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第二幕 幼少期

70.魔法の解き方 ❤︎

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バルド
「全然動けない! あいつ! 後で覚えてろよ!」

リン
「エストのやつ、本当に化け物だな。この俺が為すすべもなく捕まるなんて! やはり、世の中には、上には上がいるものだ.....。」

メアリー
「あぁ、私はなんて事をしてしまったの? トニーは暴力を怖がっていたのに!」

グリエルモ
「どういう事だ!? 魔王なんていなかったと言っていた....」

リン
「正確には、『世界を滅ぼそうとする魔王』は、だな。」

グリエルモ
「何か、ご存知なのですか?」

リン
「お前達の方が知ってるだろ?」

グリエルモ
「どういう事でしょうか?」

リン
「じゃあ、聞くが、お前達の知っている魔王が、軍を率いて人々を襲っているところを見たか?」

グリエルモ
「いえ.....ですが、攻めて来た魔王軍の魔族と、魔王城で戦った魔族達が、本物の魔王は死者の谷に住むバルドという魔人だと言っていました。」

リン
「お前達はそれを信じたんだな? 魔族の王なのに、街や城に住まず、谷に一人で住んでいるなんて、おかしいとは思わなかったか?」

グリエルモ
「それは......。」

リン
「戦闘になる前に話はしたか?」

グリエルモ
「い、いえ.....。」

リン
「じゃあ、お前達は家に不法侵入して、突然襲い掛かったんだな?」

グリエルモ
「でも、それは.......そうかもしれませんが......」

リン
「まぁ、自然界じゃ、殺られる前に殺るのは当たり前だからな。勝率をあげるために不意打ちを狙いたかった気持ちは分かる。」

メアリー
「で、では、私達は罪のない者を攻撃して封印したと?」

リン
「まぁ、そうかもな。罪があるのか、ないのか、本当に魔王だったのか、魔王じゃなかったのか、俺には分からないが........エストは封印された魔人が善良だと信じている。」

グリエルモ
「そうですか......つまり、トニーは私達の事を暴力的で子供を虐待する親だと思っているのですね?」

リン
「はははは! そうかもな。エストは、殺られる前に殺らなければ生きてはいけないという、自然界の常識がないからな!」

 笑い出したリンは自分の身体が動くことに気が付く。

リン
「あ、動ける!......まぁ、それに、お前達には、すぐに手が出る悪い癖があることは確かだろう?
 俺の一族でも、分からず屋の子供を叩いて躾けることはあるが、エストには必要ない。」

バルド
「あいつは話せばわかるし、あいつにはあいつの言い分がある。誰よりも強い力を持っていて、エストが本気で相手を従わせようと思えば、従わせることも出来る。だが、今まで、それをしようとはしなかった。あいつはお前達を傷付けないように気を付けている。だから今後はお前達も、あいつを傷付けないように気をつけるんだな。もし、あいつにまた手をあげるような事があったら、今度は俺が許さない。」

グリエルモ
「はい。」

メアリー
「はい。二度と手はあげません。」

リン
「よし! じゃあ、迎えに行くか! .....おい! ルド! 何してるんだ! 早くしろ! 行くぞ!」

バルド
「あぁ、だが、動かない! リン、お前、状態異常を解く魔法は使えないのか?」

リン
「エストの魔法は精神属性の魔法だろ? しかも、魔法をかけたのは桁違いの魔力を持つエストだ。俺には無理だな! 気合いで動かせ! 身体じゃなくて、精神を動かせ!」

バルド
「気合いで動かせたら苦労はしない!」

リン
「....そうだな...............ルド、お前の庭の畑から勝手に野菜を引っこ抜いて食べたのは、実は、ドーラちゃんじゃなくて、俺だ!」

バルド
「何だと!!!」

 バルドの身体が動く。

リン
「おぉ! 解けた! よかったな!」

バルド
「ちょっと待て! 野菜の件は本当か!?」

リン
「嘘に決まってるだろ? 作戦だ! お前の魔法を解くための!」

バルド
「本当だろうな?」

リン
「嘘じゃない。だが、ドーラちゃんに真実を聞くのはやめた方がいい。お前は争いごとは嫌いだろ? それより、行くぞ!」

バルド
「おい!」

 バルドとリンは空間移動魔法で、消えていった。


 しかし、残されたグリエルモ達は、全く動ける気配がない。

 そうこうしているうちに、キャロラインに伝言を頼まれた二人の憲兵がやって来た。

憲兵
「どうされたのですか? こんな所に集まられて?」

グリエルモ
「情けない話なんだが、トニーの魔法で動けないんだ。」

憲兵
「えぇ! 大変だ! どうすれば!? 竜騎士長を呼んで来ましょうか?」

グリエルモ
「いや、氷属性の拘束ではないんだ。ディアナでは解けない。このまま解けるまで待つしかない。」

憲兵
「そんな!」

グリエルモ
「それより、関所にトニーが行ったただろ?トニーはどうしている?」

憲兵
「いえ........あ! だからトニー様は.......あぁ! 大変だ!」

グリエルモ
「どうしたんだ?」

憲兵
「忘れ物があるから取りに行くと外へ.....急いで出て行かれました.....」

 憲兵達はアントニオが許可なく外出した事を知って青ざめた。

メアリー
「外に!? あぁ! トニー! 何て事なの!」

グリエルモ
「それで、お前達二人は報告に来たんだな?」

憲兵
「いえ、あの、これを.....」

 憲兵は金の腕輪を取り出した。

リュシアン
「それは!」

 リュシアンの身体が動く。

リュシアン
「あ! 動けるようになった!.....それで? その金の腕輪がどうした?」

憲兵
「はい。女性と男性の二人組が来まして、アントン様のことで、リン様とルド様にお会いしたいと申しております。リン様とルド様は、確か、お忍び視察の時の護衛の方ですよね?」

 リュシアンは話を聞きながら、金の腕輪を受け取ると、ポケットに入れていた金の腕輪を取り出し、見比べた。

 同じ腕輪だ!

リュシアン
「お二人は今はいない。すでにトニー様の元へ向かわれた。その女性には私が会おう! 何処に?」

憲兵
「ゲートハウスです。」

グリエルモ
「その金の腕輪は?」

リュシアン
「これは、リン様から頂いた金の腕輪なのですが、同じ腕輪を持つ女性はリン様とルド様のお知り合いのようです。」

 リュシアンは軽く頭を下げる。

リュシアン
「では、お先に失礼致します!」

ジュゼッペ
「あ! 狡いぞ! リュシアン!」

 リュシアンはゲートハウスに向かって走って行ってしまった。

グリエルモ
「リュシアンはどうやってトニーの魔法を解いたんだ? リュシアンの魔力は私やメアリーよりも低いはず。」

ジュゼッペ
「あの腕輪は、リン様からオススメの結婚相手を探すための手掛かりとして頂いていたものなのです。心がときめいて、精神が動いたのでしょう。」

グリエルモ
「あぁ、なるほど.....。」

メアリー
「さっき、ルド様は畑の野菜のことで心が動いていたわ。ビックリすると動けるようになるかも?」

ジュゼッペ
「ですが、トニー様や魔人の話を聞いても魔法は解けませんでした。心が止まるような内容ではダメなようです。」

グリエルモ
「心が動くような事があれば魔法が解けるのか?」

ジュゼッペ
「分かりませんが、可能性は高いかと。」

グリエルモ
「......メアリー.......。」

メアリー
「どうしたの?」

グリエルモ
「........。」

メアリー
「何?」

グリエルモ
「愛しているよ。」

 その場にいた全員が赤面したが、メアリーとグリエルモだけが動けるようになった。

メアリー
「わぁ! 凄い! 動けるようになったわ!」

 顔が熱くなるのを誤魔化すように、メアリーは大げさに動けるアピールをする。

グリエルモ
「憲兵の二人! すまないが、ジュゼッペを部屋へ運びベッドで休ませてあげてくれ。クラウディオにも報告を。魔力が低い者は、長時間に渡り動けない可能性がある。そして、他に歌を聴いて動けなくなっている者がいないか確認してくれ。」

憲兵
「「はい!」」

グリエルモ
「ジュゼッペ! 早く魔法が解けるように祈る。あとは頼んだぞ!」

ジュゼッペ
「えぇ!? そんな! ....はい、承知致しました。」

 グリエルモとメアリーもゲートハウスに駆け出していった。
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