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第2章
椎名悟9
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「お前、大丈夫だったかよ」
「何がだ」
「何がって、あいつに聞いたぞ。警察と話して色々と訊かれたんだろ」
「ああ、昨日のことか」
「そうそれのことだよ。なんか問い詰められたりはしてねえかと思ってな」
「そんなことはなかったけどな、もしかして桑原や誠一もなのか?」
「一応、お前から色々聞いたからって短く済むらしいけど、部活動とかでは俺の方が関わりがあったから。だから俺からも話を聞かせて欲しいってよ」
「なるほどな、頑張れ」
「頑張れって、何を頑張るんだよ」
「知らないな。適当に頑張れ」
「本当に適当だな」
誠一が話に入ってきたのはその後だった。彼は昨日の経緯を桑原に話すと、桑原は少し悩んだ様な顔をして「わかった。ぜひ俺もそうさせてくれ」と言った。桑原の目は澄んで迷いのないものだった。
「で、どうするんだよ。妹さんには流石にまだ何も訊けねえだろうよ」
「うーん、そうだね。学校には来ているのかな楓ちゃん」
「昨日は居なかったみたいだけどな。先生が言ってた」
「その昨日が美術部の活動日じゃなかったか、木曜日が確か」彼は目にかかりそうな前髪を邪魔そうに手で払う。
「その髪切らないの?いつも邪魔そうにしているけど」
「いいんだよ、切りに行くのもめんどくせえよ」
「その会話お前ら何回してるんだよ。もはや定番になってるぞ」
「うるせえな。いちいち切りに行くと金もかかるし、まとめてバッサリ切った方が楽だろうよ」
「ああなるほどね、だからいつも宿題を提出日の朝からやってるのね。性格が滲み出てるよ桑原君」
「それとこれは別だろ、別」
「こういうのは意識していかないと治らないよ。だから桑原君はずっとそのままだね」
「その通りだな」
「勝手に意気投合してんじゃねえよ」そう言いながら目の前に戻ってきた髪の毛をまた払った。
桑原は少し咳き込むと、話を整理するように言う「それで、美術部には来週行ってみるとしてよ、今日はどうすんだ。何かするのかよ」
外は既に薄暗く、冷たい風が横を吹き抜ける。時間で言えば今は各々の運動部やら文化部やらが部活動をしている時間だ。彼は私の部活動中に武道場の隅にいつのまにか座っていた。私は休憩時間に話しかけると彼がそう言った。
「お前はもう警察の人と話したのか?」
「今話して来たよ。あの腕を組んでいるだけで、威圧する様な目はなんなんだよ」
「ああ、俺もその人がずっと横に座ってたよ。気さくな警察の人の隣でな」
「なんか、俺たちが原因だと言うかのように睨んでたからよ、感じ悪いぜ」
「それは俺も同じことを思ったよ。でも俺らが原因ではないとは必ずしも言い切れないのかもな」
「は?それどういうことだよ」
「直接的な理由が俺らではなかったにしろ、何かしてあげれることはあったんじゃないかと、そう思ったんだよ」
「ああ、そういうことかよ」
桑原は私にわからないようにため息をついた。寒さで息が白くなるのが見える。
「どうしてなんだろうな」
「何がだよ」
「あの人が自殺をするだなんて考えられなくてな。あの日だって、しっかりとピアノを演奏していたじゃないか。それにその日のために練習も重ねていたんだろう」
「そうだよな」
「あの日の出来事が突然すぎて、あまりにも。未だに俺は信じれていないんだよ」
「そうだよな。わけわかんねえよ」
「でも、周りはもう順応してきているんだよな。確かに桜田さんが亡くなったのは事実だ。だけど、それを踏まえつつ日常に戻ってきているんだよな。おかしいよな、人が一人亡くなったんだろ」しばらく桑原は何も言わなかった。ただそんな状況がもどかしく感じたのか、頭を掻き毟るように髪の毛を前後に払った。
「慣れって怖いよな」
「どうしたんだ」
「先週までよ、一緒にいた友人が、楽しく話していた友人がいなくなったっていうのによ、あの時よりは心が落ち着いている。そんな自分が時々、怖く感じてくるよ」
「俺もだよ、俺だって今部活なんてやってた。俺自身も気付かないうちに元に戻っているのかもしれない」
「椎名、お前知ってるかよ。人間ってのはその行動の9割以上が無意識下にあるんだぜ。怖いよな。俺らが1日1日を過ごしているってのに、その殆どが無意識に行動しているんだぜ。今の俺らだってそうだよ、俺らは無意識に日常に戻ろうとしている、まるで、そうありたいかのように、あの人が元々いなかったかのようによ」
「そんなことはない、桑原」
「そうかよ」彼は意外にもそれ以上は何も言わなかった。
風が音を立てて吹いた。それは私の体を突き抜けるように寒さを感じさせた。それが汗に濡れた胴着のせいなのかは分からない。熱かった体も徐々に冷めていくのが触れずともわかった。
「じゃあまた明日な」そう言うと彼はそそくさとその場を去って行った。彼の靴の擦れる音が廊下に響いた。
「どうかしたんですか、先輩。顔色が良くないみたいですけど」
「そうか?まだ全然疲れてないけどな」
「そうですか、それならいいんですけど」
「戻るか、休憩ももう終わりだ」
「わかりました」
剣道部Aは快い返事をすると振り向き様に問う。
「剣道ってどうやったら上達するんですか」
「それは、練習あるのみなんじゃないか」
「いや、いつも先輩にやられてばかりなので」
「ああ、それはお前には癖があるんだよ。打つときに必ずその場所を一瞬見るだろ。あれだよあれ。今からここを打ちますっていうのを言ってるようなものだぞ」
「え、それ早く教えてくださいよ」
「まあ、とりあえずはそれを直さないことには始まらないかもな」
「ええ、どうやって直すんですかそんなの」
「人間ってのはその行動の9割以上が無意識にしていることらしい。だから意識をすることからだな」
「先輩、物知りなんですね」
「そうかもな」椎名悟はぶっきらぼうに言い放った。
「何がだ」
「何がって、あいつに聞いたぞ。警察と話して色々と訊かれたんだろ」
「ああ、昨日のことか」
「そうそれのことだよ。なんか問い詰められたりはしてねえかと思ってな」
「そんなことはなかったけどな、もしかして桑原や誠一もなのか?」
「一応、お前から色々聞いたからって短く済むらしいけど、部活動とかでは俺の方が関わりがあったから。だから俺からも話を聞かせて欲しいってよ」
「なるほどな、頑張れ」
「頑張れって、何を頑張るんだよ」
「知らないな。適当に頑張れ」
「本当に適当だな」
誠一が話に入ってきたのはその後だった。彼は昨日の経緯を桑原に話すと、桑原は少し悩んだ様な顔をして「わかった。ぜひ俺もそうさせてくれ」と言った。桑原の目は澄んで迷いのないものだった。
「で、どうするんだよ。妹さんには流石にまだ何も訊けねえだろうよ」
「うーん、そうだね。学校には来ているのかな楓ちゃん」
「昨日は居なかったみたいだけどな。先生が言ってた」
「その昨日が美術部の活動日じゃなかったか、木曜日が確か」彼は目にかかりそうな前髪を邪魔そうに手で払う。
「その髪切らないの?いつも邪魔そうにしているけど」
「いいんだよ、切りに行くのもめんどくせえよ」
「その会話お前ら何回してるんだよ。もはや定番になってるぞ」
「うるせえな。いちいち切りに行くと金もかかるし、まとめてバッサリ切った方が楽だろうよ」
「ああなるほどね、だからいつも宿題を提出日の朝からやってるのね。性格が滲み出てるよ桑原君」
「それとこれは別だろ、別」
「こういうのは意識していかないと治らないよ。だから桑原君はずっとそのままだね」
「その通りだな」
「勝手に意気投合してんじゃねえよ」そう言いながら目の前に戻ってきた髪の毛をまた払った。
桑原は少し咳き込むと、話を整理するように言う「それで、美術部には来週行ってみるとしてよ、今日はどうすんだ。何かするのかよ」
外は既に薄暗く、冷たい風が横を吹き抜ける。時間で言えば今は各々の運動部やら文化部やらが部活動をしている時間だ。彼は私の部活動中に武道場の隅にいつのまにか座っていた。私は休憩時間に話しかけると彼がそう言った。
「お前はもう警察の人と話したのか?」
「今話して来たよ。あの腕を組んでいるだけで、威圧する様な目はなんなんだよ」
「ああ、俺もその人がずっと横に座ってたよ。気さくな警察の人の隣でな」
「なんか、俺たちが原因だと言うかのように睨んでたからよ、感じ悪いぜ」
「それは俺も同じことを思ったよ。でも俺らが原因ではないとは必ずしも言い切れないのかもな」
「は?それどういうことだよ」
「直接的な理由が俺らではなかったにしろ、何かしてあげれることはあったんじゃないかと、そう思ったんだよ」
「ああ、そういうことかよ」
桑原は私にわからないようにため息をついた。寒さで息が白くなるのが見える。
「どうしてなんだろうな」
「何がだよ」
「あの人が自殺をするだなんて考えられなくてな。あの日だって、しっかりとピアノを演奏していたじゃないか。それにその日のために練習も重ねていたんだろう」
「そうだよな」
「あの日の出来事が突然すぎて、あまりにも。未だに俺は信じれていないんだよ」
「そうだよな。わけわかんねえよ」
「でも、周りはもう順応してきているんだよな。確かに桜田さんが亡くなったのは事実だ。だけど、それを踏まえつつ日常に戻ってきているんだよな。おかしいよな、人が一人亡くなったんだろ」しばらく桑原は何も言わなかった。ただそんな状況がもどかしく感じたのか、頭を掻き毟るように髪の毛を前後に払った。
「慣れって怖いよな」
「どうしたんだ」
「先週までよ、一緒にいた友人が、楽しく話していた友人がいなくなったっていうのによ、あの時よりは心が落ち着いている。そんな自分が時々、怖く感じてくるよ」
「俺もだよ、俺だって今部活なんてやってた。俺自身も気付かないうちに元に戻っているのかもしれない」
「椎名、お前知ってるかよ。人間ってのはその行動の9割以上が無意識下にあるんだぜ。怖いよな。俺らが1日1日を過ごしているってのに、その殆どが無意識に行動しているんだぜ。今の俺らだってそうだよ、俺らは無意識に日常に戻ろうとしている、まるで、そうありたいかのように、あの人が元々いなかったかのようによ」
「そんなことはない、桑原」
「そうかよ」彼は意外にもそれ以上は何も言わなかった。
風が音を立てて吹いた。それは私の体を突き抜けるように寒さを感じさせた。それが汗に濡れた胴着のせいなのかは分からない。熱かった体も徐々に冷めていくのが触れずともわかった。
「じゃあまた明日な」そう言うと彼はそそくさとその場を去って行った。彼の靴の擦れる音が廊下に響いた。
「どうかしたんですか、先輩。顔色が良くないみたいですけど」
「そうか?まだ全然疲れてないけどな」
「そうですか、それならいいんですけど」
「戻るか、休憩ももう終わりだ」
「わかりました」
剣道部Aは快い返事をすると振り向き様に問う。
「剣道ってどうやったら上達するんですか」
「それは、練習あるのみなんじゃないか」
「いや、いつも先輩にやられてばかりなので」
「ああ、それはお前には癖があるんだよ。打つときに必ずその場所を一瞬見るだろ。あれだよあれ。今からここを打ちますっていうのを言ってるようなものだぞ」
「え、それ早く教えてくださいよ」
「まあ、とりあえずはそれを直さないことには始まらないかもな」
「ええ、どうやって直すんですかそんなの」
「人間ってのはその行動の9割以上が無意識にしていることらしい。だから意識をすることからだな」
「先輩、物知りなんですね」
「そうかもな」椎名悟はぶっきらぼうに言い放った。
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