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「フェーズ1 島根県独立戦略会議」

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「フェーズ1 島根県独立戦略会議」

 閣僚会議の後、細〇は、自身の議員室から島根県連に電話を入れた。
「全力を尽くしたが、ダメだった…。平成の最初に、竹〇内閣発足で、我が島根県も全国へ訴えていく努力を十分することなく三十数年過ごしてきてしまったことが、根本にある。惨敗だよ。すまない…。」
電話の向こうの事務局長に力なく謝った。
「大丈夫です、先生。国がそういう態度に出るなら、出雲2680年の歴史に裏付けされた不屈の精神と誇りが我々にはあります。県議連、商工会、商工会議所、県中央会に県を加えた五者で十年以上前から、独立を前提としたプランを組んできています。先生にご相談する前からの独立案がありますので、次に島根に戻られる際、県庁に寄っていただけますか。」
「では、週末にでもそちらに戻ることにするよ。その時には青〇のボンも連れて行くようにするよ。」
「はい、メンバー皆、お待ちしております。今日は、本当にありがとうございました。」

 年内最終の土曜日午後2時、島根県庁第二会議室。三十畳ほどの広さの部屋に折り畳みの会議テーブルとパイプ椅子が並んでいる。正面席に「司会、県庁総務課、課長、岩本徹六」と名札があり、その両サイドに、県議連、商工会、商工会議所、県中央会と正面右側サイド席の前から「衆議院議員、細〇先生」、「参議院議員、青〇先生」と並び、少しいいいすが置かれている。席数はすべてで25席あった。机の上には「INDEPENDENCE 202X」とかかれたA4横のレジュメと某大手ネットショップモールのレビューで4.78点を獲得したという界面活性度が高く油とも混ざると言われる健康水「奥出雲の仁多水」のペットボトルが置かれていた。

 約束の時間の5分前には、全員が席に着いた。
「本日は、年末のお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます。特に、永田町からお越しいただきました、先生方おふたりには、厚く御礼申し上げます。
 今日の議題は、先週細〇先生からいただいた、日本政府のわが県に対する扱いに対する抗議方針と、その抗議が受け入れられなかった場合のフェーズ2、そして3、最終段階のフェーズ4への移行準備について打ち合わせしたいと思います。
 進行役は、私、島根県庁総務課の岩本が仕切らせていただきます。約3時間の会議となりますが、よろしくお願いします。」
との岩本のあいさつで会議は始まった。細〇の報告と永田町のこの先の対応の予測からスタートした。当時の広島選出の「めがね政権」が、島根県を非常に軽く見ていることと、鳥取の面倒な議員が議論を意識的に誘導しようとしているところが感じられるという部分で、議論はヒートアップしていった。
 現況を鑑み会議メンバー内でのフェーズ1突入の認識を持った。あえて、国と喧嘩をすることはないが、太平洋戦争に参戦せざるを得なかった当時の日本になぞらえて、周辺県への協力の働きかけ、および直接の申し立てを並行して行い、ともに効果が出なかった場合に、「独立」の県民投票を行う。
その結果によっては、県民および県内事業者も巻き込んだフェーズ2に移行することとなった。フェーズ2では、来年4月2日の時点でこちらからの要望が受け入れられない場合、日本国からの「独立予告」を行うこととした。そして独立宣言のXデイは半年以上の期間を持ち、日本国より色よい返事がない、または無回答の場合には、年内に日本国に「独立宣言」と併せ「あること・・・・の実行を宣言する」フェーズ3に移行することも全員の了承を得た。
 会議終了後、島根県が継続できるよう誠心誠意、粉骨砕身の努力をすることと、今日の会議内容は一切外部に漏らさぬことを誓い合い、血判状を全員が押印し会は解散した。

 会議後、主たるメンバーは、県庁の職員食堂で決起集会を兼ねた忘年会を催した。会議メンバーに加え、出雲大社の宮司、観光協会役員、県知事、事前に話を聞いていた市長や町村長に加え、ゆるキャラの「しまねっこ」、「雲太くん」、「出雲ちゃん」、「オロチくん」も参加した。
 会場には、松江ビアへるんの地ビールが多種類用意されていた。「へるん先生」と呼ばれ松江を愛した小泉八雲にちなんで「松江ビアへるん」と名付けられ1999年4月に開業した麦酒醸造所は、アイルランド発祥の黒ビール「縁結びスタウト」に始まり、ドイツ発祥の「ヴァイツェン」、イギリス発祥の「ペールエール」、チェコ発祥の「ペールエール」、美都町産柚子を使った「ゆずフレシュ」、はちみつビールで9%ある「しんじ湖MOON」、白ブドウのかおりを持つホップ「ネルソンソーヴィン」を使用した「ゴールデンスパークリング」、島根県産の希少ホップ「ゼウス」を使った「ゼウスビター」、カカオを九ケ月以上漬け込み長期熟成させた「ショコラNo、1」、年替わりで島根県内の酒蔵とコラボのどぶろくビール「おろち」と多種多様なビールを製造している。

もちろんゆるキャラの「オロチくん」は「おろちビール」を飲むのかと思っていると、オロチくんは2005年生まれとの事で、県内の柚子を使ったジュースを飲んでいた。他にも、県内の約30の酒蔵と3件のワイナリーの酒も提供され、会に華を添えていた。
 出雲大社の宮司が岩本に事の経過を聞いてきた。フェーズ3でのキーマンとなることを自覚しているので、その準備のためにも年内にいろいろとやっておきたいことがあるとの事だった。また、県知事からは、
「このプロジェクトは岩本課長にかかってるんだべ。なんか県でやらんないかん事ありゃ、何でも言うべ。」
と優しく声をかけられていた。
 酒とビールとワインが進み、参加メンバーによる「安来節」の大合唱と「ドジョウ掬い」で盛り上がった。また、カラオケが始まると、プロフィールでは「淡路島出身」をうたっているが、生まれは安来の渡哲也氏の「くちなしの花」や「嵐を呼ぶ男」、そして渡瀬恒彦氏の入浴剤のCMソング「裸の王様」を歌うものが出てきた。
また、育った町を歌った「佐賀県」、生まれの春日部が縁で歌った大ヒット映画の主題歌の「埼玉県のうた」の歌手である「はなわ」氏の母親が島根出身ということから、それぞれの替え歌を商工会のメンバーが歌っていた。
 「佐賀県」の歌の中に佐賀出身のタレントで出自を隠している旨の歌詞があるが、そこの部分が渡哲也兄弟になっていたり、竹内まりやさんになっているところが笑えたし、「埼玉県の歌」では、「東京」は「広島」に、「千葉」は「鳥取」に置き換えられているところは笑うに笑えない部分もあった。
そんな話で盛り上がる中、県知事から、名古屋出身となっている俳優の玉木宏氏の父君は島根出身で祖父は今も壱岐郡西ノ島に在住との話が皆の注目を集め、「まだまだ、島根も捨てたもんじゃないべ。」と出席者を元気づけた。

また、マギー審司の八番目の弟子のマギー布野氏は島根県出身。十四人の弟子の中で唯一苗字の芸名が許されたことや、初舞台が山形刑務所の慰安であるなど、トリビアが語られた。
ここに集まっているメンバーは、皆、島根を心の奥から愛している者だったので、ケータリングで取ったオードブルよりも先に、うずめ飯とぼてぼて茶が品切れになった。全員、美味しく食べ、満足顔だった。細〇は、「ここに総理達が居れば、もう少し島根のことを伝えられたのに…。」と悔しい思いをした。
 まじめな話半分、夢四分の一、不安四分の一で決起集会は中締めとなった。締めの言葉として、出雲大社の宮司が
「みんな、何も心配しなくていい。我々には、神様たちがついているぞー!」
と叫び、全員で「おーっ!」っと雄たけびを上げお開きとなった。

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