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第55話 何の役にも立ってねぇ

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 危険度C以上の魔物に対して、天職を持たない人間たちはまったく戦力にならない。
 ゆえに戦士だけで、千体もの凶悪な魔物と対峙しなければならないことになる。

「そんなの、どう考えても無理だろ……お、俺は戦わずに逃げるぞ……」

 一人の冒険者の小さな呟きを、ミレアは聞き逃さなかった。

「残念ですが、それはできません。今ここに集まった皆さんには、冒険者として戦う義務があります。もし逃亡されるようなことがあれば、二度と冒険者として活動することはできないでしょう」
「マジか……」

 ミレアの説明に、言葉を失う冒険者たち。

「ただ、先ほどの話はあくまで単純にぶつかれば、の話です。実際にはこの街には強固な城壁があります。それを利用し、上手く戦うという形になるでしょう。詳しい作戦は騎士団と調節する必要があるかと思いますので、まだお話できませんが、決して無謀な戦いではないはずです」

 いったん壇上に端に追いやられていたバルクが、そこで再び口を開く。

「というわけだ! 分かったな!」
「「「(サブマス、何の役にも立ってねぇ……)」」」






 遠くに濛々と舞い上がる砂煙が見えてきたのは、ちょうど太陽が真上にくる時刻だった。

「この距離からすでに砂煙が見えるとか、どれだけの規模っすか……」

 城壁の上からその様子を見ていた【赤魔導師】のリオは、頬を引き攣らせながら呻いた。

「しかも、樹海ってここからかなり離れてるっすよね? 少なくとも領都から見えないくらいには……。そんなところからここまで押し寄せてくるものなんすね……?」

 そんな彼の疑問に答えたのは、【パラディン】のジークだ。

「スタンピードの原因は様々だけれど、共通しているのは、一度発生してしまうとそう簡単には収まらないことなんだ。人間でも群集心理と言って、周りがある一定の行動をしていると、なかなか別の行動を取るのは難しくなるよね? 魔物だってそう。他の魔物が走り続けているなら、自分も走り続けないといけない気になるんだと思う。たぶん、そうやって周囲と同じ行動を取ることが自分の生存確率を高めることになるって、本能的に感じるのだろう」
「相変わらず、よくそんな難しいことを知ってるっすね……。けど、もしこの城壁を前にしたら、避けて通り過ぎていくんじゃないっすか?」
「そうだね。ただ、そうなると今度はこの都市の先にある街や村が危険だ」
「言われてみれば」
「だからこそ、ここで可能な限り魔物を討伐しなくちゃならないんだ」

 彼らは以前、正規冒険者になるための試験を、ルイスと共に受けた二人だった。
 あの後、そろって再試験に合格し、現在はEランク冒険者になっていた。

 彼らもまた強制招集で、この戦いに挑むことになったのである。
 ただしまだ駆け出しなので、非戦士の者たちと同様、この城壁の上からの参戦だ。

 万一、この城壁を越えていこうとする魔物が現れたときに、それを撃退するのが彼らの主な役目である。

 ……なお、もう一人の【聖女】コルットは不合格となったため、ここにはいない。
 一応、冒険者見習いではあるので、城壁内で怪我人の治療にあたる予定だ。

「どどど、どうしよう!? 魔物の大群が、もうすぐそこまできちゃってるよ!?」
「慌てても仕方ないわ。こうなったらもう、やるしかないんだから」
「ジタバタしても意味なし」

 同じく城壁の上には、ルイスがゴブリンの巣穴から助けた三人娘、リゼ、マーナ、ロロの姿もあった。
 先ほどから不安でずっと一人であわあわしているリゼを、マーナとロロが落ち着かせようとしている。

 また、Cランク以上であっても、魔法使い系の戦士たちも城壁組だ。

「あたくしたち魔法部隊は、魔物がこの城壁に近づいてきたら一斉に魔法で攻撃しますわ。それでどれだけ数を減らしたり、魔物を混乱せられるかで、勝負が決まると言っても過言ではありませんの」

 そう後輩たちに言い聞かせているのは、【青魔導師】であるエリザ。
 実は最近Bランク冒険者に昇格したこともあって、この場のリーダーを任されている。

「(あのときみたいに、ルイスがいてくだされば心強いのに……こんなときに依頼で街にいらっしゃらないなんて……)」

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