても魔力はせいぜい30がいいところだろ? 30あればいい方で、生活に必要な魔力すら持っていないことが多い」
魔力は日によって量が変わるし、魔力鑑定は目算(目分量)で行われるため、細かな数値までは判別出来ないが、大まかには魔力の量を測定することができる。
焦茶(貧困層)0~30
茶髪(平民)10~100
金髪(下級貴族)50~300
明るい金髪(上流貴族)100~500
というのが、よく知られた数値である。
ちなみに英雄の3人は
賢者ネハ 700
勇者グリエルモ 800
聖女メアリー 900
メアリー
「アントニオにはどのくらい魔力があるの?」
ネハ
「桁違い過ぎて正確にはよくわからないけどね、3万位? ...それ以上かも。焦げ茶の、しかも、幼児が、いや、人間が持ってる魔力じゃないね。いやいや、亜人や魔族にだって、1万超えるような奴には、お目にかかった事がないよ。...まるで神の領域だね...」
グリエルモ
「3万...」
メアリー
「どうりで...毎日元気なわけだわ」
グリエルモ
「呪いや、状態異常なんかはないか?」
ネハ
「無いよ。私が見つけられるのは、封印の魔法だけさ。元気そうだし、将来が今から楽しみね」
ネハがアントニオに笑いかけると、アントニオは桃色のほっぺを膨らませ、今日一番高い声でキャヒヒと笑った。
天使なの!?
余りの可愛さに、その場にいた大人3人は、魅了魔法にかけられた様に、アントニオの虜になった。
いつも、ニコニコしていて、話しかけられると、きゃっきゃと歌うように笑って、何もない時でも寝転がりながら踊るような仕草をした。オシメの替えや、ご飯が必要な時は、大きな声で叫んでいたが、機嫌が悪い感じではなく、眠っている時も気持ち良さそうに穏やかな表情をしている。
グリエルモとメアリーは、オシメを変える度に、封印の確認をしたが、アントニオの腹部には、相変わらずくっきりと魔方陣が浮かんでいる。
グリエルモは、領内の教会には頼らず、かつての仲間だった賢者ネハ・カーン(68歳)に手紙を出し、呼び寄せた。ネハは、高齢のため、魔王討伐の旅には加わらなかったが、鑑定能力の高さと膨大な知識を生かし、幾度となく、旅の手助けをしてくれた人である。
賢者ネハなら、魔王の封印という、言わば国のトップシークレットの情報を守り、知恵を貸してくれるに違いない。
「まったく、こんな遠い所に老人を呼びつけるなんて、人使いが荒いったらないね! これだから、大貴族の坊ちゃんは...」
ブツブツ言いながら侍従に案内され、ネハ・カーンは屋敷の応接室へと入ってきた。
黄身がかった白髪をロールアップにした膨(ふく)よかでお洒落な女性で、瞳は紺色。紫色を好んで身に付けるネハは、服も靴もアクセサリーも全部が紫だ。
この陽気な人相の御婦人は、言葉とは裏腹に満面の笑みでグリエルモとメアリーをハグしてきた。
「ネハ様、お久しぶりです」
「本当だよ! いつも用事のある時しか、会おうとしないんだからね。それで、この子が例の子かい?」
「そうです。アントニオと名付けました」
メアリーが抱いているアントニオを、ネハに近付けて見せると、ネハから笑顔が消え、メアリーとアントニオをマジマジと交互に見た。
「手紙にも書いてあったけど、まさか本当にこんな事が起きているなんて、我が目を疑うね...しかも、この子、本当にあんた達の子なのかい? 髪の色も目の色も黒に近い焦げ茶だし...まぁ、目鼻立はどこどなく坊ちゃんに似ている気はするけど...」
メアリーは、その言葉にムッとしたが、ネハが驚いたのは無理もないことだ。
この王国では、髪の色で何となく身分が分かるほど、魔力量と髪色には関係があると言われている。魔力が多ければ明るい髪色で、魔力が低ければ暗い髪色で生まれると信じられているのだ。
王族や、かつて王家から派生した神官は銀髪で生まれる事が多く、有力な貴族ほど明るい色の金髪、下位の貴族になるにつれて金髪から茶髪へと暗い色に移行していき、平民は殆どが茶髪である。まして、焦げ茶など、最底辺の身分の者がもつ髪の色である。
グリエルモの黄金の髪は普通の金髪よりもメタリックに輝いており、代々勇者を輩出するジーンシャン家特有の色だ。メアリーの白銀の髪は神官家と王家の混血によるものである。
ネハは茶髪の両親から生まれた平民であったが、突然変異で両親とは髪の色が違った。今でこそ白髪だが、若い頃は黄味の強い金髪であり、多くの魔力を保有していた。そのため、子のいない子爵家の養女となる事が出来て、結婚でカーン伯爵夫人にまで上り詰めた。
平民出身でも、髪の色が明るい子であれば、ネハのように貴族の養子や重臣として出世する者もいる。
しかし、だからこそ、世の中の髪色に対する身分意識は高く、焦げ茶の髪を持つ者は差別の対象となっている。
メアリー
「アントニオは間違いなく、私とグリエルモの子です! そうでなければ、アントニオの腹部にこの魔方陣は浮かばないはずよ」
メアリーはアントニオの肌着をめくって、魔王が封印されている魔方陣を見せた。
ネハ
「分かっているよ...可哀想に...。だけど、能力では悲観する必要はなさそうだね。今、鑑定しているけど、凄い魔力量だよ」
メアリー
「やっぱり!?」
ネハ
「普通...焦げ茶の子なんて成人しても魔力はせいぜい30がいいところだろ? 30あればいい方で、生活に必要な魔力すら持っていないことが多い」
魔力は日によって量が変わるし、魔力鑑定は目算(目分量)で行われるため、細かな数値までは判別出来ないが、大まかには魔力の量を測定することができる。
焦茶(貧困層)0~30
茶髪(平民)10~100
金髪(下級貴族)50~300
明るい金髪(上流貴族)100~500
というのが、よく知られた数値である。
ちなみに英雄の3人は
賢者ネハ 700
勇者グリエルモ 800
聖女メアリー 900
メアリー
「アントニオにはどのくらい魔力があるの?」
ネハ
「桁違い過ぎて正確にはよくわからないけどね、3万位? ...それ以上かも。焦げ茶の、しかも、幼児が、いや、人間が持ってる魔力じゃないね。いやいや、亜人や魔族にだって、1万超えるような奴には、お目にかかった事がないよ。...まるで神の領域だね...」
グリエルモ
「3万...」
メアリー
「どうりで...毎日元気なわけだわ」
グリエルモ
「呪いや、状態異常なんかはないか?」
ネハ
「無いよ。私が見つけられるのは、封印の魔法だけさ。元気そうだし、将来が今から楽しみね」
ネハがアントニオに笑いかけると、アントニオは桃色のほっぺを膨らませ、今日一番高い声でキャヒヒと笑った。
天使なの!?
余りの可愛さに、その場にいた大人3人は、魅了魔法にかけられた様に、アントニオの虜になった。
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