竜傭兵ドラグナージーク

Lance

文字の大きさ
上 下
33 / 53

サクリウス姫

しおりを挟む
 右目に眼帯。ドラグナージークの見た所、それは確かに鎧兜の似合う凛々しい姫であった。
「姫、お許しを。幾ら敵国が相手とは言え竜を傷つけることを容認することなど、俺には無理です」
 ウィリーがかつての主を振り返って言った。
「愚か者が! お前まで居なくなれば、それが現実のものとなる!」
 サクリウス姫が声を上げる。ヴァンらは訝し気に見ていた。ドラグナージークもまた同じだった。だが、心のどこかでは、ウィリーにベリエル側へ戻って欲しいと思っていた。シンヴレスの言葉が脳裏を巡る。サクリウス姫は優しい方なのだと。どうやって知ったのかは分からない。だが、シンヴレスのいうことは事実だと思った。何故ならば、サクリウス姫は、竜を傷つけることを良しとしていない。サクリウス姫もまた竜のことを思いやれる心を持っている。
 ウィリーは首を振った。
「俺が加わったところで、ただの傭兵隊長。どう覆せましょうや」
「戦わぬよりはマシだ。私にはお前が必要だ。戻って来い。姫と傭兵隊長とで政策に異を唱えるのだ。きっと多くの竜傭兵やその他の正規の竜乗り達も賛同してくれよう」
「ウィリーどうするんだ? 来るのか、来ないのか?」
 ヴァンが問うがドラグナージークが彼にかぶり振って、人差し指を立てて口の前に当てた。そして旧主従を再び振り返る。
「グレスト伯爵」
 ウィリーが呟き、彼は姫を見て言葉を続けた。
「グレスト伯爵が砦の隊長に任じられてから、状況はますます変わり始めています。ボーガンやバリスタを用い、おまけに毒も。グレスト伯爵は積極的に竜を傷つけています。グレスト伯爵を引き下がらせなければ、まずは何も変わりませぬ」
 あの貴族風の指揮官か。ラインの腹にバリスタを見舞った。ドラグナージークはその姿を朧気だが思い出した。
「姫、あなたに彼の者をどうこうできるとは思えませぬ。それ故、俺は鞍替えをしようと」
「グレストをどうにかすれば良いのだな」
「ええ、そして敵領内に密かに設置された兵器も。この二つをどうにもできぬなら、俺は戻る気はありません」
「分かった。待っていろ。おい、軟弱者のドラグナージーク」
 姫が名を呼んだ。軟弱者と言われても今は何とも思わなかった。サクリウス姫の真剣な左目を見て、ドラグナージークは頷いた。
「ヴァン、俺が証人として見届けて来る」
「分かった、行って来い。竜を愛する者の意地を見せて貰おうか。サクリウス姫」
 ヴァンが言うとサクリウス姫は頷いた。
「行くぞ、ドラグナージーク!」
「参りましょう」
 ドラグナージークはどういう言葉遣いをすれば良いのか迷った挙句そう答えた。
 アメジストドラゴンが背を向け飛んで行く。ドラグナージークもレッドドラゴンのラインと共に後に続いた。


 2


 下を見れば煌めくばかりのバリスタの太く強靭な矢がこちらを向いている。だが、サクリウス姫を確認し、敵兵らは撃っては来なかった。
 そんなバリスタに沿う様に飛んで行くと、敵の砦が見えた。
 サクリウス姫はこちらを振り返った。
「合図をする。貴様はそしたら下りて来い」
「分かった」
 ドラグナージークが答えると、サクリウス姫はアメジストドラゴンを地面に下ろした。
 兵らが寄って来る。
「サクリウス姫! 何故、このようなところに!?」
 貴族風の男。関所の隊長グレスト伯爵が驚いたように声を上げた。そしてこちらを指さして言った。
「あれはドラグナージークではありませんか! まさか寝返ったとでも?」
 サクリウス姫がドラグナージークに向かって頷いた。それが合図だとし、ドラグナージークはゆっくり着陸した。
「そこにいろ」
 サクリウス姫が鋭く言いつけ、ドラグナージークはラインの背から様子を見守った。
「グレスト、お主の功績は多大なるものだ。王国も助けられてきた」
 サクリウス姫が相手を振り返って述べた。
「恐れ入ります」
 グレスト伯爵はただそれだけいうだけで精一杯のようだった。目は不穏な姫と、敵であるドラグナージークを行ったり来たりしていた。
「だが、私自身の意見とは議会では相容れなかった。その上で、もう一度問う。これからも竜を傷つける方策を取ると言うのか?」
「当たり前です。いかに姫様が竜を愛していようとも、それが王国の勝利を齎す枷となっているのです。イルスデンは竜を殺さない戦い方をする。そこにつけ込まず、どうして戦に勝利できましょうか。竜など馬車や兵器に過ぎません。そう割り切れず帝国を斃せるとでもおっしゃいますか?」
 まさしくベリエルの意見としては至極真っ当だ。ドラグナージークはそう思った。サクリウス姫はどう出るのであろうか。様子を見ていると、サクリウスの姫の右手が腰の剣に伸びた。
「姫、この私をお斬りになさいますか?」
 グレスト伯爵はさすがに驚いたようだ。
「グレスト伯爵、剣を抜け。決闘だ。この砦の指揮官の座を懸けてのな。貴様も剣で名を馳せる王国七剣士の一人。案ずるな、もしも私が負けても貴様に咎は無い」
「恐れながらその旨、一筆記していただけませぬか?」
 グレスト伯爵の声色が怪しい響きを帯びたように思った。
「良いだろう」
 兵士が筆と羊皮紙を持って来ると、木の板を下に当てサクリウス姫はスラスラと迷い無く筆を走らせた。そして最後に、左手の親指を小刀で傷つけ血判を押した。
 ドラグナージークは感心していた。サクリウス姫を今の今までどこか見損なっていた。
「これでどうだ?」
 サクリウス姫が出来上がった誓紙をグレスト伯爵に見せる。
「確かに」
 両者の間に剣呑な空気が漂い始めると、同時に剣が引き抜かれ、打ち鳴らされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...