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皇帝生誕九十年祭

第三十七話 皇帝との謁見

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 謁見の間の最も高い位置にある椅子に老人が座っていた。左右には護衛のためか屈強な男が二人立っている。
 慌てて駆けつけてきた集団は老人に向かって礼をすると。謁見の間の最も端に整列する。
 謁見の間ではすでにジブリルが中央で膝をついていた。
 必要な人物の集結を見届けたのか老人が手を上げる。
 それを合図と受け取ってジブリルが謁見を始めた。

「このような時に謁見の許可をいただき感謝いたします。この度は我が国のカテイナ様が、皇帝陛下の御前で多大なる過ちを犯し、誠に申し訳なく」
「――その件はよい――レトス、報告せよ――」

 今度もか細い声だ。しかし今度は魔法を使っていない。囁き声が聞こえるほどに静かなのだ。音を立ててよいのは許可を受けた者だけ、それだけの空間が広がっている。

「皇帝陛下に申し上げます。我々は皇帝陛下への贈呈品を狙うカテイナ君を脅威と考え、全面的な衝突を避けるべく、ジオール城への侵入ルートを限定したうえで監視しておりました」
「――そこで事が起きたと――“ファウスト”、続けて報告せよ――」
「続けて皇帝陛下に申し上げます。カテイナが狙っていたクリミナ王国の贈呈品を第三武器庫に収納しました。万が一を考えすべての武器は他の倉庫へ移送しております。そして、彼の侵入を確認した後、火薬を原因とする爆発が起こりました。カテイナ自身も直撃を受け重傷を負っていました。私は完全武装のままカテイナに高速接近し、――彼の魔法攻撃を誘発しました。その直後にゲート魔法で彼は撤退しております」
「――ジブリル、彼の容態はどうか――」
「――現在、カテイナ様は、回復魔法により危機を脱しました。ただ今は精神が高揚して怒りと報復に心を染めておられます」

 老人がため息をついた。そして声色が変わる。

「――検疫官・ゼロミス、申し開きはあるか――」
「お、恐れながら申し上げます。く、クリミナ国の贈呈品に、魔力における不審点は無く――」
「――火薬だ――」
「、そ、そのような、ものが、こ、皇帝陛下、ここのたびは、あの、こ、近衛師団か、ら、その」
「まさか、カテイナ君に使うからと検疫をしなかったのかね?
 うっ、失礼いたしました。皇帝陛下」

 皇帝が検疫官の言葉を遮ったレトスを見る。それだけでレトスはかしこまって黙ってしまった。検疫官は顔面蒼白で震えている。

「――ジブリル、彼の怒りが解けるか――」
「今回の件、カテイナ様には間違いなく説明いたします。ですが、私の力ではカテイナ様は止められません」
「――“英雄色を好む”か――シュンカ、ジブリルの手助けをせよ――」
「喜んで協力いたします。皇帝陛下のお役に立てるならばなおさらです」

 そこまで聞くと頷いて老人が再度手を振る。話はここで終了ということだ。
 さながら雷光の様な速さで近衛の師団長とレトスが検疫官をとらえて謁見の間を出ていく。
 シュンカはジブリルを助け起こして退出する。その顔は笑顔だ。
 残るのは老人と護衛兵だけである。

……

 外を見る。まだ星が瞬いて見える。東の空が少し赤いが、日が昇り始めるまではまだ時間があるだろう。
 こんなに時間を空けるんじゃなかったなぁ。昼間なんて言ったが日の出でよかった。もう行動は決めたのだから、ジブリルに鬼母を呼ばれないようにだけ気を付ければいいだけだったな。
 ぐぅ~っと腹が鳴る。あれだけ重傷を負わされて、血も失った。回復魔法で体は元に戻したが……胃袋だけはどうにもならない。
 ジブリルが戻ってきたらご飯にしよう。そのあとは寝て、起きたらジオール城を襲撃だ。
 この俺がやろうと思えば、あんな城の一つや二つ、どうってことない。
 全員グーパンチで叩きのめす。兵士だろうと皇帝だろうと一撃で倒せる。
 ニヤリと笑う。どんな泣き言を言ってくれるのか、楽しみで仕方ない。
 笑っている最中にガチャリと部屋の扉が開いた。

「カテイナ様、ジブリル、ただいま戻りました」
「随分落ち着いたな。出て行ったときはふらふらだったのに」
「ええ、少しほっとしたものですから。カテイナ様、少し早いですが、朝食にしませんか?」
「ああ、いいぞ。食事が終わったら少し寝る」
「では、軽めの物を」
「いいや、重くていいぞ。少し血を流しすぎた」
「わかりました。少々お待ちください」

 食事のために部屋を移動する。大使館の客間に移動して椅子に座ってジブリルの手料理を待つ。
しばらくして、ハンバーグにポテト、焼き立てのパンが並ぶ、ジブリルがあい向かいの席に座ったと同時にスタートダッシュだ。
 パンを噛み切り、ハンバーグにかぶりつく。野菜ジュースを一気飲みして、ようやく一息付けた。

「はは、めちゃくちゃ腹がすいてたな。ジブリル、ハンバーグおかわりできるか?」
「それは一度、睡眠をとられた後にしましょう。それよりカテイナ様、お願いがあるのですが」
「却下だ。お前のことだ。俺の怪我のことだろう? 譲らないからな。お前も約束しただろう? 昼間までだ。そのあとは好きにさせてもらうぞ」
「わかりました。ご無礼をお許しください」
「わかればいいんだ」
「いいえ、お母様を呼びます。今すぐにです」
「え゛っ!? ちょっ、まって!?」

 頭が真っ白だ。
 ジブリルが超遠距離のテレヴォイスのために意識を集中している。
 今、ジブリルを止めないとまずい!
 椅子を蹴って、体の重心が前に動かない。
 原因に気付けば肩に女の手が生えている。
 血の気が引く。体の転送より早く、手だけピンポイントで送り付けてきた。
 ヤバイヤバイヤバイ。こ、殺される。
 珍しくもめまいがしてしりもちをついた。くそっ、血が足りないのか!?

「? どうした? いつもの勢いがないな?」

 声の方向に顔を向ける。

「……なんだその顔は」

 この言葉と共に魔王城での出来事がフラッシュバックする。ダメだ意識が保てない。
 ふぎゅっと言う音共に俺の意識が途切れて行った。
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