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第22話 魔法は後方から飛んできたぞ
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グラワルに登場するNPCたちの中には、仲間として一緒に戦うことができるキャラが数多くいた。
セレスティア=セントルアもそのうちの一人である。
【戦乙女】という強力な天職を持ち、お供にしていれば非常に心強い。
ただし彼女と一緒に冒険するためには、必ずイベントをクリアしなければならなかった。
それがこの、『岩窟迷宮』の〈迷宮暴走〉から始まるボス討伐イベントである。
しかしイベントのラストで、彼女は背後からの不意打ちを喰らう。
この事件を引き起こした犯人によって、命を奪われそうになるのだ。
だがゲームでは、不意打ちはボスの討伐に成功した直後のはずだった。
「~~~~っ!?」
「「「殿下!?」」」
今まさにボスにトドメを刺そうとしていた彼女の背中に魔法が直撃し、攻撃スキルが強制キャンセルされる。
ゲームとは微妙に流れが変わってしまったのだ。
ゲームとの差異はそれだけに留まらなかった。
「まずいっ!」
さらにすんでのところで命拾いしたボスが、巨大な石の弾丸をセレスティア目がけて打ち出そうとしたのだ。
ボスは滅多に自分から攻撃をしないものの、子蜘蛛と同じように石を吐き出してくることがある。
鈍重な動きから放たれるため、予測して回避するのは容易だが、その代わり威力は子蜘蛛のそれとはケタ違いだ。
不意打ちを喰らい、攻撃スキルが強制キャンセルされたセレスティアは、一時的にスタン状態となっていた。
ボスの石弾を避けることはできない。
俺は咄嗟に彼女の前に飛び込んでいた。
〈超集中〉の効果が切れている今、ボスの吐き出した石弾――石というより岩の大きさだ――が放たれたと思った瞬間には、すでに俺の身体に激突していた。
「~~~~~~っ!?」
吹き飛ばされる。
―――――――――
【HP】1
―――――――――
地面を何度も転がった俺のHPは、〈根性論〉のお陰で死の一歩寸前で踏みとどまった。
「ライズさんっ!?」
「俺は無事だ! それよりボスにトドメを刺せ!」
ポーションを取り出しながら叫ぶ。
「っ……〈ソウルブレイク〉っ!!」
スタン状態から回復したセレスティアが、ボスに防御無視の一撃と叩き込む。
無論すでに「コンボアタック」による攻撃上昇効果は切れているため、それだけではボスを倒すことはできなかったが、騎士たちが一斉攻撃をお見舞いしたお陰で、何とか残るHPを削り切った。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
断末魔の声と共に、光の粒子と化して消えていくボス。
まだ子蜘蛛が八体ほど残っているが、ボスを倒してしまえばもはや増えることもないため、後片付けは難しくない。
問題は……。
「先ほどの攻撃は何だったのだ!?」
「あの少年がいなければ、殿下は危なかったぞ!?」
騎士たちが声を荒らげ、先ほどの犯人捜しを始める。
「魔法は後方から飛んできたぞ!」
「となると、冒険者どもか!? 赤魔法を使える者は誰だ!? そこに【魔術士】らしき男がいるな!?」
「お、俺じゃないぞ!? そもそも俺は赤魔法なんて使えねぇ!」
「あああ、あたしでもないわよ!? あたしが得意なのは緑魔法だし!」
あの乱戦の中では仕方ないが、誰も魔法を放つ瞬間を見ていなかったのだろう。
しかし一人だけ、こうした乱戦下にあっても、はっきりと犯人の特定が可能な人物がいた。
【戦乙女】のセレスティアである。
「……彼ら冒険者ではありません」
「殿下……? もしや、犯人を……?」
「はい。あのとき、わたくしを狙って魔法を放ったのは……その男です」
彼女が指さした先にいたのは、一人の青年。
アルベール卿が連れてきた配下の剣士だった。
「はっはっは、何をおっしゃるかと思えば。私の配下が、殿下を攻撃したと? さすがにそれは言いがかりではありませんかな? そもそも我が配下に、魔法を使える者は一人もおりません。ご覧の通り、全員が剣士系の天職でありますから。なんなら今からお見せいたしましょうか? 彼らが剣技スキルを使うところを」
配下を犯人扱いされ、アルベール卿が反論する。
「確かに全員が剣士なのは間違いないでしょう。ですが、剣士であっても、魔法を使えることがあります」
「ほう?」
「【魔導剣士】です。魔法と剣。その両方を高レベルで両立できる天職……秘かにメンバーの一人に加えていたのでしょう。そもそも戦いの途中から、ずっと違和感を覚えていました。アルベール卿、あなたが本気を出せば、もっと早くボスのHPを削ることができたはずです」
ボスへの攻撃を担っていたアルベール隊が、あえて戦いを長引かせるために、手を抜いて戦っていたのではないかと指摘するセレスティア。
「くくくっ……はははははっ!」
もはや言い逃れはできないと悟ったのか、開き直ったようにアルベール卿が哄笑を響かせる。
「その通りだ! そもそもこの〈迷宮暴走〉を引き起こしたのも、私の仕業っ! すべてはここで貴様の息の根を止めるためだ……っ!」
「なっ……」
セレスティア=セントルアもそのうちの一人である。
【戦乙女】という強力な天職を持ち、お供にしていれば非常に心強い。
ただし彼女と一緒に冒険するためには、必ずイベントをクリアしなければならなかった。
それがこの、『岩窟迷宮』の〈迷宮暴走〉から始まるボス討伐イベントである。
しかしイベントのラストで、彼女は背後からの不意打ちを喰らう。
この事件を引き起こした犯人によって、命を奪われそうになるのだ。
だがゲームでは、不意打ちはボスの討伐に成功した直後のはずだった。
「~~~~っ!?」
「「「殿下!?」」」
今まさにボスにトドメを刺そうとしていた彼女の背中に魔法が直撃し、攻撃スキルが強制キャンセルされる。
ゲームとは微妙に流れが変わってしまったのだ。
ゲームとの差異はそれだけに留まらなかった。
「まずいっ!」
さらにすんでのところで命拾いしたボスが、巨大な石の弾丸をセレスティア目がけて打ち出そうとしたのだ。
ボスは滅多に自分から攻撃をしないものの、子蜘蛛と同じように石を吐き出してくることがある。
鈍重な動きから放たれるため、予測して回避するのは容易だが、その代わり威力は子蜘蛛のそれとはケタ違いだ。
不意打ちを喰らい、攻撃スキルが強制キャンセルされたセレスティアは、一時的にスタン状態となっていた。
ボスの石弾を避けることはできない。
俺は咄嗟に彼女の前に飛び込んでいた。
〈超集中〉の効果が切れている今、ボスの吐き出した石弾――石というより岩の大きさだ――が放たれたと思った瞬間には、すでに俺の身体に激突していた。
「~~~~~~っ!?」
吹き飛ばされる。
―――――――――
【HP】1
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地面を何度も転がった俺のHPは、〈根性論〉のお陰で死の一歩寸前で踏みとどまった。
「ライズさんっ!?」
「俺は無事だ! それよりボスにトドメを刺せ!」
ポーションを取り出しながら叫ぶ。
「っ……〈ソウルブレイク〉っ!!」
スタン状態から回復したセレスティアが、ボスに防御無視の一撃と叩き込む。
無論すでに「コンボアタック」による攻撃上昇効果は切れているため、それだけではボスを倒すことはできなかったが、騎士たちが一斉攻撃をお見舞いしたお陰で、何とか残るHPを削り切った。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
断末魔の声と共に、光の粒子と化して消えていくボス。
まだ子蜘蛛が八体ほど残っているが、ボスを倒してしまえばもはや増えることもないため、後片付けは難しくない。
問題は……。
「先ほどの攻撃は何だったのだ!?」
「あの少年がいなければ、殿下は危なかったぞ!?」
騎士たちが声を荒らげ、先ほどの犯人捜しを始める。
「魔法は後方から飛んできたぞ!」
「となると、冒険者どもか!? 赤魔法を使える者は誰だ!? そこに【魔術士】らしき男がいるな!?」
「お、俺じゃないぞ!? そもそも俺は赤魔法なんて使えねぇ!」
「あああ、あたしでもないわよ!? あたしが得意なのは緑魔法だし!」
あの乱戦の中では仕方ないが、誰も魔法を放つ瞬間を見ていなかったのだろう。
しかし一人だけ、こうした乱戦下にあっても、はっきりと犯人の特定が可能な人物がいた。
【戦乙女】のセレスティアである。
「……彼ら冒険者ではありません」
「殿下……? もしや、犯人を……?」
「はい。あのとき、わたくしを狙って魔法を放ったのは……その男です」
彼女が指さした先にいたのは、一人の青年。
アルベール卿が連れてきた配下の剣士だった。
「はっはっは、何をおっしゃるかと思えば。私の配下が、殿下を攻撃したと? さすがにそれは言いがかりではありませんかな? そもそも我が配下に、魔法を使える者は一人もおりません。ご覧の通り、全員が剣士系の天職でありますから。なんなら今からお見せいたしましょうか? 彼らが剣技スキルを使うところを」
配下を犯人扱いされ、アルベール卿が反論する。
「確かに全員が剣士なのは間違いないでしょう。ですが、剣士であっても、魔法を使えることがあります」
「ほう?」
「【魔導剣士】です。魔法と剣。その両方を高レベルで両立できる天職……秘かにメンバーの一人に加えていたのでしょう。そもそも戦いの途中から、ずっと違和感を覚えていました。アルベール卿、あなたが本気を出せば、もっと早くボスのHPを削ることができたはずです」
ボスへの攻撃を担っていたアルベール隊が、あえて戦いを長引かせるために、手を抜いて戦っていたのではないかと指摘するセレスティア。
「くくくっ……はははははっ!」
もはや言い逃れはできないと悟ったのか、開き直ったようにアルベール卿が哄笑を響かせる。
「その通りだ! そもそもこの〈迷宮暴走〉を引き起こしたのも、私の仕業っ! すべてはここで貴様の息の根を止めるためだ……っ!」
「なっ……」
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