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第三幕 学生期
80.寮の食堂
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ヤンはアントニオを、今度は食堂に案内した。シンプルな内装ではあるが、なかなかに感じの良いレストランである。今日は授業開始前とあって、あまり人気(ひとけ)が無いが、上級生と思(おぼ)しき人物が3人ほど、食事をしている。
ヤン
「食事は食堂で食べてもいいし、部屋まで運んでもらって食べることも出来ます。まだアントニオ様のお部屋は、家具の設置が終わらないと思いますので、今日はこちらで召し上がりますか?」
アントニオ
「そうですね。そろそろお昼の時間ですし、頂きましょうか。注文はどうすれば良いのですか?」
ヤン
「レストランと一緒ですよ。給仕を呼べばいいのです。」
ヤンが手を挙げると、給仕が飛んでくる。
給仕
「いらっしゃいませ。こちらで召し上がりますか? お部屋で召し上がりますか?」
ヤン
「ここで食べる。」
給仕
「では、お席にご案内致します。」
ヤン
「この方がアントニオ・ジーンシャン様だ。良い席に案内しろ。」
給仕
「は? ...はい!」
給仕は一瞬固まって、アントニオの顔と髪をマジマジと見てから、慌てて返事をした。それから、庭に面したテーブル席に案内して、メニューを差し出す。ヤンがメニューを受け取ると、すぐにお茶とおしぼりを用意した。
給仕
「ご注文が決まる頃に、また、参ります!」
給仕は引きつる笑顔を向けながら、そういうと、そそくさと奥に下がっていった。
ヤン
「まったく、どいつもこいつも.....」
ヤンは自身の癖のある金髪をクシャッと掴んで、呟いた。メニューをアントニオに見やすい方向に広げて見せ、ヤンは説明を再開する。
ヤン
「部屋で召し上がる場合は名前と部屋番号を伝えてからメニューを選べば、部屋に料理が届きます。食べ終わったら食器を部屋の外のワゴンに置いておけば、後から片付けに来てくれますよ。
食事も寮費に含まれますので、普通のレストランのように支払いをする必要はありません。お好きなものをお好きなだけ召し上がって下さい。
食堂の利用時間は、7:00~22:00で、ラストオーダーは21:00までです。食事も洗濯物も21:00までと覚えれば大丈夫です。」
アントニオ
「分かりました。時間に気を付けますね。」
ヤン
「召し上がるものは決まりましたか?」
アントニオ
「はい。今日はこの、本日のランチコースにします。」
ヤン
「分かりました。では、俺も同じものを。」
ヤンが給仕を呼んで注文する。
ヤン
「授業が始まると朝は凄く混むので、朝食は前日に予約して部屋に持って来てもらうと楽ですよ。逆に昼は、皆、校舎の食堂を使うので、ここは意外と穴場です。寮費を払っている人しか使えないので。俺が昼にこっちで食べていたら、タイラ様も寮の食費を払ってこっちで食べるようになりました。」
アントニオ
「へぇ~! それは、いいですね! じゃあ、私もそうしようかな?」
ヤン
「是非! 一緒に召し上がって下さい!」
そんな事を話していたら、注文した料理が運ばれて来て、白衣の料理人と給仕達が並んで挨拶しに来た。
料理人
「ようこそ寮の食堂にお越し下さいました。私は料理長のリリャスと申します。召し上がれない物や、逆に召し上がりたい物がありましたら、メニューになくても仰って頂ければと思います。」
そういうと、一同が揃って頭を下げた。
アントニオ
「有難うございます。私はアントニオ・ジーンシャンです。これからお世話になります。宜しくお願い致します。」
料理人
「もったいないお言葉! 光栄でございます! 本日の料理は、芋のクリームスープに、根菜サラダ、牛のハンバーグに、ペンネアラビアータとなっております。」
アントニオ
「とっても美味しそうですね!」
料理人
「有難うございます。」
給仕
「お茶はいかがされますか?」
給仕はドリンクのメニューを広げて見せてくれる。
アントニオ
「では、紅茶をお願いします。」
ヤン
「私も同じものを。」
給仕
「かしこまりました。」
すぐに紅茶が用意され、従業員達は下がっていった。
アントニオ
「凄いですね! 高級レストランみたいです。」
ヤン
「アントニオ様にだけですよ。俺も含めて普通の寮生が食堂を利用しても、シェフは挨拶に来ませんから。」
アントニオ
「タイラ様の時は?」
ヤン
「タイラ様の時は、初めてここを使うときに王太子殿下がいらして、あまり特別扱いするなと仰って帰られたので、それからは皆と同じ扱いです。」
アントニオ
「そうなのですね。私も皆と同じでいいのですけど。」
ヤン
「それは難しいかもしれません。アントニオ様の場合は...これは、ロベルト様が仰っていたのですが、『自分がする前に、すでに手を回されていた』と...」
アントニオ
「手を回していたとは? 部屋だけでなく?」
ヤン
「何でも、ヘンリー・サント様が神官長様を連れていらして、くれぐれも宜しく頼むと言って回られていたとか。また、国王陛下と王太子殿下がいらして、寮の二つの部屋を繋げて一つにするように支持を出されたとか。食事のメニューも、栄養士と王室料理人の視察を入れたとか。」
アントニオ
「......え? あ、それで、寝室とリビングが別だったのですね!? わぁ~! それは...特別扱いし過ぎでは?」
俺の親戚達、俺を甘やかし過ぎでは? 周りの学生に、変に思われないといいけど...。
ヤン
「そんなことありません! アントニオ様のお過ごしになられる環境としては、当たり前の待遇かと!」
駄目だ! この従者も、甘やかし系だった。
だがアントニオは、ヤンが水色に茶の混じった瞳をキラキラさせて微笑んでいるのをみて、とても幸せな気持ちになった。
6年前の出会った頃には考えられなかった、人間関係がここにある。
思えば、同世代の子供達の中で、ヤンが1番長く、1番近い場所にいてくれたのだ。再び一緒に過ごせることが、とても嬉しい。
ヤン
「食事は食堂で食べてもいいし、部屋まで運んでもらって食べることも出来ます。まだアントニオ様のお部屋は、家具の設置が終わらないと思いますので、今日はこちらで召し上がりますか?」
アントニオ
「そうですね。そろそろお昼の時間ですし、頂きましょうか。注文はどうすれば良いのですか?」
ヤン
「レストランと一緒ですよ。給仕を呼べばいいのです。」
ヤンが手を挙げると、給仕が飛んでくる。
給仕
「いらっしゃいませ。こちらで召し上がりますか? お部屋で召し上がりますか?」
ヤン
「ここで食べる。」
給仕
「では、お席にご案内致します。」
ヤン
「この方がアントニオ・ジーンシャン様だ。良い席に案内しろ。」
給仕
「は? ...はい!」
給仕は一瞬固まって、アントニオの顔と髪をマジマジと見てから、慌てて返事をした。それから、庭に面したテーブル席に案内して、メニューを差し出す。ヤンがメニューを受け取ると、すぐにお茶とおしぼりを用意した。
給仕
「ご注文が決まる頃に、また、参ります!」
給仕は引きつる笑顔を向けながら、そういうと、そそくさと奥に下がっていった。
ヤン
「まったく、どいつもこいつも.....」
ヤンは自身の癖のある金髪をクシャッと掴んで、呟いた。メニューをアントニオに見やすい方向に広げて見せ、ヤンは説明を再開する。
ヤン
「部屋で召し上がる場合は名前と部屋番号を伝えてからメニューを選べば、部屋に料理が届きます。食べ終わったら食器を部屋の外のワゴンに置いておけば、後から片付けに来てくれますよ。
食事も寮費に含まれますので、普通のレストランのように支払いをする必要はありません。お好きなものをお好きなだけ召し上がって下さい。
食堂の利用時間は、7:00~22:00で、ラストオーダーは21:00までです。食事も洗濯物も21:00までと覚えれば大丈夫です。」
アントニオ
「分かりました。時間に気を付けますね。」
ヤン
「召し上がるものは決まりましたか?」
アントニオ
「はい。今日はこの、本日のランチコースにします。」
ヤン
「分かりました。では、俺も同じものを。」
ヤンが給仕を呼んで注文する。
ヤン
「授業が始まると朝は凄く混むので、朝食は前日に予約して部屋に持って来てもらうと楽ですよ。逆に昼は、皆、校舎の食堂を使うので、ここは意外と穴場です。寮費を払っている人しか使えないので。俺が昼にこっちで食べていたら、タイラ様も寮の食費を払ってこっちで食べるようになりました。」
アントニオ
「へぇ~! それは、いいですね! じゃあ、私もそうしようかな?」
ヤン
「是非! 一緒に召し上がって下さい!」
そんな事を話していたら、注文した料理が運ばれて来て、白衣の料理人と給仕達が並んで挨拶しに来た。
料理人
「ようこそ寮の食堂にお越し下さいました。私は料理長のリリャスと申します。召し上がれない物や、逆に召し上がりたい物がありましたら、メニューになくても仰って頂ければと思います。」
そういうと、一同が揃って頭を下げた。
アントニオ
「有難うございます。私はアントニオ・ジーンシャンです。これからお世話になります。宜しくお願い致します。」
料理人
「もったいないお言葉! 光栄でございます! 本日の料理は、芋のクリームスープに、根菜サラダ、牛のハンバーグに、ペンネアラビアータとなっております。」
アントニオ
「とっても美味しそうですね!」
料理人
「有難うございます。」
給仕
「お茶はいかがされますか?」
給仕はドリンクのメニューを広げて見せてくれる。
アントニオ
「では、紅茶をお願いします。」
ヤン
「私も同じものを。」
給仕
「かしこまりました。」
すぐに紅茶が用意され、従業員達は下がっていった。
アントニオ
「凄いですね! 高級レストランみたいです。」
ヤン
「アントニオ様にだけですよ。俺も含めて普通の寮生が食堂を利用しても、シェフは挨拶に来ませんから。」
アントニオ
「タイラ様の時は?」
ヤン
「タイラ様の時は、初めてここを使うときに王太子殿下がいらして、あまり特別扱いするなと仰って帰られたので、それからは皆と同じ扱いです。」
アントニオ
「そうなのですね。私も皆と同じでいいのですけど。」
ヤン
「それは難しいかもしれません。アントニオ様の場合は...これは、ロベルト様が仰っていたのですが、『自分がする前に、すでに手を回されていた』と...」
アントニオ
「手を回していたとは? 部屋だけでなく?」
ヤン
「何でも、ヘンリー・サント様が神官長様を連れていらして、くれぐれも宜しく頼むと言って回られていたとか。また、国王陛下と王太子殿下がいらして、寮の二つの部屋を繋げて一つにするように支持を出されたとか。食事のメニューも、栄養士と王室料理人の視察を入れたとか。」
アントニオ
「......え? あ、それで、寝室とリビングが別だったのですね!? わぁ~! それは...特別扱いし過ぎでは?」
俺の親戚達、俺を甘やかし過ぎでは? 周りの学生に、変に思われないといいけど...。
ヤン
「そんなことありません! アントニオ様のお過ごしになられる環境としては、当たり前の待遇かと!」
駄目だ! この従者も、甘やかし系だった。
だがアントニオは、ヤンが水色に茶の混じった瞳をキラキラさせて微笑んでいるのをみて、とても幸せな気持ちになった。
6年前の出会った頃には考えられなかった、人間関係がここにある。
思えば、同世代の子供達の中で、ヤンが1番長く、1番近い場所にいてくれたのだ。再び一緒に過ごせることが、とても嬉しい。
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