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第二幕 幼少期
48.戦争と勘違い
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アントニオを保護した老紳士のエミールとその夫人ミランダは、2階から聞こえてきた嘆きの歌に、さらなる涙を流していた。
何という悲しみ!
胸が引き裂かれるような思いで、歌を聞いた。
歌が終わって間も無く、ユニコーンが力強く駆けてくる音がしたと思ったら、次の瞬間、ドンドンドン! と激しく戸を叩く音がした。
メアリー
「開けて! 私はメアリー・ジーンシャンよ! 今すぐに、ここを開けなさい!」
ミランダは急いで戸を開けようとしたが、エミールがそれを止めた。そして、ミランダにしか聞こえない小さな声でエミールは喋った。
エミール
「本物の聖女様が、こんなところに何の用事がある?」
ミランダ
「それでは、今、戸を叩いているのは聖女様を語る魔族であると?」
エミール
「その可能性が高い。居留守を決め込んで、やり過ごそう」
しかし、老夫婦の願いは虚しく、戸を叩く音は強くなる。
メアリー
「開けなさい! 命令です! いる事は分かっているのよ! ドアを開けないなら、ドアを壊して入るまでです!」
メアリーは、アントニオの歌を聞いて駆けつけて来たのだ。歌によって息子の悲しみを知った上に、歌の魔力に当てられて、メアリーは明らかに正気ではなかった。
トニーが悲しむような事をした人間がいる。きっと、戸を開けない家主が犯人だ! メアリーは闇のオーラをまとい怒り狂っていた。
その闇のオーラを感じ取り、老夫婦は震え上がる。
エミール
「ミランダ! あの子を連れて裏口から逃げよう!」
騒ぎを聞きつけて、2階から降りて来たアントニオの手を強く引いて、裏口へ向かう。
アントニオ
「待って! 母上の声だ!」
老夫婦はゾッとした。自分達には聖女に聞こえる声が、この子には母親の声に聞こえるらしい。同時に、確信を持った。
あれは間違いなく魔族だ!
エミール
「違う! あれは魔族だ! 騙されてはいけない! 魔法で擬態している! 急いで逃げるんだ!」
そう言われて、アントニオには判断がつかなくなった。そのまま手を引かれて裏口へたどり着く。裏口のドアから裏通りに飛び出し、後方を気にしつつ走りだすが、すぐに何かにぶつかった。
大きな影を落とす、それは、飛竜であった。
見上げていると、何か強い力が、アントニオを老夫婦から引き離し、抱き寄せた。
しまった! 待ち伏せされていた! エミールは慌てて武器を構えようとしたが、すぐに武器は弾き飛ばされてしまった。
プラチナブロンドの髪に、青地に金糸の獅子の刺繍が施されたマントが翻る。
その男は、エミールの首元に剣を突き付けこう言った。
「神の意志により、お前の命は私のものである!」
アントニオ
「リュシアン!」
リュシアン
「トニー様、ご無事でしょうか?」
アントニオ
「無事だけど! 手荒な事をしないで!! 2人は、私を魔族から助けてくれようとしただけだ!」
アントニオは混乱していた。初めて城下町に来て、お酒を飲んで寝ちゃったら、先生はいないし、知らない人に抱っこされていて、落とされて、放置されて、具合が悪くなり、保護されたと思ったら、両親に奴隷商人に売られたのだと言われ、戦争になって魔族が襲って来て...リュシアンが迎えに来た?
両親が自分を捨てたのなら、リュシアンは自分の護衛騎士ではないはず...どうして助けに来てくれたんだろう?
リュシアン
「そうでしたか。とんだ勘違いでご無礼を!申し訳ない」
剣を引くリュシアンを見上げながら、老夫婦も混乱してしばらく固まっていた。
エミール
「竜騎士様!? こちらこそ、逆光でよく見えておらず、とんだご無礼を!」
リュシアン
「大丈夫、気にしていません。トニー様を守って下さろうとしたのですから」
何が起きているのか?
すると、凄まじい怒号とともに家の方から戸を破壊する音が聞こえてきた。
リュシアンは、自分の後ろにアントニオと老夫婦を下がらせ、再び剣を構える。
とてつもない闇のオーラを放つ何かが、家の中に入ったようだ。そして、何かを探している。相手は単体のようだが、自分よりも大きな魔力を持っている魔族のようだ。3人の人間を守りながら戦うことは不可能である。
リュシアン
「私1人では倒せそうもない...3人はすぐに走って逃げて下さい! 私は少し引きつけてから飛竜で逃げて、応援を呼びます!」
しかし、アントニオは逃げずに戦うことを決意していた。だが、接近戦では足手まといになる。老夫婦を逃がしてから、距離をとって歌魔法を使おうと思った。一応リュシアンの言葉には頷いて、走り出す。
しかし、アントニオが走り出しても、老夫婦は逃げずにとどまっている。それどころか、リュシアンすら固まったまま動かない。
魔力の大きなアントニオには効かなかったが、闇の魔法で、3人の動きが止められていたのだ。
アントニオはびっくりして3人の元へ駆け戻る。
リュシアン
「トニー様! お逃げ下さい!」
どうしよう!? 1人で逃げるなんて、そんな事出来ない! 何か、魔法を解く歌とかなかったっけ??? しかし、恐怖でうまく頭が回転しない。
考えつく間もなく、家の裏口の戸が開かれ、闇の帝王がゆっくりと姿を現した。
白銀の髪がしなやかに揺れ、その瞳は菫色に輝く。人類最強の女性、聖女が現れた。
メアリー
「トニー!」
メアリーはアントニオに駆け寄って抱きしめ、何度も頬ずりをする。
アントニオ
「は、母上!?」
メアリー
「良かった! 無事だったのね! 本当に心配したわ! もう、大丈夫よ!」
アントニオは、またまた混乱した。
どう考えても、この反応は、息子を奴隷商人に売った母親の反応ではない。やはり、魔族が母上に化けているのだろうか?
アントニオ
「母上!? どうしてここに? 何で、領民の家を壊して、皆を捕まえるのですか?」
メアリー
「何でって...この人達はトニーをさらって酷い事をしたのでしょう?」
そう言って、3人に目を向けた。
メアリー
「あら? リュシアン!?」
それに、他の2人も人の良さそうな老夫婦である。
アントニオ
「この方達は、具合の悪い私を保護して、魔族から守ってくれようとしたのです。リュシアンも先程合流したばかりですし」
メアリー
「魔族? 魔族がトニーを攫ったの?」
アントニオ
「いいえ? 魔族が出たから、魔導騎士団が出動したのでは? それより、早く皆の拘束を解いて下さい!」
メアリー
「あら、御免なさい」
魔法が解かれ、3人は動けるようになった。
メアリー
「魔導騎士団が出動したのは、トニーがいなくなったからでしょう?」
アントニオ
「えぇ!? そうなのですか?」
メアリー
「でも、助けて下さった方ならば、どうして、戸を開けることに応じず、トニーを連れて裏口から逃げだしたのですか? やはり、そこの2人はトニーを誘拐しようとしたのでは?」
エミール
「いえ! 決して、そのようなことは!」
リュシアン
「メアリー様......メアリー様を魔族だと思ったようです。」
メアリー
「何ですって!? どうしてそうなるのよ!?」
アントニオ
「え...だって、あんな、ドス黒くて強烈な闇のオーラ...誰だって怖いと思います」
メアリー
「......それは...御免なさい」
空からアントニオの無事を確認した竜騎士が、合図を送る。知らせを受け、他の竜騎士やユニコーン騎兵が集まって来た。
集まった騎士団を掻き分けて、白いユニコーンに跨った黄金の獅子グリエルモが姿を現した。
グリエルモ
「トニー! 無事だったんだね!」
グリエルモはユニコーンを降りて駆け寄ると、メアリーの腕からアントニオを受け取って、抱きしめた。
アントニオは、その力強い腕の中で、温かい体温を感じ、再び目が熱くなるのを感じた。力いっぱいしがみ付いて、グリエルモの肩にかかる金糸の獅子を涙で湿らせた。
捨てられたわけではなかったんだ!
何という悲しみ!
胸が引き裂かれるような思いで、歌を聞いた。
歌が終わって間も無く、ユニコーンが力強く駆けてくる音がしたと思ったら、次の瞬間、ドンドンドン! と激しく戸を叩く音がした。
メアリー
「開けて! 私はメアリー・ジーンシャンよ! 今すぐに、ここを開けなさい!」
ミランダは急いで戸を開けようとしたが、エミールがそれを止めた。そして、ミランダにしか聞こえない小さな声でエミールは喋った。
エミール
「本物の聖女様が、こんなところに何の用事がある?」
ミランダ
「それでは、今、戸を叩いているのは聖女様を語る魔族であると?」
エミール
「その可能性が高い。居留守を決め込んで、やり過ごそう」
しかし、老夫婦の願いは虚しく、戸を叩く音は強くなる。
メアリー
「開けなさい! 命令です! いる事は分かっているのよ! ドアを開けないなら、ドアを壊して入るまでです!」
メアリーは、アントニオの歌を聞いて駆けつけて来たのだ。歌によって息子の悲しみを知った上に、歌の魔力に当てられて、メアリーは明らかに正気ではなかった。
トニーが悲しむような事をした人間がいる。きっと、戸を開けない家主が犯人だ! メアリーは闇のオーラをまとい怒り狂っていた。
その闇のオーラを感じ取り、老夫婦は震え上がる。
エミール
「ミランダ! あの子を連れて裏口から逃げよう!」
騒ぎを聞きつけて、2階から降りて来たアントニオの手を強く引いて、裏口へ向かう。
アントニオ
「待って! 母上の声だ!」
老夫婦はゾッとした。自分達には聖女に聞こえる声が、この子には母親の声に聞こえるらしい。同時に、確信を持った。
あれは間違いなく魔族だ!
エミール
「違う! あれは魔族だ! 騙されてはいけない! 魔法で擬態している! 急いで逃げるんだ!」
そう言われて、アントニオには判断がつかなくなった。そのまま手を引かれて裏口へたどり着く。裏口のドアから裏通りに飛び出し、後方を気にしつつ走りだすが、すぐに何かにぶつかった。
大きな影を落とす、それは、飛竜であった。
見上げていると、何か強い力が、アントニオを老夫婦から引き離し、抱き寄せた。
しまった! 待ち伏せされていた! エミールは慌てて武器を構えようとしたが、すぐに武器は弾き飛ばされてしまった。
プラチナブロンドの髪に、青地に金糸の獅子の刺繍が施されたマントが翻る。
その男は、エミールの首元に剣を突き付けこう言った。
「神の意志により、お前の命は私のものである!」
アントニオ
「リュシアン!」
リュシアン
「トニー様、ご無事でしょうか?」
アントニオ
「無事だけど! 手荒な事をしないで!! 2人は、私を魔族から助けてくれようとしただけだ!」
アントニオは混乱していた。初めて城下町に来て、お酒を飲んで寝ちゃったら、先生はいないし、知らない人に抱っこされていて、落とされて、放置されて、具合が悪くなり、保護されたと思ったら、両親に奴隷商人に売られたのだと言われ、戦争になって魔族が襲って来て...リュシアンが迎えに来た?
両親が自分を捨てたのなら、リュシアンは自分の護衛騎士ではないはず...どうして助けに来てくれたんだろう?
リュシアン
「そうでしたか。とんだ勘違いでご無礼を!申し訳ない」
剣を引くリュシアンを見上げながら、老夫婦も混乱してしばらく固まっていた。
エミール
「竜騎士様!? こちらこそ、逆光でよく見えておらず、とんだご無礼を!」
リュシアン
「大丈夫、気にしていません。トニー様を守って下さろうとしたのですから」
何が起きているのか?
すると、凄まじい怒号とともに家の方から戸を破壊する音が聞こえてきた。
リュシアンは、自分の後ろにアントニオと老夫婦を下がらせ、再び剣を構える。
とてつもない闇のオーラを放つ何かが、家の中に入ったようだ。そして、何かを探している。相手は単体のようだが、自分よりも大きな魔力を持っている魔族のようだ。3人の人間を守りながら戦うことは不可能である。
リュシアン
「私1人では倒せそうもない...3人はすぐに走って逃げて下さい! 私は少し引きつけてから飛竜で逃げて、応援を呼びます!」
しかし、アントニオは逃げずに戦うことを決意していた。だが、接近戦では足手まといになる。老夫婦を逃がしてから、距離をとって歌魔法を使おうと思った。一応リュシアンの言葉には頷いて、走り出す。
しかし、アントニオが走り出しても、老夫婦は逃げずにとどまっている。それどころか、リュシアンすら固まったまま動かない。
魔力の大きなアントニオには効かなかったが、闇の魔法で、3人の動きが止められていたのだ。
アントニオはびっくりして3人の元へ駆け戻る。
リュシアン
「トニー様! お逃げ下さい!」
どうしよう!? 1人で逃げるなんて、そんな事出来ない! 何か、魔法を解く歌とかなかったっけ??? しかし、恐怖でうまく頭が回転しない。
考えつく間もなく、家の裏口の戸が開かれ、闇の帝王がゆっくりと姿を現した。
白銀の髪がしなやかに揺れ、その瞳は菫色に輝く。人類最強の女性、聖女が現れた。
メアリー
「トニー!」
メアリーはアントニオに駆け寄って抱きしめ、何度も頬ずりをする。
アントニオ
「は、母上!?」
メアリー
「良かった! 無事だったのね! 本当に心配したわ! もう、大丈夫よ!」
アントニオは、またまた混乱した。
どう考えても、この反応は、息子を奴隷商人に売った母親の反応ではない。やはり、魔族が母上に化けているのだろうか?
アントニオ
「母上!? どうしてここに? 何で、領民の家を壊して、皆を捕まえるのですか?」
メアリー
「何でって...この人達はトニーをさらって酷い事をしたのでしょう?」
そう言って、3人に目を向けた。
メアリー
「あら? リュシアン!?」
それに、他の2人も人の良さそうな老夫婦である。
アントニオ
「この方達は、具合の悪い私を保護して、魔族から守ってくれようとしたのです。リュシアンも先程合流したばかりですし」
メアリー
「魔族? 魔族がトニーを攫ったの?」
アントニオ
「いいえ? 魔族が出たから、魔導騎士団が出動したのでは? それより、早く皆の拘束を解いて下さい!」
メアリー
「あら、御免なさい」
魔法が解かれ、3人は動けるようになった。
メアリー
「魔導騎士団が出動したのは、トニーがいなくなったからでしょう?」
アントニオ
「えぇ!? そうなのですか?」
メアリー
「でも、助けて下さった方ならば、どうして、戸を開けることに応じず、トニーを連れて裏口から逃げだしたのですか? やはり、そこの2人はトニーを誘拐しようとしたのでは?」
エミール
「いえ! 決して、そのようなことは!」
リュシアン
「メアリー様......メアリー様を魔族だと思ったようです。」
メアリー
「何ですって!? どうしてそうなるのよ!?」
アントニオ
「え...だって、あんな、ドス黒くて強烈な闇のオーラ...誰だって怖いと思います」
メアリー
「......それは...御免なさい」
空からアントニオの無事を確認した竜騎士が、合図を送る。知らせを受け、他の竜騎士やユニコーン騎兵が集まって来た。
集まった騎士団を掻き分けて、白いユニコーンに跨った黄金の獅子グリエルモが姿を現した。
グリエルモ
「トニー! 無事だったんだね!」
グリエルモはユニコーンを降りて駆け寄ると、メアリーの腕からアントニオを受け取って、抱きしめた。
アントニオは、その力強い腕の中で、温かい体温を感じ、再び目が熱くなるのを感じた。力いっぱいしがみ付いて、グリエルモの肩にかかる金糸の獅子を涙で湿らせた。
捨てられたわけではなかったんだ!
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