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第10話 同級生が美人のお姉さんと濃厚なキスをしていたんですけど

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 いつの間にか眠っていたらしく、目を覚ますと随分とすっきりしていた。
 何だかんだで、どうやらかなり熟睡できたようだ。

 すぐ隣で、青山はまだぐっすりと眠っている。
 彼女を起こさないよう注意しながら、俺はテントを出た。

「俺、どれくらい眠ってました?」
「大よそ三時間ほどだろう」
「すいません、ずっと見張っててもらって」
「気にしなくていい」

 石壁にもたれかかるようにして座っていたグレンダさんは、何でもないことのように言う。
 この人、ほんとカッコいいよな……。

 この部屋の出入り口に魔物避けの薬を振りかけていたこともあって、魔物は一度も現れなかったという。
 完全に魔物を防げるわけではないそうだが、ダンジョン内で休憩するときには必須のアイテムだ。

「青山はまだ寝てますが……」
「特に急ぐ訳ではない。目を覚ますまで待てばいいだろう」
「助かります」

 俺も見張りに加わることになった。
 と言っても、魔物が現れる可能性は低く、かなり暇だろうが。

「せっかく時間があるんだ。今のうちに、まだ上がる余地のあるスキルのレベルを上げておくとしよう」

 しばらくして、グレンダさんがそんな提案をしてきた。

「ま、またアレをやるんすね……?」
「嫌かもしれないが、強くなるためには我慢してもらうしかない」
「い、嫌な訳がないっすよ!?」

 我慢なんてとんでもない。
 むしろもっと飲みたいです。

「そうか? 毎回どこか躊躇っている気がするが……」

 それ、単に緊張してるだけです……。
 だって俺、女性経験とか皆無ですから。


   ◇ ◇ ◇


「ん……」

 青山葵はテントの中で目を覚ました。
 一瞬なぜ自分はこんなところにいるのだろうかと思ったが、すぐに思い出した。

 夢じゃなかったんだ……。

 あの怖ろしい体験に思わず身震いしてしまう。
 もう少しで死んでいたかもしれないと思うと、動悸が激しくなった。
 と同時に、違うドキドキも感じていた。

 悠木くん、すごくカッコ良かったな……。

 あんな怖ろしいモンスターにたった一人で立ち向かって、倒してしまったのだ。
 勇者と言っても、彼だって自分と同じただの高校生のはずなのに。
 けれど彼が勇者だというのも、なんだか分かる気がした。
 彼は勇気のある人だと、改めて葵は思う。

 あの後も、ずっと自分のことを心配してくれていた。
 三人組に襲われかけたときは、男という生き物に失望し、絶望した。
 トラウマになってもおかしくない体験だ。
 けれど彼のような人もいるのだと思えば、少しホッとすることができた。

 ――だ、大丈夫だよ……その……中で、一緒に寝ても。

 と、そこで葵の脳裏に、寝る前の自分の行動が蘇った。

 うわああああっ!?
 わたし、なんてこと言っちゃったんだろう!?

 あんなことがあった後なので、テントで一人で休むのがとても怖かったのだ。
 だからと言って、同級生の男子に傍で寝てもらおうとするなんて……。

「うううう……」

 葵は顔を真っ赤にしながら、毛布へと顔を埋めた。

「……そ、そう言えば、悠木くんいないね?」

 隣に彼の姿は無い。
 毛布だけが残されていて、手を伸ばして触れてみるとまだ温かかった。
 つい少し前まではここで寝ていたのかもしれない。

 ふと、そこで葵はテントの外から聞こえてくる奇妙な音に気が付いた。
 な、何、この音……?

 ちゅぱちゅぱくちゅ……。

 擬音にすれば、そんな感じになるだろう。
 随分と水っぽい音だ。

 葵は這うようにしてテントの入り口まで近づくと、恐る恐る隙間から外を覗き見る。
 そして彼女が見た光景は――


 クラスメイトが美人のお姉さんと唇を重ね合わせていた。


 え、えええええええええええええっ!?
 葵は心の中で思いきり叫ぶ。
 むしろよく声を出さなかったと思う。

 なななな、何で!?
 どどどど、どういうこと!?
 何でキスしてるの!?

 パニックになる葵。
 しかもただのキスではない。
 その辺りの知識には疎いため、何と表現すればいいのか分からないが、とにかくやたらと濃厚なものだった。
 思わず顔を手で覆ってしまうが、しかしつい指と指の間から見てしまう。

 もちろんこの状況で出ていく訳にもいかず。
 葵はそっとテントの奥へと引っ込んだ。


   ◇ ◇ ◇


「やった。〈剣技〉のレベルもAに上がってますよ!」

 グレンダさんとのキスにより、今までBだった〈剣技〉のレベルがAに上昇した。
 さっきは〈死霊殺し〉がBに上がったし。
 グレンダさんが有している以上のレベルには上がらないようなので、これでついにコンプリートできたことになる。

「うむ。やはり〈スキルイート〉は強力だ。私は〈剣技〉のレベルをAまで上げるのに、訓練を始めてから四、五年はかかった」
「それを聞くと、なんか悪い気がしますね……。俺、何の努力もせずにこんなに簡単に強くなって……」

 しかも、美女とキスできるという最高のオマケつき。

「気にしなくて良い。そもそも本来ならば無関係なはずの貴殿を、この世界のことに巻き込んでしまっているのだからな」

 てか、ここまでグレンダさんに協力してもらっているのだから、たとえ巻き込まれた子たちを全員助けたとしも、それでハイさよならという訳にはいかないよなぁ……。
 あのロディエとかっていう神は、そうなることを見越していたのかもしれない。
 ほんと性質が悪いにも程がある。

「……お、おはよう……」

 とそのとき、青山がテントから出てきた。

「大丈夫か、青山? よく休めたか?」
「う、うん。お陰さまで……」
「……?」

 見た感じ、大分疲れは取れてすっきりしている気がするのだが、なぜか俺に目を合せようとはせず、どこか余所余所しい。
 あれ? 俺、何かマズイことしちゃったっけ……?






 残りは上層だけということもあって、無力の青山を護りつつも、その後は難なく進んでいくことができた。
 そしてついに地上への帰還を果たすと、俺が最初に召喚された大聖堂へと戻った。

「勇者様、よくぞ御無事でお戻りくださいました」

 教皇代理の美少女、ミトラルカが迎えてくれる。

「グレンダも、大任ご苦労様でした」

 そう労われ、グレンダさんが深く頭を下げる。

「しかし、やはり勇者殿は我々とは別格のお方であると確信した。すでにレベル18にまで上がられている。脅威の成長速度だ」
「まぁ、もうそんなにお強く?」

 グレンダさんの報告に、ミトラルカが目を丸くして驚く。
 それから彼女は、青山の方に視線を向けて、

「勇者様の同郷の方ですね? この度はわたくしどもの世界のことに巻き込んでしまい、本当に失礼いたしました」
「い、いえっ」

 青山は少し緊張した様子で首を振った。

「は、話は悠木くんとグレンダさんから聞いてます。こっちの世界が大変だって……。だ、だからその、ミトラルカさんのことを責めることはできないです」
「ありがとうございます。勇者様といい、異世界にはお優しい方ばかりなのですね」

 今回は青山だったからであって、中にはめちゃくちゃ怒る奴もいるだろうけどな……。

「……本当なら、すぐさま元の世界に帰して差し上げたいのですが……実は、貴方様だけを元の世界に送るということができないのです。勇者様が他の方々をお救いになるまで、お待ちいただくしかなく……もちろん、その間はわたくしたちが貴方様を保護し、最大級のおもてなしをさせていただきます」
「だ、大丈夫です! 悠木くんのことを考えたら、待ってるくらい大したことないですし!」

 本当に良い子だよなぁ、青山は。

 すでに夜も遅かったので、その後、俺たちは大聖堂内にある客室へと案内され、今日はそこで休むことになった。

 かなり豪奢な部屋だった。
 ふかふかのベッドに寝っころがりながら、俺は地図を眺める。

「次は一番近いこの光点か……。どこだか知らないけど、次はとりあえずここに行ってみるか。しかしこれ、全部を辿るのめちゃくちゃ大変だな……」

 全員を救出するまでどれくらいかかるだろうか。
 誰が巻き込まれたのか分からないが、今回の青山のケースを思うと、一刻も早く助けてあげたいところだった。
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