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プロローグ

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 誰しもが、特技のひとつくらいは持ち合わせている。

 僕にとってのそれが、世間一般から見てちょっとばかり変わったものであったとしても、それが特技であることに変わりはない。それなのに、その特技はとても大声では言えないんだ。
 誰かに聞かれたら、コイツは頭がおかしいって思われるだけなんだから。

 僕の特技は、動物と話ができること。

 ――ほら、何言ってるんだコイツ、と思っただろ?
 でも、小さい頃から聞こえるんだ。ちょっとした雀の世間話、鎖に繋がれた犬のボヤキ。
 ただし、なんだって聞こえるわけじゃない。雀の会話はところどころしかわからなかったりする。小さい鳥なんかは聞き取りにくくて苦手だ。

 かといって、大きければいいってもんじゃない。
 多分、僕との相性じゃないかと思う。なんでだか、一番よく聞こえる動物は猫なんだ。
 犬もだけど、猫も人の言うことを案外よくわかってるんだよね。だから、意思の疎通はしやすい。
 そんなわけで、僕はこの特技を生かした職種に就こうと思ったんだ。

 最初はペットショップ。
 でも、声が聞こえるだけに別れがいちいちつらくって、十日で逃げた。

 そういうんじゃなく、動物と意思の疎通ができるからこそ上手くやれる仕事があるはずだ。猿回しも考えたけれど、人前で芸を披露する時に僕の方が緊張して口が回らなくなる。こう見えてもあがり症なんだよね。

 考えがまとまらないまま、僕はとりあえず猫カフェ店員をしながら貯金を貯めることにした。
 そうしたら、猫の言いたいことがわかるわけだから、僕がいれば猫たちの機嫌がよくなる、どんな猫でも懐かせることができるという評価がついた。

 そうか、これだ。これが僕に合った仕事なんだと思えた。
 だから、僕の夢は自分の猫カフェを持つこと。

 猫カフェで働いて数年。都会では無理だけれど、都心を少し離れたところならなんとかなるんじゃないかなって思えるようになった。

 ただ、ティーカップや珈琲豆を買いそろえるようにして猫スタッフを買うのは嫌だった。
 金が惜しいとかではなく――いや、お高い子ばっかり買ってたら破産するけど――猫スタッフは猫カフェの今後を左右する戦力なんだから、僕が認めた猫たちに働いてほしいんだ。
 だからこそ、僕は求人ならぬ求猫募集することにした。

 もちろん、貼り紙なんてしても猫に読めるわけがない。それは伝言ゲームのようにして猫から猫へ、口頭で伝えたんだ。
 もし、うちで働いてくれるなら、雨風凌げる寝床があるのはもちろんのこと、三食昼寝つき。その上、自分たちの言いたいことを理解してくれる店長がいるんだから、そんなに悪い職場じゃないはず。

 そんなわけで、猫カフェ『Camarade ―キャマラード―(仮)』。
 猫スタッフ募集します!
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