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第三幕 学生期
84.イジメ対策会議
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部屋に戻ったアントニオは、バルドとリンと一緒に、今後のイジメられない為の対策を考えていた。
バルド
「とにかく、王子を利用しろ。イジメられたというのが恥ずかしいなら、4人組にされた事を箇条書きにして、王子に伝えろ。そして、そいつらを必ず処分させろ。」
アントニオ
「そんな事をしたら恨まれるし、母上が連れ戻しに来ちゃうよ。ジーンシャン領から飛竜で通うとか地獄だよ。」
リン
「じゃあ、俺達の空間移動魔法で通えば?」
アントニオ
「そんなことを毎回していたら、今度は化け物扱いされちゃうよ!」
バルド
「実際のところ、エストは化け物だろ? 俺達より魔力が高いのだから。でも、そうだな......力がバレたら、神のように崇められるか、化け物として退治されるか、人としての普通の暮らしは出来なくなる可能性が高いな。俺達も、再び住む場所に困るようになるか?」
リン
「それは困るなぁ~。学校に通うの辞めたら?」
アントニオ
「次期領主として、その選択肢はないな。」
リン
「レオナルドかエドアルドに次期領主を譲れば?」
アントニオ
「だからって、勉強しないで、家に引きこもるわけにはいかないんだよ人族は。生きるためには働かないといけないし、働くためには学校を出ないと!」
バルド
「やはり、暗殺しかないな。どんな奴だったか教えろ!」
アントニオ
「もう、忘れたよ。」
バルド
「思い出せ!」
アントニオ
「俺は芸術家だ。人を幸せにするために、歌を歌って生きてきたんだ。逆のことなんて出来ない。...年若い少年達の過ちを許さず、彼等を壊すなんてことは! 彼等を愛する人の幸せまで、奪う事になるんだぞ?」
バルド
「......。」
アントニオ
「イジメがエスカレートして殺されるとは限らないし、あの4人以外の学生が、俺を差別するとは限らない。むしろ、イジメを嫌って、他の皆が俺を助けてくれるかもしれない。まだ、からかわれた程度だし。よく考えれば、何かいい方法があるはずだ。
オペラの世界では、その物語りのヒーローが馬鹿か、賢いかで、そのオペラが悲劇になるか、喜劇になるか決まると言われているんだ。
バッドエンドかハッピーエンドかは、主人公の知恵によって変わるんだよ!
どんなに困難な状況でも、喜劇オペラのヒーローのように、必ず、この物語をハッピーエンドに変えてやるんだ!
だから...だから、一緒に考えて欲しい。どうすれば、皆が幸せになれるのかを...」
バルド
「......分かった。」
泣き虫なエストが、また、泣いている。俺はうるさい奴が嫌いだし、泣いて騒ぐ奴なんか大嫌いだ。だが、やっぱり、こいつの事は好きだ。
バルドは自分で自分が不思議でならなかった。
リン
「ふむふむ。この300年生きた、大人な俺に任せなさい!」
バルド
「なんか策があるのか?」
リン
「この作戦にはお前の力が絶対に必要だ!」
バルド
「だから、なんだ!?」
リン
「奴等の髪を焦茶に染める!」
!?
アントニオ
「凄い! 良いかもしれない! 自分達も焦茶になったら、焦茶の悪口は言えないし、焦茶の気持ちを思い知るに違いない! それに、俺をイジメたら、焦茶になるって噂がたてば、イジメる奴もいなくなる!?」
リン
「そうだ!...と言うわけで、そいつらの特徴を思い出せ!」
アントニオ
「そ、それが...」
バルド
「なんだ? 本当に覚えてないのか?」
アントニオ
「4人とも、俺よりも背が低くて、金髪で、青い眼だったと思う...」
バルド
「ここの学校の低学年の連中は皆そうだろ?」
アントニオ
「会えば分かると思うけど...どうやって、バルドに教えればいいんだろう...」
バルド
「そんな事は簡単だ。寮生なんだろ? 寝ている部屋に空間移動で入って、その間に確認と、髪色変化の魔法を行う。」
アントニオ
「相手が起きてたりして、バレたりしない?」
バルド
「リン、バイコーンのドーラに協力を頼めるか? あいつは索敵魔法と透過魔法が使えるだろ? 俺は睡眠魔法が使える。エスト、お前が子守唄を歌ってもいいがな。」
リン
「ちょっと待ってろ! ドーラちゃんを連れて来る。」
アントニオ
「待って! 決行は夜中の2:00にしよう。万が一にも、バレないように。俺が色んな部屋の前で歌ったら、関係ない人に迷惑がかかるかも知れないから、睡眠魔法はバルドがかけて欲しい。寮の見取り図は入寮したときにもらったパンフレットがあるよ!」
リン
「じゃ、まず、夜中の2:00になったら、ドーラちゃんに、索敵魔法と寮の見取り図を使って、部屋の中の人物の位置を教えてもらう。
ルドが睡眠魔法で確実に眠らせて、透過魔法で姿を見えなくしてから、空間移動魔法でエストとルドは部屋に侵入する。それでいいな?」
アントニオ
「うん! 新入生の部屋から順に回ろう!」
バルド
「了解した。」
3人で、悪役風に笑いあい、夜の計画に期待を膨らませた。
安心して、リラックスして過ごしていると、お腹が空いていることに気が付いた。
食堂に早めの夕食に行くか? いや、だが、計画が実行される前に、これ以上誰かに自分をイジメさせるのは、よくない。
復讐が成功し、噂になれば、友達を作ることは困難になると思うが、無闇に焦茶に手を出そうとする人間は減るだろう。
でも、復讐前の今、迂闊に出歩いて、新たな敵を増やすのは、愚かな行為だ。
アントニオ
「アリバイを作った方が良いかも!」
バルド
「アリバイ?」
アントニオ
「俺が直接復讐したとなると、学校で問題になるかもしれない。だから、あくまでも、俺じゃない誰か.....呪いみたいなものだと思われたい。」
バルド
「なるほど......復讐の復讐を防ぐためにもいいかもな。」
アントニオ
「ヤンを連れて、アルベルト邸か、王宮、もしくは神殿? に泊まろう。ヤンが実行犯と思われたくない。アリバイがあれば、計画後にアイツらが騒いでも、俺は知らんぷりが出来る。」
バルド
「よし。それで行こう。」
リン
「何処に泊まるのがいい?」
アントニオ
「やっぱり、王宮かな? 身内じゃない人にもいっぱい目撃されるし、さっき、タイラ様に手紙を出したから、やっぱり直接会って、ゆっくり話したかったとか、言えば、泊めてくれそう。すぐに、追加の手紙を送っていい?」
リン
「任せろ!」
_______
トニー様から、校舎の案内を希望する手紙が届いたと思ったら、その後、しばらくして追加の手紙が届いた。
しかも、伝書鳩ならぬ、伝書フクロウというメルヘンのような手法によって届けられた。
『タイラ・カンナギ 様
やはり、直接会って、お話ししたい事があります。今日は、そちらに泊めて頂けないでしょうか? 出来れば、ヤンも一緒に。
アントニオ・ジーンシャン より』
助けを求める緊急の手紙だ! 今こそ、誓いを果たす時だ!
タイラはすぐに、父である王太子のところへ飛んでいき、二つの手紙を見せた。
ジュン王太子殿下
「すぐに迎えに行きなさい。私は陛下に報告の上、部屋を準備させる。」
タイラ
「はい! 今すぐ!」
そうして、直ぐに馬車を手配し、王立学校の寮へと向かった。
_______
『直ぐにお迎えにあがります』
フクロウが、タイラからの返事を持ち帰ったと思ったら、あまり間も無く、寮に馬車が到着し、タイラが部屋へとやってきた。
タイラ
「トニー様! 只今お迎えにあがりました!」
慌ててバルドとリンに封印の間に入ってもらってから出迎える。
アントニオ
「まさか、迎えに来て下さるなんて! すみません。お返事が来てから、支度をしようと思っていたので、まだ何も出来ていないのです。直ぐに支度を整えます。まだ、ヤンにも言っていなくて。」
タイラ
「では、ヤンに声をかけて来ます。トニー様は支度されていて下さい。」
アントニオ
「有難うございます。」
タイラ様、行動が早過ぎ!
アントニオが急いで、鞄に服と歯ブラシを詰めていると、タイラが戻って来た。
タイラ
「今日は王宮に泊まられて、校舎見学は、明日、王宮から一緒に行きましょう! ですから、制服も準備して下さい。」
タイラ王子は母メアリーに少し似ている。菫色の瞳に見つめられて、アントニオは、3日前に旅立ったばかりの、故郷の事が思い出された。
これが、ホームシックというやつなのだろうか?
超絶過保護だと少し煩わしく思っていたはずの母メアリーに、今、会いたいような気がした。
準備を整えて部屋を出ると、隣の部屋の前で、洗濯室ですれ違った赤毛の寮生と目があった。
この赤毛の子は、お隣さんだったのか。
アントニオが、恐る恐るペコっと頭を下げると、赤毛の寮生も笑顔でペコっと頭を下げてきた。
良かった! この子は友好的だ。
タイラ
「トニー様? お知り合いで?」
アントニオ
「いえ、お隣さんみたいです。」
2人で下の階に降りると、既に身支度を終えたヤンが待っていた。
3人で馬車に乗込み、王宮へと移動した。
_______
「トニー様...か」
ディーデリックは、アントニオが降りていった階段を見つめながら、呟いた。
あの焦茶の従者は、王子のタイラ様までが親しげで、しかも「様」を付けて名前を呼んでいた。アントニオ・ジーンシャンの従者になるという事は、そこまで、凄いことなのか...。
いや、それとも、あの従者が凄い能力を持っているのかもしれない。
貧しい家の茶髪の両親から生まれたディーデリックは、幼い頃に、その珍しい髪の色から、男爵家へ使用人として売られた。
珍しいもの好きの男爵は、当初、赤毛を皆で笑い者にする為にディーデリックを購入した。しかし、気紛れで受けさせた能力鑑定で、ディーデリックが素晴らしい成績を叩き出すと、男爵家にとって有益であると判断し、教育を受けさせたのである。
能力があれば、赤毛の平民でものし上がれる!
奴隷として生活をして来たディーデリックにとって、それは一つの光明であった。
王立学校に特待生で合格した事を知ると、男爵は大変喜んで送り出してくれた。もちろん、将来、男爵家に仕える魔法戦士になるのだと疑わず。
しかし、ディーデリックは、男爵家に戻る気などさらさら無かった。
男爵家の子供達は、勉強や訓練など碌(ろく)にせず、一日中好き勝手に過ごしている。それなのに、踏ん反り返って尊大な態度で、ディーデリックに辛い仕事ばかりを命じたのである。
ディーデリックは、そんな何の苦労もしらない腑抜けのボンボンが大嫌いで、そんな奴等のために、命をすり減らして仕えるなんて真っ平だった。
王立学校で必ずいい成績をとり、大貴族の魔導騎士団に採用してもらうのだ! そして、自由を手に入れる!
それこそが、ディーデリックの悲願であった。
バルド
「とにかく、王子を利用しろ。イジメられたというのが恥ずかしいなら、4人組にされた事を箇条書きにして、王子に伝えろ。そして、そいつらを必ず処分させろ。」
アントニオ
「そんな事をしたら恨まれるし、母上が連れ戻しに来ちゃうよ。ジーンシャン領から飛竜で通うとか地獄だよ。」
リン
「じゃあ、俺達の空間移動魔法で通えば?」
アントニオ
「そんなことを毎回していたら、今度は化け物扱いされちゃうよ!」
バルド
「実際のところ、エストは化け物だろ? 俺達より魔力が高いのだから。でも、そうだな......力がバレたら、神のように崇められるか、化け物として退治されるか、人としての普通の暮らしは出来なくなる可能性が高いな。俺達も、再び住む場所に困るようになるか?」
リン
「それは困るなぁ~。学校に通うの辞めたら?」
アントニオ
「次期領主として、その選択肢はないな。」
リン
「レオナルドかエドアルドに次期領主を譲れば?」
アントニオ
「だからって、勉強しないで、家に引きこもるわけにはいかないんだよ人族は。生きるためには働かないといけないし、働くためには学校を出ないと!」
バルド
「やはり、暗殺しかないな。どんな奴だったか教えろ!」
アントニオ
「もう、忘れたよ。」
バルド
「思い出せ!」
アントニオ
「俺は芸術家だ。人を幸せにするために、歌を歌って生きてきたんだ。逆のことなんて出来ない。...年若い少年達の過ちを許さず、彼等を壊すなんてことは! 彼等を愛する人の幸せまで、奪う事になるんだぞ?」
バルド
「......。」
アントニオ
「イジメがエスカレートして殺されるとは限らないし、あの4人以外の学生が、俺を差別するとは限らない。むしろ、イジメを嫌って、他の皆が俺を助けてくれるかもしれない。まだ、からかわれた程度だし。よく考えれば、何かいい方法があるはずだ。
オペラの世界では、その物語りのヒーローが馬鹿か、賢いかで、そのオペラが悲劇になるか、喜劇になるか決まると言われているんだ。
バッドエンドかハッピーエンドかは、主人公の知恵によって変わるんだよ!
どんなに困難な状況でも、喜劇オペラのヒーローのように、必ず、この物語をハッピーエンドに変えてやるんだ!
だから...だから、一緒に考えて欲しい。どうすれば、皆が幸せになれるのかを...」
バルド
「......分かった。」
泣き虫なエストが、また、泣いている。俺はうるさい奴が嫌いだし、泣いて騒ぐ奴なんか大嫌いだ。だが、やっぱり、こいつの事は好きだ。
バルドは自分で自分が不思議でならなかった。
リン
「ふむふむ。この300年生きた、大人な俺に任せなさい!」
バルド
「なんか策があるのか?」
リン
「この作戦にはお前の力が絶対に必要だ!」
バルド
「だから、なんだ!?」
リン
「奴等の髪を焦茶に染める!」
!?
アントニオ
「凄い! 良いかもしれない! 自分達も焦茶になったら、焦茶の悪口は言えないし、焦茶の気持ちを思い知るに違いない! それに、俺をイジメたら、焦茶になるって噂がたてば、イジメる奴もいなくなる!?」
リン
「そうだ!...と言うわけで、そいつらの特徴を思い出せ!」
アントニオ
「そ、それが...」
バルド
「なんだ? 本当に覚えてないのか?」
アントニオ
「4人とも、俺よりも背が低くて、金髪で、青い眼だったと思う...」
バルド
「ここの学校の低学年の連中は皆そうだろ?」
アントニオ
「会えば分かると思うけど...どうやって、バルドに教えればいいんだろう...」
バルド
「そんな事は簡単だ。寮生なんだろ? 寝ている部屋に空間移動で入って、その間に確認と、髪色変化の魔法を行う。」
アントニオ
「相手が起きてたりして、バレたりしない?」
バルド
「リン、バイコーンのドーラに協力を頼めるか? あいつは索敵魔法と透過魔法が使えるだろ? 俺は睡眠魔法が使える。エスト、お前が子守唄を歌ってもいいがな。」
リン
「ちょっと待ってろ! ドーラちゃんを連れて来る。」
アントニオ
「待って! 決行は夜中の2:00にしよう。万が一にも、バレないように。俺が色んな部屋の前で歌ったら、関係ない人に迷惑がかかるかも知れないから、睡眠魔法はバルドがかけて欲しい。寮の見取り図は入寮したときにもらったパンフレットがあるよ!」
リン
「じゃ、まず、夜中の2:00になったら、ドーラちゃんに、索敵魔法と寮の見取り図を使って、部屋の中の人物の位置を教えてもらう。
ルドが睡眠魔法で確実に眠らせて、透過魔法で姿を見えなくしてから、空間移動魔法でエストとルドは部屋に侵入する。それでいいな?」
アントニオ
「うん! 新入生の部屋から順に回ろう!」
バルド
「了解した。」
3人で、悪役風に笑いあい、夜の計画に期待を膨らませた。
安心して、リラックスして過ごしていると、お腹が空いていることに気が付いた。
食堂に早めの夕食に行くか? いや、だが、計画が実行される前に、これ以上誰かに自分をイジメさせるのは、よくない。
復讐が成功し、噂になれば、友達を作ることは困難になると思うが、無闇に焦茶に手を出そうとする人間は減るだろう。
でも、復讐前の今、迂闊に出歩いて、新たな敵を増やすのは、愚かな行為だ。
アントニオ
「アリバイを作った方が良いかも!」
バルド
「アリバイ?」
アントニオ
「俺が直接復讐したとなると、学校で問題になるかもしれない。だから、あくまでも、俺じゃない誰か.....呪いみたいなものだと思われたい。」
バルド
「なるほど......復讐の復讐を防ぐためにもいいかもな。」
アントニオ
「ヤンを連れて、アルベルト邸か、王宮、もしくは神殿? に泊まろう。ヤンが実行犯と思われたくない。アリバイがあれば、計画後にアイツらが騒いでも、俺は知らんぷりが出来る。」
バルド
「よし。それで行こう。」
リン
「何処に泊まるのがいい?」
アントニオ
「やっぱり、王宮かな? 身内じゃない人にもいっぱい目撃されるし、さっき、タイラ様に手紙を出したから、やっぱり直接会って、ゆっくり話したかったとか、言えば、泊めてくれそう。すぐに、追加の手紙を送っていい?」
リン
「任せろ!」
_______
トニー様から、校舎の案内を希望する手紙が届いたと思ったら、その後、しばらくして追加の手紙が届いた。
しかも、伝書鳩ならぬ、伝書フクロウというメルヘンのような手法によって届けられた。
『タイラ・カンナギ 様
やはり、直接会って、お話ししたい事があります。今日は、そちらに泊めて頂けないでしょうか? 出来れば、ヤンも一緒に。
アントニオ・ジーンシャン より』
助けを求める緊急の手紙だ! 今こそ、誓いを果たす時だ!
タイラはすぐに、父である王太子のところへ飛んでいき、二つの手紙を見せた。
ジュン王太子殿下
「すぐに迎えに行きなさい。私は陛下に報告の上、部屋を準備させる。」
タイラ
「はい! 今すぐ!」
そうして、直ぐに馬車を手配し、王立学校の寮へと向かった。
_______
『直ぐにお迎えにあがります』
フクロウが、タイラからの返事を持ち帰ったと思ったら、あまり間も無く、寮に馬車が到着し、タイラが部屋へとやってきた。
タイラ
「トニー様! 只今お迎えにあがりました!」
慌ててバルドとリンに封印の間に入ってもらってから出迎える。
アントニオ
「まさか、迎えに来て下さるなんて! すみません。お返事が来てから、支度をしようと思っていたので、まだ何も出来ていないのです。直ぐに支度を整えます。まだ、ヤンにも言っていなくて。」
タイラ
「では、ヤンに声をかけて来ます。トニー様は支度されていて下さい。」
アントニオ
「有難うございます。」
タイラ様、行動が早過ぎ!
アントニオが急いで、鞄に服と歯ブラシを詰めていると、タイラが戻って来た。
タイラ
「今日は王宮に泊まられて、校舎見学は、明日、王宮から一緒に行きましょう! ですから、制服も準備して下さい。」
タイラ王子は母メアリーに少し似ている。菫色の瞳に見つめられて、アントニオは、3日前に旅立ったばかりの、故郷の事が思い出された。
これが、ホームシックというやつなのだろうか?
超絶過保護だと少し煩わしく思っていたはずの母メアリーに、今、会いたいような気がした。
準備を整えて部屋を出ると、隣の部屋の前で、洗濯室ですれ違った赤毛の寮生と目があった。
この赤毛の子は、お隣さんだったのか。
アントニオが、恐る恐るペコっと頭を下げると、赤毛の寮生も笑顔でペコっと頭を下げてきた。
良かった! この子は友好的だ。
タイラ
「トニー様? お知り合いで?」
アントニオ
「いえ、お隣さんみたいです。」
2人で下の階に降りると、既に身支度を終えたヤンが待っていた。
3人で馬車に乗込み、王宮へと移動した。
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「トニー様...か」
ディーデリックは、アントニオが降りていった階段を見つめながら、呟いた。
あの焦茶の従者は、王子のタイラ様までが親しげで、しかも「様」を付けて名前を呼んでいた。アントニオ・ジーンシャンの従者になるという事は、そこまで、凄いことなのか...。
いや、それとも、あの従者が凄い能力を持っているのかもしれない。
貧しい家の茶髪の両親から生まれたディーデリックは、幼い頃に、その珍しい髪の色から、男爵家へ使用人として売られた。
珍しいもの好きの男爵は、当初、赤毛を皆で笑い者にする為にディーデリックを購入した。しかし、気紛れで受けさせた能力鑑定で、ディーデリックが素晴らしい成績を叩き出すと、男爵家にとって有益であると判断し、教育を受けさせたのである。
能力があれば、赤毛の平民でものし上がれる!
奴隷として生活をして来たディーデリックにとって、それは一つの光明であった。
王立学校に特待生で合格した事を知ると、男爵は大変喜んで送り出してくれた。もちろん、将来、男爵家に仕える魔法戦士になるのだと疑わず。
しかし、ディーデリックは、男爵家に戻る気などさらさら無かった。
男爵家の子供達は、勉強や訓練など碌(ろく)にせず、一日中好き勝手に過ごしている。それなのに、踏ん反り返って尊大な態度で、ディーデリックに辛い仕事ばかりを命じたのである。
ディーデリックは、そんな何の苦労もしらない腑抜けのボンボンが大嫌いで、そんな奴等のために、命をすり減らして仕えるなんて真っ平だった。
王立学校で必ずいい成績をとり、大貴族の魔導騎士団に採用してもらうのだ! そして、自由を手に入れる!
それこそが、ディーデリックの悲願であった。
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※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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