上 下
27 / 30

第27話 みんなー!!!! はやく帰ってきてくれーっ!!!!

しおりを挟む
 俺の名はシシオ。
 現在の族長シシオダスの長男として生まれ、将来は父の座を引き継ぐことを期待されている。

 我々の村では、族長は世襲制ではない。
 実力のある者が族長に選ばれる。
 それは俺も例外ではなかったが、そうした厳しい競争に勝ち抜き、今や皆から次期族長を確実視されるまでに至っている。

 父を見習って、俺は常に次期族長に相応しい態度や言動を取るよう努めているつもりだ。
 だから今回、彼らのダンジョン攻略に同行するよう父から命じられたときも、嫌な顔一つせずに拝命した。

 でも内心では本気で嫌だったよ!
 だってあのダンジョン、マジでやべぇもん!

 狩り慣れている魔物ではないということもあるが、村の精鋭たちが苦戦するような相手が大量に棲息しているのだ。
 正直、もう二度と入りたくない。

「今さらだが、本当に行くつもりなのか? 今ならまだ引き返せるぞ?」

 とはいえ、唯一の大人としてそんな態度を出すわけにもいかず。俺はちょっと迂遠な言い方で彼らを止めようとした。

「心配ないよ!」

 こっちはめちゃくちゃ心配なのだが?
 確かにこの子供たちは異常に強い。道中、すでに何度かダンジョンの魔物に遭遇したが、物ともしなかった。

 しかしダンジョンの中と外では魔物の強さも数も違う。
 それに迷路のような構造になっていて、時には罠もある。彼らは果たしてその辺りのことをちゃんと分かってるのだろうか? 元気だけじゃどうにもならないこともあるんだぞ?

「そ、そうか。……ライオ、お前も覚悟は大丈夫か?」
「うん、兄さん」

 おいおい、ライオ! ちょっと前のお前だったら、「こわいよ、おにいちゃん! おれにはムリだよ~」って泣きついてきたはずだぞ?

 あんなに泣き虫で自信のなかったお前はどこにいったんだ!?
 しかもいつの間にか俺より強くなりやがってよぉ! さっきあの巨大クワガタの角を腕力だけで圧し折ったとき、思わず服従のポーズを取りそうになったじゃないか……。

 俺の秘かな抵抗も虚しく、彼らは意気揚々とダンジョンへと入っていく。
 仕方なく後を追った。

 前回同様、いや、それ以上の数の魔物が侵入者を拒もうと襲い掛かってきた。
 だが彼らはそれを物ともしなかった。
 俺たちが苦戦させられた巨大カマキリの首を、一瞬で斬り飛ばしてしまったときはマジでぞっとした。思わず服従のポーズを(ry

 やがて、忘れもしないあの場所へと辿り着く。

「……ここだ。前回ここで我々は全滅しかけ、そしてダンジョンの攻略を諦めることに決めたのだ」

 マジで死にかけたもんね。
 即座に撤退判断を下した俺はもっと褒められるべきだと思う。

「ここにいる魔物は今まで出てきた連中とはレベルが違う。注意しろよ。それと絶対、あの白いやつには触れるな」

 不安のせいか、すごい早口になっている自覚がある。喉が湧いた……。

 できればもう二度とあの魔物を見たくなかった。
 だが再びあの悪夢が姿を現した。

 巨大なクモだ。
 蠢く八本の脚に、不気味に光る六個の目。その全長は五メートルにも達するだろう。

 奴がこの空間中に張り巡らせた糸は、恐るべき強度と粘着力で捕えた獲物を容易には放さない。
 思い出したくもないが、それは前回の戦いで体験済みだった。

 しかもあんなにでかいくせに、奴の移動速度は尋常ではない。あの糸の上を滑るように走ってこちらに迫ってくるのだ。あのあと何度か夢に見たぜ……。
 さらに奴は配下の子蜘蛛まで引き連れているときた。

 ねぇ今からでも遅くないから、引き返さないか? 子供ばかりでここまで来たんだ。もう十分だって。この辺で断念したとしても何ら恥ずかしいことじゃない。ほら、あの人族の女もきっと心配していることだろう。早く帰って安心させてやったらどうだ?
 ……お願いだからもう帰ろうよ。

 そんな俺の気持ちが通じたのか、現れた巨大クモと睨み合うだけで、彼らはまだ動こうとしない。
 もしかしてあのクモが強敵だと感じ取ったのか?
 あの大きさだし、そりゃ感じるだろう。
 これならもうひと押しすれば回れ右してくれるかも?

「どうだ? さすのお前たちもここを突破するのは難しいだろう? あの糸に捕らわれたら最後、奴らの餌だ。しかも間違いなく生きたまま食われるぞ?」

 ちょっと脅してみた。誰だって生きたまま食われるのは嫌なはずだ。

「レオナ、いける?」
「うん! 任せて!」

 やっぱ行く気かよ!
 マジで死んでも知らんぞ!? 俺はちゃんと何度も忠告したからな!




 ……倒しやがったよ。

 また服従のポーズをしてしまいそうになりながら、俺は呆然と目の前の光景を見詰めていた。

 あちこちに巡らされていた糸はすべて焼失し、地面には巨大グモたちの残骸が転がっている。
 最初に放った炎で糸をすべて焼き切り、相手の地の利を完全に奪った上で、立て直される前に一気加勢に攻めて圧倒的優位に立つと、そのままの勢いで殲滅してしまったのだ。

 確かに彼らには魔法というアドバンテージがあった。
 だがそれも、あの糸の弱点を瞬時に見抜く眼力ゆえのものだ。

 俺たちだって、魔法は使えないが、その気になれば糸に火をつけて焼き尽くすこともできただろう。
 しかしそれに思い至ることができず、結果があの情けない撤退だ。

「どうしたの? いくよ?」
「え? あ、ああ」

 声を掛けられ、ハッと我に返る。
 今の戦いなど大したものではないと言わんばかりに、すでに彼らは先へと進もうとしていた。
 お、置いていかないでくれ!
 認めたくはないが、この中で一番弱いのは間違いなく俺だからな……。

 慌てて彼らの後に追いつくと、俺は人族の少年に訊ねる。

「一つ、質問があるのだが」
「? なに?」
「その歳でなぜそんなに強い? 一体どこでそんな力を身に着けたのだ?」
「森にきてからかな?」
「……それがいつのことか訊いてもいいか?」
「一年ちょっと前くらい?」

 い、一年だと!?

「最初はホーンラビットも倒せなかったよ?」
「なんだと!?」
「わたしも! ろうそくくらいの火しか出せなかった!」

 少女の方が言う。
 魔法のことについてはよく分からない。だがこの二人の言うことが真実ならば、あり得ない成長を遂げたことは間違いない。

 ライオたちといい、一体どうなっているんだ? 才能に乏しく、足手まといだとして村から追い出された連中が、伝説の進化を遂げてしまうなど、どう考えてもおかしい。
 あの小さな村に何か秘密があるのか?

「あ、サオリお姉ちゃんと出会ったのは同じときだよ!」
「お姉ちゃんがいるとね、力がわいてくる感じがする!」

 まさか、あの女性が……?
 ごく普通の人族の女性だとばかり思っていた。
 もちろん魔物を引き連れている時点で普通ではないのだが、それ以上でも以下でもないと。
 だがもし、何か他にも特別な力があるとすれば……。


   ◇ ◇ ◇


「まだかな……? まだかな……? ちょっと遅くない? もうそろそろ帰ってきてもいいころだよね……? まさか何かあったとか……? こ、こうしてはいられない! すぐに助けに行かないと……!」
「クルルルー(おちついて)」
「キィキィ(おちついて)」

 リューとシャルに窘められた。

 だって心配なんだもん!
 レオルくんたちが出発して、そろそろ丸二日が経とうとしている。

 ここからダンジョンの入り口まで行くのに半日ちょっと。往復だと丸一日。
 攻略にどれくらいかかるか分からないけど、ニャー族の人たちの話からするに一日で終わるなんてことはなさそうだ。
 もちろん休憩なども考慮すれば、まだ全然慌てるような時間じゃない。

 そう頭では分かっていても、気が気ではなかった。

「こんなことならやっぱり付いていくべきだったか……」
「クルルルー(それはだめ)」
「キィキィ(ぜったいだめ)」

 何でだよぉ!
 くそう、こんなことなら一緒に戦闘系のチートも貰っておくんだった!
 あの女神さんあんま深く考えてないタイプ(失礼)だったし、要求すればくれたかもしれないのに!

 とそのとき、外から聞き慣れた声が。

「「「お姉ちゃーん! ただいまーっ!」」」

 帰ってきたぁぁぁぁぁっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...