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魔女の仕事
暗殺者ミラ
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作戦を立てず真っ向で挑むのは死に行くようなものだが、流石暗殺失敗率百パーセントと言われるだけある。
リヴが小屋の前に着いた頃には、アピの足元で転がる暗殺者らしき四人が。何か見えない力で拘束されているようで、地面でもがいている。何かしらの魔法で発声を制限されているのか、大口を開けているが何の音も出せていない。
その男達四人が転がる中、アピは自信満々に胸を張る。
「どうだリヴ! 全員殺さないで捕まえたぞ!」
リヴが追いつくまでの時間は数分くらいだったはずだが、こうも簡単に暗殺者達を拘束するとは。改めて彼女の強さを目の当たりにしながらも、リヴは嘆息した。
「……はあ。重力魔法で拘束しているようだが……その後どう動くんだお前」
「んん!? それはお前……えっと……」
いくら優秀な魔女でも魔法を発動中に別の魔法を使おうとしたら精度は落ちる。そんな状態でミラに挑めるわけがない。
「そいつら殺せよ。そいつらが動かないようにするには息の根を止めるしかないだろう」
重力魔法でそのまま潰してしまえば、彼等は一たまりもないだろう。リヴの言葉に、暗殺者達は顔を青くさせてその場でもがく。
「な、何を言う——」
「アピちゃん、ボクが殺してあげようかあ。こいつらアピちゃんに刃を向けたしもう死ぬしか選択肢がないからさあ」
言いかけるアピの側に寄ったティールが悪魔のささやきをする。アピは思い切り首を振った。
「だ、駄目だ駄目だ!! 命は簡単に奪っちゃいけないんだ!!」
「……お前がそれを言うか? お前、今まで襲って来た暗殺者を殺してきただろう」
随分と違和感のある言葉にリヴは思わずそう言ってしまう。アピを暗殺に向かった暗殺者達は全員行方をくらませた。それは彼女が殺しているからなのは明らかだ。だが、アピは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「は? 何を言っている! 殺しているわけないだろうが!」
「しらばっくれるのか? 突然良い子ぶるのは理解しかねるんだが」
「はあ!? 私は良い子ぶってなんか——」
その時、ふわりと風が揺れた。リヴはハッとして首元のスカーフで口元を覆い、懐に手を入れナイフを取り出す。
こんなに騒いでいれば、気づかない者もいないだろう。
「何だい、騒がしい」
いつの間にか、リヴの目の前に白い仮面をした人間が立っていた。枯草色のローブですっぽりと頭を覆っている為、髪色や体型は分からない。だが、背はリヴよりやや低い。暗殺者だというのに、背筋をピンと伸ばして歩く姿はまるで貴族のよう。
「ミラ……!」
前回の暗殺任務でリヴを妨害し、右腕に重傷を負わせた張本人ミラだった。
ミラの顔を見た途端、右腕に鈍痛が走る。ミラはリヴの方に仮面を向けた。
「ああ、君はリヴと言ったか。暗殺者が道端で堂々と言い争うなんて、居場所を教えているようなものだよ?」
顔を全体覆うタイプの仮面なので、ミラがどんな表情をしているか分からないが、優しく諭すような言い方は逆に怒りを煽る。リヴはスカーフの下で歯を噛み締めながらも、何も言わずにミラに対して武器を構えながら動向を探る。
「お前がミラだな! 私はアピ⁼レイス!お前を暗殺しに来た!!」
本人に堂々と暗殺しに来たというのはどういう事だ、とリヴは若干脱力しかける。
ミラは自分の部下達が地面でもがいているのを見下ろしてからアピの方へ視線を送る。
「アピ……ああ。暗殺不可能な魔女か。こんなに小さい子だったなんて。ふふふ、随分と可愛らしい」
「可愛らしい……!? おい、こいつ良い奴なんじゃないか?」
こんな分かりやすい世辞に騙されるなんて本当に暗殺失敗率百パーセントなのか、と心の中で突っ込む。
「私の部下を倒して何をしに来たと思ったら……暗殺か。こんな堂々とした暗殺を仕掛けられるとは思わなかったよ」
ミラがレイピアを抜く。構える姿は暗殺者というより騎士のようだ。部下達が拘束されているというのに、ミラは少しも焦った様子を見せない。
「よし! やるぞリヴ!」
「お前……重力魔法解除するのか?」
「え? ……あ!」
暗殺者達を殺していない為、重力魔法を解除すれば襲い掛かってくるだろう。アピがどうしようかともたもたしているところに——
「さあ、始めようか」
ミラは躊躇なく踏み込むとレイピアをアピに向けて突き出した。アピは咄嗟に氷魔法で壁を作ろうとしたが、間に合わない。切っ先がアピの腹部を貫く直前――リヴのナイフがそれを止めた。
「り、リヴ!」
「――っ! お前、こんな簡単に殺されようとするな……!」
ミラは体勢を整える為に一歩身を引いてから、不思議そうに首を傾げる。
「おや、どうしてアピ⁼レイスを庇うんだ? リヴ」
「こいつは俺の獲物だからだ……! 誰にも殺させない」
「ふうん。片腕で私に勝てるとでも?」
ミラは音も立てずにレイピアで何度も突こうとする。リヴは細身のナイフで何とか防ぐがやはり利き腕無しでは劣勢一方だ。
「リヴ。君はもう少し賢い男だと思っていたけどね。残念だよ」
「――っ、うるさい」
レイピアの攻撃に上半身を屈めて避け、足を払おうとしたがミラはひらりと軽やかに跳躍してそれを裂けた。
リヴの右腕はこのレイピアで裂かれたものだ。リヴの標的だった男の護衛としてミラが配置され、暗殺を阻止されてしまった。
暗殺失敗に、利き腕の損傷。暗殺者として随分とプライドをへし折られた憎き相手。
リヴは袖の下から暗器を取り出し、それをミラへ向かっていくつも投げる。勿論それは当たらず、華麗にかわされて地面に突き刺さる。その隙をついて体勢を低くしてナイフで足を狙ったがそれも見越されていたようでまるで踊るように避けられてしまった。
「君は一度任務を失敗した。それでも暗殺者を続けられているって事なのかな? それとも魔女と契約でもして生き長らえているのかな?」
「俺は暗殺者だ……!」
「ふうん。ホークアイは随分と優しい組織なんだね。私は依頼を受けなければ殺しはしないのだが——こうも命を狙われてしまうとね」
ゾクリと背筋が凍るような感覚。仮面を付けているというのに、冷たい目で見据えられているのが伝わってきた。
「今回はきちんと殺してあげるよ、リヴ」
ミラのレイピアがリヴのナイフを裂け、彼の懐へと向かい——
リヴが小屋の前に着いた頃には、アピの足元で転がる暗殺者らしき四人が。何か見えない力で拘束されているようで、地面でもがいている。何かしらの魔法で発声を制限されているのか、大口を開けているが何の音も出せていない。
その男達四人が転がる中、アピは自信満々に胸を張る。
「どうだリヴ! 全員殺さないで捕まえたぞ!」
リヴが追いつくまでの時間は数分くらいだったはずだが、こうも簡単に暗殺者達を拘束するとは。改めて彼女の強さを目の当たりにしながらも、リヴは嘆息した。
「……はあ。重力魔法で拘束しているようだが……その後どう動くんだお前」
「んん!? それはお前……えっと……」
いくら優秀な魔女でも魔法を発動中に別の魔法を使おうとしたら精度は落ちる。そんな状態でミラに挑めるわけがない。
「そいつら殺せよ。そいつらが動かないようにするには息の根を止めるしかないだろう」
重力魔法でそのまま潰してしまえば、彼等は一たまりもないだろう。リヴの言葉に、暗殺者達は顔を青くさせてその場でもがく。
「な、何を言う——」
「アピちゃん、ボクが殺してあげようかあ。こいつらアピちゃんに刃を向けたしもう死ぬしか選択肢がないからさあ」
言いかけるアピの側に寄ったティールが悪魔のささやきをする。アピは思い切り首を振った。
「だ、駄目だ駄目だ!! 命は簡単に奪っちゃいけないんだ!!」
「……お前がそれを言うか? お前、今まで襲って来た暗殺者を殺してきただろう」
随分と違和感のある言葉にリヴは思わずそう言ってしまう。アピを暗殺に向かった暗殺者達は全員行方をくらませた。それは彼女が殺しているからなのは明らかだ。だが、アピは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「は? 何を言っている! 殺しているわけないだろうが!」
「しらばっくれるのか? 突然良い子ぶるのは理解しかねるんだが」
「はあ!? 私は良い子ぶってなんか——」
その時、ふわりと風が揺れた。リヴはハッとして首元のスカーフで口元を覆い、懐に手を入れナイフを取り出す。
こんなに騒いでいれば、気づかない者もいないだろう。
「何だい、騒がしい」
いつの間にか、リヴの目の前に白い仮面をした人間が立っていた。枯草色のローブですっぽりと頭を覆っている為、髪色や体型は分からない。だが、背はリヴよりやや低い。暗殺者だというのに、背筋をピンと伸ばして歩く姿はまるで貴族のよう。
「ミラ……!」
前回の暗殺任務でリヴを妨害し、右腕に重傷を負わせた張本人ミラだった。
ミラの顔を見た途端、右腕に鈍痛が走る。ミラはリヴの方に仮面を向けた。
「ああ、君はリヴと言ったか。暗殺者が道端で堂々と言い争うなんて、居場所を教えているようなものだよ?」
顔を全体覆うタイプの仮面なので、ミラがどんな表情をしているか分からないが、優しく諭すような言い方は逆に怒りを煽る。リヴはスカーフの下で歯を噛み締めながらも、何も言わずにミラに対して武器を構えながら動向を探る。
「お前がミラだな! 私はアピ⁼レイス!お前を暗殺しに来た!!」
本人に堂々と暗殺しに来たというのはどういう事だ、とリヴは若干脱力しかける。
ミラは自分の部下達が地面でもがいているのを見下ろしてからアピの方へ視線を送る。
「アピ……ああ。暗殺不可能な魔女か。こんなに小さい子だったなんて。ふふふ、随分と可愛らしい」
「可愛らしい……!? おい、こいつ良い奴なんじゃないか?」
こんな分かりやすい世辞に騙されるなんて本当に暗殺失敗率百パーセントなのか、と心の中で突っ込む。
「私の部下を倒して何をしに来たと思ったら……暗殺か。こんな堂々とした暗殺を仕掛けられるとは思わなかったよ」
ミラがレイピアを抜く。構える姿は暗殺者というより騎士のようだ。部下達が拘束されているというのに、ミラは少しも焦った様子を見せない。
「よし! やるぞリヴ!」
「お前……重力魔法解除するのか?」
「え? ……あ!」
暗殺者達を殺していない為、重力魔法を解除すれば襲い掛かってくるだろう。アピがどうしようかともたもたしているところに——
「さあ、始めようか」
ミラは躊躇なく踏み込むとレイピアをアピに向けて突き出した。アピは咄嗟に氷魔法で壁を作ろうとしたが、間に合わない。切っ先がアピの腹部を貫く直前――リヴのナイフがそれを止めた。
「り、リヴ!」
「――っ! お前、こんな簡単に殺されようとするな……!」
ミラは体勢を整える為に一歩身を引いてから、不思議そうに首を傾げる。
「おや、どうしてアピ⁼レイスを庇うんだ? リヴ」
「こいつは俺の獲物だからだ……! 誰にも殺させない」
「ふうん。片腕で私に勝てるとでも?」
ミラは音も立てずにレイピアで何度も突こうとする。リヴは細身のナイフで何とか防ぐがやはり利き腕無しでは劣勢一方だ。
「リヴ。君はもう少し賢い男だと思っていたけどね。残念だよ」
「――っ、うるさい」
レイピアの攻撃に上半身を屈めて避け、足を払おうとしたがミラはひらりと軽やかに跳躍してそれを裂けた。
リヴの右腕はこのレイピアで裂かれたものだ。リヴの標的だった男の護衛としてミラが配置され、暗殺を阻止されてしまった。
暗殺失敗に、利き腕の損傷。暗殺者として随分とプライドをへし折られた憎き相手。
リヴは袖の下から暗器を取り出し、それをミラへ向かっていくつも投げる。勿論それは当たらず、華麗にかわされて地面に突き刺さる。その隙をついて体勢を低くしてナイフで足を狙ったがそれも見越されていたようでまるで踊るように避けられてしまった。
「君は一度任務を失敗した。それでも暗殺者を続けられているって事なのかな? それとも魔女と契約でもして生き長らえているのかな?」
「俺は暗殺者だ……!」
「ふうん。ホークアイは随分と優しい組織なんだね。私は依頼を受けなければ殺しはしないのだが——こうも命を狙われてしまうとね」
ゾクリと背筋が凍るような感覚。仮面を付けているというのに、冷たい目で見据えられているのが伝わってきた。
「今回はきちんと殺してあげるよ、リヴ」
ミラのレイピアがリヴのナイフを裂け、彼の懐へと向かい——
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