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第43話 さっさと討伐しておくか
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「黒い騎士だと? おいおい、何だそれは?」
沼地の様子を見てきた冒険者たちの報告を受け、ギルド長は疑いの目を向けた。
「オレにも分からねぇよ。だが確かにいたんだ。数百体を超えるリザードマンの群れに囲まれながら、猛然と蹴散らしていく騎士の集団が」
しかもその騎士集団は、軽く百体を超えていたという。
「黒い鎧を身に着けたそんな騎士団、聞いたことないぞ。だが、未だに沼地の繁殖爆発が抑えられてるのは、そいつらのお陰ってことか」
「ああ、間違いねぇ」
「そいつらは敵なのか、味方なのか?」
「んなこと分かるわけねぇよ。あんな場所に突っ込んでいって、直接問いただすわけにもいかねぇし」
Bランク冒険者の招集を急いでいるところだが、話はややこしくなってきた。
その騎士団の存在が謎のままでは、Bランク冒険者も依頼を受けたいとは思わないだろう。
「どうすりゃいいんだよおおおおっ!」
苛々と頭を掻き毟り、叫ぶギルド長だった。
◇ ◇ ◇
『早ク、早ク奴ラヲ、殺サネバ』
マザーリザードは焦っていた。
どれだけ我が子を産み落とし、天敵を排除しようとしても、一向に戦果が上がらないのだ。
『モット、モット戦力ガ、必要ダ』
焦燥に突き動かされ、必死に卵を産み続ける。
本来の産卵速度を遥かに超えるペースだ。
しかしそれは同時に、元より短い彼女の寿命を、さらに縮めてしまう行為でもあった。
次第に鱗がボロボロになっていき、一枚また一枚と剥がれ落ちていく。
それでも彼女は産卵速度を緩めることはなかった。
『殺セ、殺セ、奴ラヲ、殺セ』
もちろん彼女は知らない。
己が必死になって排除しようとしている騎士たちは、とある少年の魔法で生み出されただけの影でしかないということを。
どれだけ倒したところで、無限に作り出せるということを。
◇ ◇ ◇
ここ数日、影の騎士団に殺到するリザードマンの数が、目に見えて少なくなってきた。
一番多いときは百体を超える影騎士たちを完全包囲してしまうほどで、影騎士たちも陣形を組んで必死に戦ったが、消滅させられる騎士も少なくなかった。
このときは素材や魔石の回収などする余裕もなかった。
それが今や包囲するどころか、逆に騎士団に囲まれて瞬殺されていく。
影騎士の数も減らしていいと判断し、五十体にしたほどだ。
「もしかして繁殖の限界に近づいてるのかな?」
僕は影分身を使って、再びマザーリザードの様子を確認することにした。
なぜか一度大移動したため、最初とは別の場所にいる。
マザーリザードはボロボロだった。
身体中の鱗が剥がれ落ちているし、目にも光がない。
呼吸も遅く、明らかにぐったりしている感じである。
かつてはマザーリザードをかなりの数のリザードマンが守護していたのに、今はその三分の一以下にまで減っていた。
どうやら自分を護る戦力まで、影騎士たちを倒す方に費やしてしまったらしい。
それでもまだ卵を産み続けているが、そのペースは以前とは比較にもならないほど遅い。
「やっぱり限界みたいだ」
この様子ではそう遠くないうちに自滅で死ぬだろう。
その場合、恐らく経験値は僕に入ってこない。
まぁ、すでに十分過ぎるほど経験値を稼がせてもらったけどね。
なにせあれからもう一度、レベルが上がったのだ。
つい数日前にレベル3になったばかりだというのに、もうレベル4になってしまった。
今やティラと同じレベルである。
「もしかしたら他の冒険者が倒しにくるかもしれないし、横取りされる前にさっさと討伐しておくか」
そう判断した僕は、影騎士たちをマザーリザードのところへ向かわせた。
立ちはだかるリザードマンを瞬殺しながら、やがて彼女のもとに辿り着く。
「シャアアアアアアアアアアアッ!!」
影騎士たちを見つけた瞬間、死にかけのマザーリザードの目に光が戻り、鋭い咆哮を轟かせた。
配下のリザードマンたちを引き連れ、自ら泥を跳ね上げながら影騎士たちに向かっていく。
衰弱し切っているとはいえ、それでも通常のリザードマンを大きく上回る巨体と野太い牙は非常に凶悪で、強さは上位種をも軽く凌駕していた。
影騎士たち数体がその顎の餌食になり、消滅させられてしまう。
「さすがはリザードマンの最上位種。死にかけだからって少し舐めてたみたいだ。シャドウナイツ」
僕は再びシャドウナイツの魔法を発動し、新たな影騎士を五十体ほど作り出した。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
マザーリザードが愕然としたのが分かった。
まさかこの影騎士たちが、魔法によって幾らでも生み出せる存在だとは思ってもいなかったのだろう。
現地の様子を【映像ボックス】越しに見ながら、僕は呟く。
「悪いね。そっちは無限に子供を産み続けることはできなかったみたいだけど、こっちは無限に影騎士を生み出せるんだ」
百体に増えた影騎士たちが、マザーリザードとそれを守護する子供たちに襲い掛かる。
絶望で戦意を失ったのか、マザーリザードはもはやほとんど抵抗することもなく、影騎士たちの剣を身体中に浴びてあっさり絶命。
配下のリザードマンたちも殲滅し、沼地にはすっかり元の平和(?)が戻ってきたのだった。
そしてマザーリザードの魔石は、今まで手に入れた中で最高品質のものだった。
ゴブリンジェネラルのそれを大きく上回る密度で、膨大な魔力が詰まっている。
「これなら思い描いていた魔道具をクラフトできそうだね」
沼地の様子を見てきた冒険者たちの報告を受け、ギルド長は疑いの目を向けた。
「オレにも分からねぇよ。だが確かにいたんだ。数百体を超えるリザードマンの群れに囲まれながら、猛然と蹴散らしていく騎士の集団が」
しかもその騎士集団は、軽く百体を超えていたという。
「黒い鎧を身に着けたそんな騎士団、聞いたことないぞ。だが、未だに沼地の繁殖爆発が抑えられてるのは、そいつらのお陰ってことか」
「ああ、間違いねぇ」
「そいつらは敵なのか、味方なのか?」
「んなこと分かるわけねぇよ。あんな場所に突っ込んでいって、直接問いただすわけにもいかねぇし」
Bランク冒険者の招集を急いでいるところだが、話はややこしくなってきた。
その騎士団の存在が謎のままでは、Bランク冒険者も依頼を受けたいとは思わないだろう。
「どうすりゃいいんだよおおおおっ!」
苛々と頭を掻き毟り、叫ぶギルド長だった。
◇ ◇ ◇
『早ク、早ク奴ラヲ、殺サネバ』
マザーリザードは焦っていた。
どれだけ我が子を産み落とし、天敵を排除しようとしても、一向に戦果が上がらないのだ。
『モット、モット戦力ガ、必要ダ』
焦燥に突き動かされ、必死に卵を産み続ける。
本来の産卵速度を遥かに超えるペースだ。
しかしそれは同時に、元より短い彼女の寿命を、さらに縮めてしまう行為でもあった。
次第に鱗がボロボロになっていき、一枚また一枚と剥がれ落ちていく。
それでも彼女は産卵速度を緩めることはなかった。
『殺セ、殺セ、奴ラヲ、殺セ』
もちろん彼女は知らない。
己が必死になって排除しようとしている騎士たちは、とある少年の魔法で生み出されただけの影でしかないということを。
どれだけ倒したところで、無限に作り出せるということを。
◇ ◇ ◇
ここ数日、影の騎士団に殺到するリザードマンの数が、目に見えて少なくなってきた。
一番多いときは百体を超える影騎士たちを完全包囲してしまうほどで、影騎士たちも陣形を組んで必死に戦ったが、消滅させられる騎士も少なくなかった。
このときは素材や魔石の回収などする余裕もなかった。
それが今や包囲するどころか、逆に騎士団に囲まれて瞬殺されていく。
影騎士の数も減らしていいと判断し、五十体にしたほどだ。
「もしかして繁殖の限界に近づいてるのかな?」
僕は影分身を使って、再びマザーリザードの様子を確認することにした。
なぜか一度大移動したため、最初とは別の場所にいる。
マザーリザードはボロボロだった。
身体中の鱗が剥がれ落ちているし、目にも光がない。
呼吸も遅く、明らかにぐったりしている感じである。
かつてはマザーリザードをかなりの数のリザードマンが守護していたのに、今はその三分の一以下にまで減っていた。
どうやら自分を護る戦力まで、影騎士たちを倒す方に費やしてしまったらしい。
それでもまだ卵を産み続けているが、そのペースは以前とは比較にもならないほど遅い。
「やっぱり限界みたいだ」
この様子ではそう遠くないうちに自滅で死ぬだろう。
その場合、恐らく経験値は僕に入ってこない。
まぁ、すでに十分過ぎるほど経験値を稼がせてもらったけどね。
なにせあれからもう一度、レベルが上がったのだ。
つい数日前にレベル3になったばかりだというのに、もうレベル4になってしまった。
今やティラと同じレベルである。
「もしかしたら他の冒険者が倒しにくるかもしれないし、横取りされる前にさっさと討伐しておくか」
そう判断した僕は、影騎士たちをマザーリザードのところへ向かわせた。
立ちはだかるリザードマンを瞬殺しながら、やがて彼女のもとに辿り着く。
「シャアアアアアアアアアアアッ!!」
影騎士たちを見つけた瞬間、死にかけのマザーリザードの目に光が戻り、鋭い咆哮を轟かせた。
配下のリザードマンたちを引き連れ、自ら泥を跳ね上げながら影騎士たちに向かっていく。
衰弱し切っているとはいえ、それでも通常のリザードマンを大きく上回る巨体と野太い牙は非常に凶悪で、強さは上位種をも軽く凌駕していた。
影騎士たち数体がその顎の餌食になり、消滅させられてしまう。
「さすがはリザードマンの最上位種。死にかけだからって少し舐めてたみたいだ。シャドウナイツ」
僕は再びシャドウナイツの魔法を発動し、新たな影騎士を五十体ほど作り出した。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
マザーリザードが愕然としたのが分かった。
まさかこの影騎士たちが、魔法によって幾らでも生み出せる存在だとは思ってもいなかったのだろう。
現地の様子を【映像ボックス】越しに見ながら、僕は呟く。
「悪いね。そっちは無限に子供を産み続けることはできなかったみたいだけど、こっちは無限に影騎士を生み出せるんだ」
百体に増えた影騎士たちが、マザーリザードとそれを守護する子供たちに襲い掛かる。
絶望で戦意を失ったのか、マザーリザードはもはやほとんど抵抗することもなく、影騎士たちの剣を身体中に浴びてあっさり絶命。
配下のリザードマンたちも殲滅し、沼地にはすっかり元の平和(?)が戻ってきたのだった。
そしてマザーリザードの魔石は、今まで手に入れた中で最高品質のものだった。
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