神の盤上〜異世界漫遊〜

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第10章 異世界人と隠された秘密

時間誤差

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「皆大丈夫だよね?」
                                           
霧の通路を見つめながらソフィがポツリと呟く。
マリア達が中に入ってから既に1時間が経過した。だが未だ戻る気配は無く、ソフィが心配するのも無理はない。

「もし例の霧なら出てくるはずだ。もう少しだけ待とう。あの霧じゃ中で合流するのは無理だからな」

落ち着いた様子でソフィを宥めたものの、咲良自身も内心は焦っていた。
               
(くそ…あの霧が邪魔をして中の気配を探る事が出来ない。それに…アスガルド人が霧に入った場合どれほどの時間で外に出るのかをマリアに聞いておくべきだった。俺のミスだ……さっさと戻ってこい)

マリアは一度霧の中に入った事がある。ならば直ぐに外に出たのか、それとも長時間彷徨った後外に出たのか知っているはずだ。それを確認しなかったのはリーダーである咲良の落ち度だ。

                                                                                                                                               
それから更に小一時間が経過した。
ソフィはもう待ち切れないと言った様子でソワソワしており、咲良もジンワリと手汗をかきはじめた時、漸くマリア達が霧の奥から姿を現した。

「皆!良かった…」
「ふぅ……随分と遅かったな」

咲良は安堵のため息を漏らすが、直ぐに話を切り替えた。

「?……やはり私達では霧の先には行けないようです」
「だな。何かあるかと警戒したが何も見えん」
「まっすぐ歩いたつもりだったのですが…直ぐに出て来てしまいましたね」
「直ぐに?どういう事だ?」
「どうと言われましても…言葉通り入って直ぐに戻って来てしまったというしか…」

サイモンは困惑した様子で質問に答える。

何かがおかしい。さっきから話が噛み合っていない。マリアも遅かったなと言った時は首を傾げていた。

「ちょっと待て。俺達はお前らが霧に入ってから3時間以上待っていたぞ」
「え?3時間も?いやいや…そんな筈はありませんよ。私たちが中にいたのは体感で数分程のはずです」
「マリアとハロルドはどうだ?」
「私も数分だと思っていました」
「俺もだ。だから坊主と嬢ちゃんがなんでそんなに心配しているのか分からん」
「そうか……マリア、お前が前に霧の中に入った時は外に誰かいたのか?」
「いえ、当時は天乱四柱として活動していましたが全員で中に入りました」
「やはりか…どうやら霧の中では時間軸が違うらしい」

咲良は自身が立てた仮説を話したが、誰一人理解出来た者はいなかった。それは顔を見ればすぐに分かる事だ。

「分かりやすく言うと、霧の中と外では時間の流れる早さが違うという事だ」
「そんな事ってあるのか?」
「ある。空間が歪むとそういう現象が稀に起こる」
「空間が歪む?なんですそれは…」

多くの事を経験して来たマリアでさえ咲良が何を言っているのか分かっていない。

「そうだな。少し違うがお前らが分かるように言うと、複雑な条件が重なって他の世界と繋がったという事だ」
「他の世界と!?」
「そ、それ本当なの咲良!?」

マリア達も驚くが、ソフィは興奮気味に咲良に詰め寄る。あと一歩前に出れば接吻出来る距離にまで。

「ソフィ、少し落ち着け。それともしたいのか?」
「え?……ちょ…そ、そそそんな訳ないじゃん!」

ガバッ

ソフィは今自分がどんな状況にいるのかを理解したようで、腕で咲良を押しのけようとする。しかしソフィの身体能力で咲良を押しのけられる筈も無く、逆にソフィが押し返された。

「ま…ソフィが興奮するのも無理はない」
「こ!興奮なんてしてない!」

何か勘違いしていないか?…そう思わずにはいられない咲良だったがこれ以上刺激しない様にスルーした。

「話を戻すが、実際に世界と繋がっている訳では無いぞ。あくまでお前たちに分かりやすく説明する為の例えだ」
「例えか…確かに普通に考えれば他の世界に繋がっている訳ないな。少し焦った」
「まぁ俺達がいる時点で他の世界がある証明になるんだが…今はどうでも良い事だ。俺が言いたいのは霧の中はアスガルドではないという事だ」
「なるほど・・・少し分かった気がします」

少し説明の仕方を間違えたかと思っていた咲良だったが、どうやらその心配は杞憂だった。マリアを筆頭に少しずつだが理解してきた様だ。

「理解出来て何よりだ。結論を言うと…俺達が霧の先に進めた場合、外のお前たちはかなりの時間待機しなければならない可能性がある。それも日単位でな」
「あり得ますね。奥に何があるか分からないとなると、あなた達が中でどれほど過ごすのかも予想出来ません」
「流石だなマリア。もう完璧に理解したか」
「えぇ…あなたが説明下手でなければもっと早く理解出来たでしょう」
「悪かったな。何なら例え無しでもっと詳しく説明してやろうか?」
「…遠慮しておきます。理解出来そうにありませんから」

マリアに弄られた咲良だったがその反撃は効果覿面、マリアは直ぐに白旗を揚げた。

「どうする?これから俺達は中に入る訳だが」
「待つしか選択肢はありません。あなたがいなければあの魔物の群れを突破出来ませんから」
「なら悪いが待っていてくれ。必要な物資は置いていく」

咲良は拡張袋から水と保存食を大量に取り出した。目測だがこれだけあれば切り崩さなくともひと月以上は持つ筈だ。
更に簡易テントや毛布も取り出した。これでマリア達の生活面も楽になるだろう。
いずれ必要になるかもしれないと、今まで訪れた町で買い漁っていたのがこんな所で功を奏した。

                                                                                                  

「なら行ってくる。どれほど掛かるかは分からないがなるべく早くするつもりだ」
「こちらの事は気にしないで下さい。私たちは冒険者です。野営には慣れていますから」
「そうですよ咲良君。じっくりと中を調べて下さい」
「嬢ちゃんの事しっかり守れよ」
「当然だ」
「行ってきます!」

ソフィの元気な挨拶が辺りに響く。どうやら気合十分らしい。


そして咲良達は霧の通路へと入って行った。

                                                                                                                                   

「なぁ…今更だがクロは霧の先に進めるのか?この世界の魔物だろ?」

咲良達が姿を消してから暫くしてハロルドがポツリと呟いた。

「…どうでしょう。クロって時々姿を見失うから完全に忘れていました」
「それは…私も盲点でした。ですがもし進めなければ直ぐにクロだけ出てくるでしょう。それに咲良さんの事です」
「そうですね。咲良君がそんな単純な事に気付かないはずありません」
「……そう…か?……坊主が気付いていれば俺達に話すと思うんだが…」
「……」
「……」

しばらく霧の外では無言の時間が流れていった。
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