海怪

五十鈴りく

文字の大きさ
上 下
47 / 58
東両国

東両国 ―はじめに―

しおりを挟む
 さてさて、夏に賑わうお江戸両国。
 大川(隅田川)にかかる両国橋の西と東にある広小路に見世物小屋が立ち並んでいるわけですが、皆様ご存じ『海怪』がいるのは西両国。
 それじゃあ、東には何があるの? って話です。

 まあ、これも同じく見世物なんですけど、西に比べると、東はもう一段おバカなことをしてまして。
 東には回向院えこういんがあるっていうのに、それはそれ、これはこれってヤツでしょうか。
 例えば『やれつけ』なんて、甚吉のような純朴なお子様には到底利用できないような卑猥なのもありました。ええ、長い棒を持ってお姉さん目がけて――ごにょごょ。

 まあ、くだらないくらいが丁度いいんでしょうか。
 日々の憂さ晴らし。娯楽ですからね、楽しければいいんでしょう。


 とあるところに十方庵じゅぽうあん敬順けいじゅんさんなる隠居僧侶がおりまして、この方、わりと自由が利いたのであちこちで歩いては『遊歴雑記ゆうれきざっき』なるものをしたためておりました。

 その敬純さんいわく、
「開帳へ参拝するは畢竟ひっきょう見せものゝついでに参拝するに同じ」
 だそうです。

 東両国回向院での阿弥陀如来様のご開帳がむしろついで。見世物を楽しむついでにここまで来たから行っとこうかってなものです。深川の富岡八幡宮を詣でると言って、実は岡場所で遊ぶのがメインだったなんてことも聞きますし、いつの時代も楽しいことを中心に人は動きます。
 お江戸の人たちって程よく力が抜けてていいですねぇ。

 そんな江戸庶民にとっての楽しみだった見世物ですが、ひとくくりにするには種類が多いんです。
 海怪や象、駱駝といった動物見世物と、籠や穴あき銭で芸術的に何かを象った細工見世物、軽業や講釈などの曲芸・演芸見世物。
 いろんなものがあるんですが、現代のお祭りを思い浮かべてみてください。

 射的、金魚すくい――
 などなど。参加型ですね。
 矢場とか、お化けとか、今とそう変わりのないことをやっていたりします。

 ちなみに、参加して上手くやると景品が出ますよね?
 景品で客を釣るんですから。

 さて、それに釣られてしまうのは何も人ばかりではないのかも。
 どこかの食い意地の張った海怪も――
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

中山道板橋宿つばくろ屋

五十鈴りく
歴史・時代
時は天保十四年。中山道の板橋宿に「つばくろ屋」という旅籠があった。病床の主にかわり宿を守り立てるのは、看板娘の佐久と個性豊かな奉公人たち。他の旅籠とは一味違う、美味しい料理と真心尽くしのもてなしで、疲れた旅人たちを癒やしている。けれど、時には困った事件も舞い込んで――? 旅籠の四季と人の絆が鮮やかに描かれた、心温まる時代小説。

鬼姫吟味帳

あしき×わろし
歴史・時代
あるライトノベル系の文学賞に投稿するにあたり、ほぼ書き上げた時代小説の主要な登場人物4人のうち、2人までを無理やり女性にしてしまうという、我ながらどうかしていた作品ですが、結局のところ1次を通過してくれたのはこの子だけとなります。ちょっとずつ手を加えてFC2、なろう、カクヨムにも掲載しております

奴隷少年♡助左衛門

鼻血の親分
歴史・時代
 戦国末期に活躍した海賊商人、納屋助左衛門は人生の絶頂期を迎えていた。しかし時の権力者、秀吉のある要請を断り、その将来に不安な影を落とす。  やがて助左衛門は倒れ伏せ、少年時代の悪夢にうなされる。 ──以後、少年時代の回想  戦に巻き込まれ雑兵に捕まった少年、助左衛門は物として奴隷市場に出された。キリシタンの彼は珍しがられ、奴隷商人の元締、天海の奴隷として尾張へ連れて行かれることになる。  その尾張では、 戦国の風雲児、信長がまだ「うつけ」と呼ばれていた頃、彼の領地を巡り戦が起ころうとしていた。  イクサ。  なぜ、戦が起こるのか⁈  なぜ、戦によって奴隷が生まれるのか⁈  奴隷商人が暗躍する戦場で見た現実に、助左衛門は怒りを覚える!!   そして……。

七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり

国香
歴史・時代
平安時代。 雅びで勇ましく、美しくおぞましい物語。 宿命の恋。 陰謀、呪い、戦、愛憎。 幻の楽器・七絃琴(古琴)。 秘曲『広陵散』に誓う復讐。 運命によって、何があっても生きなければならない、それが宿命でもある人々。決して死ぬことが許されない男…… 平安時代の雅と呪、貴族と武士の、楽器をめぐる物語。 ───────────── 七絃琴は現代の日本人には馴染みのない楽器かもしれません。 平安時代、貴族達に演奏され、『源氏物語』にも登場します。しかし、平安時代後期、何故か滅んでしまいました。 いったい何があったのでしょうか? タイトルは「しちげんかんじょうけちみゃく」と読みます。

クマソタケルの館にて|絶世の美女と思わせといて、実は最強のヒーローでした

宇美
歴史・時代
フリー朗読台本として利用可能な小説です。 比較的長めなので、第2章までで完結させるのもおすすめです。 (第2章までで完結させても違和感のない内容となっています) 利用の際の注意は目次をご覧ください。 【あらすじ】 乱暴者のコウス王子は、大王(おおきみ)である父上の命令で、クマソ征伐に向かう。 「クマソタケルなんか三日で倒してやる」と父上には言ったものの、結果は惨敗。 五体満足で残っている兵なんて、従者の私とコウス王子以外、ほとんどいないほどである。 私が「ここはお父様の助けを借りましょう」と助言したものの、聞き入れず、自分でなんとかすると言い張る。 そんなコウス王子がとった作戦は…… ちょっとすっとぼけたヤマトタケルのクマソ征伐です。 くすっと笑えるコメディ要素満載! 気軽に読んで笑ってください。 他サイトで読んで下さった方には、非常に面白いと好評です。 【注意】 神話がネタですが、かなり創作が入っています。 本来のヤマトタケルのクマソ征伐については、検索サイト等でお調べください。 逆に元ネタを知っている方には面白いと思います。     またヤマトタケルの名前「小碓」は通常オウスと呼びます。 作者が長い間勘違いしていたのですが、コウスの方が語感が可愛らしいのと、また「コウス」と呼ぶのが完全に間違いというわけではないらしいので、このままにしました。 【表紙イラスト】佳穂一二三様        

ファラオの寵妃

田鶴
歴史・時代
病弱な王女ネフェルウラーは赤ん坊の時に6歳年上の異母兄トトメス3世と結婚させられた。実母ハトシェプストは、義息子トトメス3世と共同統治中のファラオとして君臨しているが、トトメス3世が成長してファラオとしての地位を確立する前に実娘ネフェルウラーに王子を産ませて退位させるつもりである。そうはさせまいとトトメス3世はネフェルウラーをお飾りの王妃にしようとする。でも無邪気なネフェルウラーは周囲の『アドバイス』を素直に聞いて『大好きなお兄様』に積極的にアタックしてくる。トトメス3世はそんな彼女にタジタジとなりながらも次第に絆されていく。そこに運命のいたずらのように、トトメス3世が側室を娶るように強制されたり、幼馴染がトトメス3世に横恋慕したり、様々な試練が2人に降りかかる。 この物語は、実在した古代エジプトの王、女王、王女を題材にした創作です。架空の人物・設定がかなり入っています。なるべく史実も入れた創作にしようと思っていますが、個人の感情や細かいやりとりなどは記録されていませんので、その辺も全て作者の想像の産物です。詳しくは登場人物の項(ネタバレあり)をご覧ください。ただし、各話の後に付けた解説や図は、思いついたものだけで網羅的ではないものの、史実を踏まえています。 古代エジプトでは王族の近親結婚が実際に行われており、この物語でも王族は近親結婚(異母きょうだい、おじ姪)が当たり前という設定になっています。なので登場人物達は近親結婚に何の抵抗感も疑問も持っていません。ただし、この話では同腹のきょうだい婚と親子婚は忌避されているという設定にしています。 挿絵が入るエピソードのタイトルには*を付けます。 表紙は、トトメス3世とネレルウラーの姿を描いた自作です。こういう壁画やレリーフが実際にあるわけではなく、作者の想像の産物です。カルトゥーシュは、それぞれトトメス3世の即位名メンヘペルラーとネフェルウラーです。(2024/9/9) 改稿で話の順番を入れ替えて第4話を挿入しました。(2024/9/20) ネオページでも連載しています。

劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと
歴史・時代
中国の三国時代、炎興元年(263年)、蜀の第二代皇帝、劉禅は魏の大軍に首府成都を攻められ、降伏する。 蜀は滅亡し、劉禅は幽州の安楽県で安楽公に封じられる。 私は道を誤ったのだろうか、と後悔しながら、泰始七年(271年)、劉禅は六十五歳で生涯を終える。 ところが、劉禅は前世の記憶を持ったまま、再び劉禅として誕生する。 ときは建安十二年(207年)。 蜀による三国統一をめざし、劉禅のやり直し三国志が始まる。 第1部は劉禅が魏滅の戦略を立てるまでです。全8回。 第2部は劉禅が成都を落とすまでです。全12回。 第3部は劉禅が夏候淵軍に勝つまでです。全11回。 第4部は劉禅が曹操を倒し、新秩序を打ち立てるまで。全8回。第39話が全4部の最終回です。

処理中です...