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オリギナ魔法学校

第八話 魔法学校に再侵入

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 畜生っ! ちっくしょーーー! あの鬼ババアめ。俺のしりを三十発も叩きやがってっ! おかげでケツが釜ゆでだ。ちくしょう、痛い。
 半べそで俺はベッドに寝ている。痛すぎて動く気にならない。
 だが、俺はあきらめたわけではない。十年なんて待てないのだ。まだ何か手はあるはずなのだ。
 クラウディアの真似をしてピンポイントで麻痺の魔法を自身の尻に打ち込む。
 鼻をかむ。涙を拭いて、顔を洗う。
 すぐに出発だ。俺はゲートの魔法でクラウディアの部屋に穴をあける。もうあいつの部屋の座標は覚えた。うまく立てなくて這いつくばったままだがクラウディアの部屋に侵入する。

「くそ、まだあいつ帰ってないのか」

 クラウディアのベッドにうつ伏せで倒れこむ。しばらく待って他に入学の手立てが無いかクラウディアに相談するのだ。今に見ていろ鬼ババァにシュンカめっ! 明日には入学してみせるからな!
 しばらくクラウディアをベッドで待つ。
 ……夕方になるのに、あいつ帰ってこないな。少し俺も休憩するか……眠くなってきたし。
 ベッドで仰向けになる。お休みなさいだ。

……

 ぐうっと腹が鳴る。
 目を開けて、まだ尻が痛い事を思い起こす。窓の外では星が瞬いている。お腹減ったなぁ。あたりを見回してまだ人の気配を感じない。
 クラウディアは本当に何をやっているんだ?
 トンとベッドから降り立つ。痛みはあるが歩けないほどでは無い。ドアを開けて部屋の外に出る。
 昼間歩いた道をたどって女子寮を出る。昼間の校舎に向かう外の通り道で、校舎を見ればほとんど全部の部屋の明かりが付いている。それにくわえて外で学生の集団が何かの訓練をしている。黙々と走っている連中もいれば、空中で座禅を組んで瞑想しているような奴もいる。
 何だか不思議な空間だ。同じ格好をした連中が全く違うことをしている。きょろきょろとあたりを見渡しながら目的の校舎に着く。
 校舎に着けば食堂からは良い香りがしている。ふらふらとにおいに誘われて食堂に入ってしまう。何か食べておこう。
 食堂の中は同じ椅子とテーブルがずらりと並んでいる。席にはまばらに学生がいて、俺には気が付いたらしい。”誰だあいつ”とか聞こえるが、無視する。
 食堂の隅の席に座ってメニューを見る。A定食,B定食、めんはスパゲッティか? ……おい、これしかメニューが無いのか? 普段からクラウディアは何を食っているんだ?
 金額は一律銅貨四十枚か……ほほう安いな。幸い銀貨なら少し持っている。”聖剣”の騒動の時少し稼いでいたのだ。人間の国だから持ってきていて正解だった。
 しばらく悩んで座っていたが、全然店員が来ないぞ。
 周りを観察すれば注文口と言うところでオーダーをするらしい。店員が注文を取りに来ないなんて職務怠慢だな。
 堂々と注文口に歩いて行って、「AとBのどっちの肉が大きい」と聞く。
 店員は俺が客と言うことで驚いていたが”A定食”と答えたのでそっちを注文した。
 銀貨をおいて席に戻ろうとする。

「ああ、まって。すぐに出すからここで待って。後、お金は料理を受け取った後で回収するから、後、関係学生の名前はわかるかな?」
「そういうルールなのか? 関係学生はクラウディアだな」

 大人しく店員の指示に従って四角い盆を持って料理をのせていく。大ぶりのパンにスープにハンバーグか。最後の会計でお金を払って元いた席に戻る。
 全く、俺を動き回らせるとは変な食堂だな。
 席でハンバーグをにらみつける。心躍る油が跳ねる音も、鼻腔を刺激する香りも、見た目の躍動感もない。ただの肉の塊のようだ。
 一口食べる。……うまくないな。俺が憧れたステーキを作った国の料理かと疑ってしまう。これで銅貨四十枚は高いんじゃないのか? まずくて食えないってほどじゃ無いが、食堂になんとなく人気が無いのがよくわかる一品だった。
 仕方なしに黙々と食事をする。
 う~ん、腹は膨れるんだがなぁ。
 ふと気が付けば何だか騒がしい。……食事中は静かにして欲しいな。別段食事中のおしゃべりで騒がしいぐらいならいいんだが、俺を特定のターゲットにして盛り上がるのはやめて欲しい。
 大人しく食事をとるさなか、俺のテーブルの正面に大男がいきなり座ってきた。

「君は一体どこから進入したのかな?」
「食事中だ。終わるまで待て」
「そうはいかない。君は――」
「食事中だと言っただろう。待っていろ」

 正直、眼力を使うのもめんどくさい。こんな奴の話を聞くよりパンをスープに浸して柔らかくする方が重要なのだ。
 “ドンッ”とテーブルを叩かれる。ほほう、音で注目を集める気か……くだらないな。子供には出せない強さを音で示すってのは俺には逆効果だ。
 「しばらく黙っていろ」と言葉とともにテーブルの端を“メキッ”と指でつぶして力の差を示す。
 人間の子供では絶対にあり得ない強さだ。おかげで相手は後ろにはね飛んで椅子をひっくり返し大きな音を立てた。

「魔族かッ!!?」

 その通りだ。皿を持ち上げてスープをがぶ飲みしながら頷く。
 俺が肯定したのを見て男は動揺したのかナイフを取り出すと大騒ぎを始めた。テレヴォイスで応援を呼ぼうとしている。

「こちら警備の――!」

 スープ用のスプーンを投げつけてナイフをはたき落とす。こいつはうるさいな。片づけておこう。
 椅子を降りて、男をにらむ、警戒して身構えたのを見計らって”ドレス・ロック”をかける。
 動けなくなった男に猿ぐつわをかませて、地面に転がす。
 元の席に戻って残りの食事を片付ける。
 騒ぎで注目を集めている最中、食器を指示された場所に持っていった。
 さて、本番だ。男への”ドレス・ロック”を解く。

「食後の運動につきあってもらうぞ」
「な、何――」

 男の反応につきあう必要は無い。踏み込みは素早く、肩を軽く叩く。顔や胴体はやめておいてやろうという配慮だ。男は壁に向かって吹っ飛んでいきそのまま激突して目を回している。

「なんだ。一発か? 話にならんな」

 後始末など知らない。堂々と食堂から出る。騒ぎを聞きつけて集まってくる学生を押しのけて校舎の外に出た。

「対象を確認!」
「取り囲め!」

 集まった学生の最前列でさっきの大男と同じ服装の男共が校舎の外で待っていた。棒にロープに、手が光っているのは攻撃魔法のつもりか? たった五人で何が出来るつもりなのだろう?
 ま、いいか、さっきの男だけでは”運動”とさえ言えない。五人もいれば腹ごなしぐらいにはなるかな? 

「大人しく降参しろ!」
「御託はいいからかかってこい。遊んでやるぞ」

 俺にこんなこと言われて、お互いに顔を見合わせている。
 力の差がいまいちわかっていない様だ。少しサービスしてやろう。

「いいだろう。俺の力をわからせてやる」

 指先に魔力を集中し、上を見上げて星をめがけて放つ。
 攻撃魔法”シューティング・スター”だ。
 雷光の速さで天に昇り、夜を一瞬だけ昼間の明るさにして、砲撃の様な音がする。

「さて、力の差はわかったか? 慎重にかかってこいよ?」

 再び相手を見る。対戦相手たる五人は凍り付いている。よく見れば足が震えているのだ。
 ……何だよ。もう戦意喪失か。
 ため息が出る。くだらない。こんな程度なら、戦う必要は無い。
 俺も瞬時に戦意が消失した。高めた魔力も同時に霧散する。
 手で払うジェスチャーをして無言で”どけ”と命令する。
 人垣があっという間に割れて道が出来る。
 俺は女子寮に戻る。クラウディアが戻ってくるまで部屋で待機だ。
 ふと、俺に向かって魔力が放たれていることを感じる。テレヴォイスだ。

「誰だ?」
「シュンカです。戻るのですか?」
「……シュンカか、もうちょっと待ってろ。俺はまだ入学をあきらめてない。明日には手をうつ」

 俺は周りを見渡すがシュンカは見当たらない。思い当たって校舎の七階に目を向ければ吹っ飛んだ窓枠から手を振っている姿が見えた。

「ふふ、少し貴方の行動力を甘く見ていました。今から超特急で学校中に通知を出しておきますよ。子供に手を出すなとね」
「そうしろ。あんなくだらない奴らを相手にしてると手加減を間違えるぞ」
「ええ、警告をありがとう」

 視界の先で頭を下げているのが見える。俺はそれに手を振ってクラウディアの部屋に戻っていった。
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