上 下
13 / 60

第13話 百人力っす

しおりを挟む
 土の巨腕による横薙ぎの一撃に、盗賊たちが一斉に吹き飛ばされる。

「ちょっ、どういうことっすか!? 【農民】って、黄魔法も使えるんすか!?」

 土や金属などに関する魔法、それが黄魔法だ。
 驚くリオに、ルイスは首を振って、

「いや、魔法っていうか、特技かな? 俺、魔力はゼロみたいだし」
「ということは、魔力の枯渇を心配せず、無限に使えるってことっすか……?」
「魔力の制限は確かにないけど、体力は消耗するぞ」

 魔法には魔力が必要だ。
 一方で特技は体力を必要とする。

 そのためどちらが有利なのかは一概には言えない。
 ……ただ、日々の農作業で鍛えたルイスは、有り余るほどの体力を持っていたりする。

「がはっ……な、な、何だ、今のは……っ?」
「まさか、天職持ちがいやがるのか……っ!?」
「見た感じ、騎士とかじゃなさそうだっ……ってことは、冒険者か!?」
「くそっ、逃げるぞっ!」

 そのまま気を失ってしまった者もいたが、当たり所がよかったのだろう、何人かはどうにか立ち上がると慌てて逃げていく。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 だがそんな彼らの前に、二本目の巨腕が立ち塞がった。

「「「こっちにも!?」」」

 先端の拳が開いて、彼らの頭上へと振り下ろされる。

「「「ぶぎゃああああああああああっ!?」」」

 蛙のように潰れた盗賊たちは、完全に気絶してしまった。

「す、すごい……。盗賊を、一瞬で……」
「普通に強いじゃないっすか!」

 ルイスの力を目の当たりにして、驚嘆するジークとリオ。

「る、ルイスさんって……美味しい野菜を作れるだけのおじさんじゃ、なかったんですね……」

 辛口なコルットも評価を改めたようだ。

「(あの一瞬で巨大な土の腕を作り出し、しかもあそこまで自在に動かすなんて……これはどう考えても見習いのレベルではありませんわね。本当に戦士としての活動実績がゼロなんですの?)」

 試験官のエリザもまた大いに驚いていた。

「(今のを見ただけでも、合格は間違いなし……ただ、このタイプの特技だと、今回の試験では少し苦戦するかもしれませんわね……)」






 やがて一行が辿り着いたのは、不思議な形状をした岩が密集する岩石地帯だった。
 その中でもひときわ大きな岩の根元に、そのダンジョンの入り口はあった。

「ここが『マーシェルの岩場洞窟』ですの。お伝えした通り、今回あなた方が目指すのは、この地下五階。あたくしも試験官として同行しますが、自分たちの力だけでそこまで到達してくださいまし」

 よほど危険な状況に陥らない限りは、エリザが手を出すことはないという。

 ちなみに多くのダンジョンは、奥に進むほど魔物やトラップが凶悪化する。
 そのため探索の際には、自分たちの実力を見極めながら、少しずつ攻略を進めていくのがセオリーだが、今回は受験者たちの能力をギルド側が把握した上で、地下五階という目的地を設定していた。

「今のあなた方なら、地下五階まで辿り着くのはそう難しいことではないはずですわ」

 ここの地下五階までであれば、見習い冒険者の手に負えない魔物はまず出没しない。
 それに危険度の高いトラップなどもないはずだった。

「この見習い期間、何度かダンジョンには潜ってきたっすけど……試験となると、さすがに緊張するっすね……。まぁでも、今日はルイスがいるっすからね! 百人力っす!」
「……改めて言っておきますけれど、たとえパーティで地下五階に辿り着けたとしても、個人であまりにも活躍できていなければ、不合格になりますわよ?」

 楽観的なリオに、エリザが釘をさす。

「そもそも俺はダンジョンに潜るのは初めてなんだが」

 見習い期間を経ていないルイスにとって、人生初のダンジョンだった。
 なぜか期待されている状況に戸惑いつつ、足を踏み入れる。

「あれ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。 

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 のんびり更新です。 小説家になろうでも投稿しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...