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12話
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「あらロイス。もしかして剣の処刑林の件かしら」
「流石情報屋だ」
アリスと会った途端要件を当てられた。彼女には全てが分かっているのだろうか。
「レオンに怒られて来たんでしょう?顔を見れば分かるわよ」
「…流石情報屋……ってそんな事はどうでも良いだろ!」
「あら…つれないわね」
「全く…で、情報はあるのか?」
「あるわよ。むしろ全く知らなかったあなた達が驚きだわ。国中でもかなり噂になっているというのに…」
「俺は暫く未開拓地にいたからな。ロイスは知らん」
「まぁ良いわ。今回の情報料、高いわよ?」
「結構面倒な事になっているのか…」
情報料が高いという事はそれだけ情報の価値が高いという事。手に入れるのにかなり苦労したのかもしれない。
「いくらだ?」
「70万ゼルよ」
「たかっ!……ぐ…仕方ない」
情報料70万ゼルはかなり高い。想像以上に高い。だが経験上アリスが値を下げる事は絶対に無い。
ロイスは渋々70万ゼルを支払った。
「心配しないで?70万ゼルの価値はある情報よ。口頭で良いかしら?生憎洋紙に書いていないの」
洋紙に書いていないという事はそれだけ新鮮な証なので、ロイスは二つ返事で了承した。
「まず開拓は殆ど上手く行っていないわ。両国とも支援を増やしたみたいだけど、やっぱり剣の処刑場はそう簡単に開拓出来ないという事ね」
「支援を増やした?」
「えぇ…元々莫大な資金を投資していたみたいでね…面目もあるから中止という選択肢は無いのよ。それが悲惨な結果を招くとは思ってもみなかったでしょうね」
「何があったんだ?何となく予想はつくけど」
「処刑林の環境が関係していると思っているならそれは違うわよ」
剣の処刑林は全ての木々の葉が鋭利な剣の様に生えており、歩くだけで身体中を切り刻まれる。昔はそれを利用した処刑が行われていたので剣の処刑林と呼ばれるようになった。
ロイスは多くの者がその葉に切り刻まれたのでは…と思っていたがどうやら違うらしい。
「実は処刑林に魔獣が出たのよ」
「魔獣!?あそこに!?」
「私も驚いたわ。あの林に魔獣はいるけど人間を襲う事は殆ど無いわ。つまり、違う未開拓地から来たことになるわね。それもあの林の中で自由に動ける程強い魔獣が…」
「処刑林の周りは全て開拓地だから飛んで来た可能性が高い。となると翼を持ち、強靭な皮膚、若しくは鱗を持った魔獣……竜か」
特徴に合う魔獣はロイスの知る限り一種しかいない。
「正解よ。少しずつ前進していた開拓者たちはその竜によって全滅したわ。反対側から開拓していたハルシオンも同じく襲われたようね」
「ただの竜じゃないんだろう?」
一般的に認知されている竜は未開拓地にいるが、開拓地にも少なからず生息している。
少し前の依頼で、ロイスはその竜を倒して目玉を調達した。その強さは優秀な開拓者10名居れば何とかなる相手なので、場所が剣の処刑林だとしても全滅するとは到底思えない。
「黒い竜のようね。見に行ったけど確認は出来なかったわ」
「わざわざ見に行ったのか」
「当然よ。私は見た物しか信用しないから。だけど、もし黒い竜なら新種ね。そんな色の竜は知識に無いもの」
「俺も知らない。レオンなら知ってそうだけど」
「あり得るわね。彼は私やロイスが入れない未開拓地に行った事があるものね」
「まぁそれは良いとして…そんな新種が居るのになぜまた招集するんだ?」
「当然の疑問ね。上層部は目先の利益に目が眩んでいるのよ。ここで莫大な資金を失ったとしても、開拓さえ出来ればそれ以上の利益が得られるってね」
国の上層部は腐った者が多い。現場の状況なんて彼らには関係ないのだろう。いずれその浅はかな行動が自身の首を絞める事になる事にも気付いていない。
「そんな作戦に俺は組み込まれるのか…」
「心配しないで。私が見た限り新種の黒い竜はもう処刑林にいないから。それに…国は未開拓地全土を開拓したい様だけど、ロイスはハルシオンまでの安全ルートさえ確保すれば良いのよ」
「なるほど。安全ルートを確保すれば、後は他の奴らが勝手にやってくれる訳だ」
そもそも未開拓地全土を開拓するなど数年単位の時間が掛かる。馬車が通れる広さの道を確保すれば依頼を遂行したも同然だ。
「そういう事よ。ロイスのこれまでの実績があれば単独行動を許されるだろうし…両国を繋げば上層部も文句は言わないわ」
「なんか楽な仕事に思えてきたな」
「どう?70万ゼルの価値はあったでしょ?」
「それ以上の価値だよ。じゃあ行ってくる」
「えぇ…もし新しい情報が入ったら直接教えてあげるわ」
ロイスはアリスと別れ、剣の処刑林へと向かった。
アリスの情報は思っていた以上に有益な物だった。レオンの言う通り、情報を知るのと知らないのとでは現地での行動に大きな差が出来る。情報は金より価値があるとはよく言ったものだ。
「止まれ。ここに何の様だ」
数日後、剣の処刑林近くの国境に着くと衛兵が厳重に警備しており、空気もかなり重い。
他の未開拓地と隣接している国境は巨大な防壁が建てられているが、剣の処刑林付近には防壁がない。それは魔獣が出てこないからであるが、この警備は見るからに異常だ。
「開拓者のロイスだ。招集に応じて来た」
「あんたがロイスか。話は聞いている、通っていいぞ」
開拓者の証である銀の首飾りを見せながら説明するとあっさりと通してくれた。どうやらこの警備は中からではなく外から来る何かに警戒している様だ。
「何時もと空気が違うな」
剣の処刑林の目の前に来た瞬間、風が血の匂いを運んで来た。
「嫌な臭いだ」
血の匂いには慣れているロイスも、普段は新鮮な空気を吸いたい。だがこの林に一歩でも踏み入れればそれは無理だろう。そう思えるほど血の匂いは濃い。
「さっさと終わらすに限る」
アリスの助言通り、さっさと安全ルートを確保して帰ろう。
ロイスはふぅっと息を吐き出すと中へと入って行った。
「流石情報屋だ」
アリスと会った途端要件を当てられた。彼女には全てが分かっているのだろうか。
「レオンに怒られて来たんでしょう?顔を見れば分かるわよ」
「…流石情報屋……ってそんな事はどうでも良いだろ!」
「あら…つれないわね」
「全く…で、情報はあるのか?」
「あるわよ。むしろ全く知らなかったあなた達が驚きだわ。国中でもかなり噂になっているというのに…」
「俺は暫く未開拓地にいたからな。ロイスは知らん」
「まぁ良いわ。今回の情報料、高いわよ?」
「結構面倒な事になっているのか…」
情報料が高いという事はそれだけ情報の価値が高いという事。手に入れるのにかなり苦労したのかもしれない。
「いくらだ?」
「70万ゼルよ」
「たかっ!……ぐ…仕方ない」
情報料70万ゼルはかなり高い。想像以上に高い。だが経験上アリスが値を下げる事は絶対に無い。
ロイスは渋々70万ゼルを支払った。
「心配しないで?70万ゼルの価値はある情報よ。口頭で良いかしら?生憎洋紙に書いていないの」
洋紙に書いていないという事はそれだけ新鮮な証なので、ロイスは二つ返事で了承した。
「まず開拓は殆ど上手く行っていないわ。両国とも支援を増やしたみたいだけど、やっぱり剣の処刑場はそう簡単に開拓出来ないという事ね」
「支援を増やした?」
「えぇ…元々莫大な資金を投資していたみたいでね…面目もあるから中止という選択肢は無いのよ。それが悲惨な結果を招くとは思ってもみなかったでしょうね」
「何があったんだ?何となく予想はつくけど」
「処刑林の環境が関係していると思っているならそれは違うわよ」
剣の処刑林は全ての木々の葉が鋭利な剣の様に生えており、歩くだけで身体中を切り刻まれる。昔はそれを利用した処刑が行われていたので剣の処刑林と呼ばれるようになった。
ロイスは多くの者がその葉に切り刻まれたのでは…と思っていたがどうやら違うらしい。
「実は処刑林に魔獣が出たのよ」
「魔獣!?あそこに!?」
「私も驚いたわ。あの林に魔獣はいるけど人間を襲う事は殆ど無いわ。つまり、違う未開拓地から来たことになるわね。それもあの林の中で自由に動ける程強い魔獣が…」
「処刑林の周りは全て開拓地だから飛んで来た可能性が高い。となると翼を持ち、強靭な皮膚、若しくは鱗を持った魔獣……竜か」
特徴に合う魔獣はロイスの知る限り一種しかいない。
「正解よ。少しずつ前進していた開拓者たちはその竜によって全滅したわ。反対側から開拓していたハルシオンも同じく襲われたようね」
「ただの竜じゃないんだろう?」
一般的に認知されている竜は未開拓地にいるが、開拓地にも少なからず生息している。
少し前の依頼で、ロイスはその竜を倒して目玉を調達した。その強さは優秀な開拓者10名居れば何とかなる相手なので、場所が剣の処刑林だとしても全滅するとは到底思えない。
「黒い竜のようね。見に行ったけど確認は出来なかったわ」
「わざわざ見に行ったのか」
「当然よ。私は見た物しか信用しないから。だけど、もし黒い竜なら新種ね。そんな色の竜は知識に無いもの」
「俺も知らない。レオンなら知ってそうだけど」
「あり得るわね。彼は私やロイスが入れない未開拓地に行った事があるものね」
「まぁそれは良いとして…そんな新種が居るのになぜまた招集するんだ?」
「当然の疑問ね。上層部は目先の利益に目が眩んでいるのよ。ここで莫大な資金を失ったとしても、開拓さえ出来ればそれ以上の利益が得られるってね」
国の上層部は腐った者が多い。現場の状況なんて彼らには関係ないのだろう。いずれその浅はかな行動が自身の首を絞める事になる事にも気付いていない。
「そんな作戦に俺は組み込まれるのか…」
「心配しないで。私が見た限り新種の黒い竜はもう処刑林にいないから。それに…国は未開拓地全土を開拓したい様だけど、ロイスはハルシオンまでの安全ルートさえ確保すれば良いのよ」
「なるほど。安全ルートを確保すれば、後は他の奴らが勝手にやってくれる訳だ」
そもそも未開拓地全土を開拓するなど数年単位の時間が掛かる。馬車が通れる広さの道を確保すれば依頼を遂行したも同然だ。
「そういう事よ。ロイスのこれまでの実績があれば単独行動を許されるだろうし…両国を繋げば上層部も文句は言わないわ」
「なんか楽な仕事に思えてきたな」
「どう?70万ゼルの価値はあったでしょ?」
「それ以上の価値だよ。じゃあ行ってくる」
「えぇ…もし新しい情報が入ったら直接教えてあげるわ」
ロイスはアリスと別れ、剣の処刑林へと向かった。
アリスの情報は思っていた以上に有益な物だった。レオンの言う通り、情報を知るのと知らないのとでは現地での行動に大きな差が出来る。情報は金より価値があるとはよく言ったものだ。
「止まれ。ここに何の様だ」
数日後、剣の処刑林近くの国境に着くと衛兵が厳重に警備しており、空気もかなり重い。
他の未開拓地と隣接している国境は巨大な防壁が建てられているが、剣の処刑林付近には防壁がない。それは魔獣が出てこないからであるが、この警備は見るからに異常だ。
「開拓者のロイスだ。招集に応じて来た」
「あんたがロイスか。話は聞いている、通っていいぞ」
開拓者の証である銀の首飾りを見せながら説明するとあっさりと通してくれた。どうやらこの警備は中からではなく外から来る何かに警戒している様だ。
「何時もと空気が違うな」
剣の処刑林の目の前に来た瞬間、風が血の匂いを運んで来た。
「嫌な臭いだ」
血の匂いには慣れているロイスも、普段は新鮮な空気を吸いたい。だがこの林に一歩でも踏み入れればそれは無理だろう。そう思えるほど血の匂いは濃い。
「さっさと終わらすに限る」
アリスの助言通り、さっさと安全ルートを確保して帰ろう。
ロイスはふぅっと息を吐き出すと中へと入って行った。
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