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「無慈悲な定数削減ほぼ決定」
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「無慈悲な定数削減ほぼ決定」
これで収まりがつかないのは、島根県民であった。人口70万人を割り、日本人人口比0.55%の島根県が日本国中央政府の横暴に対し、反旗を翻した。島根県よりも人口が少ない鳥取県にも共同工作を申し出たが、「背後から味方を撃つ男」の裏工作により、取り着く島もなく決裂した。他の定数削減エリアも、何某らの工作があったのか、声をあげたのは島根県だけであった。
これを、首都圏及び島根県以外の大手マスコミの一部は、新聞社、放送局問わず、「令和の島根県の乱」、「島根事変」と軽く扱った。その根拠は、実質的に、当初「島根県」が無くなっても、独立しようと大勢に影響なしと高をくくっていた日本政府と経団連の認識だった。
年末を前に、新首相と党役員と大臣たちによる「選挙区画割り会議」に「背後から味方を撃つ男」も呼ばれた。広島選出の首相は、「中国山地を挟み島根とは隣の県ではあるが、「島根」のことはほとんど知らない」と言い、島根対策のアドバイザーとして、島根選出の国会議員六名も呼ばれていた。
内閣官房長官、幹事長、総務会長の経験がある細〇派会長の細〇議員はともかく、ほかの四人の男性議員とひとりの女性議員は議員歴も短く、緊張した面持ちで硬くなっている。
その中のひとり青〇議員は、2004年にたとえ三日とはいえ第2次小〇内閣で総理大臣臨時代理に付き、内閣官房長官も務め、引退直前まで「参議院のドン」と呼ばれた父を持つとはいえ、本人は参議院議員2期目の60歳とまだまだ重大な会議で強い発言ができる立場ではない。(※あくまで「立場」の問題であって、「器」の問題ではない。)党内には、当選回数という普遍的なステータスがある。また「衆議院」は「参議院」より「上」との位置づけが根深く残っている中、青〇は、父がやはり「大物」であったことが改めて分かった。
広島出身の「聞く力」を自慢する首相と党の重鎮たちは、島根出身の議員たちに聞いた。
「島根の議員削減で困ることはあるか?」
「島根県って何があるのだ?島根出身の有名人って誰がいるのだ?」
「仮に、島根県が日本国を離れ、独立したとしてやっていけるのか?」
「今の、質問に乗っかるが、島根が無くなって日本国が困ることって何かあるのか?」
「島根の旨いものってなんだ?」
と矢継ぎ早に、質問がなされた。日ごろの国会では、ほとんど登壇して質問や回答する機会のない若手議員に、官僚の作った回答予定書無しの、生の質問は回答に窮した。そんな中、細〇派の会長である細〇議員が、率先して回答していった。
「国会議員の仕事のひとつには、地方の意見を届けることがあります。47都道府県からひとりも国会議員がいなくなる可能性がある今回の法改正は、地方の切り捨てになりかねません。」
「細〇先生がご勇退されて、島根から議員がひとりもいなくなっても、私が鳥取から島根のことも含めて支えますから、大丈夫ですよ。二県で国内人口シェア1%ですから、ニコイチで十分でしょう。」
と「背後から味方を撃つ男」が口を挟み、首相は納得した。細〇は回答を続けた。
「島根県には、国宝の出雲大社本殿と松江城があります。有名人では、歌手の竹内まりやさんやタレントの佐野史郎さんや宮根誠司さん、マダムシンコの川村信子さん、テニスの錦織圭選手、芸人の出雲阿国、ルシファー吉岡、マギー布野らがいます。」
細〇が意見を述べると「背後から見方を撃つ男」が首相に速攻で意見具申した。
「三大神宮は西日本には、伊勢神宮と奈良の石上神宮が残りますし、関東では三大神宮候補に残っていた鹿島神宮と香取神宮もあります。ましてや日光東照宮や明治神宮や浅草寺もありますから、ノープロブレムですね。松江城の代わりは、それこそいくらでもあります。
歌手の竹内さんやタレントの佐野さん、宮根さん、あとテニスの錦織選手やマダムシンコさんも拠点は島根ではありませんから問題ないです。細〇先生の言う芸人の人達は、よくわかりません。マギーなんとかさんは、マギー史郎一門にはほかに13人の弟子がいますからまあ、これも問題ないのではないでしょう。」
またもや、細〇の意見は、一蹴にされた。
「島根が日本から独立することは、今のところないとは思います。ただ、島根県民の郷土愛の強さは、日本内ではトップクラスです。全国区の有名人が少ないのも活動の場を島根県内に限定しており、大手マスメディアの前に出てこないからです。優れたアーティストやタレントがたくさんいるのです。仮に、島根が日本から独立することになれば、それら才能を失うことになります。しいては、日本国の損失に繋がります。」
細〇は、鳥取選出の「事実上の敵」の意見に反論した。
「令和三年12月時点で、たかが、66万3千人です。所詮国内人口シェア0.5%です。大きな産業があるわけでなく、GDPシェアはそれ以下です。仮に、島根が大陸の国や半島の国と合併するのではなく、独立を求めるのであれば、日本国としてはお荷物県が一つ減るだけのことです。そこは、我が鳥取が埋めますのでご心配なく。」
と反論の爪痕ひとつも残させな、元防衛大臣らしい口先防御が閣僚たちを納得させた。
細〇は諦めずに島根県民の為に最後まで闘った。
「最後に、島根の旨いものですが、日本海の海の幸や山の自然の恵みだけでなく、出雲そば、うずめ飯、ぼてぼて茶、俵まんぢう、ドジョウ掬い饅頭などがあります。今一度、お口にしていただければ、その価値がわかっていただけるかと思います。」
「うーん、なかなかしぶといですねぇ…。海の幸、山の幸は鳥取で十分同じものが賄えます。出雲そばも「三大蕎麦」と言われていたのも江戸時代の話。ましてや、そのライバルが「わんこ」と「戸隠」。いまや、それらを上回る蕎麦は全国に何十とありますよ。
うずめ飯は、表面だけ見ればただの「山葵を乗せた出汁茶漬け」。この時代インスタ映えしないのが最大の欠点。
ぼてぼて茶に至っては、「茶」とついていながら、番茶と茶の花を沸かし、それを茶碗に入れて飯や赤飯、煮豆、高野豆腐、山菜をぶち込んで食べる丼物。外国観光客を惑わすクレームの元です。
俵まんぢうは、今さらなぜ「まんぢう」。これも、幼少期の子供たちに謝った日本語を残す可能性を否めません。ドジョウ掬い饅頭に関しては、中にドジョウでも入っていれば、感慨深いものがありますが、ひょっとこの形をしている以外は、皮も餡も普通の物。ましてや、製造元は境港ですので必要であれば、鳥取から全国に発送しますので、まったくもって問題ないです。」
「・・・・・(何を言っても無駄だ…。すべて鳥取のこの男に潰されてしまう…。)」
細〇も黙ってしまった。めがねの首相がぽそりと言った。
「「名古屋」や「大阪」が独立するのと違い問題は小さい。島根が独立したいというのであれば、認めてやって問題ないということだな。」
出席者の閣僚は全員「異議なし」と同意し、会議室を後にした。床に力なく座り込む六人の島根県選出議員に「背後から味方を撃つ男」は冷酷に言った。
「鳥取に引っ越してこられるなら、いつでも喜んでお迎えしますよ。」
これで収まりがつかないのは、島根県民であった。人口70万人を割り、日本人人口比0.55%の島根県が日本国中央政府の横暴に対し、反旗を翻した。島根県よりも人口が少ない鳥取県にも共同工作を申し出たが、「背後から味方を撃つ男」の裏工作により、取り着く島もなく決裂した。他の定数削減エリアも、何某らの工作があったのか、声をあげたのは島根県だけであった。
これを、首都圏及び島根県以外の大手マスコミの一部は、新聞社、放送局問わず、「令和の島根県の乱」、「島根事変」と軽く扱った。その根拠は、実質的に、当初「島根県」が無くなっても、独立しようと大勢に影響なしと高をくくっていた日本政府と経団連の認識だった。
年末を前に、新首相と党役員と大臣たちによる「選挙区画割り会議」に「背後から味方を撃つ男」も呼ばれた。広島選出の首相は、「中国山地を挟み島根とは隣の県ではあるが、「島根」のことはほとんど知らない」と言い、島根対策のアドバイザーとして、島根選出の国会議員六名も呼ばれていた。
内閣官房長官、幹事長、総務会長の経験がある細〇派会長の細〇議員はともかく、ほかの四人の男性議員とひとりの女性議員は議員歴も短く、緊張した面持ちで硬くなっている。
その中のひとり青〇議員は、2004年にたとえ三日とはいえ第2次小〇内閣で総理大臣臨時代理に付き、内閣官房長官も務め、引退直前まで「参議院のドン」と呼ばれた父を持つとはいえ、本人は参議院議員2期目の60歳とまだまだ重大な会議で強い発言ができる立場ではない。(※あくまで「立場」の問題であって、「器」の問題ではない。)党内には、当選回数という普遍的なステータスがある。また「衆議院」は「参議院」より「上」との位置づけが根深く残っている中、青〇は、父がやはり「大物」であったことが改めて分かった。
広島出身の「聞く力」を自慢する首相と党の重鎮たちは、島根出身の議員たちに聞いた。
「島根の議員削減で困ることはあるか?」
「島根県って何があるのだ?島根出身の有名人って誰がいるのだ?」
「仮に、島根県が日本国を離れ、独立したとしてやっていけるのか?」
「今の、質問に乗っかるが、島根が無くなって日本国が困ることって何かあるのか?」
「島根の旨いものってなんだ?」
と矢継ぎ早に、質問がなされた。日ごろの国会では、ほとんど登壇して質問や回答する機会のない若手議員に、官僚の作った回答予定書無しの、生の質問は回答に窮した。そんな中、細〇派の会長である細〇議員が、率先して回答していった。
「国会議員の仕事のひとつには、地方の意見を届けることがあります。47都道府県からひとりも国会議員がいなくなる可能性がある今回の法改正は、地方の切り捨てになりかねません。」
「細〇先生がご勇退されて、島根から議員がひとりもいなくなっても、私が鳥取から島根のことも含めて支えますから、大丈夫ですよ。二県で国内人口シェア1%ですから、ニコイチで十分でしょう。」
と「背後から味方を撃つ男」が口を挟み、首相は納得した。細〇は回答を続けた。
「島根県には、国宝の出雲大社本殿と松江城があります。有名人では、歌手の竹内まりやさんやタレントの佐野史郎さんや宮根誠司さん、マダムシンコの川村信子さん、テニスの錦織圭選手、芸人の出雲阿国、ルシファー吉岡、マギー布野らがいます。」
細〇が意見を述べると「背後から見方を撃つ男」が首相に速攻で意見具申した。
「三大神宮は西日本には、伊勢神宮と奈良の石上神宮が残りますし、関東では三大神宮候補に残っていた鹿島神宮と香取神宮もあります。ましてや日光東照宮や明治神宮や浅草寺もありますから、ノープロブレムですね。松江城の代わりは、それこそいくらでもあります。
歌手の竹内さんやタレントの佐野さん、宮根さん、あとテニスの錦織選手やマダムシンコさんも拠点は島根ではありませんから問題ないです。細〇先生の言う芸人の人達は、よくわかりません。マギーなんとかさんは、マギー史郎一門にはほかに13人の弟子がいますからまあ、これも問題ないのではないでしょう。」
またもや、細〇の意見は、一蹴にされた。
「島根が日本から独立することは、今のところないとは思います。ただ、島根県民の郷土愛の強さは、日本内ではトップクラスです。全国区の有名人が少ないのも活動の場を島根県内に限定しており、大手マスメディアの前に出てこないからです。優れたアーティストやタレントがたくさんいるのです。仮に、島根が日本から独立することになれば、それら才能を失うことになります。しいては、日本国の損失に繋がります。」
細〇は、鳥取選出の「事実上の敵」の意見に反論した。
「令和三年12月時点で、たかが、66万3千人です。所詮国内人口シェア0.5%です。大きな産業があるわけでなく、GDPシェアはそれ以下です。仮に、島根が大陸の国や半島の国と合併するのではなく、独立を求めるのであれば、日本国としてはお荷物県が一つ減るだけのことです。そこは、我が鳥取が埋めますのでご心配なく。」
と反論の爪痕ひとつも残させな、元防衛大臣らしい口先防御が閣僚たちを納得させた。
細〇は諦めずに島根県民の為に最後まで闘った。
「最後に、島根の旨いものですが、日本海の海の幸や山の自然の恵みだけでなく、出雲そば、うずめ飯、ぼてぼて茶、俵まんぢう、ドジョウ掬い饅頭などがあります。今一度、お口にしていただければ、その価値がわかっていただけるかと思います。」
「うーん、なかなかしぶといですねぇ…。海の幸、山の幸は鳥取で十分同じものが賄えます。出雲そばも「三大蕎麦」と言われていたのも江戸時代の話。ましてや、そのライバルが「わんこ」と「戸隠」。いまや、それらを上回る蕎麦は全国に何十とありますよ。
うずめ飯は、表面だけ見ればただの「山葵を乗せた出汁茶漬け」。この時代インスタ映えしないのが最大の欠点。
ぼてぼて茶に至っては、「茶」とついていながら、番茶と茶の花を沸かし、それを茶碗に入れて飯や赤飯、煮豆、高野豆腐、山菜をぶち込んで食べる丼物。外国観光客を惑わすクレームの元です。
俵まんぢうは、今さらなぜ「まんぢう」。これも、幼少期の子供たちに謝った日本語を残す可能性を否めません。ドジョウ掬い饅頭に関しては、中にドジョウでも入っていれば、感慨深いものがありますが、ひょっとこの形をしている以外は、皮も餡も普通の物。ましてや、製造元は境港ですので必要であれば、鳥取から全国に発送しますので、まったくもって問題ないです。」
「・・・・・(何を言っても無駄だ…。すべて鳥取のこの男に潰されてしまう…。)」
細〇も黙ってしまった。めがねの首相がぽそりと言った。
「「名古屋」や「大阪」が独立するのと違い問題は小さい。島根が独立したいというのであれば、認めてやって問題ないということだな。」
出席者の閣僚は全員「異議なし」と同意し、会議室を後にした。床に力なく座り込む六人の島根県選出議員に「背後から味方を撃つ男」は冷酷に言った。
「鳥取に引っ越してこられるなら、いつでも喜んでお迎えしますよ。」
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