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猫ちゃん以外どうでもいいんです!(6)
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「おいっ。今『じゃあ』って言ったな!? 『じゃあ』とは何だ! やっぱり愛していなかったのか俺を!」
「心から愛していましたってば! 本当にもうご勘弁をっ」
なんて、両親が何事かと目をぱちくりしている中、ソマリがアンドリューとギャーギャーやり合っていると。
「な、なぜあなた様がこのような場所にっ!?」
玄関の隅にいた城からの伝令者が、突如慌てふためいた声を上げた。またもや今までにない事態に、何事かとソマリがそちらに視線を向けると。
(あ、あの鉄仮面は! サイベリアン王国の王太子、スクーカム様じゃないのっ)
舞踏会に出席していたはずなのに、いつの間にか姿を消していたことに二十二回目の人生で初めて気づき、少しだけ気になっていた存在だ。
しかしそれまでスクーカムに深く関わったことは無かったので、頭の片隅に置いていたくらいだった。
「ススス、スクーカム様。何か御用でしょうか……?」
隣国の王太子の登場にソマリの父は慌てた様子で問うと。
「あ、いや……。用というか……」
スクーカムは相変わらず目元が少しだけ見える鉄仮面を被っているので、その表情はうかがい知れない。しかし軍事国家の王子らしくなく、たどたどしい口調で要領の得ないことを言っている。
ちらちらと頭を動かして、何かを捜しているようにも見えた。鉄仮面の隙間から、黒髪と同色の瞳が時折覗く。
(本当に、スクーカム様が一体どうしてこんなところに?)
「スクーカム殿! 申し訳ないが今は忙しいのだっ。先ほど俺が婚約破棄をつきつけたこのソマリが、俺を愛していなかったなどと強がりを言うものでな!」
一応、スクーカムと同じく一国の王太子という身分のアンドリューは特にかしこまる様子もない。今はソマリを追求することで頭がいっぱいなのだろう。
(もうアンドリューもスクーカム様もどうでもいいから、早く猫ちゃんを隠させてほしいわ!)
「だから、ちゃんと私は愛していましたって申しているではないですかっ」
「それならなんで俺に縋らないっ!? あっさりと婚約破棄を受け入れてたではないか!」
「私が縋ったところで足蹴にしてあざ笑うだけでございましょう!?」
「それはそうだが!」
(ああ、もう。本当にプライドの高い馬鹿ね……! こんな頭が悪い人間が国王になるなんて。フレーメン王国の国民がかわいそうでならないわ)
アンドリューのあまりの話の通じなさに、ソマリがついにはこの国の民衆を憐れみを抱いていると。
「婚約破棄……?」
スクーカムがなぜかその単語に食いついた様子だった。彼にはソマリとアンドリューのいざこざなど、まるで関係ないはずだが。
「そうだ! 俺が婚約破棄したばかりだというのに、この女は泣きつきもせずに本当にかわいげのない……」
「ふむ。ならばそちらの令嬢――ソマリと言ったか。ソマリは現在、誰とも婚約していないということだな?」
アンドリューの戯言を遮って、スクーカムが冷静な声で尋ねる。
「そうだ!」
「なるほど。では、俺がソマリと婚約する。ソマリ、俺と結婚してくれ」
鉄仮面を付けたままだが、真っすぐにソマリの方を向いて、淡々とスクーカムが告げた。
『……は?』
ソマリを始め、アンドリューやソマリの両親、そして王宮からの伝令者も、声を揃えて間の抜けた声をあげた。
「心から愛していましたってば! 本当にもうご勘弁をっ」
なんて、両親が何事かと目をぱちくりしている中、ソマリがアンドリューとギャーギャーやり合っていると。
「な、なぜあなた様がこのような場所にっ!?」
玄関の隅にいた城からの伝令者が、突如慌てふためいた声を上げた。またもや今までにない事態に、何事かとソマリがそちらに視線を向けると。
(あ、あの鉄仮面は! サイベリアン王国の王太子、スクーカム様じゃないのっ)
舞踏会に出席していたはずなのに、いつの間にか姿を消していたことに二十二回目の人生で初めて気づき、少しだけ気になっていた存在だ。
しかしそれまでスクーカムに深く関わったことは無かったので、頭の片隅に置いていたくらいだった。
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隣国の王太子の登場にソマリの父は慌てた様子で問うと。
「あ、いや……。用というか……」
スクーカムは相変わらず目元が少しだけ見える鉄仮面を被っているので、その表情はうかがい知れない。しかし軍事国家の王子らしくなく、たどたどしい口調で要領の得ないことを言っている。
ちらちらと頭を動かして、何かを捜しているようにも見えた。鉄仮面の隙間から、黒髪と同色の瞳が時折覗く。
(本当に、スクーカム様が一体どうしてこんなところに?)
「スクーカム殿! 申し訳ないが今は忙しいのだっ。先ほど俺が婚約破棄をつきつけたこのソマリが、俺を愛していなかったなどと強がりを言うものでな!」
一応、スクーカムと同じく一国の王太子という身分のアンドリューは特にかしこまる様子もない。今はソマリを追求することで頭がいっぱいなのだろう。
(もうアンドリューもスクーカム様もどうでもいいから、早く猫ちゃんを隠させてほしいわ!)
「だから、ちゃんと私は愛していましたって申しているではないですかっ」
「それならなんで俺に縋らないっ!? あっさりと婚約破棄を受け入れてたではないか!」
「私が縋ったところで足蹴にしてあざ笑うだけでございましょう!?」
「それはそうだが!」
(ああ、もう。本当にプライドの高い馬鹿ね……! こんな頭が悪い人間が国王になるなんて。フレーメン王国の国民がかわいそうでならないわ)
アンドリューのあまりの話の通じなさに、ソマリがついにはこの国の民衆を憐れみを抱いていると。
「婚約破棄……?」
スクーカムがなぜかその単語に食いついた様子だった。彼にはソマリとアンドリューのいざこざなど、まるで関係ないはずだが。
「そうだ! 俺が婚約破棄したばかりだというのに、この女は泣きつきもせずに本当にかわいげのない……」
「ふむ。ならばそちらの令嬢――ソマリと言ったか。ソマリは現在、誰とも婚約していないということだな?」
アンドリューの戯言を遮って、スクーカムが冷静な声で尋ねる。
「そうだ!」
「なるほど。では、俺がソマリと婚約する。ソマリ、俺と結婚してくれ」
鉄仮面を付けたままだが、真っすぐにソマリの方を向いて、淡々とスクーカムが告げた。
『……は?』
ソマリを始め、アンドリューやソマリの両親、そして王宮からの伝令者も、声を揃えて間の抜けた声をあげた。
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