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第三幕 学生期

98.食事会のブッキング

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 アントニオの部屋に入ったエドアルドは、早速悩みを相談した。

エドアルド
「最近、トニーに間違われて、色んな人から『アントニオ様!』って呼び止められるんだ。正しく訂正するのも大変で、疲れちゃって。どうしたらいいと思う?」

アントニオ
「私は、出掛ける際は帽子を被ったり、友人に光魔法で髪の色を変えてもらって、変装して出掛けていますよ。エドもそうしたらいかがですか?」

エドアルド
「そっか! やっぱりトニーに相談して良かった! 家の人は、皆まともに回答してくれなくて、困ってたんだ! 変装すればいいのか! でも、家に、髪の色を変える魔法が使える人はいないかも...」

アントニオ
「飛竜に乗るときの飛行帽で大丈夫じゃないですか? どうしても、帽子を被れない時は、ダーシャ・カーン伯爵にお願いすれば、魔法で髪の色を変えてくれると思います。紹介状を書いてあげますね。」

エドアルド
「有難う、トニー!」

 紹介状を書こうと、レターセットの箱を取り出す。そうすると、エミお祖母様からの手紙を発見した。

アントニオ
「あ! しまった! 2、3日前に届いていたのに、色々あって忘れてました。エミお祖母様から晩餐会に招待されていたのに!」

 開けると、晩餐会の招待状が出てくる。

アントニオ
「あ、これ、今日だ! 困ったな...今日はヤンや先輩達と、ここで夕食を一緒に食べる約束をしてしまった...昨日、ヤンの部屋を掃除してもらったお礼をすると先輩方に約束してしまったのです。夕食に招き、ジーンシャン領特産の薬草ハーブティーをご馳走すると。」

エドアルド
「エミ様の晩餐会は、重要な会なのですか?」

アントニオ
「いえ、手紙には気軽な身内の晩餐会だと書いてあります。」

エドアルド
「じゃあ、僕が代わりに神殿に行きましょうか?」

アントニオ
「いいんですか?」

エドアルド
「エミ様やヘンリー様なら知っているし、トニーは都合が悪くなったから、代わりに来たって言えば大丈夫でしょ。血は繋がっていないけど、僕も一応身内だし。」

アントニオ
「有難うございます! そうして頂けると助かります!」

エドアルド
「ううん、トニーには僕の悩みを解決してもらったから、お互い様だよ!」

 アントニオは、カーン伯爵への紹介状と、エミお祖母様への謝罪の手紙をエドアルドに渡した。

アントニオ
「エドにも、薬草ハーブティーをご馳走しますね!」

エドアルド
「有難う! 薬草ハーブティーは高級品だから、滅多に飲ませてもらえないんだ! ロベルトお祖父様が『子供に贅沢は早い!』とか言って飲ませてくれないんだよ。」

アントニオ
「じゃあ、是非、今日は沢山飲んでいって下さいね!」

 2人でお茶をしていると呼鈴が鳴った。

ヤン
「アントニオ様、ヤンです!」

 扉を開け、ヤンを部屋に招き入れる。

ヤン
「アントニオ様、神殿から迎えの馬車が来ているのですが、今日は俺達と夕食は無理そうですか?」

アントニオ
「いえ、神殿の晩餐会にはエドが行ってくれるのです。」

ヤン
「あ、エドアルド様! いらしていたのですね!」

エドアルド
「うん。僕も本当はトニーと夕食を食べたいところだけど、トニーが約束をブッキングしちゃったっていうからさ。今日は代わりにエミ様と食事してくるよ! エミ様は、僕にもいつもプレゼントをくれて優しいし!」

アントニオ
「本当に有難うございます! エミお祖母様とヘンリーお祖父様に宜しくお伝え下さいね?」

エドアルド
「任せて!」

 エドアルドはヤンと一緒に部屋を出て、ヤンの案内で寮の前に停められた神殿の馬車まで移動した。

エドアルド
「一度、アルベルト・ジーンシャンの屋敷に寄って! 神殿で食事するって伝えたいんだ。」

御者
「かしこまりました。」

 馬車に乗り込んで出発したエドアルドを、ヤンは姿が見えなくなるまで見送った。

 ヤンは、アントニオが神殿よりも自分達を優先してくれたことや、エドアルドがフォローしてくれたことを嬉しく思った。

__________


 白き人信仰の信者は、いくつかの派閥に分かれており、その中に、過激派と呼ばれる派閥がある。白き人に忠誠を誓う妄信的な信者を使い、手段を選ばず布教したり、神殿に仇(あだ)なすものを徹底的に排除しようとしたりする、文字通り過激な派閥である。髪の色での優劣を重視しており、過激派の信者になるには金髪以上である事が条件で ある。そして彼らは、茶髪や黒髪の人間を迫害する傾向があった。

「忌々しい焦茶め! 何が神の御使だ! 孫可愛さにサントの奴らが作った作り話の癖に」

「噂を作ったのは、次期領主に権威をつけたいジーンシャン家の連中じゃないか? サント家の方々は騙されているに違いない。」

「焦茶の子供が血族に生まれて、権威が落ちることを心配した、王家の策略かもしれん。」

「それにしたって、ふざけている! 魔力が3万以上あるとか、魔導騎士団全員を眠らせる効果魔法が使えるとか、聖女様に決闘で勝利したとか、黄金の魔獣を従え空を駆けるとか、そんなありえない話を誰が信じるか!」

「白き人を従えて聖女様を跪かせたという話もあります。大方、たまたま白髪の老人と一緒にいるときに、聖女様が落し物を拾うなどして、かがんだところを目撃されたというのが真相でしょう。しかし、馬鹿な平民ほど、そういった伝説的な話を信じたがるものです。」

「アントニオを担ぎ上げ、ジーンシャンの異教徒どもや薄汚い茶髪どもが増長してくることは容易に予想される。早急に対処するべきだ。」

「だが、王家やサント家、何よりジーンシャン家を相手に、何ができる?」

「そんなことは決まっている。当の本人が、いなくなればいいのだ。」

「まさか!? アントニオを亡き者にしろと?」

「なに、焦茶の子供は貧弱だ。勇者級の化け物を相手にするわけではない。貧民街のゴロツキに金を握らせて、エミ様の晩餐会に来るアントニオの馬車を襲わせればいい。」

「なるほど! それは、いい考えだ。」

 過激派の神官達は、ほくそ笑んだ。
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